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フランク・ザッパ、唯一のユーゴ公演を収めたライヴ発売決定。ジョー・トラバースが本作を語る
フランク・ザッパ&ザ・マザーズ(Frank Zappa & The Mothers)が、1975年にユーゴスラビア(現在のクロアチアとスロベニアの2都市)で行なった2DAYS公演からのベスト・パフォーマンスを、当日のセットリスト通りに収録した未発表ライヴ・アルバム『Zappa ’75: Zagreb/Ljubljana』が2022年10月14日にリリースされる。
ザッパの息子であるアーメット・ザッパとザッパの遺産の管理人であるジョー・トラバースがプロデュースしたこのライヴ・アルバムは、全27曲、約2時間半に及ぶ完全未発表音源を収録しており、デジタル配信(26曲が1つのアルバムとして配信)と2CDのフィジカル形態で発売される予定だ。
2枚組CDには、ザッパの妻ゲイル・ザッパとジョン・ルディアックによる当時の写真に加え、ジョー・トラバースによる洞察に満ちたライナーノーツ、1975年から78年までザッパと共に仕事をし、ライヴ録音を担当したレコーディング・エンジニア、デイヴィ・モアレのインタビュー、ドラマーのテリー・ボジオによる目撃談とイラストが掲載された32ページのブックレットも付属する。
フランク・ザッパが「ザ・マザーズ・オブ・インヴェンション・ユーゴスラビア・エクストラヴァガンザ」と呼んだ同公演は、1975年11月21日と22日にザグレブとリュブリャナ(現在のクロアチアとスロベニアの首都)で、アンドレ・ルイス(キーボード)、ナポレオン・マーフィ・ブロック(テナーサックス、リードヴォーカル)、ノーマ・ベル(アルトサックス、ヴォーカル)、ロイ・エストラーダ(ベース)とテリー・ボジオ(ドラム)という短命に終わったバンド編成で行われた。いかにもザッパらしく、彼は鉄のカーテンの裏側で行うこれらの歴史的公演のライヴ録音を残していた。
『Zappa ’75: Zagreb/Ljubljana』は、ザッパがユーゴスラビアで行った唯一の公演で、後にファンから愛されるようになる楽曲の初期の貴重なライヴ音源を収録しているだけでなく、このユニークなバンド編成は、同公演後にすぐに解散してしまったため、ザッパの歴史において重要な作品となる。
ユニバーサルミュージックグループがフランク・ザッパの全カタログおよび彼のライフワークを収めた保管庫“The Vault”にあるコンテンツを含む全財産を獲得してから初のリリースとなる本作の制作について、またこの歴史的パートナーシップによる次なる展開について、同財産の管理人であるジョー・トラバースに話を聞いた。
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―― UMGがザッパの全カタログと保管庫を買収したという発表があって以来、多くの人々が、どんな変化が起きていて、これから何が起こるのかを知りたがっていると思います。前置きが長くなりましたが、あなたはこれからも保管庫マイスターであり続けるわけで、それはファンにとっては非常に喜ばしいことだと思います。まず、簡単にことの始まりからお伺いしたいのですが、ザッパの保管庫に関わるようになったのはいつ頃ですか?
ジョー・トラバース:私が保管庫で働き始めたのは1995年です。1993年3月にドゥイージルとアーメット・ザッパによるバンド“Z”のドラマーとして採用され、1995年にゲイルの推薦でフランク・ザッパの保管庫で働くことになったんです。
当時は、コンピュータの技術も、テープを扱う技術も、テープマシンの技術もありませんでしたが、私にはすべてを学びたいという強い意思や私のヒーローのレガシーを守りたいという願望がありました。30年近く経った今でも、ここで仕事をしているとは自分でも思っていなかったと思います。ユニバーサルが私の価値を認めてくれて、ザッパ・トラストのために長年やってきたことを、これからも続けさせてくれることに、非常に感謝していますし、恵まれていると持っています。
―― まだこの質問は早すぎるかもしれませんが、ユニバーサルの買収後、あなたの役割でなにか変わったことがあれば教えてください。また、これまではできなかったことで、今後楽しみにしていることがあれば教えてください。
ジョー・トラバース:まあ、まだ早いですね。今のところ、作業はプロジェクト・ベースになっています。ですから、私はスケジュールにあるプロジェクトをひたすらこなしています。でも、それらの作業が追いついたら、通常であれば、オーディオとビデオのアーカイブと保存だけを続けるつもりです。保管庫のコンテンツをデジタル化するだけでなく、将来のプロジェクトのためにいろいろと蓄積していくことです。
―― UMGに買収された今、保管庫の現状を気にするファンもいるようです。そのあたりについて教えてください。
ジョー・トラバース:現在は、これまでにないほど良い状態です。資料は空調管理された場所にあり、とても安全ですし、かなり昔に家の下に作られた部屋よりもずっと大きな部屋で保管されています。また、管理の上で最も損なう危険があったフィルム自体も、今は冷凍保存されています。フィルムに適した場所で保管できるようになって本当に良かった。ですから、全体として、保管庫はかつてないほど良い状態と言えます。
―― 保管庫には、数え切れないほどの音源や映像が収められているということで、今後何年にもわたって新たな作品がリリースされることでしょう。将来的なリリースについて、何か具体的に言えることはありますか?
ジョー・トラバース:ええ、もちろんです。たくさんのコンサートが保管されています。ですが、ライヴ音源というのは、皆さんが思っているほど簡単ではないんです。フランクはそれらのコンサート・テープから気に入った部分だけを取り出して、厳選した音源のリールを作っていました。ですから、ひとつのライヴを演奏順にリリースするためには、特定の音源を探し出し、デジタルで再構築しなければならないのです。それが一つの障害になっています。その時々で彼は4トラックを持ち出さなかったりすることもあるので、ある意味、予測不可能なんです。
ですが、全体として、コンサート録音は膨大にあります。特に晩年のものは。80年代に入って、彼が録音用の移動トラックを所有するようになってからは、それでツアーを廻ってましたから、全公演を記録し始めたんです。もちろん、スタジオ・セッションもたくさんありますし、インタビューや個人的なテープ、ラフ・ミックス、別ミックス、プロジェクト・テープといったありとあらゆる録音が残されています。ほぼエンドレスですね。長い間この仕事をやっている割には、まだほんの一部しか取り掛かれていないんです。
―― ここ数年、多くのライヴ音源がリリースされていますが、次に発売される『Zappa’75』はすべてライヴ音源ですね。このリリースについて、具体的に教えてください。あなたが考えるこれらのコンサートの特徴はなんですか?
ジョー・トラバース:1996年にザッパ・トラストが『Frank Zappa Plays the Music of Frank Zappa: A Memorial Tribute』というCDをリリースしました。これは基本的に、フランクの家族が作った彼のために墓碑的なオーディオ作品で、ゲイル曰く、フランク自らが代表作と呼んでいた「Zoot Allures」「Black Napkins」「Watermelon in Easter Hay」が収録されています。そして、このCDに収録されている「Black Napkins」の演奏は、ユーゴスラビアのリュブリャナで録音されたコンサートからのものです。
あれから数年経った今、1975年11月にフランクがユーゴスラビアの2都市で行なったベスト・パフォーマンスを演奏順にまとめた2枚組CDをリリースします。ザグレブとリュブリャナ公演からの音源ですが、演奏が素晴らしいんです。あまり広く知られていなかったバンドで、楽器演奏的にはかなり削ぎ落とされていますが、数ヶ月しか在籍しなかったミュージシャンがいました。彼女の名前はノーマ・ベルで、サックス奏者であり、歌も歌います。ですから、彼女の存在がバンドをユニークなものにしているんです。
フランクがユーゴスラビアに行ったのはこの時だけという意味でも、このコンサートには歴史的価値があります。演奏された楽曲も、単純に創作段階のものがいくつもあったというだけで、意義深いものです。振り返ってみると、皆さんが知っていて、大好きな曲ばかり演奏されているんですが、1975年当時はその多くがまだリリースされていませんでした。
私にとってこのアルバムのハイライトは、フランクのギター演奏です。この作品には本当に素晴らしいギター演奏が詰まっています。公演の25分間くらいはインストゥルメンタルで、フランクが模索しながらストレッチしたりやインプロヴァイズして、バンドがそれにあわせて演奏している中で、彼はザッパ・カタログの定番になるようなリフを弾き始めるんです。
この作品に関して、もうひとつの注目すべき点は、保管庫にあるこの時期のライヴ音源で唯一のマルチトラック録音であるということです。フランクは当時、Nagra社の2トラックのマシーンでライヴを録音していました。しかし、このコンサートは、1/2インチの8トラックで録音されています。非常に不明瞭なフォーマットです。それを再生する機械を探すのは容易ではありませんでしたし、テープは焼き付けが必要で、概して非常に不安定でした。ですから、必要なデータを得るのは大変な作業だったんです。でも、やり遂げました。
―― この新しいパートナーシップで、最も期待していることは何ですか?先ほど“仕事に追いつこうとしている”と仰ってましたね。しかし、長い目で見て、特に楽しみにしていること、興味深いことはありますか?
ジョー・トラバース:保管庫からのプロジェクトは、基本的に過去5、6年間と同じペースで進めていくつもりです。フランク・ザッパのエネルギーと彼のファンベースを世界に発信し続けるだけでなく、世間の注目が彼に注がれ続けるという意味でも、とても重要なことです。
私は今の状況をグレイトフル・デッドに例えているのですが、デッドのファンは新曲がリリースされれば、どんなものでも喜んで聴きます。ザッパのファンもそうだと思います。でも、こういったプロジェクトが定期的にリリースされることで、何か発表される度に、新たなファンがそれを発見する可能性も高まります。
ストアに新しい作品が並んでいたり、ストリーミングサイトに新作が出てくると、若い人にとって、“この人は誰だろう?”と出会うきっかけになるかもしれない。そうすると、100枚以上の作品がリリースされていることがわかり、“おっ”と思うわけです。ですから、何かリリースされる度に、新規ファンがフランク・ザッパを発見するチャンスになり得るいうことです。
私は何よりも大前提として、彼の大ファンですので、そのことに感謝しています。それに、ファンのためにこれらの作品をリリースできるのは、とてもエキサイティングなことです。ある時期、あるバンドの、実際に観客として現地にいたかもしれない公演がリリースされるのを心待ちにしている人は世の中にたくさんいて、何年も経ってからその音源を聴くことができるのは、とてもエキサイティングなことです。
―― 他にファンに伝えておきたいことはありますか?
ジョー・トラバース:ユニバーサルとの新たな契約のもと、任務を継続できることをうれしく思っています。これからも、作品のクオリティを保つためにベストを尽くします。やるべきことはたくさんありますが、それをやらせてもらえることに感激しています。長い間、このレガシーを支えてくれたファンの皆さまに感謝しています。この先どんな作品が出てくるのか、私と同じくらい楽しみにしていてください。
Written By Tim Peacock
フランク・ザッパ『Zappa ’75: Zagreb / Ljubljana』
2022年10月14日発売
CD
『ZAPPA (Original Motion Picture Soundtrack)』(3CD)
輸入盤/デジタル:2020年11月27日発売
日本国内盤:2022年4月20日発売
国内盤CD / LP/ iTunes Store / Apple Music / Amazon Music
<日本盤のみ>解説付/歌詞対訳付SHM-CD仕様
フランク・ザッパ『ZAPPA/ERIE』(6CD)
2022年6月17日発売
国内盤CD / iTunes Store / Apple Music
映画情報
『ZAPPA』
2022年4月22日(金)日本劇場公開
監督:アレックス・ウィンター|出演:ブルース・ビックフォード、パメラ・デ・バレス、バンク・ガードナー、デヴィッド・ハリントン、マイク・ケネリー、スコット・チュニス、ジョー・トラヴァース、イアン・アンダーウッド、ルース・アンダーウッド、スティーヴ・ヴァイ、レイ・ホワイト、ゲイル・ザッパ
キングレコード提供|ビーズインターナショナル配給
シネマート新宿・シネマート心斎橋ほかにて
2020年|アメリカ映画|129分|原題:ZAPPA
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