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『私ときどきレッサーパンダ』劇中アイドルが歌うのはビリー&フィニアスが作曲した00年前後の“熱狂”

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2022年3月11日にDisney+(ディズニープラス)で公開されたディズニー&ピクサー最新作『私ときどきレッサーパンダ』の劇中には5人組人気ボーイズ・グループ「4★TOWN(フォー・タウン)」が登場。ビリー・アイリッシュの兄でありプロデューサーのフィニアスがその中の一人の声優をつとめ、4★TOWNの楽曲はビリーとフィニアスの二人が作詞・作曲を担当。

そんな4★TOWNが歌う劇中歌の「Nobody Like U」がグローバル、アメリカ、日本を含む17のSpotifyのバイラルチャートで1位を獲得して大きな話題を呼んでいる。この映画と音楽について音楽ライターの松永 尚久さんに寄稿いただきました。

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『私ときどきレッサーパンダ』|特別映像 「4★TOWNの魅力」|Disney+ (ディズニープラス)

主人公が熱狂するボーイズ・グループ「4★TOWN」

1990年代のカナダ・トロントで暮らす13歳の主人公、メイ。家族の前では、両親の言うことを聞く「マジメで頑張り屋な女の子」であるが、その心の奥では友人と一緒に外で遊んだり、好きなアイドルに熱狂したいという願望が膨らんでいた。本当の自分と、誰かに求められる自分とのギャップに追い詰められてしまった彼女が、ある朝目が醒めると「レッサーパンダ」に変身してしまったという奇想天外なストーリーで、2022年3月11日よりディズニー公式動画配信サービスDisney+ (ディズニープラス) にて独占配信されたディズニー&ピクサー最新作『私ときどきレッサーパンダ』。

その主人公であるメイが熱狂するアイドルとして登場するボーイズ・グループ『4★TOWN』が、大きな話題を呼んでいる。ロベア、ジェシー、アーロン・T、タエ・ヤン、アーロン・Zというそれぞれが異なる個性を放つ5人組。往年の洋楽ボーイズ・グループを連想させる圧倒的なキラキラをすべてまとったような雰囲気に、かつてアイドルに熱狂した世代から、そうでない人々までをも釘付けに。現在では、グループのオフィシャル・サイトまで立ち上がってしまうほどの旋風を世界に巻き起こしているのだ。

4★TOWN公式サイト

4★TOWN公式サイト

4★TOWNを熱狂させているのは、メンバーそれぞれの王子様のような端正なルックスだけではない。作られた音楽に関しても、映画の舞台となった90〜00年代のヒットチャートを席巻したような、さまざまな音楽ジャンルのポップな部分を抽出させたようなカラフルな仕上がりで、誰しもの胸をときめかせる要素があるものだ。レッサーパンダになってしまう運命を背負ってしまったメイも、この楽曲の放つエネルギーで、困難を乗り越えて自分の好きな道、生き方を見つけていくきっかけを掴むのだった。そんな一瞬にして耳から離れない楽曲を制作したのが、現代の音楽シーンを席巻するミュージシャンのひとりであるビリー・アイリッシュと、彼女の実兄であるフィニアスである。

フィニアスとビリー・アイリッシュ Photo: Kevin Mazur/Getty Images for Global Citizen

フィニアスとビリー・アイリッシュ

ビリー・アイリッシュとは、2019年に発売したデビュー・アルバム『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』で、「第62回グラミー賞」において史上最年少18歳で、年間最優秀レコード、年間最優秀アルバム、年間最優秀楽曲、最優秀新人賞の主要4部門に加えて合計5部門を受賞。日本でもアルバム収録曲の「bad guy」が日テレ系日曜ドラマ『シロでもクロでもない世界でパンダは笑う。』の主題歌に起用されるなどして大ヒット。2021年7月にリリースした2nd『Happier Than Ever』も世界15カ国で首位を獲得するなど、瞬く間に音楽シーンの頂点へたどり着いた存在。

実兄であるフィニアスは、ビリーに音楽活動を始めるきっかけを与えた存在であり、「bad guy」をはじめこれまで発表した彼女の楽曲のソングライティングに携わっているブレーン的な役割。またビリーだけでなくジャスティン・ビーバーやセレーナ・ゴメスなどにも楽曲提供をし、さらには2021年10月にはソロ・ミュージシャンとして1stアルバム『Optimist』を発表。「第64回グラミー賞」で最優秀新人賞にノミネートされ、また「第36回日本ゴールドディスク大賞」では洋楽部門の「ベスト3ニュー・アーティスト」を獲得するなど、多角的に才能を発揮し、評価されている。

しかし、普段彼らが発信する音楽は、4★TOWNの楽曲とは真逆のダークさというか、日常で感じる不条理(フラストレーション)を表現したものが多い。ゆえに、彼らの楽曲を耳にした人の多くは、その弾けるポップコーンみたいな躍動感溢れるサウンドに、ギャップを感じずにはいられないだろう。

二人が語る4★TOWNの楽曲制作

だが、「今回の映画のサウンドトラックの制作は、最高に楽しいものになりました」とビリーはこの作品の特典映像であるインタビューで語っている。フィニアスも「企画のお話をいただいた瞬間に、即飛びついた感じでした」と興奮気味。実はビリー、作品の主人公メイと同じ年齢(ローティーン)の頃に、とあるミュージシャンに熱狂していたことがあるのだ。そのミュージシャンとはジャスティン・ビーバー。2021年に公開された彼女のドキュメンタリー映画『ビリー・アイリッシュ 世界は少しぼやけている』では、「ローティーンの頃の私にとって、人生のすべてのような存在だった」と語っている。ゆえに、これら楽曲制作ではポップ・ソングに泣き叫んで興奮していた時代を蘇らせ、楽しい作業となったのかもしれない。

「映画の登場キャラクターのように誰かに熱狂したことは、自分も経験したことがあるから強く共感できます。ここに描かれているものは、ファンの情熱なのだと思う。また同じ情熱を持った(友)人との絆はとても深いものになる。だから、この映画が大好きになったのです」

また、フィニアスはこの作品で4★TOWNのなかで、芸術的なセンスを放つキャラクターであるジェシーの声を担当。自身の作品の放つメランコリックな雰囲気とは異なり、「女の子たちをトリコにしてしまう魅力がある」ボーイズ・バンドならではの甘く爽快な声を披露。自分ではない誰かになりきったことで、オリジナル楽曲とは異なる魅力を届けているのだ。

 

4★TOWNによる3つの楽曲

今回、作品のなかでビリーとフィニアスが制作した楽曲は3つ。これら楽曲は「00年代のボーイズ・バンドの楽曲のような、手拍子をしたくなったり口ずさみ、そして一緒にダンスしたくなる。キャッチーさのある仕上がりになりました」とフィニアス。それぞれタイプは異なるが、誰もの心を弾ませるはずのポップがちりばめられた仕上がりになっている。

本編のライヴ・シーンのオープニングを飾った「U Know What’s Up」は、ビリー曰く「勇気づけられる」楽曲だ。ステージ上に颯爽と登場した4★TOWNのひたすらにカッコいい姿を演出するにふさわしい、ド派手なアッパー・チューン。本編ライヴ・シーンでは、観客であるメイらと共に、興奮の声をあげずにはいられない。また「自分の欲しいものはちゃんと口に出して言わないとダメ」というメッセージを感じる歌詞は、親の言いつけを守り、本当の自分のやりたいことに対して心を閉ざしているメイ(もしくは同じ境遇にいる世界中の人々)の背中を押し、新しいドアを開かせるエネルギーも感じられる。

U Know What's Up (From Disney and Pixar's Turning Red)

続く「ラヴ・バラード」であるという「1 True Love」は、ピアノから徐々にコーラスやバンド・サウンドが加わり壮大な世界を築いている楽曲。「たったひとつの真実の愛」を求めてさまようせつない心を丁寧に歌い上げている。4★TOWNのセクシーさが伝わる仕上がりになった。

1 True Love (From Disney and Pixar's Turning Red | Lyric Video)

そして「誰もが知るヒット・ソングのような楽曲を作りたかった」とビリーが語るのが、「Nobody Like U」である。ヒップホップ・テイストを交えた、ダンサブルでカラフルなサウンドにのせて「世界に君の代わりになる人なんていない。そのままの自分でいることを誇りに思って欲しい」と言うメッセージが伝わる楽曲。

映画の主人公であるメイを勇気づけると同時に、楽曲を耳にした人も自分のコンプレックスに思う部分が、実は誰もが羨むチャーム・ポイントなのかもしれないという「気づき」を与えてくれるナンバーにもなるのではないだろうか。

4*TOWN (From Disney and Pixar’s Turning Red) – Nobody Like U (From "Turning Red")

また、この楽曲は「どんな君も」として、人気男性グループであり「第63回日本レコード大賞」に輝いたDa-iCEがカバー(ちなみに彼らは日本版の声優も務めている)、日本版エンドソングとして流れている。オリジナルの持つポップ感を生かしながらも、彼らの甘くせつない表情、息づかいが伝わるような仕上がりになっていて、こちらも聴きごたえ満点だ。

Da-iCE – どんな君も (From『私ときどきレッサーパンダ』)

2000年前後のポップスに熱狂していたリスナーにとっては甘酸っぱい記憶を蘇らせ、また当時を知らない人にとっては現代にはない音楽感性を新鮮に感じるかもしれない、これら楽曲の数々。(おそらく、オリジナル曲では聴く機会はないだろうが)ビリーやフィニアスの異なる表情が楽しめると同時に、周囲の目を気にせず自分のやりたいことを素直に表現することの大切さを教えてくれるのではないかと思う。また、4★TOWNがこの作品から飛び出して、音楽シーンに新たな風をもたらしそうな予感もする。5人の動向にも注目したいところだ。

Written by 松永尚久


©Disney/Pixar

『私ときどきレッサーパンダ(オリジナル・サウンドトラック)』
2022年3月11日配信
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music


【映画情報】

映画『私ときどきレッサーパンダ』

2022年3月11日 ディズニープラスで独占配信
日本公式HP
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン



 

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