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フュージョンの草分け、チック・コリアが79歳で逝去。その功績を辿る
伝説のジャズ・キーボーディストで、フュージョンの草分けとして知られていたチック・コリア(Chick Corea)が79歳で逝去した。声明によると、彼は最近、癌を患っていたという。
23度ものグラミー賞受賞歴を誇るチック・コリアは、その60年近いキャリアの中で、100作以上ものスタジオ・アルバムとライヴ・アルバムをリリースした多作なアーティストだった。初期のマイルス・デイヴィスとの共演に加え、革新的なフュージョン・バンド“リターン・トゥ・フォーエヴァー”、前衛的なジャズ・グループ“サークル”、そして後に“チック・コリア・エレクトリック・バンド”を結成。また、ゲイリー・バートン、ハービー・ハンコック、ベラ・フレックらとのコラボレーション・プロジェクトにも参加している。
チック・コリアは、多くの影響力のあるフュージョン作品で知られているが、ラテン・ジャズやクラシックなど、他のジャンルのプロジェクトにも定期的に取り組んでいた。
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1941年にアルマンド・コリアとして生まれたチック・コリアは、ボストン郊外で育ち、幼い頃から音楽に囲まれて育った。地元のグループでトランペットを演奏していた父親は、息子にジャズを紹介し、演奏するように勧めた。そうしてドラムとピアノの才能をすぐに開花させたチック・コリアは、さらに幅広い演奏技術を身に着けることに意気込んでいた。1975年に行われたNMEとのインタビューの中で、彼は次のように語っていた。
「私は、最も難しいクラシックの曲を上手に弾くことができ、ハーモニーや理論についても知識はありましたが、そういったものは全て捨てて、肘を使って演奏するようになりました。そうすることで、自分のアイデンティティのようなものを感じ、それこそが自分自身なのだと感じるようになったのです」
その精神がチック・コリアを際立たせ、ニューヨークのジャズ界の目に留まった。その後、彼は20代前半という若さで、スタン・ゲッツ、モンゴ・サンタマリア、マイルス・デイヴィスら偉大なミュージシャンたちと共演を果たしていく。彼はマイルス・デイヴィスとの仕事を70年代初頭まで続け、12作以上のアルバムに参加しながら、ソロ活動にも力を注ぎ、1968年にデビュー・アルバム『Tones for Joan’s Bones』をリリース。
以降50年間、チック・コリアはほぼ例外なく、最低でも年に1枚、多い時は2、3枚のアルバムを発表していた。
より親しみやすいジャズのスタイルを模索していた彼は、1971年に、エレクトリックとアコースティックの両方の楽器編成でロックの要素を取り入れたリターン・トゥ・フォーエヴァーを結成。スタンリー・クラーク、アル・ディ・メオラ、アール・クルーらがメンバーとして参加している同グループは、70年代を通してレコーディングを行い、2008年には再結成を果たした。
その後の数十年も、ソロ・アーティストとしてジャズ作品を手掛ける傍ら、チック・コリア・ニュー・トリオ、ファイヴ・ピース・バンド・ライヴ、チック・
常にその手を休めることはなかったチック・コリアは、昨年、ヨーロッパとアメリカの様々なコンサートホールで行った選りすぐりのソロ・パフォーマンスを収録した最後のアルバム『Plays』をリリース。もう一つの最新作で、クリスチャン・マクブライドとブライアン・ブレイドとのライヴ・アルバム『Trilogy 2』は、今年のグラミー賞で、彼のソロ・パフォーマンス「All Blues」での“最優秀インプロバイズド・ジャズ・ソロ賞”を含む2部門にノミネートされていた。
本日、チック・コリアの公式フェイスブック・ページで次のような声明が発表されている。
「その人生とキャリアを通して、チックは新しいものを創造すること、そしてアーティストたちとセッションを行うことで得られる自由と楽しさを満喫していました。彼は夫であり、父親であり、祖父であり、多くの人々にとっての偉大な指導者であり、友人でもありました。自身の作品と数十年にわたる世界ツアーを通して、彼は何百万人もの人々に感動とインスピレーションを与えてきました」
チック・コリアがファンに捧げた最後のメッセージにはこうある。
「私の旅路に、音楽の炎を明るく燃やし続けてくれた全ての方々に感謝します。音楽を弾いたり、書いたりしてみたいと思っている人々が、実際にそうしてくれることを願っています。自分のためでなかったとしても、是非私たちのためにそうしていただきたいです。世界はもっと多くのアーティストを必要としているだけでなく、単純に本当に楽しいことですから」
「そして、私にとって家族のような存在だった素晴らしい音楽家の友人たちへ。皆さんから学び、皆さんと一緒に演奏できたことは幸せであり、光栄でした。私の使命は、どこへでも創作することの喜びをもたらすこと、そして私が心から敬服するアーティストたちと共にそれを実現すること、それこそが私の人生における豊かさでした」
チック・コリアが感じていた喜びは、彼が関わってきたどのプロジェクトにおいても、その作品を通して鳴り響いている。昨年のJazzTimesとのインタビューで、彼はこう語っていた。
「仕事をしているときは、自分がやっていることの結果を目の前で見ることができるんです。それは信じられないほど充実した感覚です。自分が人々に喜びをもたらしているかどうか、誰かにインスピレーションを与えているかどうかがわかるんです。そんな時に、自分が世の中に何か良いものを届けられている。そう信じています。私の経験上、人々のために音楽を作ることは、私たちの中にある自然なものを刺激することです。それは全ての人の中にある自然な感覚なんです。何もプロである必要はなく、生きている人間として、想像力の遊びに心を開くだけでいいのです。なぜなら、想像力がすべてなのです。これをしばらくやっていると、自分の想像力を使って、創作したものを命に吹き込むことができることに気づくでしょう。そして、あなたの幸せは、あなたが自ら命を吹き込んだもの、あなたが自分自身の中に取り込んだものからもたらされるのです」
Written By uDiscover Team
チック・コリア『Plays』
2020年8月28日発売
CD / iTunes / Apple Music / Spotify /Amazon Music
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