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ザ・ラスト・ディナー・パーティー、ネットのバズよりも“実在”で道を切り開いてきた新人バンド

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The Last Dinner Party - Photo: Cal McIntyre

UKのライヴ・シーンから頭角を現したロンドン出身の注目の5人組バンド、ザ・ラスト・ディナー・パーティー(The Last Dinner Party)。2024年2月2日にデビュー・アルバム『Prelude To Ecstasy』の発売を発表した彼女たちについて、音楽ライター/ジャーナリストとして活躍されている粉川しのさんに寄稿いただきました。

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2023年も残すところあと少し。この時期になると年間ベスト・アルバムの話題に加え、来年ブレイクが期待される要注目のニューカマーの話題が一気に増えてくる。年末年始にかけて「BBC Sound Of」や「Vevo DSCVR」といった恒例の新人リストも次々に更新されていくことになるが、そこで台風の目となること必至のニューカマーがザ・ラスト・ディナー・パーティー(以下TLDP)だ。なお、既に「VEVO DSCVR」には選出済で、素晴らしいセッションが公開されている。

The Last Dinner Party – Nothing Matters (Live) | DSCVR Artists To Watch 2024
The Last Dinner Party – My Lady of Mercy (Live) | DSCVR Artists To Watch 2024

TLDPはサウス・ロンドンを拠点に活動を続ける5人組フィメール・バンド。アビゲイル(Vo)、ジョージア(B)、リジ(G&Vo)は2020年に大学で出会い、後にエミリー(G)とオーロラ(Key)が加わって現在の編成となった彼女達は、2021年の終わり頃から本格的に活動を始めている。

つまりバンドの歴史は未だ2年程度ということになるが、地元ロンドンでのライブ・サーキットで頭角を表したTLDPは、2022年7月のザ・ローリング・ストーンズのハイドパーク公演に早くもオープニング・アクトとして抜擢されるなど、デビュー前から異例の注目を集めてきたバンドだ。

 

迷いがないからこそ炸裂するポップネス

最初のブレイクポイントは、今年4月にリリースされたデビュー・シングル「Nothing Matters」だった。同曲の時点でTLDPは早耳のインディー・リスナーの間で早くも話題沸騰となり、「2023年の最もエキサイティングなバンド」(Rolling Stone UK)、「ハイプを信じろ」(NME)etc.、メディアも一気にヒートアップ。

かく言う筆者も、この「Nothing Matters」で彼女たちに一目惚れしてしまったくちだ。ポップ・ソングなのだから「一聴惚れ」と言うべきなのかもしれないが、TLDPの場合は曲に加えて彼女たちのビジュアル、パフォーマンス、MV、その背景にあるコンセプトや美学まで含めてのインパクトがあり、やはり「一目惚れ」と呼ぶのが相応しいファースト・コンタクトだったのだ。

アビゲイル曰く「倒錯的な感覚を持つラブソング」である「Nothing Matters」は、まさに倒錯的なまでに入り組んだアート・ロックだ。グラム、ゴス、ポスト・パンク、バロックetc.がひしめき合う濃密なサウンドはどこかアブノーマルな秘め事を連想させるが、一転してコーラスはアメリカーナの風が吹き抜ける開放感で、ギター・ソロもとことんドラマティック。

アビゲイルがケイト・ブッシュやスージー・スーの流れを汲むエキセントリックかつカリスマティックな存在なのは瞬時に理解できるだろうし、同曲と彼女たちのパフォーマンスの根底には、もちろんデヴィッド・ボウイも息づいている。そして何より「Nothing Matters」を特別にしているのは、入り組んだアート・ロックの迷宮を駆け抜ける彼女たちの迷いのなさであり、迷いがないからこそ炸裂するポップネスだ。

TLDPが明確なコンセプトを持って倒錯的な世界を演出しようとしていることは、「Nothing Matters」のMVでも明らかだった。彼女たちは同MVのヒントとしてジェーン・オースティンの小説『高慢と偏見』や、ソフィア・コッポラの『ヴァージン・スーサイズ』、デヴィッド・リンチの『マルホランド・ドライブ』といった映画を挙げており、退廃とピュアネスがないまぜになったショート・フィルムとしての完成度に驚かされる仕上がりだ。

The Last Dinner Party – Nothing Matters

 

佇まいと楽曲との相乗効果

「Nothing Matters」は、Spotify UKのバイラル・チャートで2位まで上昇、「Apple Up Next」や「Spotify RADAR」といったプレイリストにも選ばれるなど、状況は一気に加速。この加速に拍車をかけたのがTLDPの5人の素晴らしくフォトジェニックな佇まいだったと言っていいだろう。

TLDPの音楽の重要なキーワードである「過剰さ」と「シアトリカル」は、彼女たちのビジュアルにおいても同様だ。フリルやリボンをあしらった定番のロリータやゴス系のファッションから、よりフェティッシュなボンテージ、80S風のキッチュなレオタード・スタイル、はたまたゴシック絵画から抜け出してきた聖女や、ロマン派の詩人が讃えるミューズを彷彿とさせるリーンなドレス、さらには宗教的なモチーフも巧みに取り入れるなど、ガーリーとパンクとアヴァンギャルドが入り混じった5人の佇まいは、楽曲との相乗効果で唯一無二の世界観を構築していく。

「ロック・バンドは音で勝負、ビジュアルに気を配ることは逆に格好悪い」という風潮が長らく支配的だったシーンも、それこそマネスキンのようなバンドの登場によって大きく変わりつつある。また、ファッションやインテリアの世界でも長年続いたミニマリズムは緩やかに収束へと向かい、マキシマリズムがトレンドとして語られ始めている2023年、TLDPの装飾過多なプレゼンテーションは期せずして時代性と合致したものでもある。

「私たちはグロテスクなものと、美しいものの間を行き来する感覚が好きで、それがこのバンドのある種の価値観でもある。ドレスアップして、派手で大袈裟であることに制限を感じないような場所、コミュニティを作りたい」とDORKのインタビューで語ったのはジョージアだが、実際、TLDPはバンドの重要なテーマとしてマキシマリズムを挙げている。

 

シングル毎で曲調を変える

もちろん、TLDPの魅力はビジュアルのみで語られるべきではない。例えばセカンド・シングル「Sinner」の一発撮りライブ・ビデオが証明したのは、彼女たちがライブ・サーキットでのし上がってきたのも納得の、圧倒的に筋肉質なそのパフォーマンスだった。

音源で聴くといかにもニューウェイヴ調のナンバーだが、ライブになると一転してハード・ロックのプリミティヴな快感にノックアウトされる。バンド内で最も小柄でガーリーな雰囲気のエミリーが、リード・ギターとしてそのハードネスを牽引しているアンバランスも最高だ。

The Last Dinner Party – Sinner (Live Performance)

TLDPはシングル毎に曲調をガラッと変えるということをしていて、サード・シングル「My Lady of Mercy」はここまでで最もダークでゴシックなナンバーに。中盤のシンフォニーにはインダストリアルの重厚感もあり、ずっとタッグを組んできたジェームズ・フォードの手腕が際立つサウンド・プロダクションだ。

「ジャンヌ・ダルクの絵を観てキスしたいと思う女の子」をモチーフにした歌詞も含めて、現時点でTLDPの最もエッジーな曲と言っていいだろう。

The Last Dinner Party – My Lady of Mercy

 

ネットのバズよりも「実在」によって道を切り開いてきたバンド

フローレンス・アンド・ザ・マシーンのサポートや、グラストンベリー、レディング・フェスへの初出演など、今年も精力的にライブをこなしてきたTLDPは、10月のワシントンを皮切りに初のUSツアーを敢行、しかも全公演ソールドアウト!の快挙を達成。

Spotifyに音源が2曲しか公開されていないにもかかわらず、アメリカのオーディエンスが敏感に反応したのには驚いたが、この反応こそがTLDPのユニークなブレイク構造の証だ。ストリーミングとSNSを介さずしてブレイクも何もありえない現在にあって、言うなればTLDPはネット上のバズよりも「実在」によって道を切り開いてきた極めてレアなバンドであるからだ。

もちろんTLDPはSpotifyやYouTubeの再生回数、インスタグラムやTwitterのフォロワー数eyc.で、デビュー・アルバム前の新人バンドとして十分に好成績を収めている。しかし、無名のアーティストでもたまたまバズればストリーミングで数千万、数億と聴かれ、そしてあっという間に忘れ去られていくという現行のサイクルは、彼女たちが重きを置くものではない。地道にライブを重ね、数十人、数百人と徐々にファンベースを築き上げていったことこそが、TLDPの強みであり、ポスト・コロナでヴァーチャルからリアルへの回帰が起き、Z世代が体験重視に傾きつつあるのも追い風となった。

「TikTokの時代には、曲がバイラルしない限り、ファンベースを作ることはできないと思われていた。でも私たちは、それってもっと自然なものだと感じていたんだよね。小さなギグから大規模なショーに出演するになるまでの間に、私たちにはずっとブレイクするポイントがあったから」とアビゲイルもビルボードのインタビューで語っていたが、彼女たちのブレイクはライブを、実在を土台とするからこそ揺るぎないのだと言える。

曲は知っているけれどアーティストについてはそこまで興味がない、という感覚をTikTokが象徴するアテンション・エコノミーは作り上げてきた。それと対照的に、曲、パフォーマンス、ビジュアルの全てを用いて強烈なイメージを発信してきをTLDPは、まず何よりもアーティスト自身の熱心なシンパを獲得していったわけで、言わばカルトなコミュニティがカルトなまま大きくなってきたのが、TLDPの「ブレイク」と呼ばれる状態だ。

TLDPはバンドとファンのコミュニティの形成にも意識的で、例えば直近のUKツアーでは会場毎に異なるドレスコード(「グリム童話」「ギリシャ神話の女神」「花言葉」など、どれもユニーク!)を設けることで、メンバーとファンが一夜の物語、世界観を共有する仕掛けになっている。「このバンドを始めた最大の理由は、自分たちが15歳、16歳の頃に見たかったものを実現すること」と語る彼女たちのライブの最前列では、常に自分らしく目一杯着飾った女の子達がひしめき合っている。その状況はイギリスもアメリカも同様だ。

待望のデビュー・アルバム、『Prelude to Ecstasy』は2024年2月4日にリリース決定、最新シングル「On Your Side」はアウトロのシンセ・ドローンも含めて、アルバムに向けてのイントロに感じるバラードだった。TLDPが、いよいよその全貌を明らかにする瞬間が近づいている。

The Last Dinner Party – On Your Side

Written By 粉川しの



ザ・ラスト・ディナー・パーティー『Prelude To Ecstasy
2024年2月2日発売
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music



 

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