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デビュー・アルバム後のエラ・メイ:ミーク・ミルやエド・シーランとの客演やエラのカバーまで
2019年10月31日(木) に大阪・なんばHATCH、11月1日(金)には東京・国際フォーラムホールAで自身初となる来日公演が決定したR&Bシンガーのエラ・メイ(Ella Mai)。
彼女のデビュー・アルバム『Ella Mai』日本盤のライナーノーツに掲載された音楽プロデューサーの松尾 潔さんと×音楽ライターの林 剛さんによる対談に続いて、林 剛さんに、デビュー・アルバム以降のエラ・メイのゲスト参加楽曲や、ツアー、そして彼女をカバーする人まで、寄稿頂きました。
2018年を代表するR&Bソングとなったエラ・メイの「Boo’d Up」は今夏、バラク・オバマ元大統領の〈Summer Playlist 2019〉にも選ばれるなど、発表から2年以上経った現在も人気が衰えず、今やR&B/ポップ・ミュージックの歴史に名を刻むスタンダードとして定着した感がある。いつの間にか口ずさんでしまう印象的なフックを持った、シンプルだが中毒性の高い曲。多くの人が指摘しているように、マーヴィン・ゲイの「Sexual Healing」やSOSバンドの「Tell Me If You Still Care」の流れを汲むTR-808系サウンドのR&Bクラシックとしても語り継がれていくだろう。
そんな「Boo’d Up」や「Trip」、今年1月にシングル・カットされた「Shot Clock」を含むデビュー・アルバム『Ella Mai』については、それまでのキャリアとともに松尾潔氏と拙者の対談ライナーノーツで触れているので、ここではアルバム発売後から現在までの活動について、客演仕事を中心に記しておきたい。
本国でアルバムがリリースされた翌月の2018年11月、エラの参加作が立て続けに発表された。とりわけ、エラが“時の人”であることを強く印象づけたのは、映画『クリード 炎の宿敵』のサウンドトラックへの参加だ。マイク・ウィル・メイド・イットの名前を冠したサントラ『Creed II : The Album』にてエラは、ダイアン・ウォーレン作の「Love Me Like That (Champion Love)」を披露。AC・バーレルがプロデュースしたこの曲は、ウイークエンド「Earned It」のフィメール・ヴァージョンとも評された重厚なラヴ・バラードだった。
一方、客演で話題になったのが、ミーク・ミルの『Championships』に収録された「24/7」。今年に入ってシングルが切られたこれは、客演ながらエラ・メイが主役級に活躍するミディアム・スロウ。ビヨンセ「Me,Myself And I」(2003年)を引用したメロウなループに乗って歌うエラのヴォーカルからはビヨンセからの影響が滲み出ていた。また、ほぼ同じタイミングで出されたJ.I.D.のセカンド・アルバム『DiCaprio 2』では6LACKとともに「Tiiied」に参加。エラのソロ・パートは終盤の3ヴァース目で、どこか晴れない気持ちをラップ・シンギング的な唱法で気だるく歌っていた。
こうした中、同年11月に行われたSoul Train Awardsでは「アシュフォード&シンプソン・ソングライターズ賞」を含む3部門を受賞。2部門にノミネートされた2019年2月の第61回グラミー賞では「Best R&B Song」を獲得、5月のBillboard Music Awardsでは6部門7ノミネートを受け、結果、「Top R&B Artist」「Top R&B Female Artist」「Top R&B Song」の3部門を受賞するなど、世界的な名声を確立している。特にグラミーの授賞式では、当日の司会を務めたアリシア・キーズがピアノ弾き語りで名曲メドレーを披露した際にエラの「Boo’d Up」を交えて歌い、それに歓喜するエラの表情からは、受賞以上の栄誉を得たのではないかと思うほど誇らしげな気持ちが伝わってきたものだ。
2019年は年明けからデビュー・ツアー(ほとんどがソールド・アウト)をスタートさせ、母国UKを含むヨーロッパ公演をはじめ、3ヶ月近くにわたって北米各都市を廻った。その間、4月にはコーチェラ・フェスティヴァルにも出演。5年ほど前にアライズのメンバーとして『Xファクター』に出演して初々しい姿を見せていた時の映像と見比べてしまうほど堂々としたステージは、派手な仕掛けがないぶん、歌そのものがオーディエンスにダイレクトに届いていた。
その後、8~10月にはアリアナ・グランデの〈Sweetener World Tour〉(ヨーロッパ編)にサポート・アクトとして同行。それを終えて行われるのが、今回の来日公演(大阪/東京)となる。来日公演の後はアジア諸国やオーストラリア、ニュージーランドを訪問予定。ほぼデビュー・ツアーに明け暮れた一年となりそうだ。
そのデビュー・ツアーには、北米ツアーにラッキー・デイとキアナ・レデイがサポート・アクトとして参加。ヴィクトリア・モネイが出演した公演もあったようだが、5月いっぱいエラのツアーに同行したのが、同じUK出身でエラとともに〈BBC Sound of 2019〉(英BBCが選出する2019年期待の新人)に選ばれた女性R&Bシンガーのマヘリアだった。
マヘリアとは、エラが「My Soul Sister」と呼ぶほど仲が良いようで、先日マヘリアがリリースしたセカンド・アルバム『Love And Compromise』(2019年)には、ポップ・ワンゼルがプロデュースした「What You Did」にエラが客演している。
ローズ・ロイス「I’m Going Down」のイントロで幕を開けるこれは、同曲を引用していたキャムロンfeat.ジュエルズ・サンタナの「Oh Boy」(2002年)をベースにしたトラップ調の曲。エラのアルバム同様、レイト90s~アーリー00sのサウンドを着想源とすることが多い昨今のR&Bらしい仕上がりだが、頭にローズ・ロイス「I’m Going Down」のイントロを持ってきたのは、そのイントロを合図に同曲が大合唱となるメアリー・J・ブライジのライヴを意識したのではないか?とも勘ぐりたくなる。蛇足ながら、メアリー・J・ブライジによるローズ・ロイス曲のカヴァーは、エラ・メイが生まれた1994年11月にリリースされたアルバム『My Life』に収められている。
エラはマヘリアに限らず母国の親友をSNS等で積極的に紹介しており、イースト・ロンドン出身のティアナ・メイジャー9などもプッシュ。また、UKのアーティストとは「Boo’d Up」でブレイクする前からクレイグ・デイヴィッドやリトル・シムズとも仕事をしていたが、今年発売されたエド・シーランの共演企画アルバム『No.6 Collaborations Project』では、USで活動するスターのひとりとして、H.E.R.やカリード、ブルーノ・マーズ、ミーク・ミル、カーディ.Bなどと並んで起用された。エラが歌うのは「Put It All On Me」という、2パックの「Changes」(ブルース・ホーンズビー&ザ・レインジ「The Way It Is」のピアノ・リフを引用)を思わせるポップなラヴ・ソングで、リリック的には「Boo’d Up」と連続性を感じさせるものとなっていた。
こうした客演の一方で、「Boo’d Up」「Trip」が数多のリミックスやカヴァーを生んだように、今もエラの曲を取り上げる動きは止まらない。サウス・キャロライナのラッパー、ヤング・フレッシュのように「Ella Mai」と銘打ったトリビュート・ソングを出した人までいる。
リミックスやカヴァーには非公式のものが多いが、公式のもので筆頭に挙げたいのが、BJ・ザ・シカゴ・キッドによる「Close」のカヴァーだ。オリジナルに比較的忠実なカヴァーとなるこれはBJの最新作『1123』にも収録。「Close」を取り上げた理由について彼は、「新しくも懐かしいスタイルで歌われる曲というのは特別なものだと思う。この曲は男性の視点でも歌う必要性があると感じて、自分が歌うのにピッタリだと思ったんだ」と話している。
また、日本ではキーボーディスト/トラック・メイカーのSWING-O(FLYING KIDSの現メンバー)がピアノ独演アルバム『SOUL PIANO』で「Trip」をカヴァー。「あなたの大きな愛でトリップしてしまいそう」と歌う原曲のムードをピアノ一本でエレガントに再現している。
気の早い話だが、セカンド・アルバムへの期待も高まる。後見人であるマスタードの最新リーダー作『Perfect Ten』(2019年)では「She Don’t」以来となるタイ・ダラー・サインとの共演曲「Surface」を披露したエラ。「Boo’d Up」や「Trip」に通じる人懐っこくキャッチーなフックを持つこの曲を聴くと、まだまだマスタードとのコンビでタイムレスな名曲を生んでくれそうな気がする。
Written By 林 剛
ELLA MAI – THE DEBUT JAPAN TOUR 2019
【大阪公演】2019年10月31日(木) なんばHATCH OPEN 18:30/START 19:30
チケット:1Fスタンディング 7,500円(税込) / 2F指定席 8,500円(税込) 別途1ドリンク代
INFO: キョードーインフォメーション : 0570-200-888
【東京公演】2019年11月1日(金)国際フォーラムホールA OPEN 18:30/START 19:30
チケット:S指定席 7,500円(税込) / GOLD 指定席14,000円(税込)
INFO: クリエイティブマン:03-3499-6669 (平日12:00~18:00)
エラ・メイ日本公演オフィシャルHP
https://www.creativeman.co.jp/event/ella-mai/
エラ・メイ『Ella Mai』
発売中
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