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映画『ボヘミアン・ラプソディ』サントラ解説
ラジオDJ、ライナー執筆など幅広く活躍されている今泉圭姫子さんの連載「今泉圭姫子のThrow Back to the Future」の第17回。今回は映画公開に先立って10月19日に発売となるクイーンを描いた映画「ボヘミアン・ラプソディ」のサウンド・トラックについて。クイーンを追い続けてきた今泉さんにこのサントラの解説を想い出とともに執筆していただきました(これまでのコラム一覧はこちらから)
映画「ボヘミアン・ラプソディ」が間もなく公開になります。俳優陣のインタビューや、予告編がここにきて、より一層公開前の気持ちをワクワクさせてくれます。そして公開に先駆けて、オリジナル・サウンドトラックが発売になります。前回もチラリとご紹介しましたが、このサウンドトラックは、クイーンのベスト・アルバムという作品ではなく、あくまでも映画に沿った楽曲が収録されています。といっても映画を見ていないので、どのように沿っているのかはわからないのですが、収録されている曲のラインナップを見ながら、あのシーンが再現されるのかな、ライヴ・エイドのシーンが核になっているのね、など、今は想像を膨らませながら聴いています。
まずは「20世紀フォックス・ファンファーレ / 20th Century Fox Fanfare」。クイーンの映画が完成したことをあらためて感じます。そして「愛にすべてを / Somebody To Love」。私はこの曲の最初のフレディーの歌声を聴いただけで感極まってしまいます。クイーンの楽曲の中でTop10に入るフェイヴァリッツの1曲。ジョージ・マイケルが追悼コンサートで歌った時は、フレディを偲んでの思いが込められた歌唱だったのがよく伝わってきて、ジョージ・マイケル・ヴァージョンもお気に入りでした。今頃天国で二人は何を話しているんでしょうか?
続いて「Doing All Right」。このサントラの中で、とてもスペシャルな存在の1曲です。クイーンの前身バンドとして知られるスマイルは、ブライアンとロジャーが中心になって結成され、ヴォーカルはティム・スタッフェルです。その3人が50年振りにアビーロードに集合し、「Doing All Right」をレコーディングしました。この曲はスマイルの楽曲の中で唯一クイーン名義で再レコーディングされ、ファースト・アルバムに収録されています。ロジャーの歌声から始まる新バージョンは新鮮だし、ティムがこういう形で参加したことも凄いことだなと感激するのです。
ちなみに、今も売っているのかはわかりませんが、スマイル時代の楽曲は『QUEEN In Nuce』(1995年)に収録されていることも前回ご紹介しましたが、この作品には、クイーン名義でブライアン、ロジャー、フレディー共作「Mad The Swine」、そしてスマイル名義でティム作「Earth」、ブライアンとティム作「April Lady」「Polar Bar」「Step On Me」「Balg」が収録されています。ブライアンの楽曲スタイルの原型がこの数曲を聴くとわかります。映画の中で、「Doing All Right」がどのように紹介されているのか今から楽しみです。ちなみに「Mad The Swine」は1973年の作品ですが、「Headlong」のシングルのカップリングとして、随分経ってからリミックスされています。
初収録となっているのは、ライヴ・イン・パリの「Fat Bottomed Girls」、ロック・イン・リオの「Love Of My Life」、ムーヴィー・ヴァージョンで「We Will Rock You」、そしてライヴ・エイド・ヴァージョンが5曲、またブライアンが新たにギターを入れた「Don’t Stop Me Now… revisited」がオリジナル作品と共に収録されました。この曲は2006年にMcFlyがカバーしヒットしました。トム・フレッチャーがピアノの前に座り弾き語りで歌い始めるMVを見ていると、クイーンが若い世代のアーティストたちに与えた影響力を改めて感じます。
McFly以前にも、Fiveが2000年に「We Will Rock You」をカバーしヒット。当初サンプリングする予定だったのが、その話を聞いたブライアンがギターで参加したというエピソードもありました。考えてみると、クイーンは時代を共に歩んできたアーティストたちとの共演だけでなく、若い世代の音楽ファン、アーティストとの共演を自ら進んで試みていたんだなと思いました。だから、アダム・ランバートを迎え入れることも出来たんだと。
ライヴ・エイド・ヴァージョンは、すでに映像では商品化になっているので、そのステージ上の姿は目に焼き付いていますが、あらためてサントラとして耳にすると、さまざまな思いとともに当時が甦ります。今のようにYouTubeがあるわけではなく、衛星放送が普及していたわけでもない時代。幸運にも地上波での放送があり、必死に生放送を見ていたあの時を思い出し、CMがとんでもないところで入ったりして、見ていてカリカリしていたのも良い思い出です。何かを追求する、何かに食らいついてみる、みるための方法論を調べる、仲間と協力し合う、そんな時代だったから、あの当時の音楽は輝いていたのかもしれません。お手軽なものは何一つなく、大切なものを必死で追い求めていた時代。すべてが宝物です。
映画公開のカウントダウンが、リアルに始まりました。映画を観終わったら、私にどんな感情が溢れ出るのか、正直楽しみではありますが、怖い気持ちもあります。サントラの最後の曲は「The Show Must Go On」。つまり映画でもこの曲が最後の曲ということでしょう。フレディーが苦しみながら、必死に声をしぼってレコーディングし、MVも立つことが精一杯だったのに、そんな姿を見せることなく撮影した最後のアルバム『Innuendo』からの曲です。きっと私は「The Show Must Go On」の歌声が頭から離れず、映画館を出る頃にはヨレヨレになっているかもしれません。それでは映画については来月のコラムでたっぷり書きますね。
Written by 今泉圭姫子
クイーン『Bohemian Rhapsody (The Original Soundtrack)』
2018年10月19日世界同時発売
CD購入はこちら
先着特典:ジャケット絵柄の耐水耐光ステッカー
映画『ボヘミアン・ラプソディ』
2018年11月9日日本全国ロードショー
配給:20世紀フォックス映画
© 2018 Twentieth Century Fox
映画公式サイト
連載『今泉圭姫子のThrow Back to the Future』 バックナンバー
- 第1回 :U2『The Joshua Tree』
- 第2回 :バグルス『ラジオ・スターの悲劇』
- 第3回 :ジャパン『Tin Drum』(邦題:錻力の太鼓)
- 第4回 :クイーンとの出会い…
- 第5回:クイーン『世界に捧ぐ』
- 第6回:フレディ・マーキュリーの命日に…
- 第7回:”18 til I Die” ブライアン・アダムスのと想い出
- 第8回:ロキシー・ミュージックとブライアン・フェリー
- 第9回:ヴァレンシアとマイケル・モンロー
- 第10回:ディスコのミュージシャン達
- 第11回:「レディ・プレイヤー1」出演俳優、森崎ウィンさんインタビュー
- 第12回:ガンズ、伝説のマーキーとモンスターズ・オブ・ロックでのライブ
- 第13回:デフ・レパード、当時のロンドン音楽事情やガールとの想い出
- 第14回:ショーン・メンデス、音楽に純粋なトップスターのこれまで
- 第15回:カルチャー・クラブとボーイ・ジョージの時を超えた人気
- 第16回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」公開前に…
ラジオDJ、音楽評論家、音楽プロデューサー
1978年4月、湯川れい子氏のラジオ番組「全米Top40」のアシスタントDJのオーディションに合格し、この世界に入る。翌年大貫憲章氏とのコンビでラジオ番組「全英Top20」をスタート。以来現在までにラジオDJ以外他にも、テレビやイベント、ライナー執筆など幅広く活動。また、氷室京介のソロ・デビューに際し、チャーリー・セクストンのコーディネーションを行い、「Angel」のLAレコーディングに参加。1988年7月、ジャーナリスト・ビザを取得し、1年間渡英。BBCのDJマーク・グッドイヤーと組み、ロンドン制作による番組DJを担当。
1997年、ラジオ番組制作、企画プロデュースなど活動の場を広げるため、株式会社リフレックスを設立。デュラン・デュランのジョン・テイラーのソロとしてのアジア地域のマネージメントを担当し2枚のアルバムをリリース。日本、台湾ツアーも行う。
現在は、Fm yokohama「Radio HITS Radio」に出演中。
HP:http://keikoimaizumi.com
Twitter:https://twitter.com/radiodjsnoopy
Radio:Fm yokohama「Radio HITS Radio」