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【特別寄稿】セロニアス・モンクの音楽 by 山中千尋
ジャズの巨匠セロニアス・モンクが生誕100周年を迎える今年、
セロニアス・モンクが生まれて、100年になります。セロニアス・モンクが生まれて100年経った現在でも「どうしてセロニアス・モンクの音楽をフィーチャーしようと思いましたか? セロニアス・モンクの音楽は、知る人ぞ知るといった存在ですから」と言われることが何度もあったことに、正直驚きました。
わたしが驚いたのは「モンクの音楽が広く知られていない」と認識されていることではありません。これだけの評価や人気を得ていても「わからない」「知らない」と聴く人に思わせてしまう複雑さと深みが、モンクの音楽にはあることを改めて感じたからです。確かに。モンクの音楽は何度聞いても「今まで一度も聴いたことのない、不思議な曲」に聴こえてくるのです。
ご存知のように、セロニアス・モンクのピアノプレイには独自の語法があります。一音聞いただけでセロニアス・モンクのピアノとわかるような確信に満ちた圧の強いタッチ、ジャズの理論を寄せつけないねじれを持った和声、絡み合うさまざまな不協和音、訥々としたスイング感、いつでも不意を突かれてしまうリズム、合わせ鏡の中にいるように展開されていくモチーフ……。挙げてみればきりがありません。
なぜセロニアス・モンクがこの音を選んで弾いた(もしくは作曲した)のか、その理由はすっぽりと謎に包まれているのですが、セロニアス・モンクが鍵盤上に描き出す音の風景には、神しか創りえることのなかった自然の造形と相似の美しさが横たわっているかのように、彼の音楽を聴く誰をもすんなりと納得させてしまうのです。「これがジャズだ」と。
聴き手に決しておもねるところのない、屹立した個性の持ち主が向かいあっていたのは、鼓動しながら血潮を吹き上げるジャズという音楽の心臓の部分であったことは、セロニアス・モンクの音楽が証明しています。
セロニアス・モンクの音楽を知っていただくために、以下5枚をセレクトしてみました。
◇Monks Music
『Abide With Me 』をはじめに、セロニアス・モンク・ミュージックのおいしいところがぎっしりと1枚につまっています。豪快にスイングするモンクのピアノ・プレイを煽るアート・ブレイキーのドラミング、『Ruby, My Dear』でのコールマン・ホーキンスのソロも白眉。
◇Thelonious Monks Plays Duke Ellington
デューク・エリントンの代表的な楽曲をモンクが演奏したアルバム。予測のつかないモンクのピアノの音の運びも、エリントン楽曲の上で一つの確固とした美として確立しています。リラックスしたい時に聴きたい名盤。
◇Genius Of Modern Music:Vol1
重要なセロニアス・モンクの楽曲が収録されています。ブルース、リズム・チェンジと言った伝統的なコード進行の上でも、ジャズの歴史に残るモンクの個性的なメロディーラインや作曲が際立ちます。
◇Thelonious Alone In San Francisco
左手のストライドの伴奏の上で交差する右手のラインがたたみかけるように歌い上げる『Every Things Happens To Me』や、みずみずしいアレンジが21世紀のジャズピアノスタイルにも通じる『Remember』など、スタンダード曲、モンク楽曲ともに、セロニアス・モンクのソロ・ピアノの美しさを余すところなくとらえた名盤。
◇『Introspection and Retrospection』
今回わたしがコンパイルしたセロニアス・モンクの楽曲コンピレーション『Introspection and Retrospection』では、セロニアス・モンクらしい大胆なリズムや躍動感のあるメロディーラインを持ったものを中心にセレクトしました。子守唄のように何度もくりかえし聴いて、何度もセロニアス・モンクの音楽に出会っていただければ、とても嬉しく思います。また、6月21日にリリースされた『モンク・スタディーズ』では、セロニアス・モンクの音楽をわたしなりに辿りながら、永遠に続く問いのような豊かさに満ちたセロニアス・モンクの音楽の世界観にオマージュして作りました。合わせてお聞きいただければこれにます幸いはありません。
- 山中千尋
セロニアス・モンク / Retrospection and Introspection Compiled by 山中千尋
山中千尋 / モンク・スタディーズ CD&LP
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