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今泉圭姫子連載第21回:『ボヘミアン・ラプソディ』に続くか、モトリー・クルーの伝記映画『The Dirt』
ラジオDJ、ライナー執筆など幅広く活躍されている今泉圭姫子さんの連載「今泉圭姫子のThrow Back to the Future」の第21回。クイーンを描いた映画『ボヘミアン・ラプソディ』が大ヒット中ですが、2019年3月22日にNetflixにてモトリー・クルーの伝記映画『The Dirt』が公開となります。今回は今泉さんに彼らとのインタビューの思い出を振り返っていただきました(これまでのコラム一覧はこちらから)。
映画『ボヘミアン・ラプソディ』の世界的大ヒットは、ロック・スター、ミュージシャンの自伝映画製作に、大きなエールを送ることになりました。今年5月には、エルトン・ジョンの『Rocketman』の公開も控えていて(*海外公開5月31日予定、日本公開未定)、かなりの話題となりそうです。そんな中、本来なら2年前に公開予定だったモトリー・クルーの『The Dirt』が、2019年3月22日にNetflixで公開されることが発表になりました。
モトリー・クルーと言えば、ロサンゼルスをベースに活動していたニッキー・シックス、トミー・リー、ミック・マーズ、ヴィンス・ニールの4人によって、1981年にデビュー。当時から、ドラッグ、アルコール、パーティーといったワイルドなロックンロール・ライフを送るミュージシャンの典型的なイメージがありました。1982年にメジャーのエレクトラと契約し、L.A.メタル・ムーヴメントの立役者となりましたが、パーティー・ライフは変わらず続き、挙句の果てには、1984年にヴィンスの飲酒運転で引き起こした交通事故で、同乗していたハノイ・ロックスのドラマー、ラズルが亡くなるといった悲劇が起こってしまいました。そんなハチャメチャな生活を送っていた彼らですが、ロックン・ロールは、多くの若者に愛されていくことになります。
私が初めて彼らにインタビューしたのは、1986年でした。シンコーミュージックから毎月出版されていた『ロック・ショウ』でのインタビューでした。その頃、スーパーヴァイザーとかそんなエラソーな立場ではなかったのですが、毎月編集会議に参加して、次号の内容を話し合ったり、インタビューアーの決定などに、ニコニコお菓子を食べながら参加していました。編集長の宮崎真理子さんのお声がけだったのですが、フリーランスの私にとって編集会議に出るのはとても楽しみで、真理子さんもおもしろがって呼んでくれてたのでしょうか。ある日の編集会議で、モトリー・クルーの来日があるとのことで、インタビューアーを決めることになりました。私はなんとかニッキー・シックス、トミー・リーにインタビューしたい、と心の中で唱えていましたが、「恵子ちゃんは、ヴィンス・ニールとミック・マーズでお願いします」と。その頃は文句も言えない、おとなしい性格でしたが、ちょっと苦手意識というか、ときめきのないインタビューに愕然(ファンの皆さん、ごめんなさい。当時の若い私の率直な思いです)。編集部のみなさんは、「大丈夫、ミック・マーズいい人だって」と励まされ、奮起させられました。その時の記事を探してもらおうと宮崎さん、シンコーミュージックに問い合わせましたが、その月の号だけ抜けていて保管されていなくて残念です。
インタビューは、愛想のないヴィンスの金ぴか時計が気になり、言葉を発しないミックに四苦八苦。どんなインタビューだったのか内容は忘れてしまいましたが、彼らを目の前にした時の雰囲気は今も憶えています。帰り際、隣の部屋のニッキーのお顔を拝んでホテルを後にしました。ラジオと違って雑誌は言葉を紙面に載せなくてはいけないので、しっかり喋ってもらわないといけないのですが、慣れない私はきっと原稿起こしが大変だったことでしょう。
余談ですが、シンデレラのギター、ジェフ・ラバーにインタビューした時の話。彼は母親が日本人なのですが、日本語が話せません。日本の苗字は野村君です。おばちゃんが住む日本に来て、有頂天だったのか、知ってる単語だけでインタビューに答えたのです。英語でどうぞと言っても「オバアチャン」、「オトーサン」とか。本当に原稿起こしに泣きました。ラジオと雑誌のインタビューの違いは、この頃しっかり学ばせていただきました。
その後、トミー・リーには、メソッズ・オブ・メイヘムのプロモーションの時にインタビューすることができました。とても気さくで、明るくて、キラキラスター感満載でした。トミーは1999年にモトリー・クルーを脱退(2004年に復帰)、メソッズ・オブ・メイヘムとして活動していました。2001年、モトリー・クルーは自叙伝『The Dirt』を発売するのですが、トミーは脱退していたものの、その頃から本の出版には同意していたとのことでした。そうなんです。Netflixで公開になる『The Dirt』は、この自叙伝をベースに制作されました。
そして2004年に紆余曲折を経て、オリジナル・メンバーで復活し活動していました。その後彼らは2014年に記者会見を開き、最後のワールド・ツアーを行うと発表しました。そして約2年間世界中を周り、ツアー納めをしたのです。日本公演は2015年2月に行われました。その時、さいたまスーパーアリーナの楽屋でインタビューをさせていただきました。トミーとミックだったのですが、公演前にもかかわらず、穏やかで、笑いの溢れた時間でした。ミックは長く患っている関節炎で思うように歩けないと関係者から話を聞いていましたが、彼が積極的に話をしてくれたのには驚きでした。とても意味深いことを話してくれています。
——まずはごあいさつを
T:トミー・リーです。
M:ミック・マーズです。モトリー・クルーの良い方の2人です(笑)
——昨日のショウはいかがでしたか?
T:本当に素晴らしかった。「Home Sweet Home」の演奏の時に会場を見渡したら、会場が携帯のライトで埋め尽くされていた。あんな光景を見るのは初めてだったよ。みんなが幸せそうに見えた。
M:これまでやった中で一番の出来だった。
T:ただひとつ。ドラムロールが回りきらなかったのが残念。毎回何度も何度もチェックするんだけど、照明の調整で天井に上がった人がどうも足をひっかけてスイッチをオフしてしまったようなんだ。今日はしっかりチェックしたよ。
——ファイナル・ツアーということですが、このような決断をしたのは?
T:2015年、LAでの大晦日がファイナルなんだけど、突然これでやめようって決めたのではなくて、5年間話し合って決めたんだ。ちょうど2011年のジャパン・ツアーの時に話し合いを始めたんだ。
M:クラブでやるようなバンドに成り下がってからやめるより、今の健康状態で、別れを言うことにしようって決めたんだ。
——ツアーは終わっても、モトリー・クルーが解散というわけではないのですよね?
T:そうだね、バンドのツアーはもうやらないってこと。僕たちには、モトリー・クルー・インクという会社がある。ビジネスとしては動いているからね。
M:他の可能性がないとはいえない。良い曲がかけて、僕がトミーに聞かせて、「Cool、よしやろうよ」ってことになるかもしれない。僕たちは家族のようなものだから、終わるということはないんだ。
T:2017年には「The Dirt」の映画が公開になる。(*15年時点の話)そのための新曲をやるかもしれない。
M:ザ・ビートルズだって『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band」に新曲をいれて再発売したこともあったからね。
T:今の時点で計画はないんだ。ただ、終わるといって何度も戻って来るようなバンドにはなりたくない。それはファンに対してかっこ悪いからね。
ミック・マーズからの”健康”という言葉にシミジミし、トミー・リーの白髪をちらりと見ながら、その時、彼らが出した結論を尊重したいと思ったものです。ツアーを今後やらないというのは、完全体のモトリー・クルーで終わりたいという彼らの強い希望だったわけですから。そしてインタビューでも話していましたが、遂に新曲を完成させました。『The Dirt』には、ボブ・ロックがプロデュースした新曲が4曲使用されるとのことです。映画制作は4人の士気を上げたのでしょうね。映画では、ヴィンス・ニールをダニエル・ウェバー(ドラマ「ザ・パニッシャー」)、トミー・リーをマシン・ガン・ケリー(ラッパー/アーティスト)、ニッキー・シックスをダグラス・ブース(映画『高慢と偏見とゾンビ』)、ミック・マーズをイワン・リオン(ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』)が演じているそうです。
因みに、私はいまだニッキー・シックスにはお会いしたことがありません。(ショボン)
Written By 今泉圭姫子 / インタビュー部分の通訳&撮影 By 染谷和美
今泉圭姫子のThrow Back to the Future』 バックナンバー
- 第1回 :U2『The Joshua Tree』
- 第2回 :バグルス『ラジオ・スターの悲劇』
- 第3回 :ジャパン『Tin Drum』(邦題:錻力の太鼓)
- 第4回 :クイーンとの出会い…
- 第5回:クイーン『世界に捧ぐ』
- 第6回:フレディ・マーキュリーの命日に…
- 第7回:”18 til I Die” ブライアン・アダムスのと想い出
- 第8回:ロキシー・ミュージックとブライアン・フェリー
- 第9回:ヴァレンシアとマイケル・モンロー
- 第10回:ディスコのミュージシャン達
- 第11回:「レディ・プレイヤー1」出演俳優、森崎ウィンさんインタビュー
- 第12回:ガンズ、伝説のマーキーとモンスターズ・オブ・ロックでのライブ
- 第13回:デフ・レパード、当時のロンドン音楽事情やガールとの想い出
- 第14回:ショーン・メンデス、音楽に純粋なトップスターのこれまで
- 第15回:カルチャー・クラブとボーイ・ジョージの時を超えた人気
- 第16回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」公開前に…
- 第17回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」サントラ解説
- 第18回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」解説
- 第19回:クイーンのメンバーに直接尋ねたバンド解散説
- 第20回:『ボヘミアン・ラプソディ』とは違ったクイーン4人のソロ活動
今泉圭姫子(いまいずみ・けいこ)
ラジオDJ、音楽評論家、音楽プロデューサー
1978年4月、湯川れい子氏のラジオ番組「全米Top40」のアシスタントDJのオーディションに合格し、この世界に入る。翌年大貫憲章氏とのコンビでラジオ番組「全英Top20」をスタート。以来現在までにラジオDJ以外他にも、テレビやイベント、ライナー執筆など幅広く活動。また、氷室京介のソロ・デビューに際し、チャーリー・セクストンのコーディネーションを行い、「Angel」のLAレコーディングに参加。1988年7月、ジャーナリスト・ビザを取得し、1年間渡英。BBCのDJマーク・グッドイヤーと組み、ロンドン制作による番組DJを担当。
1997年、ラジオ番組制作、企画プロデュースなど活動の場を広げるため、株式会社リフレックスを設立。デュラン・デュランのジョン・テイラーのソロとしてのアジア地域のマネージメントを担当し2枚のアルバムをリリース。日本、台湾ツアーも行う。
現在は、Fm yokohama「Radio HITS Radio」に出演中。
HP:http://keikoimaizumi.com
Twitter:https://twitter.com/radiodjsnoopy
Radio:Fm yokohama「Radio HITS Radio」