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アイス・キューブ『AmeriKKKa’s Most Wanted』東西を超えた驚異的ソロ・デビュー作

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1990年、アイス・キューブ(Ice Cube)はヒップホップ・グループのN.W.A.を脱退し、ソロ活動を行うことにした。彼はN.W.A.で最高の歌詞を書き、ギャングスタに政治性を加え、軍曹のような声で顔に叱責を吐きかけるなど、その才能を発揮していた。

しかし、グループで活動するのと、グループから離れてソロとして活動するのは全く別物だ。キューブは自分の中のファンクとデビューアルバム『AmeriKKKa’s Most Wanted(白いアメリカが望む物)』で作りたいと思っていたサウンドはわかっていたが、彼はプロデューサーとしての経験はほとんどなかった。

経験豊富なプロデューサーであり、N.W.A.のメンバーであったドクター・ドレー(Dr. Dre)はキューブのソロ・アルバムを制作したいと考えていたが、N.W.A.から喧嘩別れで脱退したキューブの作品にドレが携わることは却下されてしまった。

80年代末の西海岸ヒップホップを支配していたN.W.A.のようなビートを提供できるのは他に誰がいるのだろうか? キューブが選ぶことができる他の選択肢は、血が流れることになるとわかっている1つしかなかった。アイス・キューブは東海岸を代表するグループ、パブリック・エネミーのサウンドを担当していたプロデューサー・チーム、ザ・ボム・スクワッド(The Bomb Squad)と共に仕事をするために東へ向かった。

ということは、ヒップホップの東西抗争は終わろうとしていたのか? 実際にはそうではなかったが、アイス・キューブ、キューブの盟友でありドレーの従兄弟のサー・ジンクス、そして西海岸ヒップホップ・クルーのダ・レンチ・モブはレコードを作るためにニューヨークに向かった。そして、キューブとN.W.A.がお互いに言葉巧みな口撃を始め、ビーフが始まることになる。キューブが脱退したN.W.A.が「100 Miles And Runnin’」で最初にキューブを口撃、キューブはこれに対して返答しなければならない状態であり、多くのことが『AmeriKKKa’s Most Wanted』のリリースに期待されていたのだ。

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強烈なソロデビュー・アルバム

アイス・キューブのソロ・デビュー作は、最初から強烈な楽曲が収録されている。場面を揺さぶるような「Better Off Dead」の後に、Pファンクやスティーヴ・アリントンのサンプリングを使い、ヘヴィなドラミングを施した「The Ni***a You Love To Hate」は、まるで1トンのレンガを落とすかのようであり、キューブはリリックのパンチを緩めず、歌詞には “Bitches”やNワードが散りばめられており、彼が決してメロウになっていないことを知らせる。

アルバムのタイトル・トラックは、ファンクで生々しく、必然的な結果を伴うギャングスタの物語であるが、キューブは白人警官によるアフリカ系への不当な暴行などを告発する。

The Nigga Ya Love To Hate

「You Can’t Fade Me’/JD’s Gafflin」と「Once Upon A Time In The Projects」は、女性との不運な冒険の物語だ。片方では父子関係に悩まされ、もう片方で彼は少女を連れて彼女の家に行き、それがギャングの家であることに気付き、家宅捜索が迫っていることを知る。キューブは被害妄想の世界にもいるが、現実的でもある。

彼は再び「Turn Off The Radio」でアウトサイダーとしての自分を設定。タイトルのとおりラジオで放送されないことはわかっていたから、キューブはこの曲で言いたいことを言っていたのかもしれない。

Ice Cube – Turn Off The Radio

キューブの見落とされがちなコメディの腕前は、「A Gangsta’s Fairytale」で証明されており、童謡のようなスタイルで若くて無邪気な人には決して聞かせられないようなストーリーとなっている。

「I’m Only Out For One Thang」では、キューブとパブリック・エネミーのフレイバー・フレイブが、女の子についてのおしゃべりをしながら登場する。

I'm Only Out For One Thang

収録曲でもっともシリアスなのは「Who’s The Mack」で、ポン引きからハスラー、プレイボーイに至るまで、人々を操る人間についての警告であり、彼が後にハリウッドで俳優として参加することになることを証明しているのかもしれない。

Ice Cube – Who's The Mack

彼は「It’s A Man’s World」という、非常に才能のある女性ラッパーヨーヨー(Yo-Yo)とのジョークの効いたビーフを投下した。そして『AmeriKKKa’s Most Wanted』は「The Bomb」で締めくくられ、素晴らしい韻を踏んでいる大規模で速射性のキラートラックであり、もう一度全曲を聴きたくなるだろう。

The Bomb

評価とレガシー

『AmeriKKKa’s Most Wanted』というタイトルは「彼が本当にそう言ったのか?」ということは別として、1990年5月16日の最初のリリースから数十年経った今でも衝撃を与える力を持っている。実際、#MeToo の時代にとっては、それ以上に衝撃的かもしれない。

当時、このアルバムは西海岸のギャングスタ・ラップをワンランク上のものに格上げした。N.W.A.のメンバーの時代には、アイス・キューブのラップは他のメンバーと割り振られていたが、このデビュー・アルバムでは顔面を叩きつけてくるようだ。

このタイプのアルバムでこれ以上のものは考えられず、1990年の夏の間、一度もラジオで放送されることなかったが、若者たちが乗る車からブームを巻き起こし、作品でのビートとライム(韻)の猛威は、アイス・キューブの作品がどれほど強力なものであり得るかを今の時代でも証明している。追い込まれたアイス・キューブは、知性、ウィット、怒り、そして戦術で彼自身の道を切り開き、ギャングスタ以上のものがあることに気が付かせられる。

このアルバムはあなたの“Hip-Hop Most Wanted”リストのトップにあるべき作品でなのだ。

Written By Ian McCann



アイス・キューブ『AmeriKKKa’s Most Wanted』
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