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アヴィーチーとはどんな人物だったのか? 4つの足跡からその答えを探る
2024年12月31日よりNetflixで配信となったアヴィーチーの新しいドキュメンタリー映画『アヴィーチー: アイム・ティム』(原題:Avicii – I’m Tim)。
この公開を記念して、ポップ・カルチャー・ジャーナリストのJun Fukunagaさんに改めてアヴィーチーとはどういった存在だったのか解説いただきました。
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Netflixにて、新しいドキュメンタリー映画『アヴィーチー: アイム・ティム』が公開されたことで、再び注目が集まっているアヴィーチー。そのドキュメンタリー映画では、アヴィーチーとして世界的な名声を獲得したプロデューサー、作曲家、スーパースターDJの半生が本人のナレーションとともに描かれたが、そのリアルな描写によって改めてアヴィーチーという人物に興味を持った音楽ファンは少なくないことだろう。
そこで本稿では、「アヴィーチーとはどんな人物だったのか?」というテーマの下に、彼の残した大きな4つの足跡を辿りながらその答えを探っていく。
1. 「Levels」のヒットをきっかけに生まれたEDM初の“DIYヒーロー”
EDMという用語は、2010年前後に浸透し始めた。一説によるとアメリカの音楽業界がEDMという用語を採用したのは、アメリカの「レイブ文化」を再構築し、1990年代のレイブシーンと区別しようとする試みだったと言われている。
そんなシーンの黎明期を代表する曲となったのが、2011年にリリースされた「Levels」だ。また、同曲は、10代の頃に母国スウェーデンでベッドルームプロデューサーとして活動を開始し、早い段階で頭角を表していたアヴィーチーにとっても、世界的なブレイクのきっかけとなった。
1962年にリリースされたエタ・ジェイムスの楽曲「Something’s Got a Hold on Me」をサンプリングした「Levels」は、EDMの総本山であるアメリカはおろか、世界中を席巻した、ダンスミュージックシーンにおける最も成功したヒット曲の1つだ。
約20ヶ国あまりのチャートでトップ10内を記録したほか、2013年の第55回グラミー賞最優秀ダンス・レコーティングにノミネートされるなど数々の栄光をアヴィーチーにもたらした。
また、一晩でベッドルームから音楽フェスという舞台に駆け上がる原動力となったこの曲は、EDMトラック制作の面でも大きな功績を果たしている。それは、カセットテープを止める際の減速を再現した“テープ・ストップ”と呼ばれる制作テクニックを広く普及させるきっかけを作ったことだ。
同曲のフックで多用されているこのテクニックは、アヴィーチーの制作テクニックを語る際の代名詞のひとつとなり、後進のEDMアーティストに多大な影響を与えることになり、今ではEDM制作における基本的なテクニックとして定着している。
このように黎明期のEDMの発展を大きく加速させる原動力となった「Levels」だが、その最大の意義は、ベッドルームプロデューサーだった一人の若者が世界的なヒット曲を生み出したことにある。この成功により、アヴィーチーはEDM世代初の“DIYヒーロー”となり、後に続く世界中のベッドルームプロデューサーたちのロールモデルとなったのだ。
2. ダンスミュージックの歴史を変えた金字塔『True』
「Levels」の成功により、EDMシーンのライジングスターとなったアヴィーチーだが、彼を不動のスーパースターDJという地位にまで押し上げたのは2013年のデビューアルバム『True』だろう。同作は、当時の主流であったビッグルームハウスとは一線を画し、ダンスミュージックとカントリーミュージックを融合させた独創的なサウンドで知られる。
特に代表曲「Wake Me Up」は、当初こそ2013年のUltra Music Festivalでの大ブーイング事件に見られるように賛否両論を巻き起こしたものの、すぐにその評価を覆し大ヒット作となった。評論家からの高い評価に加え、ビルボードのダンス・チャートで1位を獲得。さらに世界各地でマルチ・プラチナを獲得するなど、2010年代のダンスミュージックにおける金字塔となった。
この成功の意味は大きい。今から振り返って考えても、EDMの典型的なサブジャンルであるビッグルームが大流行していた当時のシーンで、このクロスオーバーな音楽性は圧倒的に異質だった。カントリーとダンスミュージックという、当時の常識から考えると悪魔合体とも言える音楽性を、誰が最初から受け入れることができただろうか。
特に似たような音楽が溢れていたメインストリームのダンスミュージックフェスやクラブで、それに慣れ親しんでいたクラバーたちにとって、このような組み合わせの音楽がダンスミュージックとして機能するとは考えにくかったはずだ。しかし、アヴィーチーは当時のEDMの定型を破り、大胆に再構築することで新たなダンスミュージックの可能性を示した。
このように『True』は、ダンスミュージックの歴史を大きく変えた“発明”であり、アヴィーチーは世界中のダンスミュージック・シーンに大きな影響を与える先駆者としての地位を確立したのだ。
3. タイムレスな魅力を持つ代表曲群
EDM、ひいてはダンスミュージックの歴史を大きく前進させた「Levels」や『True』収録の「Wake Me Up」は、リリースから10年以上が経過した今でも非常に高い人気を誇るアヴィーチーの代表曲だ。これらの楽曲はSpotifyで10億回以上という桁違いの再生数を数える“billion-stream club”の一員として知られている。
さらに注目すべきは、他の楽曲も同様の高い人気を保持していることだ。全英シングルチャートでトップ5に入り、イギリスでは初日だけで約8万8000枚を売り上げたという記録を持つ『True』収録曲「Hey Brother」は約11億回、2015年の2ndアルバム『Stories』収録曲「Waiting For Love」は約15億回、「The Nights」は約19億回という再生数をマーク。2017年のEP『Avīci (01)』収録曲「Without You」も11億回以上再生されており、晩年の代表曲と言っても過言ではない実績を持つ。
また、遺作アルバム『TIM』収録の盟友アロー・ブラックとの「SOS」(7億9000万回以上)や、リタ・オラとの「Lonely Together」(7億2000万回以上)といった楽曲も、将来の“billion-stream club”入りが期待される人気曲だ。
『アヴィーチー: アイム・ティム』でアヴィーチーは自身の音楽が“タイムレス”な音楽になることを願っていたが、その願い通り、現在も彼の音楽は多くの音楽ファンを魅了し続けている。
4. 音楽活動で得た富を社会に還元
アヴィーチーは、スーパースターDJとしての多忙な活動の傍ら、精力的な慈善活動も展開していたことでも知られる。その例をいくつか挙げていこう。
ひとつは、2011年のブレイク直後にマネージャーと共に非営利団体「House for Hunger」を設立したことだ。この時はアメリカ全土でのツアーを通じて資金調達を行っている。
翌2012年には、アメリカの飢餓救済団体「Feeding America」に約100万ドル(約1.5億円)、スウェーデンの慈善団体「Radiohjälpen」に100万ユーロ(約1.6億円)を寄付。2014年にはHIVとエイズ対策に取り組む団体「(RED)」と提携し、「Ultimate Year of Music with Avicii」プロジェクトを立ち上げた。この取り組みでは、Wyclef Jeanとのコラボ曲「Divine Sorrow」を制作し、その収益を寄付に充てている。
また、金銭的支援だけでなく、MVを通じた社会問題への啓発活動も実施。「Pure Grinding」と「For A Better Day」では、人身売買やギャングの暴力といった深刻な問題を取り上げている。
生前のインタビューでアヴィーチーは「必要以上のお金が手に入る立場になったとき、最も賢明で人道的なことは、本当に必要としている人々と分かち合うことだ」と語っていたが、この言葉通り、彼は音楽活動で得た富を社会に還元し続けた。
現在、その意思は遺族によって設立された「Tim Bergling Foundation」に引き継がれている。この団体は、メンタルヘルスの問題や自殺の予防、絶滅危惧種の動物や自然の保護、飢餓問題の解決、社会福祉の提供という4つの分野に焦点を当て活動を展開。特に主眼を置くメンタルヘルスや自殺予防の活動では、アヴィーチーのトリビュートコンサート「Together For A Better Day」や学生向けのダンスプログラム「Dance for Life」を通じて啓発活動を行っている。
現在、そして未来へと引き継がれていくアヴィーチーの遺産
28年という短い生涯の中で、アヴィーチーは世界中で愛される数々の革新的な名曲を生み出した。そしてそれは、後進アーティストのロールモデルとなり、ダンスミュージックの新たな可能性の開拓に繋がった。同時に音楽活動で得た富を社会に還元することで、アーティストと社会との接点を探り、より良い世界の実現を目指していたことも忘れてはならない。
こうした功績の数々は、彼の残した大いなる遺産であり、彼の音楽を愛する人々によって、現在、そして未来へと引き継がれていくことだろう。
Written by Jun Fukunaga
アヴィーチー『True』
2013年9月13日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music
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