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史上最高のカヴァー・ヴァージョン100選
初レコーディング作品の誕生からレコード盤幼少の頃(*訳注:初期の意)より、カヴァー・ヴァージョンは音楽ビジネスの主要商品だった。当初は、お抱えソングライターの印税を稼ぐのに意欲的な音楽出版社から‘売りこまれた’曲をライバル同士のレコード・レーベル達が自分達のヴァージョンでリリースしていた。必然的に誰かがまず曲をレコーディングしなければならず、1950年代末になっても、同じ曲に対してかなりの数のヴァージョンが競合していた。そして時には複数のヴァージョンがベストセラー・リストに入ることもあった。
1960年代以降は、ひとつの曲につきひとつのヴァージョンを発表し、ヒットするか一般大衆に気に入られるか否かを成り行きに任せるのが通常のやり方になった。そしてヒットすることもあればしないこともあり、更にこのプレイリストの曲のように、オリジナル・レコーディングがリリースされてから何年か後にカヴァーされ、不発に終わったオリジナルの後に放たれたそのカヴァーがみんなの記憶に最も強く残ることもあった。ルルの「Shout」はその典型的な例で、アイズレー・ブラザーズのオリジナル・ヴァ―ジョンを覚えている人は少ないだろう。
「Make It Easy On Yourself(邦題:涙でさようなら)」のウォーカー・ブラザーズのヴァージョンもまたそんな例だ。バート・バカラックとハル・デイヴィッドが作曲し、元々ジェリー・バトラーがレコーディングし全米チャートで20位を記録、UKではリリース当初の1962年には殆ど売れなかった。その3年後、同ナンバーはウォーカー・ブラザーズによってUKチャート1位に輝き、アメリカ・チャートではジェリー・バトラーよりも4位上回った。今日プレイされ最も良く記憶されているのはウォーカー・ブラザーズ・ヴァージョンだ。
ハウリン・ウルフの「Little Red Rooster」のザ・ローリング・ストーンズのヴァージョンも似たようなケースだ。ウィリー・ディクスンによって書かれた曲だが、1964年12月にストーンズがUKシングル・チャートのトップを記録した頃、イギリスでハウリン・ウルフの名を知る者は殆どいなかった。ウルフのヴァージョンは1961年末にチェス・レコードから発表され、シカゴとその他幾つかの街と、ブラック・レコード・バイヤー達に買われた南部諸州で好売上げを記録した以外は、セールスは平凡なものだった。不可解なことにアメリカのロンドン・レコードはストーンズ・ヴァージョンのシングルを出し損なったが、「Little Red Rooster」はブルース・レコードとしてチャート・トップを飾った初の、そして数少ない曲の中のひとつという栄誉を得た。
アーティストはなぜ曲をカヴァーするのだろう? まあ、彼等が曲にヒットの可能性を感じるからなのは明らかだ。しかし多くの場合、アーティストは特定のソングライターや他のパフォーマーが好きなのだ。ブライアン・ウィルソンはフィル・スペクターの作品に心酔していた為、彼とザ・ビーチ・ボーイズはザ・クリスタルズの「Then He Kissed Me」をカヴァーした(*訳注:ザ・ビーチ・ボーイズのヴァージョンのタイトルは「Then I Kissed Her(邦題:あの娘にキッス)」)。このガールズ・バンドは既に同ナンバーで大ヒットを記録しており、ザ・ビーチ・ボーイズは彼女達を上回る成功を収めることは出来なかったが、これは最高級のオマージュだ。
カヴァーがあまりにも有名になってしまった為、オリジナルが殆ど忘れられてしまったケースも多い。例えばフォー・トップスの「Walk Away Renee」(オリジナルはレフト・バンク)、ムーディー・ブルースの「Go Now」(オリジナルはベッシ―・バンクス)、ザ・ブラザーズ・ ジョンソンの「Strawberry Letter 23」(シュギー・オーティス)、シン・リジィの「Whiskey in the Jar」(ザ・ダブリナーズ)、カーペンターズの「Superstar」(デラニー&ボニー)、それからボブ・ディランの「All Along the Watchtower(邦題:見張塔からずっと)」のジミ・ヘンドリックス・ヴァージョン。
ザ・ビートルズは世界一カヴァーされたアーティストのひとつである、そこで我々は今回皆さんの為に逸品を幾つか選んでみた。スージー&ザ・バンシーズの「Dear Prudence」の見事なカヴァー・ヴァージョン、ウィルソン・ピケットによる「Hey Jude」、それからザ・ジャムによる「And Your Bird Can Sing」の見事なカヴァー・ヴァージョン。中でもとりわけ興味深いのは、ファッツ・ドミノによる「Lady Madonna」かもしれない。と言うのも、これは元々ポール・マッカートニーがこのニューオーリンズのピアノマンへのオマージュとして書いた曲だったからだ。
オリジナル・レコーディングを真似たカヴァーもあれば、新しくそして時には、殆どそれとは分からないような領域へと持って行ってしまったものもある。例えば元々グレン・キャンベルがヒットさせたジミー・ウェッブの作詞作曲による楽曲のアイザック・ヘイズ・ヴァージョンをご紹介しよう。この「By The Time I Get to Phoenix(邦題:恋はフェニックス)」はまるで別物だった。同様なのが、クリームによる「Crossroads」(オリジナルはロバート・ジョンソン)、ダイアナ・ロスによる「Ain`t No Mountain High Enough」のエクステンデッド・ヴァージョン(マーヴィン・ゲイとタミー・テレル)、ディープ・パープルによる「Hush」(ジョー・サウス)、それからザ・ナイスが取り組んだレナード・バーンスタイン作「America」(「ウェストサイド物語」から)の熱いヴァージョン。
ヒット・レコードとしてふたつの人生を歩んだナンバーはその他にも存在する。例えばバリー・ホワイトの「Just The Way You Are(邦題:素顔のままで)」は作者ビリー・ジョエルが大ヒットさせた。ソニー&シェールの「I’ve Got You Babe」のUB40とクリッシー・ハインド・ヴァージョン、それからリトル・エヴァの「The Loco-motion」とはまるで異なるグランド・ファンク・レイルロード・ヴァ―ジョン。両ヴァージョンがトップを飾った希少なナンバーだ。
とにかく、そんなわけで、史上最高のカヴァー・ヴァージョン100選をどうぞ。我々が忘れてしまったのは何だろう…と同時に、その曲をリストに入れるべきだと思われた理由もお聞かせください。
既に触れたトラック以外にリストアップした曲:
デレク&ザ・ドミノス 「Little Wing」
CCR 「I Heard It Through the Grapevine」
ブライアン・フェリー 「A Hard Rain’s A-Gonna Fall」
ジェフ・バックリィ 「Hallelujah」
ザ・フー 「Summertime Blues」
セックス・ピストルズ 「Substitute」
ロッド・スチュワート 「Handbags & Gladrags」
サンディ・デニー 「Candle In The Wind」
ママス&パパス 「Twist and Shout」
ロバート・パーマー 「 Mercy Mercy Me/I Want You」
ザ・キュアー featuringジェイムズ・マッカートニー 「Hello, Goodbye」
マイク・オールドフィールド 「Arrival」
ダイアナ・クラール 「The Look of Love」
エリック・クラプトン 「I Shot the Sheriff」
ルイ・アームストロング 「Ain’t Misbehavin’」
オールマン・ブラザーズ・バンド 「Statesboro’ Blues」
フェアポート・コンヴェンション 「Si Tu Dois Partir(邦題:二人のわかれ)
シニード・オコナー 「Nothing Compares 2 U」
グラハム・パーカー&ザ・ルーモア「Hold Back the Night」
ダスティ・スプリングフィールド 「I Just don’t Know What to Do with Myself」
カウンティング・クロウズ 「Return of the Grievous Angel」
P.P.アーノルド 「Angel of the Morning」
ファイヴ・セカンズ・オブ・サマー 「American Idiot」
レニー・クラヴィッツ 「American Woman」
マドンナ 「American Pie」
ジョニー・キャッシュ 「Personal Jesus」
ロバート・ワイアット 「I’m a Believer」
ディーヴォ 「(I Can’t Get No)Satisfaction」
ザ・スペシャルズ 「A Message to Rudy(邦題:ルーディーたちへのメッセージ)」
ソフト・セル 「Tainted Love(邦題:汚れなき愛)」
ザ・クラッシュ 「Police & Thieves(邦題:ポリスとコソ泥)」
エルヴィス・プレスリー 「Snowbird」
モンゴ・サンタマリア 「Watermelon Man」
ジョス・ストーン 「Alfie」
マンフレッド・マンズ・アース・バンド 「Blinded By the Light(邦題:光に目もくらみ)」
ニルヴァーナ 「The Man Who Sold The World(邦題:世界を売った男)」
ナット・キング・コール 「The Very Thought of You」
エラ・フィッツジェラルド 「Nature Boy」
バット・フォー・ラッシーズ 「I’m On Fire」
ジョー・コッカ― 「With A Little Help from My Friends」
シェリル・クロウ 「The First Cut Is The Deepest」
パティ・スミス 「Because The Night」
ガンズ・アンド・ローゼズ 「Knockin’ on Heaven’s Door(邦題:天国への扉)」
エルモア・ジェイムス 「Dust My Broom」
シザー・シスターズ 「Comfortably Numb」
グレゴリー・ポーター 「The In Crowd」
エルヴィス・コステロ 「She」
パッツィー・クライン 「Crazy」
マディ・ウォーターズ 「Good Morning little School Girl」
ザ・バンド 「I Shall Be Released」
エタ・ジェイムズ 「At Last」
フレディ・マーキュリー 「The Great Pretender」
スティーヴィー・ワンダー 「Blowin’ In The Wind」
レッド・ホット・チリ・ペッパーズ 「Higher Ground」
メタリカ 「Turn The Page」
ザ・ライチャス・ブラザーズ 「Unchained Melody」
ジェイミー・カラム 「Everlasting Love」
トム・ジョーンズ&ステレオフォニックス 「Mama Told Me Not To Come」
トーキング・ヘッズ 「Take Me to The River」
アリソン・クラウス 「Baby Now That I’ve Found You」
エイミー・ワインハウス 「Round Midnight」
アストラッド・ジルベルト 「The Shadow of Your Smile」
アル・グリーン 「How Can You Mend A Broken Heart」
ハービー・ハンコック 「Edith and The Kingpin」
ジャクソン5 「Doctor My Eyes」
ゲイリー・ムーア 「Need Your Love So Bad」
フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド 「Born To Run」
U2 「Paint It Black(邦題:黒くぬれ!)」
オーティス・レディング 「My Girl」
ウィリー・ネルソン 「All the Things You Are」
ゲイリー・ジュールズ 「Mad World」
ラリー・カールトン 「Sleepwalk」
ライアン・アダムス 「Wonderwall」
ニール・ダイアモンド 「He Ain’t Heavy He’s My Brother」
コリン・ブランストーン 「What Becomes of the Broken Hearted」
ダニー・ハサウェイ 「Young Gifted and Black」
スペンサー・デイヴィス・グループ 「Keep On Running」