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注目新人アレクサンダー23を知る4つの事実:名前の由来、サッド・ポップやアルバム、ジョン・メイヤー
オリヴィア・ロドリゴのヒット曲「good 4 u」のプロデュースを手掛けてグラミー賞にノミネートされたシンガーソングライター、プロデューサーのアレクサンダー・グランツことアレクサンダー23(Alexander 23)。
デビュー・アルバム『Aftershock』を2022年7月15日にリリースし、8月には初のプロモーション来日を行う彼の魅力について音楽ライターの新谷洋子さんに解説いただきました。
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シングル・デビューから3年、先頃リリースしたファースト・アルバム『Aftershock』を携えて、プロモーション来日を果たしたアレクサンダー23。巷にはまだまだ彼の存在に気付いていない人も多いのだろうが、大物アーティストに注目され、世界的大ヒット作品に関わり、今の音楽界を象徴するひとつの大きな流れに共鳴するこのアメリカ人シンガー・ソングライター、ギタリスト、プロデューサーを、4つのキーワードを通じて読み解いてみたい。
1. 23
アレクサンダーについて語るには、まずは謎めいた名前の由来を説明しなければ。現在はロサンゼルスを拠点にしている彼が、シカゴ近郊の町ディアフィールドにてアレクサンダー・グランツとして生まれたのは、1995年のこと。誕生日はほかでもなく1月23日だ。でもステージ・ネームの由縁はそれだけでない。
シカゴといえばご存知、NBAのシカゴ・ブルズ。シカゴ・ブルズといえばマイケル・ジョーダン。自らもバスケット・ボールをプレイし、幼い頃からブルズとジョーダン選手の大ファンだったアレクサンダーには、ブルズ時代の彼の背番号である“23”という数字に、ひとかたならない思い入れがあるのだとか。
加えて、子供の頃からギターを弾き10代を通じてバンド活動に勤しんだ彼は、ペンシルバニア大学(アイビー・リーグの名門校!)に進んだもののミュージシャンを志して中退し、23歳の時に真剣に曲作りに取り組むようになった。よって、色んな意味で“23”を自身のラッキーナンバーと捉えていることから、デビューに際して“Alexander 23”と名乗ったというわけだ。
ギター以外にもドラムやチェロなど様々な楽器を弾きこなし、スタジオでのテクニカルな作業も愛するアレクサンダーは、当初はエンジニアやプロデューサーやソングライターとして他のアーティストをサポートして経験を積み、19年春にいよいよセルフ・プロデュースのファースト・シングル「Dirty AF1s」を発表。
以来じわじわとファンを増やし、ライヴの回数を重ね、翌年のシングル「IDK You Yet」(BTSのジョングクが先頃この曲に聴き入っている映像をSNS上で公開したことも話題に)がアメリカ国内でプラチナ・セールスを記録したことで、一躍知名度を上げることになる。
2. サッド・ポップ
その「IDK You Yet」の主人公は、大きな悩みを抱えてまだ出会ってもいない誰かに救いを求めていて、「Dirty AF1s」では、“汚れたAF1(ナイキのスニーカー)”を始め、別れたカノジョを思い起こさせるモノの数々を通じて失恋の痛みを描く。
そして、過去にリリースした2枚のEPはそれぞれ、『I’m Sorry I Love You(君を愛しちゃってごめん)』(2019年)と『Oh No, Not Again!(ああもう勘弁してくれよ)』(2021年)と、題されている。
こんな具合に、アレクサンダーが綴る曲はどれもとことん切なくて、自分のハートの中身を一切美化しないで、ありのままにさらけ出す。どんなに自分が無様に見えても、卑屈に見えても、全く気にせずに。実は、近年そういう志向のアーティストはどんどん増えていて、今やポップ・ミュージック界において、ひとつの“ムーヴメント”と呼んでも差し支えない規模のトレンドを形成している。
当初は女性アーティストが中心だったために“サッド・ガール・ポップ”と総称されていたが、現在はざっくりと“サッド・ポップ”と呼ばれることが多いこのトレンドの出発点については、いろんな説がある。例えば、10年前のラナ・デル・レイのデビューに始まったという指摘もあるのだが、ビリー・アイリッシュの登場をひとつのターニング・ポイントとする説が一般的だ。彼女がブレイクしてから、それまでの主流だった、EDMをベースにしたアッパーなサウンドに背を向けるようにして、ポップ・ミュージックの傾向は一気にダークになったのではないか、と。
そう、ここ数年間の楽観的ではいられない世界情勢を背景に、ダウンテンポでマイナー・コードな曲を好み、高揚感やハピネスよりも不安や絶望や悔悟といった気持ちにフォーカスし、ハートブレイクはもちろんのこと、メンタルヘルスについてもオープンに論じる内省的な若手シンガー・ソングライターが、次々にベッドルームから音楽を発信し始めた。
さらにそこにパンデミックが起きて、孤独感や不安に悩まされる若者が増えたことで、こうしたアーティストたち――グレイシー・エイブラムス、テイト・マクレー、mxmtoon(エムエックスエム・トゥーン)、コナン・グレイ、ディーン・ルイス、ジェレミー・ザッカーなどなど――とその作品が共感を呼び、2021年初めに、まさにサッドネスの爆発みたいなオリヴィア・ロドリゴの「driver’s license」の記録的ヒットにつながったともされている。
オリヴィアとは以前から友人関係にあったアレクサンダーは、彼女のデビュー・アルバム『SOUR』に参加し、「driver’s license」に続いて全米1位を獲得したシングル曲「good 4 you」を共同プロデュース。ほかにも、テイトやmxmtoonと共作し、ジェレミーとデュエット曲をリリースしたりと、サッド・ポップ界隈で広く活躍を見せている。
3. デビュー・アルバム『Aftreshock』
では、アレクサンダー自身のデビュー・アルバム『Aftershock』はどんな作品だったのか? 彼は共同プロデューサーに、オリヴィア・ロドリゴの『SOUR』やコナン・グレイのファースト『Kid Krow』を手掛けたダン・ニグロを起用し、ダンとふたりでほとんど全ての楽器をプレイ。バンド活動歴が長い人らしい、ギターが主役のオーガニックなポップ・ロックを鳴らしているが、内容のほうは紛れもないブレイクアップ・アルバム――つまり、失恋と、そこからの再起の過程を克明に記録したアルバムだ。
オリヴィアと一緒に綴った1曲目「Hate Me If It Helps(君が楽になれるなら僕を憎めばいい)」で、まさに破局直後の生々しい傷口を突きつけている彼は、以後曲ごとに、自分の気持ちを精査し、相手の心理にも思いを巡らせながら壊れたハートの欠片を張り合わせていく。
例えば「Crash」では、“君のことは恋しいけど、恋人同士に戻りたいとは思わない”と複雑な想いを吐露し、「Fall 2017 (What If?)」では“もう二度と同じくらい強烈な恋はできないのかもしれない”と不安を募らせ、「Magic Wand」では新しく出会った女性と別れたカノジョを比べている自分に恥じ入っている……といった具合に。
その合間には、かつてふたりで観ながら笑ったテレビのリアリティ番組だったり、カノジョが服用していた薬だったり、ディテールがたっぷりと織り込まれていて、どこまでもリアルな風景を描写するのがアレクサンダーのスタイルだ。そして相手を責め、自分を責め、涙が枯れるまで泣いて徐々に冷静さを取り戻し、ラストの「RIP You and Me(君と僕に安らかな眠りを)」でようやく、“愛さえあれば全てがうまくいくってわけじゃないんだ”とシンプルな真理を悟るのである。
4. ジョン・メイヤー
そんなアレクサンダーが『Aftershock』のリリースに向けて準備を進めていた頃、願ってもないオファーが舞い込んだ。あのジョン・メイヤーが、全米のアリーナ(収容人数は2万人程度の場所が多い)を周る約30公演のツアー“Sob Rock Tour”の前座に、彼を起用したいというのである。
過去にもオマー・アポロからアレック・ベンジャミンまで色んなアーティストのライヴの前座を務めているアレクサンダーだが、こんなに大規模なツアーに参加するのは初めて。しかも彼にとってジョンは、子供時代から作品を聴き込んでギターを練習し、曲作りのコツを探ったりしてきた、最愛の音楽的ヒーローのひとり。今回のツアーにしても、ファンとしてすでにチケットを購入済みだったそうだ。
そして2月にツアーが始まると、夜な夜なジョンのファンの前で自分の曲を歌い(弾いていたギターはPRSのジョン・メイヤー・シグネチャー・モデルだ)、そのあとは、ステージの袖からジョンのパフォーマンスを見守るという貴重な機会を得たアレクサンダーは、最終日のボストン公演ではジョンも交えて、ティアーズ・フォー・フィアーズの名曲「Everybody Wants To Rule The World」をカヴァー。なんとティアーズ・フォー・フィアーズのメンバーがその映像を目にして、「ふたりに演奏してもらえて光栄です。素晴らしい出来ですね」と書き込みを残したという後日談もある。
ちなみに“Sob Rock(泣けるロック)”とはジョンの最新アルバムのタイトルなのだが、“Sob Rock”と“Sad Pop”のペアリングは絶妙というよりほかない。一緒にアメリカを旅しているうちに、色んなことを気軽に相談できるくらいにジョンと親しくなったというアレクサンダー、今回の体験で学んだことは、次の作品に反映させて我々に報告してくれるに違いない。
Written By 新谷洋子
アレクサンダー23『Aftershock』
2022年7月15日発売
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