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映画『ミラベル~』の挿入歌「We Don’t Talk About Bruno / 秘密のブルーノ」が大ヒットした理由
2021年11月26日に劇場公開となったディズニー新作映画『ミラベルと魔法だらけの家』(原題:Encanto)。この映画のサウンドトラック・アルバムに収録された楽曲「We Don’t Talk About Bruno(邦題:秘密のブルーノ)」はディズニー・アニメーションの音楽としては「Let It Go」を超え、1993年の『アラジン』主題歌「A Whole New World」以来となる全米シングルチャート2位を記録。アルバム自体もディズニー作品としては『アナと雪の女王2』以来の全米1位を獲得している。(*2/1 update: 全米シングルチャートでも1位を獲得)
また、全英シングルチャートでは1位を獲得。これは1952年の英チャート開始以来、オリジナルのディズニーソングとして初めて同チャートのトップに立つという歴史的快挙となった。
映画公開当初は、そこまで大きな売り上げを記録していなかったこの楽曲がなぜこんなにも急に注目されたのか? 様々なメディアに寄稿されている辰巳JUNKさんに解説いただきました。
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夢と魔法を奏でるディズニー映画の音楽は、子どもから大人にまで愛されつづけてきた。1937年公開の『白雪姫』以降、そのヒットの歴史は今も変わっていない。しかし、60作目の長編映画となる『ミラベルと魔法だらけの家』は「新時代のディズニー」というべき前代未聞の現象を巻き起こしているようだ。
「Let It Go」を超えるヒットに
2021年1月、『ミラベルと魔法だらけの家』の挿入歌「We Don’t Talk About Bruno(邦題:秘密のブルーノ)」が世界中でムーブメントを巻き起こしている。本国アメリカでは、ディズニー史上初のSpotifyナンバーワンヒットとなり、全米シングルチャートことBillboard HOT 100の2位についた。『アナと雪の女王』の「Let It Go」は最高5位だったため、本作を「21世紀もっともヒットしたディズニーソング」とする向きもある。(*編註:2/1 update 全米シングルチャートでも1位を獲得)
ここでポイントなのは「We Don’t Talk About Bruno」が、ラブソングやパワーバラードといった一般的なディズニーヒットではないことだ。むしろメロディは不吉で、歌詞に至ってはネガティブである。
触れちゃダメ ブルーノ ノーノーノー
触れちゃダメ ブルーノ
でもあれは私の あれは僕らの 結婚式の日
とても晴れてた 晴れてたのにさ
(「秘密のブルーノ」歌い出し)
そもそもどんな映画なのか?
この不思議なサプライズヒットの魅力を探る前に、映画を紹介する必要があるだろう。南米コロンビアを舞台にしたミュージカル・アニメーション『ミラベルと魔法の家』は、確固たる悪役がいない、大家族の物語だ。
町の名士であるマドリガル家は、それぞれ魔法の力を持つ一族だが、主人公の少女ミラベルだけそのギフトを持っていない。明るく生きる彼女は、家族の力が弱まっていることを知ったことで、未来予知能力を持っていた消息不明の叔父ブルーノについて調べ始める。しかし、その名を口にされた叔母ペパ夫妻は、厳しく制止する……。
ここで、ほぼファミリー総出で歌われるのが「We Don’t Talk About Bruno」だ。「ブルーノについて話してはいけない」という警告から始まるものの、家族たちの口からは、叔父にまつわる不穏なエピソードが溢れ出していく。作曲家リン=マニュエル・ミランダいわく、家族間の「ゴシップソング」だ。
映画配信後に大盛り上がり
『ミラベルと魔法だらけの家』が劇場公開されたのは2021年11月だが、大規模なブームとなったのは、クリスマス・イブ以降である。同日ディズニープラスで配信リリースされたことで、物語の考察や多様なキャラクターデザインなど、さまざまな話題がソーシャルメディアを駆け巡った。サウンドトラックの人気も上昇し、年明けには全米アルバムチャート(Billboard HOT 200)でナンバーワンを獲得している。
しかしながら「We Don’t Talk About Bruno」は『ミラベルと魔法だらけの家』配信前から根強い人気を形成していた。たとえば、楽曲デジタルリリース直後には、ゲーマーに人気のチャットサービスDiscordでオンライン合唱ブームが発生している。この時点では「映画は観てないけど頭から離れない」といった反応が散見された。つまるところ、楽曲単体の魅力が高かったと言える。その後、配信によって映画本編がブームとなったことで、同曲のSpotifyやTikTok人気も爆発的に増加していった。公式YouTubeチャンネルのミュージックビデオは、リリースから1ヶ月経たないうちに1億再生数を突破している。
楽曲に込められた革新性
「We Don’t Talk About Bruno」は、ディズニー初の大規模なバイラルヒットソングなのだ。それだけで新しいと言えるが、やはり、革新性は楽曲そのものにある。映画音楽を担当したのは、人気ミュージカル舞台『ハミルトン』や映画『モアナと伝説の海』で知られるリン=マニュエル・ミランダ。プエルトリコ系の彼にとって、ラテン系家族を描くディズニーミュージカル『ミラベルと魔法だらけの家』は待望の作品だったという。
なかでも「秘密のブルーノ」は、ミランダ肝いりの「これまでのディズニー映画には無かった」楽曲だ。ネガティブな家族関係をリズミカルに歌う内容からして独特だろう。また、振りつけではサルサやルンバが参照されているが、ボストン大学のマイケル・ビレンバム・キンテーロ教授いわく、そのサウンドにもキューバの伝統音楽の影響があるという。ラテンアメリカ音楽とブロードウェイ式ミュージカルをポップに合体させたミランダは、以下のように解説している。
「すべてのヴァースと音節で、異なるキャラクターが紹介されていきます。みんな同じ音楽に乗ってるんですが、乗り方が完全に違うんです。同じコード進行を歌っているのに、それぞれ異なるリズム、拍子で歌っている」
本曲は「頭から離れない歌」としてバイラルしていったが、それも、独特で踊りやすいラテンポップサウンドとバラバラなアンサンブル歌唱というユニークな組み合わせによって生じた魅力だろう。
「新時代のディズニー」を象徴
「We Don’t Talk About Bruno」が革新的ディズニーソングと評された一方、ディズニーの歴史を継承する『ミラベルと魔法だらけの家』の音楽も好評を博している。たとえば、オープニング「The Family Madrigal(ふしぎなマドリガル家)」は『美女と野獣』の「Belle(朝の風景)」と同じ、アップテンポになっていく構成のキャラクター紹介ソングだ。また、アンサンブル「All of You(奇跡はここに)」におけるブルーノのパートでは『アナと雪の女王』の「Let It Go」のイントロとリリックが引用されている。
バイラルヒットを遂げた「We Don’t Talk About Bruno」と『ミラベルと魔法だらけの家』は、ラテンポップ・ミュージカルとして「新時代のディズニー」を象徴する作品となった。その成功要因は、結局のところ、作品のクオリティが高く、人々が語りたくなる魅力も持ち合わせていたことが大きいだろう。共同監督を務めたバイロン・ハワードいわく、映画の続編やスピンオフ制作の可能性もあるようだ。
ちなみに、同作を成功に導いたリン=マニュエル・ミランダがミュージカルに魅入られたきっかけは、巨匠アラン・メンケンが音楽を共同制作した黄金期ディズニー映画『リトル・マーメイド』だという。なんと、現在、彼は、そのメンケンとともに実写版『リトル・マーメイド』の音楽を制作中とのこと。革新を重ねながら普遍的でマジカルな音楽を贈りだすディズニー映画から、まだまだ目が離せなそうだ。
Written by 辰巳JUNK
映画『ミラベルと魔法だらけの家』オリジナル・サウンドトラック
2021年11月19日配信
国内盤CD:12月17日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music
映画『ミラベルと魔法だらけの家』オリジナル・サウンドトラック海外版
2021年11月19日配信
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music
「We Don’t Talk About Bruno(秘密のブルーノ)」の各国のバージョンを収録したプレイリスト
https://umj.lnk.to/Encanto_WDTAB
【映画情報】
映画『ミラベルと魔法だらけの家』
2021年11月26日(金)日本劇場公開
ディズニープラスにて見放題独占配信中
日本公式HP
監督:バイロン・ハワード(『塔の上のラプンツェル』『ズートピア』)、ジャレド・ブッシュ(『ズートピア』)
音楽:リン=マニュエル・ミランダ(『モアナと伝説の海』)
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