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ダーモット・ケネディとは:ワイスピ最新作でも話題、初来日も控えるアイルランドのスーパースター
2023年5月19日に日本を含めた全世界の劇場で公開されたシリーズ最新作『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』。
このサウンドトラックのリードシングルである「Won’t Back Down」にヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲイン、ベイリー・ジマーマンとともに参加、今年のフジロックフェスティバルにて初の来日公演が決定、そして今まで発売したアルバム2作は全英チャート1位を獲得しているのが、現在31歳のシンガー・ソングライター、ダーモット・ケネディ(Dermot Kennedy)だ。
そんな今話題が目白押しのダーモット・ケネディについて、音楽ライターの新谷洋子さんに解説いただきました。
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『ワイルド・スピード』最新作のシングルに参加
日本でも根強い人気を誇る映画『ワイルド・スピード』シリーズと言えばご存知の通り、ヒップホップを中心にその時々の音楽界のスーパースターや注目のニューカマーをずらりと揃えたサウンドトラックも、毎回大きな話題を集めてきた。
先頃公開された第10弾にして最新作にあたる『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』も例外ではなく、YGからJ・バルヴィン、スクリレックス、BTSのJIMINなどなど豪華極まりないメンツを揃えている。そんな中で、恐らくアイルランド人として初めて本シリーズに歌声を提供しているのがダーモット・ケネディ。
エンドロールで流れる「Won’t Back Down」で、ラッパーのヤング・ボーイ・ネヴァー・ブローグ・アゲイン及びカントリー・シンガーのベイリー・ジマーマン、ふたりの新進アメリカ人アーティストとの共演を果たし、ヒップホップとの親和性が高い新解釈のフォークという自身の音楽的アイデンティティをしっかりと曲に刻んでいる。
じゃあ彼は「スーパースター」と「注目のニューカマー」のどちらなのかと問われれば、現時点ではすでに、前者に近い立ち位置にいると見て差し支えないだろう。何しろ、2019年発表のデビュー作『Without Fear』は21世紀にアイルランドで最も売れたアルバムと認定され、現在進行中のキャリア最大規模の全米ツアーの日程にはニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデン公演も含まれ、すでにグローバルな規模の熱狂的サポートを獲得ずみ。7月のフジロックフェスティバル出演で遅ればせながら、日本での知名度もいよいよ高まるのではないかと期待される。
ダブリンの街角から音楽界の頂点へ
とはいえ、まだまだ本邦では基礎的なところから紹介する必要があるのだろう。1991年12月生まれだから現在31歳、故郷はダブリン郊外のラスクールという小さな町だ。サッカーと音楽を愛し、10歳の時にギターを弾き始めて、14歳で曲作りをスタート。
そして、ダブリンでのバスキング(*路上パフォーマンスでお金を稼ぐこと)を出発点にアイルランドを代表するアーティストのひとりになった元ザ・フレイムズのシンガー・ソングライター、グレン・ハンサードにインスパイアされて、自らもストリートへ。
アイルランドの首都のあちこちで歌う無数のミュージシャン志望の若者たちに加わって経験を積み、大学に進んでクラシック音楽を学ぶのだが、結局3年目で中退。引き続きソロで、或いは様々なバンドに加わってコツコツと活動を続け、そのうちに口コミで注目を集めたダーモットは、あのサイモン・コーウェルに『ブリテンズ・ゴット・タレント』(サイモンが企画し審査員を務めるオーディション番組)への出演を乞われたこともあったという。しかし違和感を覚えて誘いを断り、なおも地道に曲を綴り、歌い続けてファンを増やし、最終的には大手レーベルのアイランド・レコーズと契約。2017年にEP『Doves & Ravens』で正式にデビューするに至った。
それからの彼は、2枚のアルバム――2019年の『Without Fear』と2022年の『Sonder』――をアイルランドとお隣英国のチャートのナンバーワンに送り込む。殊に世界で170万枚を売り上げた『Without Fear』は、地元ではトータルで29週間ナンバーワンの座に留まり、全英チャートでもアイルランド人アーティストのデビュー作としては19年ぶりに1位を獲得したことから大きな話題を呼んで(19年前に1位に輝いたのは元ボーイゾーンのローナン・キーティングのソロ・デビュー作『Ronan』だった)、ブリット・アワードのインターナショナル部門の最優秀男性アーティストにノミネート。オーディション番組もSNSも介さない、最近では極めて稀な、古典的ルートで成功を掴んだ。
それを可能にした最大の理由はやはり、ダーモットの情熱や真摯さを伝え、微妙なざらつきが聴き手の耳に心地よく引っかかる、その深い声の響きにあるのだろう。今では夜な夜な数千、数万のファンの歓声を浴びながらバンドを従えてステージに立っているが、ツアー先でも公演の合間に時間を見つけては、ギターを片手に独りで街に出て弾き語りを披露しているといい、ルーツは忘れていない。
祖国の豊かな音楽的レガシーを受け継ぐ
また、ストリートと並んで彼のルーツとして重要な位置を占めているのが、祖国のアイルランド。アルバムでは子どもの頃から親しんできたヒップホップの影響を色濃く映したプロダクションを取り入れているのだが、ダーモットの歌は、アイルランド人のミュージシャンたちに代々受け継がれてきたソウルフルでポエティックなスピリットに貫かれ、米『Billboard』誌との2020年のインタヴューでは、次のように語っていたものだ。
「僕は(シン・リジィの)フィル・ライノット、シネイド・オコナー、ホージア、ヴァン・モリソンといった人たちの後を継ぐアイルランド出身のアーティスト、アイルランド出身のシンガー・ソングライターであることに、大きな誇りを抱いています。そしてアイルランド人であるからこそ、地に足をつけていられるんだと思うんです。アイルランドの人々と接していると、大きなエゴや利己主義が入り込む余地はありませんからね」
実際彼は、前述したグレンやダミアン・ライスといった地元のアーティストを敬愛しており(歌い方からもストーリーテリングのスタイルからもグレンの影響は如実に聴き取れる)、人生で初めて観たライヴは、大ファンである姉に連れられて行ったウェストライフ(かつてはアイドル人気を誇ったアイルランドきってのヴォーカル・グループ)だという微笑ましいエピソードもある。
現在の快進撃にしても、今思うとホージアの「Take Me To Church」の大ヒットが火を点けた、新世代のアイルランド人ミュージシャンたちの台頭の延長線上にあると解釈するのが、あながち外れてはいないんじゃないだろうか?
「Take Me To Church」が世界を席巻したのは2014年だったが、その後フォンテインズD.C.やインヘイラー、ザ・マーダー・キャピタルといったバンド、フォー・ゾーズ・アイ・ラブことデヴィッド・バルフィ、或いはレジー・スノウのようなMCが現れて賞賛を浴び、次々にブレイクして、アイルランド=U2という一昔前のイメージを刷新(U2の面々もダーモットのファンで、2021年にフルライヴ映像を48時間限定で配信した『U2: The Virtual Road』の前座に指名した)。
そんな中でも近年最大の成功を収めたのがダーモットであり、まさにその勢いが加速していた2019年夏に国内最大規模のフェスティバル=エレクトリック・ピクニックに出演した際には、自ら詩人でもあるヒギンズ大統領が特別に録音した、アイルランド人にとってのクリエイティヴィティの重要性をテーマにしたスピーチが、彼のセットのイントロダクションとして提供されるという出来事もあった。
ちなみにグレンとは長年交流を続けているが、ふたりが出会ったきっかけは、グレンが国内のトップ・アーティストたちに呼び掛けて、ダブリンの目抜き通りグラフトン・ストリートで毎年クリスマス・イヴに行なっている、チャリティ・バスキング・イベント。当時無名のバスカーだったダーモットは無理やり押しかけて歌わせてもらい、グレンに気に入られたのだとか。それから約10年を経た昨年のクリスマス・イヴには、今度はまさに国内のトップ・アーティストのひとりとしてグレンと並んで歌う彼の姿があった。
ダーモットの魅力を知るために聴くべき3曲
最後に、こうして順風満帆に歩を進めている彼が今までに送り出した数々の曲から、フジロックフェスティバルまでに覚えておきたい代表曲を幾つか選んでみよう。
まずは、ダーモットの運命を変えた曲だと言って過言ではない「An Evening I Will Not Forget」。『Without Fear』のオープニングを飾っているのも、それが理由なのかもしれない。元を正せばピアノの伴奏だけのヴァージョンで2014年にリリースされたこのバラードは、試練に直面している友人に励ましの言葉をかけながら、ふたりで過ごした若い頃の思い出を振り返っているように聞こえる美しくも悲しい1曲。たまたまSpotifyのプレイリスト『Discover Weekly』にセレクトされ、飛躍的にストリーミング回数がアップしたというが、一聴すれば納得がいく。
また、現時点で最大のヒット・シングルのひとつで同じく『Without Fear』に収録されている「Outnumbered」(アイルランド・チャート最高2位、全英チャート同5位)も、“outnumbered / 圧倒されて無力感を感じている”な人を優しく見守るという、「An Evening I Will Not Forget」に近い設定の曲。ライヴでの盛り上がりが想像できるサビはキャッチー極まりないが、たくさんの言葉を詰め込んだヴァースではラップに近い唱法を取り入れており、彼のヒップホップへの愛情を如実に物語ってもいる。
そして『Sonder』からは、アイルランドの主要音楽賞チョイス・ミュージック・プライズで2021年のアイリッシュ・ソング・オブ・ジ・イヤーに選出された「Better Days」(アイルランド・チャート最高4位、全英チャート同18位)をピックアップしたい。
オリヴィア・ロドリゴとのコラボでお馴染みのダン・ニグロがプロデュースしたこの曲は、パンデミックによるロックダウン中に綴られ、2021年夏にリリース。まだまだ色んな制限が残り、世界が不安に包まれていた時期に、“太陽が沈むまで僕らは花々が消えたことに気付かない”、或いは“雨は永遠に続くわけじゃない / そのうち光を浴びて踊れる日が訪れる”といった歌詞が、広く共感を呼んだものだ。
ほかにも、F・スコット・フィッツジェラルドの小説『夜はやさし』から題材をとったというラヴソング「Kiss Me」(アイルランド・チャート最高4位)や、逆に “「永遠」なんて存在しないと知っていたらよかった / でもかつて僕は確かに、誰かにとっての何かだった”と歌う切ない別れの曲「Something to Someone」(同2位)など、『Sonder』にはダーモットの歌心をポップなサウンド・プロダクションに落とし込んだ名曲を多数収録。
『Without Fear』の大ヒットを受けて、より多くの人と、より大きな空間で分かち合うに相応しい音楽を意識していたに違いないが、よく耳を済ませれば分かる。そこには常に、今も変わらずギター1本と声だけで成立するシンプルなフォークソングがある――と。
Written By 新谷洋子
ダーモット・ケネディ『Without Fear』
2019年10月4日発売
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music
『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト オリジナル・サウンドトラック』
Fast & Furious / Fast X Original Sound Track
2023年5月19日発売
日本版CD(ボートラ1曲追加)
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映画情報
『ワイルド・スピード/ファイアーブースト』
日本公開日:5月19日(金)※世界同時公開
映画公式サイト:https://wildspeed-official.jp/
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