Join us

Columns

UKの新人4人組バンド、イングリッシュ・ティーチャーとは? シーンの現在の胎動を体現した新星

Published on

(c) Denmarc Creary

2024年に発売したデビューアルバム『This Could Be Texas』が英国で最も権威のある音楽賞のひとつマーキュリープライズを受賞し、UKアルバムチャートでもTOP10入りを果たすなど話題を呼んでいるUKリーズの4人組インディー・バンド、イングリッシュ・ティーチャー(English Teacher)。

2025年1月20日に東京・渋谷のWWW Xで一夜限りの初来日公演が決まっている彼らの魅力について、音楽ジャーナリストの粉川しのさんに寄稿いただきました。

<関連記事>
サーシャ・アレックス・スローン、初来日公演レポート
d4vdとは:フォートナイトから生まれ、スマホで作り上げた“孤独”なサウンドの魅力


 

最旬の才能

毎年1月、2月は来日公演の多い時期で、2025年もベテランから若手まで次々に公演が予定されている。そんな中でも特に注目してほしいのが、期待のUKニューカマー、イングリッシュ・ティーチャーの初来日公演だ。

昨年4月にリリースされたデビューアルバム『This Could Be Texas』は、インディー・ギター・バンドのデビュー・アルバムとしては異例の高頻度で本国各メディアの年間ベスト・アルバム・リストにエントリーし、商業的にも全英トップ10入りを記録するなど、イングリッシュ・ティーチャーは活況が続くUKロックシーンの現在の胎動を、最もヴィヴィッドに体現した新星だと言っていい。

ちなみにイングリッシュ・ティーチャーはBBCの恒例の新人リスト「Sound of 2025」にもノミネートされているが、彼らは『This Could Be Texas』でUKの権威ある音楽賞であるマーキュリープライズを既に受賞済みで、同じくノミニーのチャペル・ローンと合わせて「いくらなんでも遅すぎる」「2年前にノミネートされていないとおかしい」と話題に。いずれにしても、彼らを取り巻くバズがこの2025年も継続することは間違いない。今まさにライブを観ておくべき最旬の才能なのだ。

English Teacher – The World’s Biggest Paving Slab

 

ポスト・パンクの枠を広げた時代性の申し子

イングリッシュ・ティーチャーは2020年、ファンキーなアフロがトレードマークのリリー・フォンテーン(Vo)を中心に英リーズで結成された4ピース・バンド。2022年のデビューEP『Polyawkward』は日本でも早耳のインディーリスナーの間で話題になったが、「サウス・ロンドンへのリーズからの回答」と紹介されるなど、当時の彼らはポスト・パンクのイメージが強かった。確かに『Polyawkward』は反復するギターや不協和音の多様、ポエトリー・リーディング調の歌唱など、ポスト・パンク的要素に溢れたEPで、ソーリーやドライ・クリーニングとしばしば比較されていたのを記憶している。

しかし、イングリッシュ・ティーチャーにとってポスト・パンクは限定的な要素にすぎなかったことが、『This Could Be Texas』を聴くと理解できるはず。ここには目まぐるしい転調と変拍子を生かしたプログレ風、クラウト・ロック風のナンバーもあれば、思いっきりローキーなフォークトロニカもあり、チェンバーポップや、洗練されたピアノ・チューンもある。

「The World’s Biggest Paving Slab」はウェット・レッグを彷彿させるインディー・バンガー。また、「You Blister My Paint」のような曲を聴くと、新世代のインディー・アクトが高頻度でレディオヘッドの『In Rainbows』をプリセットしている現象を再確認させられるし、淡いディレイのエフェクトには、彼らがかつてドリームポップ・バンドをやっていた歴史が反映されている。

サウス・ロンドンのバンド達が主導したポスト・パンクのブームは収束に向い、現行のUKインディ・シーンはポスト・パンクのミニマルな骨格に肉付けしていくフェーズに入ったと言える。自分たちの音楽について「シンプルに“インディー”っていうのが一番しっくりくる」とリリーが言うように、上記のジャンルとそれ以上のものを鳴らしながらも、どの類型にも囚われることはないインディー・ロックをやっているイングリッシュ・ティーチャーはまさにそうした時代性の申し子であり、アルバムのハイライトである「Nearly Daffodils」は、その結晶のようなナンバーだ。

English Teacher – "Nearly Daffodils" (Live at WFUV)

ビリー・アイリッシュの「Birds Of A Feather」を愛情たっぷりにカバーして最高の仕上がりになるあたりにも、彼らが象徴するUKインディー・ロックの今が、いかに柔軟で自由を謳歌しているのかが伺えるはず。

English Teacher – BIRDS OF A FEATHER (Live from BBC Maida Vale)

 

評価が高い歌詞とライブの実力面

作家やジャーナリズムを目指した時期もあるというリリーの書く歌詞も、リリシズムと社会風刺の両面において高く評価されている。個人的に一番好きなのは「R&B」だ。アルバムで最もパンキッシュなサウンドに乗せ、「君のためにR&Bを書いてきたけどもう書けない、自分ために書くべきだから」と歌うこの曲は、人種的な認知バイアスから周囲に「R&Bやってるんでしょ?」と決めつけられてきたリリーの痛烈な反撃の一打だ。

English Teacher – R&B

「UKバンド=ライブが下手」という根強いステレオタイプも過去数年で払拭され、バンド・シーンが活況だからこそライブが上手くないと勝ち残れない、というシビアな競争が繰り広げられている中でも、イングリッシュ・ティーチャーはライブの実力面でUKの若手きっての評判を得ているバンドだ。ご覧いただければ分かる通り、テクニカルなバンドでありながらテクニック一辺倒で押し切らないヌケの良さがたまらない。

1月20日、WWW XでぜひUKインディー・ロックの最前線を体感してほしい。

English Teacher – The World’s Biggest Paving Slab (Later… with Jools Holland)

Written By 粉川しの


イングリッシュ・ティーチャー『This Could Be Texas』
2024年4月12日発売
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



 

Share this story
Share
日本版uDiscoverSNSをフォローして最新情報をGET!!

uDiscover store

Click to comment

Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Don't Miss