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最新ドキュメンタリー『エルトン・ジョン:Never Too Late』:リアルな彼の人生と最後に選んだ道
ラジオDJ、ライナー執筆など幅広く活躍されている今泉圭姫子さんの連載「今泉圭姫子のThrow Back to the Future」の第92回。
今回は、2024年12月13日にディズニープラスにて最新ドキュメンタリーが配信となった『エルトン・ジョン:Never Too Late』について。
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リアルなエルトンとドジャース・スタジアム
エルトン・ジョンのドキュメンタリー映画『エルトン・ジョン:Never Too Late』がディズニープラスで公開になっています。2019年に劇場公開された伝記映画『ロケットマン』は記憶に新しいですが、波乱万丈のエルトンの人生は驚きの連続でした。
このドキュメンタリー映画『エルトン・ジョン:Never Too Late』は、エルトン自身のインタビュー、過去のインタビュー、ライヴ映像などで構成され、アーカイヴで残っていない時代に関しては、アニメーションを織り込むなど、エンタメ性の高い伝記映画とは異なり、よりリアルなエルトンを知ることができます。
ドキュメンタリー全体の印象としては、成功者エルトンの悲しげな表情。しかし、そんな彼が最後に選んだ道を語る時は、希望に満ちた安堵感ある表情に変化しています。このドキュメンタリーは、その希望がテーマになっているのではないか、と感じました。
2022年11月20日、ロサンゼルス・ドジャース・スタジアムでの全米ラスト公演を迎える瞬間を前に、エルトンは自分の人生を言葉にして映像に残しました。ドジャース・スタジアムは、1975年にアメリカで大成功を収めた時に初めて立った場所。彼にとっても思い出いっぱいのスタジアムでした。Farewellツアーと銘打ったワールド・ツアー。これが最後のツアーとして世界を周り、アメリカ公演最終日を迎えます。
昔からの仲間であるバック・ミュージシャンと演奏を楽しんでいるようであり、厳しいツアーをやり遂げようとする悲壮感も映像からは感じられます。この日は新曲の共演者、ブランディ・カーライルや、70年代「Don’t Go Breaking My Heart(恋のデュエット)」で共演したキキ・ディー、デュア・リパも登場しています。
インタビューでは、生い立ち、デビューまでの道のり、成功してからの苦悩、初恋であったマネージャー、ジョン・リードとの壮絶な関係が赤裸々に語られています。エルトンはどんな時に、心からの幸せを感じ取ることができるのだろうか、と思ってしまうほど、いつも大きな壁が立ちはだかった人生を歩んできました。
映画『ロケットマン』でも、ドラッグに溺れていた時代を隠すことなく描いていましたが、繊細さゆえに、陥る地獄を味わい、常に愛を求め、愛を恐れ、その姿が、少年から全く変わらない純粋さを抱き続けている人なのだ、と気付かされるのです。
ツアーからの引退と家族との時間
ドキュメンタリーが終わると、同じくディズニープラスで配信されている『エルトン・ジョン・ライヴ:Farewell from Dodger Stadium』をそのままの流れで観ました。歌声は全く衰えておらず、パワフルなエルトンがそこにいます。Farewellというには早すぎるのではないか、とみんなが思うはずの素晴らしいショウ。今後彼はレコード制作、ラジオDJとしての活動は続けていくと言っていても、ツアー引退はあまりにも寂しすぎます。
それでも彼が決意したのは、家族と過ごす時間を大切にしたい、という夢を叶えるためです。SNSを通して、子供と話をする時のエルトンは、とても幸せそうです。家庭人の顔をしています。ドキュメンタリーの中で、明るい表情に変わる瞬間です。今度は、彼が求めていることを叶えさせてあげたい、とおせっかいにも思ってしまうのです。
エルトンには、2014年に正式に結婚したデヴィッド・ファーニッシュとの間に代理母出産による息子2人がいます。エルトンは、最後のお別れの時に、長年のソングライティング・パートナー、バーニー・トーピンを「この人がいなければ、今の僕はここにいない」と紹介し、次には家族をステージに登場させて、これからのエルトンの愛溢れる人生を披露しました。
最近の話ですが、朝のTV番組『Good Morning America』に出演した際、2024年7月に南仏で感染症に罹ったことを明かし、右目の視力を失ったと話しました。左目も万全ではないため、次のアルバム制作が、足止めされている状態とのことです。エルトンは、「希望は捨てていない。良くなるための努力をしている。こんなことが起こるなんて運が悪い。叩きのめされた感じだよ。何も見えない。何も読めないんだ」と。そして「でも僕はとても多くの経験をして、乗り越えてきた。常に前向きだ。世界一幸運な男だ」と立ち向かう姿も見せています。
Farewellツアーが2023年のグラストンベリー、ノルウェー公演で終わり、ようやく家族との時間に浸りながら、新たな環境の中で制作される新作が、どんな作品になるのか、とても興味がありましたが、まずは治療に専念し、視力回復に努めて欲しいです。まさに波乱万丈な人生ではあるけれど、多くの人を魅了したヒット曲の数々は、時には人々の心の救いになり、時には純粋な気持ちを蘇らせてくれる魔法のような存在でした。そんな楽曲の数々を世の中に放ったエルトンの人生が、これからは暖かく、輝きを放つことを祈るばかりです。
Written By 今泉圭姫子
エルトン・ジョン&ブランディ・カーライル「Never Too Late (From The Film “Elton John: Never Too Late”)」
2024年11月15日配信
iTunes Store / Apple Music / Spotify / YouTube Music / Amazon Music
『エルトン・ジョン:Never Too Late』
ディズニープラスで2024年12月13日より独占配信
監督:R・J・カトラー、デヴィッド・ファーニッシュ
今泉圭姫子のThrow Back to the Future』 バックナンバー
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- 第2回 :バグルス『ラジオ・スターの悲劇』
- 第3回 :ジャパン『Tin Drum』(邦題:錻力の太鼓)
- 第4回 :クイーンとの出会い…
- 第5回:クイーン『世界に捧ぐ』
- 第6回:フレディ・マーキュリーの命日に…
- 第7回:”18 til I Die” ブライアン・アダムスのと想い出
- 第8回:ロキシー・ミュージックとブライアン・フェリー
- 第9回:ヴァレンシアとマイケル・モンロー
- 第10回:ディスコのミュージシャン達
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- 第13回:デフ・レパード、当時のロンドン音楽事情やガールとの想い出
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