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ロビー・ウィリアムスの代表的MV:映画『BETTER MAN/ベター・マン』序章のような映像世界
ラジオDJ、ライナー執筆など幅広く活躍されている今泉圭姫子さんの連載「今泉圭姫子のThrow Back to the Future」の第96回。
今回は、今年3月28日に日本で劇場公開される映画『BETTER MAN/ベター・マン』で描かれるロビー・ウィリアムス(Robbie Williamas)が生み出してきたミュージック・ビデオについて。
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映画『BETTER MAN/ベター・マン』が、いよいよ日本公開となります。ファンの方だけでなく、ロビーをあまり知らないミュージカル映画ファンの方の反応もとても気になりますね。この映画は、ロビー・ウィリアムスという一人のアーティストの半生にスポットが当てられていますが、ロビー、テイク・ザットの音楽が全編に流れ、ミュージカル映画としての魅力にも溢れています。音楽の力が、映画の魅力をさらに光らせてくれているのです。
ロビーの楽曲をあまり知らないという方には、映画の中で流れる名曲の数々のオリジナル・ヴァージョンもぜひ聴いていただきたいです。映画の公開にあわせて発売となる『Greatest Hits』が、そんな人たちの元に届けられたら嬉しいですね。
今月は、ロビー・ウィリアムスのこれまでのMVにスポットを当てます。映画『BETTER MAN/ベター・マン』は、マイケル・グレイシー監督ならではの音楽と映像のゴージャスなコラボレーションが魅力です。ロビーと監督が一つの作品を生み出すことになったのは、これまでロビー自身がMV制作を通して、映像にこだわりを持ってきたことも一つの起因になっていると私は思っています。ロビーのMVは、まるで映画のワンシーンを再現しているかのようなストーリー性ある作品が多いのです。少年時代をフラッシュバックさせたり、セクシー女性が出てきたり、大好きなサッカーをしているシーンとか、まるで映画『BETTER MAN/ベター・マン』の序章なのでは?と思える作品が多いことに気づきます。今回は、その代表的な作品をピックアップします。
1. She’s The One (1999年)
映画『BETTER MAN/ベター・マン』では、ニコール・アップルトンとの出会いのシーンで使われた楽曲。ロビーにとっては「Angels」に次ぐ代表的なバラードですが、実はこの曲はオリジナル楽曲ではなく、ソングライター、プロデューサーであるワールド・パーティーのカール・ウォーリンジャーの作品です。
曲作りのパートナー、ガイ・チャンバーズがワールド・パーティーのツアー・メンバーであったことから、この楽曲との出会いが生まれています。当初カールはカバーを知らされていなかったようですが、あとでしっかりと権利処理はされているとのことです。
MVは、子供の頃フィギュア選手を目指していた少年が挫折し、その後ペアのコーチとなり、世界大会出場のチャンスを得るのですが、そのペアの男性が怪我をして出場できなくなり、コーチであるロビーが代わりに出場し優勝するといったストーリーです。
子供の頃の夢を実現させるMVは、映画『BETTER MAN/ベター・マン』で「Feel」を歌うベイビーモンキーのロビーを彷彿とさせます。本物のスケーター、パメラ・オコナー、ジョナサン・オドハティーやイギリスの有名なコメンテーター、バリー・デイヴィスがカメオ出演しています。
このスケートの美しい映像は、アジアのスーパースター、そして映画監督、映画俳優でもあるジェイ・チョウも刺激を受けたと話してくれました。
2. Supreme (2000年)
『Sing When You’re Winning』に収録されている楽曲。このMVは、スコットランドの名F1ドライバー、サー・ジョン・ヤング“ジャッキー”スチュワートへのトリビュートとなっています。
ジャッキーは、“空飛ぶスコットランド人”の異名を持ち、F1ワールド・チャンピオンに3度輝いたスター・ドライバー。ロビーは架空のレーサー、ロブ・ウィリアムスとして登場。ジャッキーのライバルと言われるまでに優勝を重ねていく若きレーサーです。ただクラッシュで怪我をしたり、モテモテでスキャンダルにも巻き込まれて波乱万丈な人生を送っているという設定。映画『BETTER MAN/ベター・マン』のロビーがここにもいます。
優勝争いのチャンピオンシップの日に、急にお腹を壊してスタートに間に合わなかったというオチは、自分の人生をおもしろおかしく描いているロビーらしいMVです。実際のジャッキーの映像を使用するこだわりも見せてくれています。
3. Advertising Space (2005年)
アルバム『Intensive Care』に収録されている楽曲。MVは、エルヴィス・プレスリーへのオマージュになっています。
また、1993年に公開されたクリスチャン・スレイター主演、タランティーノが脚本の映画『トゥルー・ロマンス』にインスパイアされて制作され、クリスチャン・スレイターがプレスリーの霊と会話するシーンからアイデアが生まれました。
ロビーは、スーパースターの失墜をテーマに歌を書き、映像ではエルヴィスを真似た格好で登場します。またエルヴィスが晩年太ってしまったということばかりが記憶されてしまっていることへのロビーなりの解釈も入っています。ラストのシーンでは、ロビーの腕に彫られたタトゥーの言葉が映し出されます。「Elvis, Grant Me Serenity! / エルヴィス、僕に平穏を与えてください」と。これも映画『BETTER MAN/ベター・マン』の序章ともいうべき作品ですね。
4. Let Me Entertain You (1997年)
アルバム『Life Thru A Lens』収録曲であり、映画『BETTER MAN/ベター・マン』ではネヴワース公演のオープニング・シーンで流れるロック・ナンバーです。MVでは、ロビーがKISSのジーン・シモンズのメイクで登場し、衣装はポール・スタンレーをモデルにしています。
ストーリーというよりも、ステージでジーンの動きを真似たり、舌をベロベロさせたり、そしてロックンロールライフの楽屋などが描かれ、70年代のロック・シーンをパロディにしているようにと見えますが、実は自分自身をパロディにしているとのことです。ちなみに、KISSからは何もクレームは来なかったそうです。
5. Time For Change (2019年)
映画『BETTER MAN/ベター・マン』を観て、その後のロビーを心配された方、この曲のMVを観たら、少しは安心できるのではないでしょうか?
クリスマス・ソングとして公開されたこの曲のMVは、ウィリアムス・ファミリーがクリスマス・ディナーを準備している様子やクリスマスを待ち望んでいたアットホームな家族の姿が映し出されています。いろいろな出来事があった先に、ようやく自分の心が落ち着ける場所、家族を見つけることができたロビーのクリスマスの1日が描かれています。
6. Kidz (2011年)
テイク・ザットの曲も1曲紹介しましょう。ロビーが再び参加し、オリジナル・メンバー5人で制作したアルバム『Progress』からの第2弾シングル「Kidz」。ブルガリアで撮影されました。
1956年のアニメ「Destination Earth」を観ている少年の姿がオープニングで映し出されます。そして地球にいる軍隊の標的になっている宇宙船には、5人のメンバー。彼らは、歴史上の戦争の英雄として登場しますが、地球に平和をもたらし、戦うことの虚しさを訴え、地球を後にします。かなり壮大で、深いメッセージが込められたMVとなっています。5人が揃って出演しているだけでもファンには嬉しい戦隊モノMVです。
いかがでしたでしょうか?ロビーのMVは、モノクロでシンプルに歌う姿を映し出しているものもありますが、映画並みのゴージャスなMVも数多くあります。実際に、弱い自分を隠すために、ピエロのように振る舞うロビーを何度か目にしたことがありますが、そんな自分の姿を、映像の世界では隠すことなく大胆に表現していたんだ、と改めて知ることになりました。
当時は気づかなかったことも、映画『BETTER MAN/ベター・マン』を観たことによって、MVで表現されていた彼の思いに心動されるのです。
Written By 今泉 圭姫子
映画公開にあわせてベスト盤が再発ロビー・ウィリアムス『Greatest Hits』
2004年10月18日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / YouTube Music / Amazon Music
映画情報
映画『BETTER MAN/ベター・マン』
2025年3月28日(金)日本全国ロードショー
<監督> マイケル・グレイシー(『グレイテスト・ショーマン』)
<出演>ロビー・ウィリアムス
<原題>『BETTER MAN』
公式HP:https://betterman-movie.jp/
2024 Better Man AU Pty Ltd. All rights reserved
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