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コロナ禍にステイホームで聴きたい新旧クリスマス・ソング:生かされていることに感謝する歌たち
ラジオDJ、ライナー執筆など幅広く活躍されている今泉圭姫子さんの連載「今泉圭姫子のThrow Back to the Future」の第43回。今回は最新のものから、名曲まで新旧のクリスマス・ソングについて(これまでのコラム一覧はこちらから)
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もうすぐクリスマスです。本来なら、街にクリスマス・ソングが溢れ、キラキラしたライティングに心ウキウキする日々となるのですが、今年は違います。新型コロナウィルス感染による自粛が世界中で続き、私たちは、今まで経験したことのない不安な気持ちの中で、日々を送ることになりました。クリスマスの時期も、仲間とのパーティーや恋人とのデートを違う形に変えて、それぞれが工夫をしながら、暖かい時間を迎えようとしています。街に溢れるクリスマス・ソングは、ステイホームで耳にするクリスマス・ソングに変わりました。
2020年、世界中で大ヒットしたBTSの「Dynamite」は、Holiday Remixとして新たにリリースされました。オリジナルは、70年代のディスコサウンドをイメージした軽快なポップソングですが、Holidayヴァージョンでは、クリスマス感を押し出した楽しさアップのヴァージョンになっています。
自粛を余儀なくされているファンに、「コロナの終息を祈り、みんなが健康であるように」というメッセージを込めて、仕上げられました。もともとクリスマス・ソングは、キラキラした楽しいサウンドで表現した曲が多いのですが、実は、アーティストが作るクリスマス・ソングには、どの曲も奥深いメッセージが込められています。この時期だからこそ、世界の現状を考える機会を与えてくれているのです。
1984年に発表され、1985年のイギリス年間チャートで1位となった「Do They Know It’s Christmas?」は、まさにそんなメッセージ・ソングでした。この曲は、エチオピアの飢餓問題を取り上げたチャリティ・ソングであり、アフリカの子供たちはクリスマスを知っているのだろうか、というタイトルが示すように、自分たちがどんなに恵まれているか感謝すべきである、という強いメッセージが歌われています。
当時、イギリスのチャートを紹介するラジオ番組「全英トップ20」を大貫憲章さんと担当していたのですが、トップクラスのアーティストがこのチャリティ・ソングのレコーディングに参加するために、続々とスタジオに入ってくる映像を見て、身震いするほどの興奮の中で、曲を紹介したことを覚えています。そしてMVとして製作された映像を見ると、当時のヴァーカリストたちがいかに個性的であることがわかります。ワンフレーズを歌っただけで、そのシンガーが誰かを当てることができるほどです。歌うパートの長短ではなく、短くても個性が伝えられるシンガーが多かったことがわかります。80年代の楽曲や作品が今でも愛されているのは、そんなアーティストたちが多かったからなのでしょう。
1971年に発表されたジョン・レノンとヨーコ・オノの「Happy Xmas (War Is Over)」では、ベトナム戦争真っ只中に、あなたが望めば戦争は終わる、というメッセージを歌っています。1985年に発表されたブライアン・アダムスの「Christmas Time」では、世界がより良い場所になるように、というメッセージとともに平和を訴えています。ブライアンは、今年この曲のMVを制作しました。1985年の歌声にのって、モノクロ映像でブライアンがギターを弾きながら歌っています。最後は雪だるまになってしまう楽しい映像なので、ぜひ見てください。
クイーンは、1984年に「Thank God It’s Christmas」をリリースしていますが、1995年には『Made In Heaven』に収録されていた「A Winter’s Tale」とのカップリングで、限定クリスマス・ヴァージョンとしてもシングル発売しています。ジャケットもクリスマス仕様で「Merry Christmas! Queen」と表に印刷されています。
「A Winter’s Tale」は、フレディが穏やかな気持ちで、窓の外に見える美しい光景を歌にしています。死を悟っていたのでしょうか?その歌声、歌詞からは、特別ではない日々の風景が、とても平和な気持ちでいられることをメッセージしています。何かが起こって初めて知る普通の生活が、夢を見ているように感じるという歌詞は、まさに今の私たちの思いに通じるものではないでしょうか?
今年も数々のクリスマス・ソングがリリースになりました。ジョン・ボン・ジョビは3曲のクリスマス・ソングをリリース。その1曲は、1988年アイルランドのグループ、ザ・ポーグスとカースティ・マッコールが歌ってヒットした「Fairytale Of New York (ニューヨークの夢)」です。アイルランドからニューヨークに移住したカップルが一時は成功に浮き足立つも、歳をとって落ちぶれてお互いを罵り合う、という内容です。MVには、俳優マット・ディロンも出演しています。つまり、クリスマスは、お互いがどのように生きてきたのか、失敗したのか、愛し合ったのか、そういったことを振り返る日であるということなのでしょう。ジョンのヴォーカルは、ショーン・マガウアンのような泥酔状態な雰囲気はありませんが、トラッド・サウンドにのって、彼の誠実さが伝わる歌になっています。この曲は、エド・シーランとアン・マリーもデュエットしています。
クリスマスは、さまざまな出来事を振り返る日です。今、自分自身がこうして生かされていることに感謝する歌を聴き、世界中で起こっていることを改めて考える時間。だからこそ、多くの素晴らしいクリスマス・ソングから伝えられるメッセージが、人々の心に強く残るのでしょう。
今年はジェイミー・カラムが『The Pianoman At Christmas』を発表しました。ビッグ・バンドとともにアビーロードスタジオでレコーディングされたホリデー・アルバムです。ステイホームでのクリスマス・ホリデーを、自分自身を振り返る日々にするとともに、シンプルに暖かい歌声、サウンドで心癒される時間も必要です。そんな時間を持ちたいときは、このアルバムをおススメめします。
Written by 今泉圭姫子
ジェイミー・カラム『The Pianoman At Christmas』
2020年11月20日発売
CD / iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music
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今泉圭姫子のThrow Back to the Future』 バックナンバー
- 第1回 :U2『The Joshua Tree』
- 第2回 :バグルス『ラジオ・スターの悲劇』
- 第3回 :ジャパン『Tin Drum』(邦題:錻力の太鼓)
- 第4回 :クイーンとの出会い…
- 第5回:クイーン『世界に捧ぐ』
- 第6回:フレディ・マーキュリーの命日に…
- 第7回:”18 til I Die” ブライアン・アダムスのと想い出
- 第8回:ロキシー・ミュージックとブライアン・フェリー
- 第9回:ヴァレンシアとマイケル・モンロー
- 第10回:ディスコのミュージシャン達
- 第11回:「レディ・プレイヤー1」出演俳優、森崎ウィンさんインタビュー
- 第12回:ガンズ、伝説のマーキーとモンスターズ・オブ・ロックでのライブ
- 第13回:デフ・レパード、当時のロンドン音楽事情やガールとの想い出
- 第14回:ショーン・メンデス、音楽に純粋なトップスターのこれまで
- 第15回:カルチャー・クラブとボーイ・ジョージの時を超えた人気
- 第16回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」公開前に…
- 第17回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」サントラ解説
- 第18回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」解説
- 第19回:クイーンのメンバーに直接尋ねたバンド解散説
- 第20回:映画とは違ったクイーン4人のソロ活動
- 第21回:モトリー・クルーの伝記映画『The Dirt』
- 第22回:7月に来日が決定したコリー・ハートとの思い出
- 第23回:スティング新作『My Songs』と初来日時のインタビュー
- 第24回:再結成10年ぶりの新作を発売するジョナス・ブラザーズとの想い出
- 第25回:テイラー・スウィフトの今までとこれから:過去発言と新作『Lover』
- 第26回:“クイーンの再来”と称されるザ・ストラッツとのインタビュー
- 第27回:新作を控えたMIKA(ミーカ)とのインタビューを振り返って
- 第28回:新曲「Stack It Up」を発売したリアム・ペインとのインタビューを振り返って
- 第29回:オーストラリアから世界へ羽ばたいたINXS(インエクセス)の軌跡
- 第30回:デビュー20周年の復活作『Spectrum』を発売したウエストライフの軌跡を辿る
- 第31回:「The Gift」が結婚式場で流れる曲2年連続2位を記録したBlueとの思い出
- 第32回:アダム・ランバートの歌声がクイーンの音楽を新しい世代に伝えていく
- 第33回:ジャスティン・ビーバーの新作『Changes』発売と初来日時の想い出
- 第34回:ナイル・ホーランが過去のインタビューで語ったことと新作について
- 第35回:ボン・ジョヴィのジョンとリッチー、二人が同じステージに立つことを夢見て
- 第36回:テイク・ザット&ロビー・ウィリアムズによるリモートコンサート
- 第37回:ポール・ウェラー、初来日や英国でのインタビューなどを振り返って
- 第38回:ザ・ヴァンプスが過去のインタビューで語ったことと新作について
- 第39回:セレーナ・ゴメス、BLACKPINKとの新曲と過去に語ったこと
- 第40回:シン・リジィの想い出:フィル、ゲイリーらとのインタビューを振り返って
- 第41回:クイーン+アダム・ランバート『Live Around The World』
- 第42回:【インタビュー】ゲイリー・バーロウ、7年ぶりのソロ作品
今泉圭姫子(いまいずみ・けいこ)
ラジオDJ、音楽評論家、音楽プロデューサー
1978年4月、湯川れい子氏のラジオ番組「全米Top40」のアシスタントDJのオーディションに合格し、この世界に入る。翌年大貫憲章氏とのコンビでラジオ番組「全英Top20」をスタート。以来現在までにラジオDJ以外他にも、テレビやイベント、ライナー執筆など幅広く活動。また、氷室京介のソロ・デビューに際し、チャーリー・セクストンのコーディネーションを行い、「Angel」のLAレコーディングに参加。1988年7月、ジャーナリスト・ビザを取得し、1年間渡英。BBCのDJマーク・グッドイヤーと組み、ロンドン制作による番組DJを担当。
1997年、ラジオ番組制作、企画プロデュースなど活動の場を広げるため、株式会社リフレックスを設立。デュラン・デュランのジョン・テイラーのソロとしてのアジア地域のマネージメントを担当し2枚のアルバムをリリース。日本、台湾ツアーも行う。
現在は、Fm yokohama「Radio HITS Radio」に出演中。
HP:http://keikoimaizumi.com
Twitter:https://twitter.com/radiodjsnoopy
Radio:Fm yokohama「Radio HITS Radio」