New Releases
ポール・マッカートニー&ウイングス『Band On The Run』50周年記念が発売。未発表音源を収録
ポール・マッカートニー&ウイングスの代表作『Band On The Run』の50周年記念エディションが2024年2月2日に発売された。この50周年盤にはオリジナルの音源からオーケストラなどを取り除いた未発表音源“オーヴァーダブ”・ミックスが9曲分収録された。
この50周年記念盤はすでに高い評価を得ており、サンデー・タイムズ紙では「マストハヴ・リイシュー」に選ばれ、MOJOでは5つ星を獲得。『Uncut』は10/10のアルバム・レビューで「50年経った今でも、マッカの奇跡は彼の本質を定義し続けている」と評し、AP通信は「半世紀経った今でも、新鮮でエキサイティングなサウンド」と称賛している。
<関連記事>
・ポール・マッカートニー&ウイングス『Band On The Run』50周年発売決定
・ウイングス創設メンバー、デニー・レインが79歳で逝去
・最後のビートルズ・ソングと“赤盤/青盤”の2023年版が発売決定
50周年を迎える名盤
ヒット・チャートの首位に輝き、グラミー賞を複数の部門で受賞、そして発表後、数十年に亘って”史上最高のアルバム・ランキング”の常連であり続ける『Band On The Run』 ―― この大ヒット・アルバムのオリジナル盤がリリースされたのは1973年12月のことだった。
不朽の表題曲「Band On The Run」、世界的ヒットを記録した「Jet」、哀愁漂う「Bluebird」、ライヴの定番曲として愛され続けている「Let Me Roll It」、サウンドの変化が面白い「Picasso’s Last Words (Drink to Me)(ピカソの遺言)」、作品のクライマックスを彩る「Nineteen Hundred and Eighty Five(1985年)」といった楽曲が収録された『Band On The Run』は、間違いなくウイングス史上もっとも大きな成功と賞賛を得た作品といえるだろう。
今回の50周年記念エディションは、アナログLPをはじめとするさまざまなフォーマットで発売される。2CDエディションは、米国オリジナル盤と同じ曲目のアルバム本編とオーヴァーダブ・ミックスを収録。こちらには、リンダ・マッカートニー撮影のポラロイド写真を使用したポスターが、両面印刷/折り畳み式で付属される。
LPのスペシャル・エディション(輸入盤のみ)には、1973年当時のオリジナル・マスター・テープから高品質でデジタル変換した音源を基に、ハーフ・スピード・カッティングで製作されたもので、カッティングを手がけたのは、ロンドンはアビー・ロード・スタジオのマイルズ・ショーウェルである。このLP盤エディションの収録曲は「Helen Wheels(愛しのヘレン)」が収録された米国盤のそれに準拠しており、さらにはリンダ・マッカートニー撮影のポラロイド写真を使用したポスターも付属となる。
また、同じくアナログ盤の2LPエディション(輸入盤のみ)には、ハーフ・スピード・カッティングで製作された米国盤のアルバム本編に加え、2枚目のディスクとして収録曲のオーヴァーダブ・ミックスが併録される。なお、上質なスリップケースに収納されるこちらのセットには、リンダ・マッカートニー撮影のポラロイド・ポスターが2枚付属する。
オーケストラなどを取り除いた“オーヴァーダブ”・ミックス
『Band On The Run』50周年に収録されたオーヴァーダブ・ミックスは、『Band On The Run (Underdubbed Mixes)』として単体でデジタル配信も開始となった。このオーヴァーダブ・ミックスについてポール・マッカートニーは以下のように説明している。
「これは、いままで誰も聴いたことがないような『Band On The Run』だ。曲を作って、追加のギターなどのパートを足すことを“オーヴァーダブ”と言う。このヴァージョンは“アンダーダブド”、つまりその逆の状態のものなんだよ」
オーヴァーダブ・ミックスでは、オーケストラなどの追加パートが入っていない状態で『Band On The Run』に収められた9つの名曲を楽しむことができる。これまで未発表となっていたこのラフ・ミックスは1973年10月14日、ジェフ・エメリックがAIRスタジオのピーター・スウェッテナムの力を借りて製作したものだ。曲順はこれまでの既発版とは異なるが、これはMcCartney Productions Ltd.の倉庫で発見されたオリジナル・アナログ・テープの曲順に準拠している。
そして今回、『Band On The Run』のドルビー・アトモス・ミックスも製作された。こちらはジャイルズ・マーティンとスティーヴ・オーチャードが新たに手がけたものである。こちらはデジタルのみの配信となる。
『Band On The Run』制作について
ポール・マッカートニーがその輝かしいキャリアを通じてリリースした無数の名盤の中でも、ウイングスの『Band On The Run』は特に高い評価を得ている作品だ。このアルバムは、『Wild Life』と『Red Rose Speedway』の約束を果たしただけでなく、70年代ロックの旗手としてのウイングスの地位を確固たるものにした。『Band On The Run』は、ロック・ラジオのプレイリストが席巻したこの10年間のサウンドトラックとして、ポールの今後の活動だけでなく、何世代にもわたるアリーナ・ロック・スターたちの基準ともなったのだ。
1973年の夏までに、ポールは新しいアルバムのために新しい曲を用意していた。EMIが所有していた海外のスタジオのリストに目を通したポールは、アフリカでレコーディングするというアイデアに夢中になり、ナイジェリアのラゴスをレコーディングする場所に選んだ。
出発の数日前、リード・ギタリストのヘンリー・マッカローとドラマーのデニー・セイウェルがバンドを脱退し、ウイングスは突然トリオになってしまうハプニングもあったが、ポールと妻のリンダ、バンドメンバーのデニー・レイン、そしてレコーディング・エンジニアのジェフ・エメリックは、西アフリカの国、ナイジェリのアラゴスのスタジオに行き、2ヶ月かけて新曲を作り上げた。
しかし、ある夜、ポールとリンダが友人宅から歩いて帰宅中に強盗に刃物を突き付けられ、楽曲のデモ・テープのカセットを奪われるという災難に見舞われてしまった。テープは強奪されてしまったものの、それらの楽曲は最近書いたばかりだったということもあり、ポールはなんとか思い出すことができた。
アルバムの表題曲である、3つの楽章からなる組曲のような構成で知られる「Band On The Run」は、いわゆるポップ・ヒット調の楽曲ではなかったが、全米シングルチャートで首位を獲得した。
そんな『Band On The Run』の評判は、年々高まるばかりだ。1975年にグラミー賞を2度受賞した後、2012年にはデラックス・エディションが3度目の受賞を果たし、2013年にはグラミー賞の殿堂入りを果たした。
ポール・マッカートニー&ウイングスの決定版とも言われるこのアルバムは、新しい世代がその天才的な才能を発見するにつれ、根強くファンから愛されている。「Nineteen Hundred and Eighty Five」がライヴで演奏されるようになったのは2010年のことだが、ポールのソロ・キャリアが衰えることなく続いている現在、この曲は彼のライヴ・セットの常連となっている。
マッカートニーは最近行っている『Got Back』ツアーのライヴにて、『Band On The Run』からの曲や、彼の比類なきカタログの全曲を披露。2022年2月に初めてスタートしたこのツアーは、アメリカで16回の大規模なギグをこなした後、2022年6月にグラストンベリーで歴史に残るヘッドライン・セットを行い、タイムズ紙が「史上最高のギグ」と評している。
Written By Tim Peacock
ポール・マッカートニー&ウイングス『Band on the Run (50th Anniversary Edition)』
2024年2月2日発売
CD / LP / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music
- 最後のビートルズ・ソングと“赤盤/青盤”の2023年版が発売決定
- ポールの70年代を、リンダとの絆を通して描く新ドキュメンタリー製作決定
- ポールの娘がアビイ・ロードの歴史を紹介するドキュメンタリー映画が配信
- ウイングスの最高傑作『Band On The Run』
- ウイングス『Venus and Mars』解説
- ウイングスのデビュー・アルバム『Wild Life』は異色作
- 名曲が散りばめられたウイングスの『London Town』
- ウイングス『Wings Over America』:ポールが久しぶりにビートルズを歌った
- ザ・ビートルズ『Revolver』解説:ポップ・ミュージックの存在価値を変えた名作
- 『Revolver』解説その①:新たな時代の到来と脱アイドル宣言
- 新たなサウンドへの扉となった「Tomorrow Never Knows」
- ザ・ビートルズのルーフトップ・ライヴ:バンド最後の公でのパフォーマンス