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ロビー・ウィリアムスとはどんなアーティスト? 英国での爆発的人気、そしてテイク・ザット時代
英米では2024年12月末に一部劇場で限定公開された後に拡大公開され、日本でも3月28日に劇場公開が決定している映画『BETTER MAN/ベター・マン』。
2017年の長編映画監督デビュー作品『グレイテスト・ショーマン』が世界中で大ヒットを記録したマイケル・グレイシー監督による長編第2作となるこの作品は、英国随一のポップ・スターであるロビー・ウィリアムスをCGを使って“サル”として描き、そのビジュアルで観客に衝撃を与えながらも、ミュージカル映画としても評価され、映画批評サイトのRotten Tomatesにて批評家からのレビューが90%、観客のレビューが95%という高い数値をたたき出している(2025年1月9日現在)。
では、この映画で描かれたロビー・ウィリアムスとは、どういったアーティストなのか? 彼をデビューの頃から追い続けている音楽ライターの新谷 洋子さんに連載として解説いただきます。その第1回は、彼の輝かしい記録、そしてテイク・ザットからソロになる頃の変遷を振り返ってもらいました。
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英国音楽界のトップアーティスト
どこで暮らしていようと、あらゆる国やジャンルの音楽に容易にアクセスできる今日この頃は、トレンドの均一化が進み、もはやこういうケースは無くなりつつあるのかもしれない。だがかつての英国には、情報が不足しているゆえに、或いは彼ら・彼女たちの音楽性や美意識、ボキャブラリーやレファレンスが極めてブリティッシュであるがゆえに、地元ではスーパースターであるにも関わらずアメリカでは理解されず、ほぼ無名だというアーティストが少なからずいた。
古くはザ・キンクスやT・レックスもそうだったし、マニック・ストリート・プリ―チャーズやスウェードといったロックバンド然り、ガールズ・アラウドのようなポップ・グループ然り、例を探し始めると枚挙にいとまがない。
そしてほかでもなく、過去30年間にわたって波瀾のキャリアを歩みながら英国音楽界のトップに君臨し続けている、ロビー・ウィリアムズもそんなアーティストのひとりだ。自分自身と闘い、音楽業界と闘い、マスコミと闘い、転んでは起き上がって、無尽蔵の音楽的才能とショウマンシップとウィットを駆使したポップソングを次々に綴り、ヒットにし、ステージで歌って、世間を騒がせてきた彼。その姿を長年見守ってきた、一定の世代以上の英国国民にとってはある意味で、どうしようもなく手がかかるものの愛さずにいられない、息子のような存在だと言えるのかもしれない。
あのビートルズに迫る輝かしき記録
ではいったい、故郷でのロビーはどれくらいビッグなのか? まずは幾つか、彼が打ち立ててきた数字上の記録を挙げてみよう。1996年にソロ・デビューを果たしてからというもの、全英シングル・チャートでのトップ10ヒットの数は計31を数え、ナンバーワンが7曲、ナンバーツーは6曲。
他方、英国内でリリースしたベスト盤を含む15枚のアルバムのうち、同アルバム・チャートで1位を逃した作品は現時点で1枚だけで(2009年発表の8作目『Reality Killed The Video Star』)、2022年発表の最新作『XXV』(オーケストラを従えてレコーディングした代表曲から成るセルフ・カヴァー・アルバム)まで実に14枚がナンバーワンを獲得。これはソロ・アーティストとしては英国史上最多で、グループを合わせても、ザ・ビートルズの15枚という最多記録を抜くのは今や時間の問題だ。
またアルバムのトータル・セールスは国内だけで2,000万枚以上(英国人のソロ・アーティストによる国内セールスとしては史上最多)、世界合計では約7,500万枚以上に上り、ブリットアワードの受賞回数(13回)も、コンサートの動員数(2003年に英国のネブワースで3日間にわたって開催したコンサートで計375,000人を動員)も最多記録を保持し、2006年には1日に売ったチケット枚数において最多記録を更新してギネス記録に認定されるなど(『Close Encounters Tour』のチケットを24時間に160万枚売った)、まさに「ぶっちぎり」としか表現しようがない輝かしい軌跡を残している。
しかもこれらは全てソロ・アーティストとしての記録であり、テイク・ザット在籍時代をプラスすると、さらに数百万枚分のアルバム・セールスが加わり、ナンバーワン・アルバムは19枚(ソロとグループの合計ではポール・マッカートニーの記録23枚を追っている)、ナンバーワン・シングルは15曲、ブリット・アワードの獲得数は18回といった具合に、さらに数値が積み上がる。そう、ロビーのミュージシャンとしてのキャリアはまだ16歳の時、5人組のボーイズグループ、テイク・ザットの一員としてスタートしている。
テイク・ザット時代
マンチェスター近郊の町ストーク・オン・トレントで1974年に生まれた彼は、勉強は得意ではなかったものの子ども時代から演劇の舞台に立つなど、人前でパフォーマンスを披露することとサッカーをこよなく愛し、英国版ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロックを誕生させようと目論む地元の音楽マネージャーが企画したオーディションに応募。あっさりと合格し、最年少メンバーとしてグループに参加すると、1991年にシングル「Do What U Like」でデビューするに至った。そしてクラブや学校を周って地道にパフォーマンスを見せて回る下積みを経て、翌1992年秋、「A Million Love Songs」のゴールド・セールス(40万枚)達成を機に大ブレイクを果たすのである。
そんなテイク・ザットの曲は当初、ソングライティングもほぼ一手に手掛けるゲイリー・バーロウが主に歌っていたが、歌唱力ではロビーも負けてはいなかった。母や父が好きだったフランク・シナトラやディーン・マーティン、サラ・ヴォーン、ナット・キング・コールといった古典的シンガーたち(のちに2枚のスウィング・アルバムを制作してこうしたアーティストにオマージュを捧げている)の歌に幼い頃から親しんで歌唱力を磨いてきた彼は、ダンスの実力も備え、メンバー随一の長身。
持ち前のスター性でゲイリーに次ぐメイン・シンガーの座を勝ち取り、名曲「Everything Changes」を筆頭に「I Found Heaven」「Could It Be Magic」といったシングル曲でリード・ヴォーカルを担当。いたずら好きな弟分的なキャラも相俟ってファンの人気投票ではグループ内2位の人気を誇り(1位はキャリアを通じてマーク・オーウェンだった)、英国人アーティストとしてはザ・ビートルズ以来というテイク・ザットの社会現象級の成功に、大きく貢献することになる。
例えば、1993年から1995年の3年間に発表した9つのシングル曲のうち7曲が全英ナンバーワンに輝いたという事実も、彼らの爆発的人気を物語っていると言えよう(ちなみにテイク・ザットの人気はヨーロッパ全域やオセアニアや日本まで波及するものの、やはりアメリカではほぼ無名のままに終わっている)。
しかし若いロビーにとって、破格の成功とそれに伴う過密なスケジュールはだんだん重荷となり、同時に、グループの音楽的方向付けを独占していたゲイリーへの反感を募らせていく。そして、プレッシャーから逃れるためにアルコールやドラッグに依存し、羽目を外すようになった彼は、1995年6月のグラストンベリー・フェスティバルでオアシスの面々とつるんでいる写真が出回ったことで「健全なアイドルのイメージを壊している」と最後通牒を突き付けられ、翌月テイク・ザットを脱退。ファンに衝撃を与えたことは言うまでもなく、結局4人で活動を続けようとしたグループ自体も、約半年後に解散してしまう。
“今年最大の負け犬”となったソロデビュー
ならばロビーはグループ脱退と同時にソロ活動に移行し、スーパースターになったのかと言えば、話はそうシンプルではなかった。契約上、テイク・ザットが存続している間はソロ・デビューすることが叶わず、ほかにも契約不履行で訴訟を起こされるなどし、全てに決着を付けてようやくソロ名義の初のシングルを送り出したのが、1996年7月のこと。あのジョージ・マイケルの「Freedom」をカヴァーして、まずは自由の身になったことを祝ったのである。
彼の「Freedom」は全英チャートで最高2位を記録。まずはオリジナルを越えるヒット(ジョージのヴァージョンの英国での最高位は28位に留まっている)で再スタートを切ったロビーだが、この間依存症のほうはさらに悪化し、テイク・ザット解散を引き起こした“裏切者”としても相変わらず風当たりが強かった。
当時大きな影響力を誇った音楽雑誌『SMASH HITS』が毎年末に発表していた名物的な読者投票の結果を振り返ってみると、1995年に彼は“Sad Loser of 1995 / 今年最大の哀れな負け犬”に選ばれ、1996年には“Loser of 1996 / 今年最大の負け犬”と“Worst Male Singer / 今年最悪の男性シンガー” の不名誉な二冠を達成。早くも壁に直面していたわけだ。
それが2年後の1998年になると、いきなり“Best Male Solo / 今年最高の男性シンガー”に選出され、流れが一変する。ここにきてロビーの人生を変えるひとつの出会いがあり、彼のキャリアを軌道に乗せるひとつの名曲が生まれるのである。(次回の連載へ続く)
Written By 新谷 洋子
映画情報
映画『BETTER MAN/ベター・マン』
2025年3月28日(金)日本全国ロードショー
<監督> マイケル・グレイシー(『グレイテスト・ショーマン』)
<出演>ロビー・ウィリアムス
<原題>『BETTER MAN』
公式HP:https://betterman-movie.jp/
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