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工夫とアイデアとコスト:奇妙で素敵な音楽パッケージの変遷

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アルバムのパッケージングは過去60年余りにわたって変化し、そして様々な流行を経験してきた。フランク・シナトラが1959年に最優秀レコード・パッケージ部門で初めてグラミー賞を獲って以来、レコーディング・アカデミーもその意義を認めてきた。伝えられるところによれば、アルバム『Frank Sinatra Sings For Only The Lonely』のアート・ディレクターを務めたのは他ならぬフランク・シナトラ自身で、ここにはピエロのメイクをした我らがシナトラ(当時はエヴァ・ガードナーとの離婚成立直後だった)が、ニコラス・ヴォルプ(訳注:アメリカの芸能人や政治家を含む有名人の肖像画作品が多いことで知られる画家)によるハーレクイン(アルレッキーノ)・スタイル(*訳注:イタリアの即興喜劇のキャラクターのひとつでトリック・スター)で深い陰影をもって描かれている。

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とは言え、アートワークとしては胸に迫るものがあっても、全体的なパッケージそのものには特に攻めている部分があったわけではない。その分野における革新は60年代に訪れた。かの比類なき衝撃度を誇った、ザ・ビートルズの『Sgt Pepper’s Lonely Hearts Club Band』である。真っ赤な地色の裏ジャケット全体に曲の歌詞が刷られ、ザ・ビートルズのメンバー4人の小さな写真が下部に配されている。アルバム・カヴァーに歌詞が印刷されたのはこれが史上初のことだった。彼らの著作権を管理する音楽出版社は、そうすることで楽譜のセールスが落ちるのではないかと危惧したが、ザ・ビートルズは頑としてその体裁を譲らなかった。

その一年後、彼らのアルバム『The Beatles』のパッケージが更に強力な衝撃波をもたらした。ほぼ発売直後から、レコード・デザインの端的説明がそのまま実際のタイトルに取って代わったこのアルバムは、以来ずっと通称 “The White Album”の名で知られている。リチャード・ハミルトンのデザインによる見開きスリーヴに収められた2枚組LPのカヴァーは真っ白な光沢紙で、エンボス加工されたグループ名が浮き出ており、オリジナル・リリース盤には1枚1枚スタンプによる通し番号が刻まれていた(0000001という番号が押されたリンゴ・スター所有の1枚は、2015年に行なわれたオークションで79万USドルで落札された)。

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ザ・ビートルズはマーケティングやプロモーションにも長けていて、1963年から69年の間、毎年クリスマス・レコーディングをソノシート(紙のように薄く柔らかいヴィニール素材のレコード盤)で作り、ファンクラブのメンバーたちに送っていた。日本発祥のソノシートは、元々は雑誌の発行部数を上げるために、プロモーション目的の“付録”として人気のメディアだったが、やがてそれをレア・トラックのリリース用に使うバンドが出てきた。エルヴィス・コステロの「23 Minutes Over Brussels」や、 アダム・アントによる 「YMCA」 のカヴァー(その名も 「ANTS」)は、どちらもソノシートの形で世に出たものだ。市場としては殆ど姿を消したに等しいが、いまだに時折ソノシートを使ったプロモーションが展開されることはあり、2012年リリースのジャック・ホワイトのアルバム『Blunderbuss』に収録されていた「Freedom At 21」などはその一例だ。

様々なレコード会社やミュージシャンたちが更なるクリエイティヴィティを発揮しようと努力を重ねる中で、アルバム・パッケージは確実に多様化してきた。アラン・パーソンズ・プロジェクトの『Stereotomy』は半透明のプラスティック・スリーヴで登場し、カーヴド・エアの『Second Album』のアートワークは異なる色を使った5層構造になっていた。とりわけこれまで何度となく話題を巻き起こしてきたひとつの発明が、3-Dのアルバム・カヴァーである。最初はザ・ローリング・ストーンズの『Their Satantic Majesties Request』で、見開きジャケットのフロント側に3-Dのイメージを配し、インナー・スリーヴにはスペシャルなサイケデリック・プリントが施されている(この仕様は50周年記念デラックス・ボックス・セット復刻版で完全再現されている)。またザ・ローリング・ストーンズはもう一作、『Sticky Fingers』でもスリーヴに本物の金属製ジッパーを使用し、下ろして行くとコットン製のアンダー・パンツにアンディ・ウォーホルの名前と“THIS PHOTOGRAPH MAY NOT BE – ETC.(この写真は恐らく――云々)”という文章が書かれているのが見える趣向になっている。

時にはレコードが――そして時代が――普通とは違うパッケージを要求することもある。ジョン・レノンとヨーコ・オノによる『Unfinished Music No.1: Two Virgins』はカヴァーのヌード写真が大いに物議を醸したために、それを隠すための茶色い紙ジャケットでリリースされることになってしまった。

「Unfinished Music No.1: Two Virgins」の画像検索結果

ジェファーソン・エアプレインの『Bark』 (1971)のオリジナルLP盤も、JAというロゴのついた茶色の外袋――食料品店の袋によく似た――に入れられていた。袋には穴が開いており、そこから偽物の人間の歯がついた魚が一匹、紙にくるまれヒモで縛られた状態で覗いている。袋の中には本物のカヴァーと歌詞カードが入っていたものの、使われている紙は肉屋で注文を取る時の紙に酷似していた。

「JEFFERSON AIRPLANE Bark」の画像検索結果

アルバム・パッケージの歴史において(宗教的な意味で)重要な足跡を遺した人物と言えば、スタックス・レーベルのアート部門長、ラリー・ショウだろう。ラリー・ショウはかの有名なアイザック・ヘイズの1971年のアルバム『Black Moses』のアートワークを担当した人物で、このカヴァーは我々uDiscover Musicも含め、各方面で史上最も素晴らしいアルバム・カヴァーのひとつに数えられている。オリジナルLP盤にはモーゼの衣装を着たアイザック・ヘイズがフィーチャーされ、2枚のアルバムが収められたスリーヴは、広げるとタテ4フィート(約120cm)、ヨコ3フィート(約90cm)の十字架になるようデザインされていた。

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卓越したデザイナーの才能は時にアルバム・パッケージの概念を変えてしまうことがある。70年代にボブ・マーリーセックス・ピストルズの代名詞的な写真を撮って名を挙げたフォトグラファーのデニス・モリスは1979年、パブリック・イメージ・リミテッドから、あるアルバムのデザインを考えて欲しいと依頼を受けた。彼が3枚の45回転盤シングルを金属製の箱[メタル・ボックス]に入れて出したい(後にそのデザインがそのままアルバム・タイトルになった)と言うと、レコード会社はその金属製の箱を作るのにかかるコストを出し渋った。デニス・モリスは地元ロンドンで映画用の様々な道具や資材を作っている会社を見つけ、彼らの製造していたフィルム用の金属製キャニスターがちょうど12インチレコードと同じサイズであることを突き止めた。「俺たちはそこから大量生産品をまとめて買い取って、ただ表面にPiLのロゴをエンボス加工しただけなんだ」とデニス・モリスは言う。「おかげで結果的には予想してたより遥かに安く上がったよ」。

パブリック・イメージ・リミテッド / メタル・ボックス【缶ケース仕様】【CD】【SHM-CD】

アルバム・パッケージにおいて、コストは間違いなく大きな影響力を持つファクターである。1968年のスモール・フェイセズのアルバム『Ogdens’ Nut Gone Flake』は、初回プレス時には大きな缶入りタバコを模した、斬新な金属製の丸缶入りでリリースされたが、生産コストがかかり過ぎることが判明し――しかも缶の形状が災いして、レコード店の棚からしょっちゅう転がり落ちるのだ――すぐに普通の見開き紙ジャケット・ヴァージョンに差し替えとなった。

もうひとつ画期的なデザインを挙げるとすれば、マーク・ファロウが手掛けたイギリスのバンド、スピリチュアライズドの作品だ。彼らの1997年のアルバム『Ladies And Gentlemen We Are Floating In Space』のデザイナーとして、マーク・ファロウは数々の栄誉に輝いている。元々のアイディアは、最初のデザイン・ミーティングの際にシンガーのジェイソン・ピアースが発した‘音楽は魂の薬’というコメントから始まったと言う。アルバムは薬局で取り扱われる薬のように、ブリスター包装(訳注:台紙の上に置いた個々の商品を透明なプラスティックで密封する包装形式)が施され、ライナー・ノーツも病院で患者に出される処方箋と同じような紙に、同じような書式で書かれている徹底ぶりだった。

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もっとも、全てがいつもそうアイディア通りに行くとは限らない。クレイグ・ブラウンが手掛けたアリス・クーパーの代表作『School’s Out』のアートワークは、折畳まれたスリーヴを立てて学校の机の形にすることが可能で、中にはレコードと下着が入っていた。だがこの内容物は火災を引き起こす危険ありとして、あえなく商品回収の憂き目に遭った。

ここ数年、デラックス・ボックス・セットの市場は拡大の一途を辿っている。熱心なコレクターたち向け(こうしたセットには大抵、オリジナル・アルバムのアウトテイクや詳細なスリーヴ・ノートが収められている)というだけでなく、創意工夫を凝らしたリリースも少なくない。サウンドガーデンの1991年のアルバム『Badmotorfinger』のリイシュー版は、7枚のディスクと様々なオマケが、電池仕掛けで回転する円形ノコギリの付いたボックスに収められていた。

ボックス・セットには何らかのコンセプトに基づいて作られていたり(ライアン・アダムスの『Prisoner』の“End Of The World”エディション:下記写真)、あるいは モーターヘッドの『The Complete Early Years』のように、両目に仕込まれた赤いライトが点灯するスカルといったギミックを同梱しているものもある。昨今のレコード盤復活の動きも、ステイタス・クォーの“Vinyl Singles Collection”シリーズのような、これまでにない商品に対する需要を掘り起こすことに繋がっている。

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パッケージングの限界を押し広げる役目を果たした現役バンドのひとつが、ザ・フレーミング・リップスだ。2011年、ウェイン・コインと彼のバンドは4曲入りEPをUSBスティックに収め、更にそれを重量7ポンド(約3kg)の食べられるグミ・キャンディ製のスカルの中に入れてリリースした。このEPが完売すると、バンドは更に奇抜な方向性を打ち出し、続くリリースは3曲入りEPを収めたUSBドライヴがグミ製の胎児の中に埋め込まれているというものだった。 2014年、ザ・ストロークスのジュリアン・カサブランカスは新作ソロ・アルバム『Tyranny』をMP3フォーマットでレコーディングし、その音源をシガレット・ライターとしても使えるUSBスティックに収めてリリースしている。

‘唯一無二の作品’と言う形容詞が当てはまるアルバムは数々あれど、ウータン・クランは文字通りそのものズバリの作品を出している。2014年の彼らのアルバム『The Wu: Once Upon A Time In Shaolin』は、この世にたった1枚しか存在しないのだ。英国系モロッコ人アーティスト、ヤーヴァのデザインによる手彫り細工が施されたニッケル製のボックスに収められた全31曲には、ボニー・ジョー・メイソンやバルセロナ・フットボール・クラブの選手たち数人がゲスト参加している。このただ1枚のアルバムはオークションにかけられ、ドナルド・トランプの友人である某ヘッジファンド・マネジャーによって約200万ドル(約2.2億円)で競り落とされた。

この先の未来には、モーション・グラフィックやニューメディア等々、またこれまでにない様々なデジタル・ミュージックのパッケージが具現化されていくに違いない。けれど、デヴィッド・ボウイの遺作となった『★(Black Star)』の星型ダイカット・デザインで2017年のグラミー賞最優秀パッケージ部門に輝いたデザイナー、ジョナサン・バーンブルックもコメントしていたように、優れたパッケージがいまだに評価の対象になるというのは喜ばしいことだ。

Written By Martin Chilton

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