Join us

Columns

MCUのテレビシリーズ『ロキ』でトム・ヒドルストンが歌う「Very Full」の歌詞に込められた意味

Published on

Disney+(ディズニープラス)にて2021年6月9日から全6話が配信されたマーベル・スタジオによるオリジナルドラマシリーズ『ロキ』。今年1月に配信された『ワンダヴィジョン』『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』続くマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)3作目のテレビ・シリーズとなった本作で、トム・ヒドルストンが歌う「Very Full」について、ライターの杉山すぴ豊さんに解説いただきました。

<関連記事>
『ブラック・ウィドウ』のサントラ、作曲家ロアン・バルフェが語るその中身
『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』とMCUの音楽
音楽の力によって『ワンダヴィジョン』は今後も傑作として語り継がれていく


 

“アイドル映画”的な『ロキ』

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)のドラマ『ロキ』。これはMCUきっての人気ヴィランのロキを主人公にしたシリーズです。これは明らかにトム・ヒドルストン演じるロキがブレイクしたので彼を主人公にしたシリーズを作ろうと企画されたものでしょう。

従ってロキの様々な魅力を引き出すシーンが多い。なのでロキの“アイドル映画”的ではあるのですが、シリーズ後半になるとこれからのMCUのキーとなる“マルチバース”が語られていきます。さてこの“アイドル映画”としての『ロキ』の真骨頂と言えるのが、エピソード3″ラメンティス”の中で披露された「Very Full」という歌のシーン。

崩壊間近の惑星ラメンティスで、ある列車に乗り込んだロキとシルヴィ。そこでロキが酔いながらこの歌を歌い乗客たちと盛り上がります。ロキとシルヴィはこの列車に忍び込んだので、その正体をカモフラージュするため、わざとこういう風に目立ってカモフラージュしていたのかもしれません。この歌は基本ノルウェー語でコーラスのところは英語になっています。歌詞の内容を説明する前に、“ノルウェー語の歌を持ってきた”というのは非常にMCUらしい仕掛なんですね。

まずMCUドラマの第一作となる『ワンダヴィジョン』では、ワンダが作り出す異世界が50年代から80年代にかけてのシットコムファミリードラマの世界をモチーフにしている、というユニークな設定でした。そこで『奥さまは魔女』や『ザ・マンスターズ』を意識した(パロった)主題歌が劇中に流れ大きな話題を呼びました。つまり“歌のシーン”はMCUドラマと相性がいい。

もう一つ、これは僕が英語のネイティブではないので“受け売り”ですが、例えば『ブラックパンサー』のワカンダ人のセリフは、わざとアクセントをかえて“ワカンダなまり”の英語にしているそうです。またワンダやジモなどソコヴィア出身というキャラも、“ソコヴィアなまり”のアクセントを入れていると。僕は字幕や日本語吹替でみてしまうのでこういう面白さはわからないのですが、英語のネイティブによればアメリカ人の英語とちょっと違うことで彼らのバックボーンがわかる、という仕掛けになっているらしい。恐らくロキもアスガルド流のセリフ回しだったりアクセントなのでしょう。もちろんワカンダもソコヴィアもアスガルドもMCUの中での国ですから現実世界の国(アフリカやヨーロッパ)の国のそれを参考にしてるわけですが、アスガルドの場合、元が北欧神話に由来しますからノルウェー語の言い回しや発音をとりいれているのでしょうね。トム・ヒドルストンはこのノルウェー語のアクセントを十分マスターしており、それで製作陣はノルウェー語の歌(アスガルドの歌)を彼に歌わせたいと思ったのでしょう。民謡っぽいですがこのドラマのために作られたオリジナル。ノルウェーの作詞家と作曲家に発注して作ったそうです。

「Very Full」の歌詞を深掘り

さてこの歌の正式名は「Jeg saler min ganger(ジェグセーラーミンガンガー)」と言うらしく、これがなぜ英語だと「Very Full」というタイトルになるのかわかりませんが「Jeg saler min ganger」は“自分の時間に鞍を置く”みたいな意味で転じて“自分の時間に取り組んでいく”ということかな。確かに『ロキ』は様々な時間軸を彷徨い、“時間”に翻弄されるロキのドラマですから、このタイトルとあっていますね。この曲はドラマの中でも歌詞が表示されていないのですが、自分で訳してみたものから、こうではないかなという説をご紹介します。

Very Full

で、歌詞の内容は

木々が踊り、滝はとまってしまった。
その時彼女の歌声が聞こえる「帰ってきて」

と(ここが英語で歌われるコーラスの部分でWhen she sings, she sings, “Come home.”を繰り返す)。そしてロキの独唱で

嵐に覆われ暗くなった山で、私は一人でさまよう
氷河を越えて前進するのだ
リンゴ園には公明正大な乙女が立っている
彼女は歌う「いつ帰ってくるの?」

この歌詞をどう解釈するかなんですが、“木々が踊り、滝はとまってしまった”。『ロキ』では「神聖時間軸」という一本の正しい時の流れがあって、それを乱す「分岐イベント」が発生すると時間軸が枝分かれしてマルチバースの混乱が起こるとされています。その「分岐イベント」を正し「神聖時間軸」を守るのがTVAという組織です。TVAは時間軸を正す行為を「剪定(せんてい)」と言います。本来の意味は枝を切って木を整えることですが、まさに枝分かれした時間軸を修正する行為ですよね。

僕は“木々が踊り”というのは「分岐イベント」が沢山起こり、様々な時間軸がどんどん発生してしまう状況を意味し、また“滝はとまってしまった”は大きな時間の流れ=「神聖時間軸」が滞ってしまったことを指しているのでは?と思います。

そして“嵐に覆われ暗くなった山”は『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』でダーク・エルフか、『マイティ・ソー/バトルロイヤル』でヘラに襲われたアスガルドのことを意味し、“氷河を越えて前進するのだ”はまさに本当は氷の巨人(フロスト・ジャイアント)の子だったロキの宿命を物語っています。

“リンゴ園には公明正大な乙女が立っている彼女は歌う「いつ帰ってくるの?」”。“リンゴ”は北欧神話において神の食べ物とされています。神話の方ではロキとリンゴにまつわるエピソードもありますが、とにかくアスガルド人にとってリンゴはとても大切です。

“公明正大な乙女”とは最初はシルヴィのこと?と思ったのですが、恐らくロキの育ての母フリッガを歌っているのでしょう。ロキを心から愛し、そしてロキが唯一心を開いていた女性です。このフリッガの死は『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』で描かれます。そして『ロキ』において最愛の母の死を招いたのは他ならぬロキ自身と彼は知らされます。

もし過去を変えられるのであれば、ロキが選ぶのはフリッガを救うことではないでしょうか?そうしたロキの想いが“彼女は歌う「いつ帰ってくるの?」”に託されているのだとしたらこの歌はとても切ないのです。

劇中では一番しか披露されませんでしたが、サントラ版ではもっと聴けることができます。

先にも書いたようにロキ、トム・ヒドルストンはファンが多い。ロキのコスプレをする人はこの歌をマスターして、またトム・ヒドルストンのファンは彼がまた来日した時にこの歌でぜひ歓迎してあげてください。

Written by 杉山すぴ豊



サウンドトラック『ロキ オリジナル・サウンドトラック Vol.1 (第1話-第3話)』
2021年4月9日配信
Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music


マーベル・スタジオによるオリジナルドラマシリーズ

『ロキ』
Disney+(ディズニープラス)で独占配信中
詳細はコチラ

『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』
Disney+(ディズニープラス)で独占配信中
詳細はコチラ

『ワンダヴィジョン』
Disney+(ディズニープラス)で独占配信中
詳細はコチラ



 

 

Share this story
Share
日本版uDiscoverSNSをフォローして最新情報をGET!!

uDiscover store

Click to comment

Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Don't Miss