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新人ながら2019年UKで最も売れたルイス・キャパルディとは? 彼の魅力と成功の理由を4つに分けて解説
2018年11月8日に発売されたEP『Breach』の3曲目に収録された「Someone You Loved」がUKシングルチャートで7週連続1位を記録して2019年UKもっとも売れたシングルとなり、5月に発売されたデビュー・アルバム『Divinely Uninspired To A Hellish Extent』もUK年間チャートで1位を獲得、2019年10月にはUKのアーティストとしては2年前のエド・シーラン以来の全米シングル1位を獲得、したルイス・キャパルディ。新人ながらなぜ彼がここまで成功したのか? そんな彼の魅力を4つの要素に分けて音楽ライターの新谷洋子さんに解説頂きました。
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2019年の英国音楽界において最もビックで、かつ最も意外なサクセス・ストーリーの主人公。2020年1月9日に初の単独来日公演を東京で行なうルイス・キャパルディ(23歳)を簡潔に紹介するとしたら、そんなところになるのだろうか。スコットランド出身のこのシンガー・ソングライターのシングル「Someone You Loved」は7週間にわたって全英チャート1位を独走し、国内で年間最多のセールスを達成。アメリカでもシングル・チャートの頂点に上り詰めて、ファースト・アルバム『Divinely Uninspired To A Hellish Extent』は全英ナンバーワンに6週間とどまり、最終的には計5曲のトップ10シングルを生んでいる。そんな独り勝ち状態にある男が愛される理由を探ってみた。
1. 地味でフツウなのがポップスターの最先端?
冒頭で“意外なサクセス・ストーリー”という言葉を用いたが、彼が成功を手にする前兆がまったくなかったわけではない。振り返ってみればルイスは、BBCサウンド・オブ・2018及び、2019年ブリット賞のクリティックス・チョイス賞(活躍が期待される新人に贈られる特別賞)の候補にちゃんと挙がっていたのだから。ただ本人は常日頃から、成功するとは夢にも思っていなかったと語っており、自分を“一発屋”と呼ぶこともしばしば。何しろぽっちゃり体型で、決してハンサムとは言い難いルックスで、洒落っ気はみじんもない。英国ではほかにもエド・シーランやジェリー・シナモンなど“フツウ”であることをウリにする男性アーティストが活躍していることを思うと、ある意味で“アンチ見た目至上主義”のトレンドに則っているのかもしれないけど、中でも飛び切りフツウなのがルイスなのだ。
強烈なスコットランド訛りで話す彼はグラスゴーで生まれ(スコットランドが生んだ名優で「Someone You Loved」のMVに出演したピーター・カパルディとは親戚関係にある)、グラスゴーとエジンバラの間に位置する小さな町バスゲイトで育ち、父は魚屋で働いていて、母は看護婦。家庭環境もいたってフツウで、大ブレイクした今も両親と実家で暮らしているというボーイ・ネクスト・ドアぶりに、誰もが親しみを感じずにいられないのである。
2. 天賦の歌声を武器に、スコットランドから世界へ
一見“フツウ”なルイスをスペシャルな存在にしているのは、ほかでもなく天が与えた歌声である。4歳の時に歌の楽しさに目覚め、両親が聴いていた多彩なアーティストの音楽に触れて育った彼は、ハードルの高いクイーンの曲を歌いこなし、ジョー・コッカーをお手本にして歌唱力を磨いたという。ジョーと言えば、ブルージーでソウルフルな歌で知られる偉大な英国人ヴォーカリスト。子供ながらにルイスが高い理想を掲げていたことが分かる。
その後、ザ・クークスやザ・ヴューといったインディー・ロックに夢中になったことをきっかけにギターを弾くようになり、曲作りもスタート。11歳にして地元のパブなどでパフォーマンスを行ないながら、ネット上に音源をアップしていた。現在のマネージャーも、まさに彼がSoundcloudにアップした曲を耳にして、歌声に惚れ込んだそうだ。そう、得も言われぬ深みとコクと気迫があって、でもスムーズ過ぎず、細かな震えやかすれが絶妙なテクスチュアを織り込んでいる歌声に――。
2017年3月にシングル「Bruises」を自主リリースするとそれはじわじわと世界中に浸透し、レーベル契約前のアーティストとしてはSpotify史上初めての、2,500万回の再生回数を記録。他のミュージシャンたちの耳も捉えて、ナイル・ホーランやサム・スミスの前座に起用されたものだ。
そして2019年5月にメジャー・レーベルから送り出した『Divinely Uninspired To A Hellish Extent』(日本では12月発売)では、英国のプロダクション・ユニットTMSから、フランク・オーシャンやゼインの作品でお馴染みのマレイことジェイムズ・ライアン・ホーまで売れっ子たちをコラボレーターに迎えているものの、みんな声の魅力を前面に押し出すことを重視。どの曲も必要最低限のピアノやギターの音に縁取られ、声だけが脳裏に刻まれる、ジャンルやスタイルでは捉えられないタイムレスな作品に仕上がった。
3. ハートブレイクの痛みを万人と共有
ラグンボーン・マンにジェイムス・アーサー、トム・ウォーカー……。近年、渋めのパワフルな歌声で人気を勝ち取った英国人のブルーアイド・ソウル・シンガーは少なくない。この点においてもルイスはひとつのトレンドに則った存在だと言えるが、じゃあ、中でも彼が破格の成功を収めた理由はどこにあるのか? それはずばり、第62回グラミー賞で最優秀楽曲賞にノミネートされている「Someone You Loved」という稀代の名曲だ。
2018年11月のリリースから4カ月を経て全英チャートの頂点を極め、さらに11月になって全米チャートでも3週間ナンバーワンを記録したこのピアノ・バラードは、自分のすべてを与えた最愛の人が去ってしまった時の喪失感と向き合う、たまらなく切ないブレイクアップ・ソング。アデルの「Someone Like You」に比較されることもしばしばで、恋人だけでなく、大切な人を失う悲しみを広い意味で代弁するキャパシティを備えているからこそ、多くの人の心を動かしたことは間違いないだろう。
もっとも、「Someone You Loved」に限らずアルバムの収録曲はほぼ全て、ひとりの女性との関係の破局にインスパイアされている。“君が残した傷跡を失いたくない”と訴える「Bruises」然り、災いを招くのは自分なのだと己を責めて“こんな僕は独りでいるほうがいいのかもしれない”と歌う「Maybe」然り、元彼女との再会の場面を想像している「Forever」然り、様々なアングルからハートブレイクを掘り下げるルイス。なんでも、渦中にある時ではなくて破局から少し時間が経ってから、冷静に振り返ってこれらの曲をしたためたといい、苦々しく恨み言を言うことは一切ない。なぜうまくいかなかったんだろう、どこで間違ったんだろうと自問する姿は誠実で、ここにも彼にシンパシーを抱く理由がある。
4. とことん自分を笑う、尽きせぬユーモア
このように音楽はシリアス極まりないルイス、逆にキャラはコメディアンそのもので、そんなギャップに惹かれた人も大勢いるようだ。何しろ彼のSNSには、自分の体型やルックスもネタにした、放送禁止用語満載の爆笑コメディ映像やボヤキが、これでもかというほどアップされている。2019年だけで250本のライヴをこなしているのに、どうやって時間を見つけているのか不思議なくらいで、例えば特に話題になったのは、LA滞在中にホテルで撮影された1本の映像。
トイレを詰まらせ、焦って買い求めたラバーカップを握りしめてハリウッドのメインストリートを歩くルイスの姿が映し出され、「地元ではナンバーワンだってのにアメリカに来るとこんな仕打ちが待ってるんだよね」と嘆く。完璧に演出されたグラマラスなイメージを発信するセレブリティたちをせせら笑うかのように素を貫くルイス、インスタグラムで430万人のフォロワー数を誇るのも納得がいくし、SNSの使い方に非常に長けた人なのだ。
もちろんMCの面白さには定評があり、ライヴ会場や公式ウェブサイトで販売されているユーモア全開のアーティスト・グッズも必見。“ルイス・キャパルディのクソみたいなバッグ”と記されたトートバッグ、自分の顔をプリントしたトイレット・ぺーパー(英語でトイレット・ペーパーを意味する“loo roll”をもじって“Lew Roll”と命名されている)やクッションなどなど、旺盛な遊び心を反映したアイテムが揃う。この手の極めてブリティッシュな自虐的かつ自嘲的なユーモアは、殊にアメリカ人には新鮮に映ったに相違ない。
よって、大仰で長ったらしいアルバム・タイトル『Divinely Uninspired To A Hellish Extent』もジョークとして受け止められかねないのだが、ここにはいたって真面目な想いが込められている。アルバム未収録の曲「Figure It Out」の歌詞を引用したこのフレーズには、“完膚なきまでに霊感を欠いた状態”といったような意味があり、ちょうどブレイクへの階段を上り始めた頃に綴ったのだという。当時SNSのフォロワー数や再生回数のアップダウンに逐一気を揉み、素晴らしい音楽を作ろうとしているもののインスピレーションを得られずに悶々としていたルイスは、この曲を書き上げたことでそういう悩みから解放されたのだとか。つまり、大きな葛藤を乗り越えて辿り着いたアルバムなのだと、我々に知らせているタイトルなのである。音楽は真剣勝負、でもそれ以外は楽しむこと、楽しませることに終始する彼こそ、理想的なエンターテイナーだと言えるんじゃないだろうか?
Written By 新谷洋子
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ルイス・キャパルディ『Divinely Uninspired To A Hellish Extent』
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