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ファイヴ・セカンズ・オブ・サマーの10年を振り返る
世界中に何百万人ものファンを持つマルチ・プラチナム・セールス・バンドになる前のファイヴ・セカンズ・オブ・サマー(5 Seconds of Summer:以下5SOS)は、オーストラリアのシドニーに住む4人のティーンエイジャーたちによる苦悩に駆られた情熱的なバンドだった。
ギタリストのルーク・ヘミングスとマイケル・クリフォード、ベーシストのカルム・フッド、ドラマーのアシュトン・アーウィンは、2011年の結成前から、メイデイ・パレードからは故郷を捨てることや愛の不確かさを、ブリンク182からはユーモアと深みのバランスを取る技術を、グリーン・デイからは反抗心を学び、ポップ・パンクというジャンルそのものを吸収していった。これらの影響とメンバーそれぞれの個性的な創造性が融合して、5SOS独特のサウンドが生み出された。
2013年、5SOSはワン・ダイレクションのツアーに同行し、ギターを多用した熱のこもったパフォーマンスを披露して話題を呼んだ。2014年のデビュー・アルバム『5 Seconds of Summer』では、ポップ・パンク・シーンで活躍できることを証明したが、女性ファンが多く、ボーイ・バンド(男性ポップアイドルグループ)の文化と結びついていたため、彼らは自分たちがアイドルではないと証明する必要があった。
2作目のアルバム『Sounds Good Feels Good』(2015年)は、5SOSに対して懐疑的な人たちを説き伏せるかのように、よりラウドなギターとヘヴィなパーカッションでロック色が強まった作品となった。2018年には、バンドは人気となるためにはロックのルーツを捨てる必要がないことに気づき、『Youngblood』で3枚目の全米1位を獲得。そして、2020年の4枚目のアルバム『CALM』では、ニューウェーブ、80年代ポップ、インディー・ロックの影響を加えて、ポップとロックの2つの世界の完璧な中間点を打ちたてた。
ソングライターとしてもミュージシャンとしても、4枚のアルバムを作り上げた5SOSには、これ以上自分自身を証明する必要はないだろう。それではその4枚のアルバムを順番に紹介していこう。
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『5 Seconds of Summer』(2014年)
5SOSは、2014年初頭にメジャー・デビュー・シングル「She Looks So Perfect」で一般の人々に知られることになった。ジェイク・シンクレア(フォール・アウト・ボーイ、パニック!アット・ザ・ディスコ、ニュー・ポリティクス)とエリック・バレンタイン(スマッシュ・マウス、オール・アメリカン・リジェクツ、テイキング・バック・サンデー)といったポップ・パンクのプロデューサーを起用し、バンド・メンバーのアーウィン、クリフォード、シンクレアが作曲したこの楽曲は、ポップ・パンクの要素をフルに入れ込んだものだった。
破れたスキニージーンズ、逃げ出したい寂れた町、そして権威に対する若々しい反感が込められていたこの曲はラジオでも人気を博し、トップ40の洗練されたポップスの中で、ギターを多用したコーラスは異彩を放った。この曲は全米シングルチャートで24位を記録し、全米レコード協会(RIAA)からダブル・プラチナムに認定されている。
「ポップ・パンクは、私たちにとって最も手っ取り早く、最も効果的で、非常に感情的で、歌詞的にも自分たちにあっていて、最も理解している音楽でした」と、アーウィンは2019年にBBC Radio 1に語っている。
ポップ・パンク・バンドとして人気を博していたグッド・シャーロットのジョエルとベンジーが作曲し、ルイとマイケル・ビアンカニエロがサム・ワターズと一緒にプロデュースしたアルバムからの3枚目のシングル「Amnesia」で、バンドは感情的な面も表現。感情を込めたこの楽曲は、ヴォーカルの素晴らしさにも注目されることになり、全米シングルチャートにて当時のバンド最高位を更新する16位を記録している。
『Sounds Good Feels Good』(2015年)
セカンド・アルバム『Sounds Good Feels Good』のリード・シングル「She’s Kinda Hot」では、バンドがプロデューサーのジョン・フェルドマン(オール・タイム・ロウ、ブリンク182)と組んだことで、ポップ・パンク・シーンにより深く入り込んだ作品となった。クリフォードとアーウィンは、フェルドマンとマッデン兄弟と一緒に「She’s Kinda Hot」を作曲。この曲は全米チャートで22位にランクインし、ゴールド・ディスク認定を受け、自身2度目のMTV Video Music Awardを受賞した。
「She’s Kinda Hot」は、バンドのファンにとって心強いアンセムとして機能し、サビの部分ではうなるようなドラムとヘヴィなギターに合わせて、フルボリュームでファンと一緒に歌い上げる。彼らは、自分たちとファンのことを「新しい壊れたシーンの王と女王」と宣言している。
ポップ・ミュージックの世界に存在するロック・バンドとして、彼らは少し見捨てられた存在のようにも感じていた。2015年、クリフォードはUSA Todayにこう語っている。
「僕らはボーイ・バンドの心構えを持っていない。すべてのボーイ・バンドがそうだとは言わないけど、僕たちは手っ取り早くお金を稼ぐために活動しているわけじゃない。ファンに長く付き合ってもらいたいし、音楽的にも進化していきたいんです」
『Youngblood』(2018年)
『Youngblood』に収録され、ゴールド・ディスク認定を受けたリード・シングル「Want You Back」は、ミュージシャンとしての成長を示すものだった。彼らはポップスを完全に受け入れながら、ギターを前面に出した。ベーシストのカルム・フッドは米ビルボードのインタビューで、「バンドを再構築して、この新しい作品をリリースするのは、リスクを伴うことでした」と語っている。
プロデューサーのアンドリュー・ゴールドスタインとアンドリュー・ウェルズと共に制作された「Want You Back」は、ヘミングス、フッド、アーウィンのバンドの3人に加え、スティーブ・マック、エイジア・ウィットクレア、J・カッシュが作曲陣として参加。この楽曲は全米チャートで61位を記録したが、5SOSのキャリアの中で最大のヒット曲はこのあとすぐにやってくることになる。
「私に言った言葉を思い出して / 死ぬまで愛して」というメランコリックな歌詞で始まるアルバム・タイトル・トラック「Youngblood」では、ヴォーカルにわずかにエッジが効き、人間関係の押し引きを体現して、アルバム全体のトーンを決定づけたものとなった。フッドの洗練されたベースに支えられたこの曲は、5SOSが新しいサウンドでポップ・ラジオにも進出し、ツアーのステージでもロックすることができると示した。
アーウィン、フッド、ヘミングスが、ポップスの専門家であるアリ・タンポシ、プロデューサーのアンドリュー・ワット(ポスト・マローン、ジャスティン・ビーバー、マイリー・サイラス)とルイス・ベル(ハルジー、テイラー・スウィフト、カリッド)と一緒に作曲した「Youngblood」は、全米シングルチャートで7位を記録し、ダブル・プラチナ認定を受けている。また、5SOSの曲で初めて10億ストリームを突破したのはこの曲だ。
『CALM』(2020年)
5SOSは、2019年に4枚目のスタジオ・アルバム『CALM』からのファースト・シングル「Easier」をリリースしたのは、『Youngblood』からわずか1年しか経っていなかったころだ。「Easier」では、それまでにうまくいったものを、新しい影響やコラボレーターを使って活性化。ニューウェーブ的なサウンドは、彼らのリズムセクションを中心に構築されている。ヘミングスのヴォーカルが曲を牽引し、彼らのヴォーカル・プロダクションにも進化の要素が加わっている。またバンド・メンバーに加え、新たにライアン・テダーとチャーリー・プースが作曲に参加している。
プラチナ認定を受けたこの曲は全米チャートで48位を記録し、ナイン・インチ・ネイルズ、デペッシュ・モード、ティアーズ・フォー・フィアーズから影響をうけたサウンドで、彼らの音楽的な探究を行うきっかけとなった。アーウィンは、BBC Radio 1のインタビューでこう語っている。
「僕たちは、アーティストとして自分たちの音楽に何を求めているのかを探るための時間が増えたんだ」
そしてセカンド・シングル「Teeth」は、よりヘヴィなサウンドとテンションが高いヴォーカルがTikTokでも人気を博し、全米チャートにこそランクインしなかったが、YouTubeではミュージック・ビデオの再生回数は9000万回、Spotifyでは3.6臆再生を記録するヒット曲となった。
5SOSが今まで発売してきた4枚のアルバムでサウンドを再構築し続けることができたのは、異なる影響とスキルを持つ4人のミュージシャンが一つのバンドとしてシンクロし続けているからだ。クリフォード、フッド、ヘミングス、アーウィンの4人は、自分たちの過去の作品に固執するのではなく、継続的な進化を遂げている。
彼らは、結成10周年を記念して、12月3日に、公式YouTubeチャンネルにて記念ライブストリームを開催した。以下よりアーカイヴが公開されている。
Written By Larisha Paul
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