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グラミー賞を20回獲得した伝説的なエンジニア、アル・シュミットが91歳で逝去。その功績を辿る
伝説的なエンジニア、アル・シュミット(Al Schmitt)が2021年4月26日に91歳で逝去したことが、彼の家族によって伝えられた。
アル・シュミットは、1962年にヘンリー・マンシーニ監督による映画『ハタリ!』のサウンドトラックのエンジニアリングで自身初のグラミー賞を受賞し、以降もジョージ・ベンソン、TOTO、スティーリー・ダン、レイ・チャールズ、クインシー・ジョーンズらの作品で、グラミー賞は通算20回も獲得している。
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19歳のとき、エイペックス・レコーディング・スタジオの見習いとして働き始めたアル・シュミットは、思いがけずデューク・エリントンと彼のオーケストラの録音を担当することになる。これは当時の彼にとって大きな試練となったが、彼はこのセッションをやり遂げ、その後、順調にキャリアを積み上げていく。
「デューク・エリントンが私の隣に座っていて、私はひどく緊張しているのを隠すことができませんでした。私はずっと“エリントンさん、この仕事は私には荷が重すぎます。これは完全に人選ミスですよ”と彼に言い続けていました。でも彼は、私の膝をポンポン叩きながら、“心配するな、息子よ。何とかなるさ”と言い続けてくれたんです。そんな風に現場に放り込まれた私は、その仕事をやり遂げ、私たちは4面を完成させました。自分にもできるんだ、という自信を持てたことが嬉しかったです。でも、もしあの前日の夜に、“明日はデューク・エリントンを録音するぞ”、と言われていたら、私は仮病を使っていたかもしれないと今でも考えることがあります」
その後、50年代後半にロサンゼルスへと活動拠点を移したアル・シュミットは、ハリウッドにあるRCAのスタッフ・エンジニアとして、サム・クックやエルヴィス・プレスリーのレコードのエンジニアリングを担当し、成功を収めていく。
RCAでの仕事を経て、フリーランスのプロデューサーとしてのキャリアを本格的にスタートさせた彼は、ジャクソン・ブラウンやニール・ヤングらのアルバムのプロデュースを手掛けた他、フランク・シナトラ、レイ・チャールズ、マドンナ、マイケル・ジャクソンなど、さまざまなアーティストのエンジニアリングを担当。ポピュラー音楽史上、彼ほどの影響力を持ったエンジニアは他に類を見ないだろう。彼は、音楽制作における見落とされた側面に貢献した伝説的人物であり、あらゆるプロジェクトのスタジオ現場で頼られる権威だった。
アル・シュミットは、ハリウッドのキャピトル・スタジオとも深い関わりを持っている。彼は、キャピトル・スタジオを、“お気に入りの仕事場”と呼んでいたが、その理由のひとつに、彼の友人であるレス・ポールが設計した地下の残響室がある。最適なサウンドが得られるこのスタジオで、彼は生き生きと仕事をしていたという。
つい先日、アル・シュミット自身が監修を手掛け、彼のワークフローを再現するために設計されたシグネチャー・プラグインがLeapwing Audio社からリリースされた。アル・シュミットは、1997年に、オーディオ専門家 の業績を讃えるTECアワードで殿堂入りを果たし、2015年には音楽レコーディングのパイオニアとしての功績が認められ、ハリウッド・ウォーク・オブ・フェイムの星を授与されている。
今回の訃報を受けて、ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンをはじめ、彼の輝かしいキャリアを通して仕事を共にした多くのアーティストたちが追悼の意を表していている。
「アルはレコーディング業界の巨匠であり、偉大なアーティストたちと共作した素晴らしいエンジニアでした。私のガーシュウィン・アルバムで彼と仕事ができたことを光栄に思います。ラブ&マーシー、 ブライアン」
また、ジョージ・マーティンの息子で、高く評価されているプロデューサーのジャイルズ・マーティンもこう追悼を捧げている。
「音楽史上、最も偉大なレコーディング・エンジニアの一人でした。私はキャピトル・スタジオで彼と一緒に仕事をする機会に恵まれましたが、その非常に巧みな技能には頭が下がりました。唯一無二の存在です。安らかにお眠りください、そしてすべての音楽に感謝しています」
Written By Will Schube
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