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フリージャズ界の伝説的パーカッショニスト、ミルフォード・グレイヴスが逝去。その功績を辿る

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Photo: Andrew Lepley/Redferns

フリージャズ界に多大な貢献を果たしたパーカッショニストの草分け、ミルフォード・グレイヴス(Milford Graves)が2021年2月13日、うっ血性心不全のため79歳で逝去した。

ジョン・コルトレーンの葬儀でのアルバート・アイラーとの共演から、彼のことを“20世紀のシャーマン”と評したジョン・ゾーンとのMoMAでのパフォーマンスに至るまで、ミルフォード・グレイヴスはその50年以上にわたるキャリアの中で、ジャズ界において影響力のある人物であり続けた。

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Milford Graves (full set) – Hopscotch 2019

真の博学者だった彼の履歴書には、武道家、植物学者、ハーブ学者、鍼灸師、医学研究者、プログラマー、画家、マルチメディア・アーティスト、生物学的音楽学者、教授といった肩書きが記されているが、実際に彼の知識の幅はこれらに限定されるものではない。彼はまた、自身の心臓の鼓動を科学的に研究し、身体の内なるリズムに合わせて演奏することから得られる癒しの効果を探求していた。

2018年のドキュメンタリー映画『Milford Graves: Full Mantis』の公開以降、ミルフォード・グレイヴスの生涯と作品にあらためて注目が集まっていた。この映画の公開は、彼が不治の心臓病である“アミロイド心筋症”と診断されたのと同じ年のことだった。「結果として、自分の病気の治療に備えて心臓の研究をしていたことになりますね」と彼はニューヨーク・タイムズ紙の取材に語っている。

Milford Graves Full Mantis – trailer | IFFR 2018

ミルフォード・グレイヴスは、緻密なタイム・キーパーという従来のドラマーの役割から抜け出し、よりパーソナルな表現を追求した“ジャズ・ドラマーの解放者”として知られている。彼のテクニックは、ラテンやアフリカ、アジア由来のリズムのアイデアを、開放的な即興演奏に取り入れ、機能よりもフィーリングを重視したものだった。

彼は映画の中でこう述べている。

「スイングとは、ある場所から別の場所へと移動すること。その行為が命を吹き込んでいるのです。スウィングとは、ああ、明日まで生きていたいなぁ、と思えるようになることです」

1941年にニューヨークのクイーンズにあるジャマイカ地区で生まれたミルフォード・グレイヴスは、3歳からドラムを始め、ラジオを通してラテンやアフロ・キューバン・ジャズのリズムに没頭し、コンガやティンバレスも習得していった。

マンボやラテン・ジャズのバンドで演奏をし始めた彼は、カル・ジェイダーやハービー・マン、そしてアルバム『Arriba!』と『Wild & Warm』で、ミルフォード・グレイヴスと共に、彼の数日前に亡くなったチック・コリアもフィーチャーしたモンテゴ・ジョーといった大物ミュージシャンたちからスイングを学んだ。彼は自身のユニークなジャズ・サウンドを確立する一方で、60年代初頭には、南アフリカ出身の人気アーティスト、ヒュー・マセケラやミリアム・マケバともレコーディングを行っている。

Table Suite

1964年、ミルフォード・グレイヴスは、影響力を誇る“ESPディスク・レコード”から発表したデュオ・アルバム『Percussion Ensemble』や『The Giuseppi Logan Quartet』をはじめ、カーラとポール・ブレイ夫妻、アーチー・シェップ、スティーヴ・レイシーら、革新的ミュージシャンたちと結成した、“ジャズ・コンポーザーズ・オーケストラ”の『Communication』、そしてジョン・チカイ、ルイス・ウォーレル、ラズウェル・ラッドらと共同創設した“ニューヨーク・アート・カルテット”が革命的な詩人アミリ・バラカをゲストに迎えた、セルフタイトルのファースト・アルバムなど、画期的なコラボレーション作品の数々をニューヨークのアバンギャルド・シーンに放ち、典型的なビバップのサウンドから脱却した独自のスウィング・スタイルを確立していった。

Nothing 5-7

アルバム『New York Art Quartet』のライナーノーツの中で、ジョン・チカイは、「ニューヨークの若手ミュージシャンの中でも、グレイヴスほど、ポリリズミックな(複数の異なるリズムが同時演奏される)リズムのまとまり、強度や音楽性を持ちあわせている人物はいなかった」と記している。

1967年頃までには、フリージャズ界の猛者で、ジョン・コルトレーンの後継者とも称されたアルバート・アイラーとタッグを組み、衝撃的なライヴを繰り広げつつ、変革期の作品『Love Cry on Impulse』を発表。また彼は、70年代を通して、ベニントン大学の教授として優れた功績を残し、2011年に名誉教授を退任した。

以降も彼は、自身のソロ活動に加え、デヴィッド・マレイ、ビル・ラズウェル、ペーター・ブロッツマン、ウィリアム・パーカー、ルー・リード、ジョン・ゾーンらとのコラボレーションを通して、晩年まで演奏を続けながら、新たなアートやマルチメディア作品を制作。彼の最後の展覧会『Milford Graves: A Mind-Body Deal』は、2021年1月、フィラデルフィアの現代美術館“ICA”で5週間にわたる会期を終えていた。

Written By Jordan Clifford




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