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映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』サントラ全曲解説
2023年5月5日に世界公開、そして日本では世界に先駆けて5月3日に公開される映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』。5月4日に国内盤CDも発売されることが決定したサウンドトラック収録全楽曲について、映画・音楽関連のライター業だけではなく小説も出版されるなど、幅広く活躍されている長谷川町蔵さんに寄稿いただきました。
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『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズの主人公ピーター・クイルが、ラヴェジャーズによって宇宙に連れ去られたのは1988年のことだ。それ以来、彼はウォークマンで亡き母が作ったミックステープだけを聴き続けていた。これまでの二作品の挿入曲は、そのミックステープの収録曲だったわけだが、第二作ラストで大きな変化が。ピーターがZuneをゲットしたのだ。
Zuneとは、マイクロソフトがiPodに対抗して2006年に発売した携帯型音楽プレーヤー。2011年に販売不振(日本では販売すらされなかった)によって生産終了したデバイスをわざわざ持ち出してくるあたり、さすがジェームズ・ガンというほかないけど、おかげでピーターのポップ・ミュージックに関する知識はゼロ年代までアップデートされたのだった。こうした経験が、三部作の最終作となる本作の挿入曲に反映されている。それでは、どんなシーンに用いられているかを妄想しながら、一曲ごとに紹介していきたい。
1. レディオヘッド「Creep (Acoustic Version)」(1992年)
英国のロックバンド、レディオヘッドのデビュー作『Pablo Honey』から先行シングルとしてリリースされた彼らにとって名刺代わりのナンバー。
「俺はCreep(蛆虫)」と卑下する歌詞は、グランジ時代のムードを反映したものだが、プリンスやティアーズ・フォー・フィアーズらレジェンド級の先輩もライブでカバーしたことでわかる通り、普遍的な魅力を持つポップ・チューンでもある。だからこそピーターも気に入ったのだろう。
2. ハート「Crazy On You」(1975年)
アンとナンシーのウィルソン姉妹による米国ロックバンドのデビューアルバム収録曲で、ビルボード・シングル・チャートで最高35位を記録したナンバー (以下、順位は全て同チャートから)。ハードロックでありながらフォーキーさも湛えた曲調に、姉妹が尊敬してやまないレッド・ツェッペリンからの影響を感じる。
なおナンシーは『あの頃ペニー・レインと』(2000)で知られる映画監督キャメロン・クロウと結婚していたことがある。
3. レインボー「Since You Been Gone」(1979年)
もともとは英国のロックバンド、アージェントの曲だったが、キャッチーさに目をつけたリッチー・ブラックモア率いるレインボーがカバーして彼らの代表曲に。また作者のラス・バラードはこれを機にアメリカやサンタナなどに曲を提供するソングライターとしても活躍するようになった。
「お前がどこかへ姿を消したせいで俺はヘンになりそうなんだ」と歌われる詞は、ガモーラに対するピーターの想いを代弁しているかのようだ。
4. スペースホッグ「In the Meantime」(1995年)
「奴らが神聖だって呼んでいる事を時間内に片付けちまおうぜ」と今作のガーディアンズのミッションを指しているかのようなぶっ飛んだ歌詞を歌っているのは、90年代後半からゼロ年代前半にかけて活躍した英国のグラム・リバイバリストたち(最高32位)。
なおフロントマンのロイストン・ラングトンは『キャプテン・アメリカ:ニュー・ワールド・オーダー』で16年ぶりにMCU復帰が発表されたリヴ・タイラーの元夫にあたる。
5. アース・ウィンド・アンド・ファイアー「Reasons」(1975年)
グルーヴィーな音楽性と、古代エジプトとSFがミックスされたヴィジュアル(MCU映画『ブラックパンサー』のインスパイア源のひとつである)によって知られるR&Bグループにとって、初の全米首位獲得作『That’s the Way of the World』(ハーヴェイ・カイテルの同名主演映画のサントラでもある)収録曲。
「君を愛することに理由なんていらない」と大気圏外まで届くかのようなファルセットで歌われる荘厳なバラードだ。
6. ザ・フレーミング・リップス「Do You Realize??」(2002年)
サイケでドリーミーな音楽性で知られる彼らによる、SFチックなコンセプト・アルバム『Yoshimi Battles the Pink Robots』収録曲(主人公の名は日本のボアダムズやOOIOOの活動で知られるヨシミから)の収録曲にして代表曲。
「気づいている?君の顔が最高に美しいって/気づいている? 俺たちが宇宙を浮遊していることを」という歌詞から推測するに、ピーターとガモーラにとっての決定的シーンに流れそうな気配が満々だ。
7. フェイス・ノー・モア「We Care a Lot」(1985年)
レッチリと並び称された米国オルタナロックバンドのデビューアルバム収録曲。バンドの現フロントマン、マイク・パットン加入前のナンバーではあるものの、メタルとファンク、ヒップホップを掛け合わせた独自の音楽性はすでに確立している。
「僕らはとっても気にしています!」と連呼される歌詞は、ライブエイドをはじめとする当時のチャリティ・ブームをおちょくったもの。もしかするとこの内容も映画とリンクしてくるのかも。
8. EHAMIC「小犬のカーニバル ~小犬のワルツより~」(2018年)
日本で最も話題を呼ぶだろうこの曲は、クラシックの大作曲家たちの記憶と才能を持った人造人間が活躍する日本産アニメ『クラシカロイド』(NHKで放映)のために製作されたナンバー。フレデリック・ショパン「子犬のワルツ」をブラジル風にアレンジしたEHAMIC(エハミック)のセンスが光る。
『ガーディアンズ・オブ・ギャラ クシー ホリデー・スペシャル』からチームに加入した宇宙犬コスモの活躍シーンに流れる予感がする。
9. アリス・クーパー「I’m Always Chasing Rainbows」(1976年)
シアトリカルな作風で人気を呼んだ米国のロッカーが全盛期に発表した『Goes to Hell』に収録されたカバー曲。オリジナルはショパン(なぜショパンばかりが使われる?)の幻想即興曲(の後半部)で、1917年に歌詞が付けられてブロードウェイのショー・ナンバーになった。
ジーグフェルド・フォリーズを題材にした『美人劇場』(1941)におけるジュディ・ガーランドの歌唱で有名だが、クーパーの歌もなかなか味わい深い。
10. ザ・モーグリス「San Francisco」(2012年)
カリフォルニア出身のアメリカのオルタナロックバンドによる、シャッフルビートが印象的なポップ・チューン。それにしても宇宙を舞台にした本作で、米西海岸の都市サンフランシスコについて歌う曲が流れるのは何故だろう? ピーターの生まれ故郷は中西部のミズーリだし……。もしかすると、サンフランシスコを拠点とするMCUヒーロー、アントマンもしくはシャンチーがストーリーに絡んでくるのかもしれない。
11. X「Poor Girl」(1983年)
“JAPAN”がつかないX(エックス)は、1977年に結成されたロサンゼルス出身のパンクバンド。但し音楽性はカントリーやロカビリーに影響を受けた幅広いもので、ボ・ディドリー風ビートが奏でられるこのナンバーも、元ドアーズのレイ・マンザレイクによるプロデュース曲だ。
孤独を愛する少女への想いが歌われているところから想像するに、この曲もピーターとガモーラの関係性の行方を描いたシーンに流れるような気がする。
12. ザ・ザ「This Is the Day」(1983年)
ザ・ザは、英国のシンガーソングライター、マット・ジョンソンによるソロ・ユニット。代表作『Soul Mining』のオープニングを飾るこの曲はリリース当時、米国ではチャート・インしなかったものの、「今日こそが君の人生ががらっと変わる日なんだ」との歌詞に着目した『エンパイア・レコード』(1995)や『エブリデイ』(2018)といった「一定の時間内の出来事」を描いた映画で使われたことで、現在は人気曲になっている。
13. ビ―スティ・ボーイズ「No Sleep Till Brooklyn」(1987年)
ユダヤ系白人ラップ・トリオのデビューアルバム『Licensed to Ill』に収録された地元ブルックリン讃歌。スレイヤーのケリー・キングが弾く凶悪なギターリフが最高に格好良い。『マーベルズ』の予告編でも彼らの「Intergalactic」が使われていたし、MCUとビースティーズは相性が良いのかも。
それにしてもブルックリンという言葉が気になる。この街出身のMCUヒーローといえば、スティーブ・ロジャースその人なのだが……。
14. フローレンス・アンド・ザ・マシーン「Dog Days Are Over」(2008年)
英国のインディロックバンドによる代表曲(最高21位)。サビで歌われる「Dog Days(冴えない時期)はもう終わり。馬が駆けてくる音が聞こえるでしょう?」というポジティブなリリックが好まれ、紀行物からスポーツ番組まで様々なメディアで使用され続けている人気曲だ。
だがアライグマやイタチ、サメといった動物キャラをこよなく愛するジェームズ・ガンだけに、宇宙犬コスモ絡みのシーンに流す可能性も否定できない。
15. ブルース・スプリングスティーン「Badlands」(1978年)
アメリカ人の心の友であるロックンローラー、尊称“ボス”のアルバム『闇に吠える街』のオープニング曲(42位)。骨太な8ビートに乗せて、「バッドランド(悪い世界)、お前はそれに毎日生きていかなければならない/理解されるまでプッシュし続けろ/バッドランドが俺達をよく扱うようになるまで」とボスが歌い上げるこの曲が、ヴィランに虐げられた者たちが決起するシーンに流れたりしたら、滅茶苦茶盛り上がるはず。
16. ザ・リプレイスメンツ「I Will Dare」(1984年)
ロック全般に関して深い愛と知識を持つジェームズ・ガンだが、中でもお気に入りなのは「パンク・スピリットを持った極上のポップバンド」なのかもしれない。現在はソロで活躍するポール・ウェスターバーグが率いていた彼らも、その系統ではトップ・クラスのバンド。
軽快なシャッフルビート上でマンドリンをかき鳴らしながら「どこでもいつでも気にしない。とにかく君に会いたいんだ」とシャウトするなんて、エモすぎるではないか。
17. レッドボーン「Come and Get Your Love」(1973年)
メンバー全員がメキシコ系もしくはネイティブ・アメリカンのルーツを持つロックバンドの代表曲(5位)。日本ではB.B.クイーンズ「おどるポンポコリン」のインスパイア源として知られるけど、注目すべきは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の第一作冒頭でもこの曲が流れていたこと。
本作における再度の使用は、物語が円環を閉じるように終わることを意味しているのではないだろうか。MCUサーガにおいて、この“完結感”はかつてないものだ。
Written By 長谷川町蔵
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3 オーサム・ミックス Vol. 3(オリジナル・サウンドトラック)』
2023年5月4日発売
国内盤CD
ジェームズ・ガン監督/マーベル・スタジオ劇場公開最新作
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』
5月3日(水・祝)全国劇場公開
公式サイト:https://marvel.disney.co.jp/movie/gog-vol3
©Marvel Studios 2023
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