Columns
『アナ雪2』メイン曲「Into the Unknown」にゲスト参加したオーロラ(AURORA)とは?
2019年11月22日に公開されるディズニー映画『アナと雪の女王2』。前作の劇中歌で大ヒットとなった「Let It Go」に続き、エルサ役のイディナ・メンゼルが歌う新作のメイン楽曲「Into the Unknown」に注目が集まっているが、この楽曲の正式名称は「Into the Unknown feat. AURORA」。この超大作映画のメイン楽曲にゲスト・シンガーとしてタイトルに登場するAURORA=オーロラについて、彼女の魅力を5つの要素に分けて音楽ライターの新谷洋子さんに解説頂きました。
<関連記事>
・映画『アナと雪の女王2』サントラ、通常版とデラックスの2形態で発売
・オーロラ(AURORA)全公演が即日ソールドアウトした来日公演初日レポート
キャリア初のアジア・ツアーの一環として、11月末に初来日を果たすオーロラことオーロラ・オクスネス。その名前、エンジェリックな容貌、ひんやりとした感触の歌声、そして幻想的なサウンド、全てが北の彼方を指し示しているかのようなこの23歳の女性は、ノルウェイのベルゲンを拠点にしながら、今や世界中から熱狂的なサポートを勝ち取っているシンガー・ソングライターだ。
すでにファースト『All My Demons Greeting Me As A Friend』(2016年)、セカンド・アルバムの前半と位置付ける8曲入りEP『Infections Of A Different Kind-Step1』(2018年)、正式なセカンド『A Different Kind Of Human-Step2』(2019年)と、3枚の作品を発表。東京での2公演はソールドアウトとあって日本でも着実に支持層を築いているようだが、ここにきてあのイディナ・メンゼルが歌う映画『アナと雪の女王2』の主題歌「Into the Unknown」にフィーチャーされることになり、一挙に知名度が上がることは必至。そんな彼女の魅力を、幾つかの切り口から探ってみた。
1. 曲にもヴィジュアルにも反映された自然への愛着
切実な逃避願望を映し出した2015年発表の曲「Runaway」は、『All My Demons Greeting Me As A Friend』のオープニング・トラックであり、世界合計で1億のストリーム回数を叩き出してオーロラの名前を世の中に広めた、最初のヒットソング。この曲で彼女は開口一番、“私は海に耳を傾けていた”と歌い、MVは雪が深い森を舞台に撮影されていた。実際オーロラがホームタウンと呼ぶベルゲン郊外のオスは、目の前に海が広がり、背後には山が迫るエリアで、実家は、一番近い店まで自転車で40分かかる人里離れた森の中にあるという。そんな環境で日々自然に親しんで育った彼女は、作品の中で頻繁に自然に言及。自分の動物的本能の目覚めを掘り下げる「I’m Running With The Wolves」や、自然と人間の魂との深い関係を指摘している「Winter Bird」が好例で、ヴィジュアルにも植物や動物や昆虫がしばしば登場する。しかも、『All My Demons Greeting Me As A Friend』のジャケットには蝶に姿を変えた彼女が写っていたり、“可愛い”と言うよりも少しドッキリさせるのがオーロラ流。ビョークに比較されることが多々ある彼女だけど、自然への愛情と畏敬の念は、間違いなくふたりの共通項だ。
2. ソングライティングもプロダクションもこなすマルチな音楽的才能
6歳の時にピアノを弾き始め、9歳で曲作りをスタートしたオーロラが、初めて自作の曲「Puppet」を発表したのは16歳の時だった。早速ノルウェイ国内で注目を集めて、間もなくレコード会社と契約を果たすのだが、例えばその「Puppet」は、孤独であるがゆえに男性を束縛する女性の物語で、2015年に発表した「Murder Song」は、死んでしまった女の子がナレーターという設定。外国語である英語を駆使し、旺盛な想像力や洞察力を覗かせる曲を早くから綴っていた彼女は、ソングライターとして途方もない才能を備え、敬愛するアーティストとしてボブ・ディランとレナード・コーエンを挙げていることにも納得がいく。
ほかにエンヤのファンを自認し、ノルウェイの伝統音楽にも影響を受けたといい、独特のメロディ展開やハーモニーの所以は、その辺りにありそうだ。『All My Demons Greeting Me As A Friend』ではそんな曲の数々を、トライバルなパーカッションやピアノでシンプルにアレンジ。フローレンス・アンド・ザ・マシーンにも通ずるアートポップを志向していた。それが『Infections Of A Different Kind-Step1』になるとよりアップビートでエレクトロニックなプロダクションを取り入れ、全編で自らプロダクションに関わった『A Different Kind Of Human-Step2』では透き通った美声を幾重にも重ねて、さらにドラマティックに作り込んだ曲を披露。EDM(「Animal」)もヒップホップ(「Apple Tree」)も独自のスタイルで消化しており、サウンドメイカーとしてのポテンシャルに今後ますます期待できそうだ。
3. “闘士”を名乗って積極的に発信するメッセージ
『All My Demons Greeting Me As A Friend』にはずばり、「Warrior」(=闘士)と題された曲がある。ファンと彼女の連帯を祝福するこのアンセムの中で自分を“愛の闘士”と呼び、暗い時代に屈することなく光に手を伸ばして闘おうと訴えるオーロラは、今の世界が抱える問題と向き合って、メッセージ性の強い歌詞をたくさん綴っている。これも、彼女が若い世代に熱狂的に支持される理由のひとつだろう。特に『Infections Of A Different Kind-Step1』以降そういう傾向は強まり、「Churchyard」では女性や子供を抑圧する権力者たちを批判。そして「Queendom」では自分が女王として君臨する、誰もが対等に扱われる理想的な国を思い描いていたオーロラ。後者については、曲のスピリットに則って3人の女性(フェイスレスのシスター・ブリス、シャウラ、B・トレイツ)にリミックスを依頼していた。その一方で『A Different Kind Of Human-Step2』になると、「Animal」では人間が抱える飽くなき欲望を、「The Seed」では環境破壊をテーマにピックアップ。ネイティヴ・アメリカンに伝わる言葉を引用したという「The Seed」のサビ(“最後の木が倒れた時、お金を食べることはできない”)を始め、人間の破壊的な面をえぐり出すような厳しい言葉が目立ち、彼女の信条の固さを物語っている。
4. ノルウェイのポップ新時代を代表
オーロラが活動拠点とするノルウェイ西岸の町ベルゲンと言えば、スカンジナビア全域を代表する一大音楽都市のひとつ(何を隠そう『アナと雪の女王』のインスピレーショ源のひとつでもある!)。古くは国民的作曲家グリーグの出身地で、かつ、学生数が非常に多いベルゲン大学の学生たちが、活気ある音楽シーンを育んできた歴史がある。日本でも00年代以降、キングス・オブ・コンビニエンスやロイクソップ、ソンドレ・ラルケといったベルゲン発の個性的なオルタナティヴ・アーティストが人気を集めてきたが、ここにきて新たに、世界的なポップの潮流にシンクロするミュージシャンたち――シグリッド、ボーイ・パブロ、カイゴ、アラン・ウォーカー等など――が続々登場して、海外でもブレイク。
オーロラは中でも、ファンタジー映画から抜け出てきたかのようなファッション・センス共々、00年代の世代のエクスペリメンタルな血を受け継ぐ、新しい時代のベルゲンの顔と位置付けるべきなのかもしれない。ちなみにコラボレーターも主に地元から選んでいる彼女、ノルウェイのグラミー賞に相当するスペルマン賞では2015年の新人賞に輝き、以後ノミネーションの常連と化している。
5. セレブリティたちからのラヴコール
デビュー以来すでにヨーロッパ各地はもちろん、中南米やオセアニアまで広くツアーを行なってきたオーロラには、世界中遍くファンがいるわけだが、音楽界の大物アーティストにも彼女に魅了された人は少なくない。中でも逸早くファンとして名乗り出たのは、ケイティ・ペリーだろうか。「Runaway」を絶賛し、ツイッターを通じてフォロワーたちに「17歳のこの天使をチェックして!」と呼び掛けて、「ようやく私のハートを揺らす新しい音楽が聴けたわ」とコメント。
トロイ・シヴァンも度々オーロラにエールを送っており、「今すぐにこれを見て欲しい。最高にハッピーにならずにいられないはずだから」と添えて映像を紹介。ショーン・メンデス然りで、「彼女は僕を別世界に連れて行ってくれる。圧倒されるよ」とほめちぎっていたものだ。
時の人ビリー・アイリッシュも例外ではない。アメリカの『Vanity Fair』誌とのインタヴューの中で、12歳だった時に見た「Runaway」のPVが「自分の何かを揺り動かした」と回想。音楽活動を始める起爆剤になったと語っている。また最近ではケミカル・ブラザーズがオーロラに惚れ込み、今年4月に登場した最新アルバム『No Geography』で3曲のゲスト・ヴォーカリスト兼共作者に彼女を起用したことが記憶に新しい。
Written By 新谷洋子
国内盤CD情報
『アナと雪の女王2 オリジナル・サウンドトラック』(1CD)
『アナと雪の女王2 オリジナル・サウンドトラック スーパー・デラックス版』(3CD)
2019年11月22日(金)発売
*デラックス版のみ11月27日発売
購入はこちらから
デジタル商品情報
『アナと雪の女王2(オリジナル・サウンドトラック/US版)』
『アナと雪の女王2(オリジナル・サウンドトラック/USデラックス版)』
配信中
『アナと雪の女王2 オリジナル・サウンドトラック』日本版
2019年11月22日(金)配信
楽曲視聴・CD・ストリーミングまとめはこちら
【英語版収録曲】
1. Evan Rachel Wood – All is Found
2. Kristen Bell, Idina Menzel, Josh Gad and Jonathan Groff – Some Things Never Change
3. Idina Menzel – Into the Unknown featuring AURORA
4. Josh Gad – When I Am Older
5. Jonathan Groff – Reindeer(s) are Better than People (Cont.)
6. Jonathan Groff – Lost in the Woods
7. Idina Menzel and Evan Rachel Wood – Show Yourself
8. Kristen Bell – The Next Right Thing
9. Panic! At The Disco – Into the Unknown (end credits)
10. Kacey Musgraves – All is Found (end credits)
11. Weezer – Lost in the Woods (end credits)
12. 吉田羊(イドゥナ王妃)/魔法の川の子守唄
13. 神田沙也加(アナ)、松たか子(エルサ)、武内駿輔(オラフ)、原慎一郎(クリストフ)/ずっとかわらないもの
14. 松たか子(エルサ)(Feat.オーロラ)/イントゥ・ジ・アンノウン~心のままに
15. 武内駿輔(オラフ)/おとなになったら
16. 原慎一郎(クリストフ)/トナカイのほうがずっといい~恋愛編~
17. 原慎一郎(クリストフ)/恋の迷い子
18. 松たか子(エルサ)、吉田羊(イドゥナ王妃)/みせて、あなたを
19. 神田沙也加(アナ)/わたしにできること
20. 中元みずき/イントゥ・ジ・アンノウン~心のままに(エンドソング)
*12~20曲:日本語版CD、日本版配信収録曲
【デラックス版収録内容】
DISC1:英語歌+日本語歌+エンドソング
DISC2:上記楽曲のカラオケ音源+本編未収録楽曲
DISC3:クリストフ・ベック作曲の劇中インストゥルメンタル
オーロラ『A Different Kind Of Human-Step2』
2019年6月7日発売
視聴・購入はこちら
- オーロラ アーティスト・ページ
- 映画『アナと雪の女王2』サントラ、通常版とデラックスの2形態で発売
- 『アナ雪2』、松たか子による「イントゥ・ジ・アンノウン~心のままに」配信開始
- ジョーカーはなぜシナトラを口ずさむのか?
- ディズニー映画『アラジン』のサントラが3形態で発売決定
- 『インクレディブル・ファミリー』監督が惚れ込んだジアッキーノの音楽
- 『ディセンダント』シリーズの音楽の魅力
- ミュージシャンの伝記映画ベスト30:音楽ファンを夢中にする映像体験
- ベスト・オブ・ディズニー・サウンドトラックTOP13