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グラス・タイガーを振り返る:80年代後半に活躍したカナダのロック・バンド
ラジオDJ、ライナー執筆など幅広く活躍されている今泉圭姫子さんの連載「今泉圭姫子のThrow Back to the Future」の第57回。今回は、「入手困難盤復活!! HR/HM 1000キャンペーン世界15カ国編」で3枚のアルバムが再発となるグラス・タイガー(Glass Tiger)について。これまでの連載一覧はこちらから。
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2022年3月23日、「入手困難盤復活!! HR/HM VOL.5:世界15カ国編」がリリースになります。今回は、全67タイトルの中から嬉しい再発売作品グラス・タイガーの3作品、「Don’t Forget Me (When I’m Gone)」「Someday」の大ヒット・シングルを生んだデビュー・アルバム『The Thin Red Line(傷だらけの勲章)』、続くセカンド・アルバム『Diamond Sun』、サード・アルバム『Simple Mission』をご紹介します。
グラス・タイガーは、80年代のカナダの音楽シーンを華やかに彩り、世界へと羽ばたいていったブライアン・アダムス、コリー・ハート、ラヴァーボーイといったスターに続くアーティストとして注目を集めました。1983年オンタリオで結成。オリジナル・メンバーは、アラン・フリュー、サム・リード、アル・コネリー、ウェイン・パーカー、マイケル・ハンソンの5人組です。
1986年にメジャー・デビューし、シングル「Don’t Forget Me (When I’m Gone)」が、いきなりカナダでナンバー・ワンに輝き、アメリカでも全米シングルチャートで最高位2位を記録。また、ブライアン・アダムスと数多くのヒット曲を共作し、プロデュースしてきたジム・ヴァランスが、ブライアン以外のアーティストと初めて取り組んだ作品としても話題になりました。ジムが偶然耳にした彼らのデモテープを気に入り、自らプロデュースを勝手出たという話です。アランは、ジムが住んでいたヴァンクーバーにトロントから何度も通い、ヒット曲作りのノウハウを学びました。また、「Don’t Forget Me (When I’m Gone)」には、ブライアンがバックコーラスとして参加しているのもジム・ヴァランスとブライアンとの関係から生まれたコラボレーションでした。
グラス・タイガーは、「Don’t Forget Me (When I’m Gone)」のヒットにより、1987年度のグラミー賞新人賞にもノミネートされました。カナダのグラミーと言われている1986年度ジュノ賞では、Album of the Year、Most Promising Group of the Year、「Don’t Forget Me (When I’m Gone)」でBest Selling Singleを受賞。翌1987年度のジュノ賞では「Someday」がSingle of the Yearに輝いています。デビュー・アルバム『The Thin Red Line』は、キャッチーなポップ・ソングもあれば、ヴォーカルのアランの故郷スコットランドをイメージした曲まで幅広いサウンドが楽しめます。
1987年、ジャーニーと全米ツアー中だったグラス・タイガーに、シカゴでインタビューしました。初のシカゴ、それも1人旅。夕方空港に着き、すっかり暗くなっていた街をホテルからアリーナに向かう道中が不安であったことを覚えています。当時のレコード会社の担当の方は、「グラス・タイガーのライヴがあるから観てきてね、1人で大丈夫でしょ」と厳しい一言。そのせいか、覚えているのは不安だったことだけ、というのは情けない話です。ジャーニーを観た記憶が全くありません(笑)。
アランは、「僕はスコティッシュ・カナディアンなんだけど、スコットランドから生まれた音楽は、今世界の音楽シーンに大きな影響を与えていると思う。どことなくトラディショナルな音が入っているのは、僕のルーツから来ている。でもそれだけにこだわっているわけではない。メンバー5人がそれぞれ違うパーソナリティと音楽に対する考え方があるからね」と(インタビューした記憶が朧げなので、書かせていただいたライナーを読み返しながら必死に思い起こしています【笑】)。
アランと共にバンドのサウンド・クリエイターであるキーボードのサムは、クラシックを勉強し、トロントの音楽院では東洋音楽を学んでいたという経験の持ち主です。ウェインは、大学でマーケティングを勉強し、マイケルは、コンピュータープログラミングの資格を持っているというユニークなキャリアを持つメンバーです。
1988年リリースのセカンド・アルバム『Diamond Sun』もジム・ヴァランスがプロデュースし、4曲メンバーと共作しています。アルバムはカナダで最高位6位となり、シングル「I‘m Still Searching」2位、「Diamond Sun」が5位になりましたが、アメリカではデビュー時ほどの成績は収められませんでした。
1991年リリースのサード・アルバムの『Simple Mission』は、カナダのチャートで最高位11位、そしてシングルカット4曲がカナダでトップ10入りを果たし、カナダでは安定した人気を保ちました。その後1993年にベスト・アルバムをリリースして、バンドとしては一旦アルバム・リリースから遠ざかることになります。
彼らの4枚目のアルバム『31』は、結成31周年となる2018年にリリースされます。「Don’t Forget Me (When I’m Gone)」があまりにも大きなヒットとなってしまい、一発屋と思われがちですが、80年代の彼らは、カナダでしっかり自分達の世界を築き上げ、ライヴ活動も地道に行ってきました。
そんなグラス・タイガーに再会したのは、コリー・ハートが大復活を遂げ、カナダ・アリーナ・ツアーを行った2019年。ツアーのオープニング・アクトとして登場し、私は運よくケベック公演で、「Don’t Forget Me (When I’m Gone)」を33年振りに聴くことができました。そして改めてヒット曲の素晴らしさを感じました。会場中が年月を超えて、この曲で大合唱となったのです。アランの伸びやかな歌声はまったく変わっていませんでした。
今回復刻盤として、グラス・タイガーの作品がリリースされることは、カナダのロック・シーンを愛する音楽ファンにとって、嬉しいニュースとなったはずです。
Written By 今泉圭姫子
グラス・タイガー
『The Thin Red Line(傷だらけの勲章)』『Diamond Sun』『Simple Mission』
国内盤CD1000円盤 / iTunes Store / Apple Music / Spotify / YouTube Music
今泉圭姫子のThrow Back to the Future』 バックナンバー
- 第1回 :U2『The Joshua Tree』
- 第2回 :バグルス『ラジオ・スターの悲劇』
- 第3回 :ジャパン『Tin Drum』(邦題:錻力の太鼓)
- 第4回 :クイーンとの出会い…
- 第5回:クイーン『世界に捧ぐ』
- 第6回:フレディ・マーキュリーの命日に…
- 第7回:”18 til I Die” ブライアン・アダムスのと想い出
- 第8回:ロキシー・ミュージックとブライアン・フェリー
- 第9回:ヴァレンシアとマイケル・モンロー
- 第10回:ディスコのミュージシャン達
- 第11回:「レディ・プレイヤー1」出演俳優、森崎ウィンさんインタビュー
- 第12回:ガンズ、伝説のマーキーとモンスターズ・オブ・ロックでのライブ
- 第13回:デフ・レパード、当時のロンドン音楽事情やガールとの想い出
- 第14回:ショーン・メンデス、音楽に純粋なトップスターのこれまで
- 第15回:カルチャー・クラブとボーイ・ジョージの時を超えた人気
- 第16回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」公開前に…
- 第17回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」サントラ解説
- 第18回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」解説
- 第19回:クイーンのメンバーに直接尋ねたバンド解散説
- 第20回:映画とは違ったクイーン4人のソロ活動
- 第21回:モトリー・クルーの伝記映画『The Dirt』
- 第22回:7月に来日が決定したコリー・ハートとの思い出
- 第23回:スティング新作『My Songs』と初来日時のインタビュー
- 第24回:再結成10年ぶりの新作を発売するジョナス・ブラザーズとの想い出
- 第25回:テイラー・スウィフトの今までとこれから:過去発言と新作『Lover』
- 第26回:“クイーンの再来”と称されるザ・ストラッツとのインタビュー
- 第27回:新作を控えたMIKA(ミーカ)とのインタビューを振り返って
- 第28回:新曲「Stack It Up」を発売したリアム・ペインとのインタビューを振り返って
- 第29回:オーストラリアから世界へ羽ばたいたINXS(インエクセス)の軌跡
- 第30回:デビュー20周年の復活作『Spectrum』を発売したウエストライフの軌跡を辿る
- 第31回:「The Gift」が結婚式場で流れる曲2年連続2位を記録したBlueとの思い出
- 第32回:アダム・ランバートの歌声がクイーンの音楽を新しい世代に伝えていく
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- 第40回:シン・リジィの想い出:フィル、ゲイリーらとのインタビューを振り返って
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今泉圭姫子(いまいずみ・けいこ)
ラジオDJ、音楽評論家、音楽プロデューサー
1978年4月、湯川れい子氏のラジオ番組「全米Top40」のアシスタントDJのオーディションに合格し、この世界に入る。翌年大貫憲章氏とのコンビでラジオ番組「全英Top20」をスタート。以来現在までにラジオDJ以外他にも、テレビやイベント、ライナー執筆など幅広く活動。また、氷室京介のソロ・デビューに際し、チャーリー・セクストンのコーディネーションを行い、「Angel」のLAレコーディングに参加。1988年7月、ジャーナリスト・ビザを取得し、1年間渡英。BBCのDJマーク・グッドイヤーと組み、ロンドン制作による番組DJを担当。
1997年、ラジオ番組制作、企画プロデュースなど活動の場を広げるため、株式会社リフレックスを設立。デュラン・デュランのジョン・テイラーのソロとしてのアジア地域のマネージメントを担当し2枚のアルバムをリリース。日本、台湾ツアーも行う。
現在は、Fm yokohama「Radio HITS Radio」に出演中。
HP:http://keikoimaizumi.com
Twitter:https://twitter.com/radiodjsnoopy
Radio:Fm yokohama「Radio HITS Radio」