News
スタジオのマエストロ、ビル・プライス死去。享年72歳。
大変尊敬され豊富な経験を持つエンジニア兼プロデューサー、ビル・プライスの葬儀は1月26日イギリス・バースで執り行われた。プライスは2016年12月22日に癌で死去。72歳だった。
プライスほど経歴書の内容が多岐に渡るスタジオ・スペシャリストは少ない。50年以上ものキャリアを誇り、ブルース、ポップ、クラシック・ロック、ニュー・ウェイヴやその他数多くを網羅。彼の経験に恩恵を受けたのはジョン・メイオール、エリック・クラプトン、ポール・マッカートニー、エルトン・ジョン、セックス・ピストルズ、ピート・タウンゼントやその他数え切れない。また彼は故サー・ジョージ・マーティンに信頼された協力者であり、彼のAIRスタジオ設立チームの一員として知られる。
プライスがエンジニアあるいはプロデューサーとして生んだ素晴らしいヒット曲のリストは実に豪華だ。彼はそのキャリアをプレッシー・エレクトロニクスでスタートさせ、その後1962年にデッカ・レコードへ移る。結成まもないザ・ビートルズがレーベルに送ったオーディション・テープが不採用で、テープ保管室に長期間放り込まれ、見向きもされぬままになっていた頃のことだ。
1960年代当時のビルはスタジオに籠り、メイオールからムーディー・ブルース、トム・ジョーンズやエンゲルベルト・フンパーディンク等とセッションを行ない、マーマレードのポップ・ヒット「Reflections of My Life」、ニルソンの1972年スマッシュ―・ナンバー「Without You」、マーティンがプロデュースしたポール・マッカートニー＆ウイングスの1973年ボンド映画主題歌「Live and Let Die（邦題：007 死ぬのは奴らだ）」等を手掛けた。
クレジットされているアルバム一覧は、まるで主要なニュー・ウェイヴやクールなロック・リリースの目録を読んでいるかのようだ。彼はセックス・ピストルズの独創性に富んだ『Never Mind The Bollocks…Here`s The Sex Pistols（邦題：勝手にしやがれ!!）』をクリス・トーマスと共同プロデュースし、モット・ザ・フープルのLP『Mott』と『The Hoople（邦題：ロックンロール黄金時代）』、ロキシー・ミュージックの『For Your Pleasure』、ザ・クラッシュの1977年デビュー作『The Clash（邦題：白い暴動）』及び『London Calling』と『Sandinista!』、そしてプリテンダーズの『Pretenders（邦題：愛しのキッズ）』と『Pretenders II』をミキシングした。
ピストルズのセッション中に関して、プライスは2004年にサウンド・オン・サウンド誌で次のように語っている「（マネージャーのマルコム・マクラーレンが）シングル‘Pretty Vacant’と‘God Save The Queen’をプロデュースする為にクリス・トーマスを雇ったんだが、その過程で最終的に目立つシングル曲ではなく、アルバムに収録されるような曲をレコーディングしてしまったんだ。そしてアルバムをレコーディング中、マルコムが曲を聴いて、クリスにシングルとしてやり直して欲しいと思って曲が出てきた。それで、アルバムを仕上げる段階には、クリスと私のいずれかがプロデュースした2つのヴァージョンのある曲が出来ていたんだ」。
1980年代後半、プライスはピート・タウンゼント、ジョン・レノン、ロッド・スチュワート、INXS等と仕事をし、90年代にはガンズ＆ローゼズの主要アルバム3枚『Use Your Illusion I』、『Use Your Illusion II』、そして『The Spaghetti Incident？』をミキシングした。
その後ザ・ウォーターボーイズをプロデュースし、ザ・ストーン・ローゼズをミックス、近年もザ・リバティーンズやベイビーシャンブルズといった最新鋭ロック・バンドと組み、その人気は衰え知らずだった。2013年にはソニーから出されたザ・クラッシュの全スタジオ・リリース収録作品『The Complete Studio Albums』セットをリマスター＆リミックスした。
クリス・トーマスはプライスについて、次のように述べている。「ずばり、ビルはUKがこれまで生んだ一流エンジニアのひとりだった。つまり、彼は世界屈指の存在のひとりだったのさ」
