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『SING/シング:ネクストステージ』はU2ファン必見の映画。バンドを追い続けてきた編集者が語る理由
現在公開中の映画『SING/シング:ネクストステージ』ではボノが初めて声優をつとめ、劇中ではU2の楽曲が多く使われています。
そんな映画とU2、そしてボノについて、元ロッキング・オン編集長であり、バンドを追い続けてきた宮嵜広司さんに寄稿いただきました。
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大ヒット中の映画
2022年3月18日に日本公開されその週末の興行収入初登場1位にランクイン、現在も大ヒット上映中の劇場版アニメ映画『SING/シング:ネクストステージ』。2017年に日本公開された前作『SING/シング』は最終興行収入51億円を記録、その年の年間ランキングでは洋画・邦画合わせた総合チャートで堂々7位をマークしていたこの人気シリーズの最新作は、不覚にも知人に勧められるまで未見だった。
もちろん、マシュー・マコノヒーをはじめリース・ウィザースプーン、セス・マクファーソン、スカーレット・ヨハンソン、ジョン・C・ライリー、タロン・エガートンといったハリウッドを彩る実力派俳優たちやYouTube発信のSSWトリー・ケリーがボイス・キャストを務め、スティーヴィー・ワンダーの「Faith feat. Ariana Grande」がエンディング・テーマを飾り、フランク・シナトラ、レナード・コーエンの不朽の楽曲からクイーン&デヴィッド・ボウイ「Under Pressure」、ザ・ビートルズ「Golden Slumbers / Carry That Weight」といったロック屈指の名曲、さらにはテイラー・スウィフト「Shake It Off」といった今世紀のメガ・ヒットまで贅沢に散りばめられた前作『SING/シング』が、これまでになかったタイプのポップ・ソング・ミュージカルであり、幅広い世代が楽しめる魅力と誰もが惹き込まれるテーマをもった秀作だということは知られるところ。
その最新作である今作『SING/シング:ネクストステージ』も、ガース・ジェニングス監督をはじめ主要スタッフはそのまま継続。ショーン・メンデス、アリアナ・グランデ、アリシア・キーズ、ジャスティン・ビーバーからプリンスやザ・ウィークエンド、ヤー・ヤー・ヤーズ、コールドプレイ、ザ・ストラッツ、ビリー・アイリッシュにいたるまで選曲センスもさらにグレードアップ、さすが『ミニオンズ』を送り出してきたイルミネーション・エンターテインメントが手掛けたシリーズと唸らせる、すべての音楽ファンが楽しめる作品に仕立て上げられている。
「U2ファン」にとって必見の映画
けれどここであえて暴論を言わせてもらうと、この映画はとりわけ「U2ファン」にとって必見の映画なのだ。というか、U2の音楽で一度でも心を揺さぶられ救われたことのある人なら、この映画でも同じように震わされることは間違いない。この『SING/シング:ネクストステージ』は、さらに暴論を重ねるならザ・ビートルズにとってのアニメ映画『イエロー・サブマリン』のような作品なのだ。
ザ・ビートルズにとってのアニメ映画『イエロー・サブマリン』とは何だったか。そもそもアニメ映画『イエロー・サブマリン』はザ・ビートルズのメンバーはそれほど関わっていない。事前に簡単なテーマだけ聞かされたあとは、メンバー役が声を吹き込んだ、いわば「ザ・ビートルズ以外のスタッフによるザ・ビートルズ作品」だった。
しかし今では誰もが知っているように、アニメ映画『イエロー・サブマリン』は1960年代当時のザ・ビートルズのイメージや考え方、当時隆盛していたユース・カルチャーの息遣いが彼らの楽曲とともに怒涛のように押し寄せてくる、これこそがザ・ビートルズと呼びたくなるような作品だ。
なぜそのようなことが起きたかといえば、アニメ映画『イエロー・サブマリン』はまさにザ・ビートルズとは何かという、その本質を捉えた作品だったからだ。カラフルでサイケデリックな世界の中で抑圧的な支配者を相手にラヴとピースで対抗するという、戯画化されたビートルたちの姿とは、彼らの音楽を浴びその影響を受けたすべての聞き手にとってのまさにザ・ビートルズそのものだったはず。それはまさにバンドが表現していたアティチュードがアニメ映画によって物語に置き換えられ、普遍化されたことによって起きた奇跡だった。
『SING/シング:ネクストステージ』で起きていることも同じことだと思う。
「歌」の本質、力を問う作品
前作『SING/シング』では登場人物がそれぞれの人生で岐路に立ったとき、いかに「歌」がその背中を押してくれるかを描いていた。それは「歌」がまさに人の心に火を点けてくれる不思議なエネルギーをもった何かであることを怯むことなく示す作品だった。
今作『SING/シング:ネクストステージ』はよりもっと「歌」の本質、力を問うている。最愛の人を失った哀しみによって閉ざされた心を、「歌」がいかに癒やしその悲劇の後も続く人生に寄り添えるか――。
『SING/シング:ネクストステージ』で重要なキャストとなる「クレイ・キャロウェイ」のボイス・キャストをU2のボノが初挑戦している。ボノの特徴あるしわがれ声で表現されたその役柄はかつて世界中にその名を轟かせたロック・スターであり、現在は最愛の妻を失ったことで世捨て人となり歌うことすらできなくなった人物である。「歌」の凄さを誰よりも知っていたであろう彼ですら、最大の悲劇の前ではむしろ「歌」はつらく忌むべきものとなっていた。
映画はクレイ・キャロウェイがいかに「歌」によって再生されるかがテーマだ。「歌」は人生を応援するだけじゃなく、人がいちばんつらく無力に覆われたときでも力になれるのか――。
歩み寄って捧げる「歌」
U2のファンなら思い出せるだろう。故郷の通りが血で覆われたとき、アフリカの大地で痩せこけた人々に囲まれたとき、中南米で強いられた争いに無益な死が捧げられていたとき、東ヨーロッパで非道な戦いが民族を引き裂いたとき、世界有数の摩天楼が白煙を上げながら崩れ落ちたとき。たった今も黒海を望む美しい国で最愛の人が失われているそんなさまざまな哀しみの場所に、U2はいつも歩み寄って「歌」を捧げてきたことを。U2がいかに「歌」を大事にし、そのステージでは大合唱を巻き起こすオーディエンスを常に讃えてきたことを。
『SING/シング:ネクストステージ』では、あふれるほどの名曲の中、U2の描いてきた楽曲が3曲(「Stuck In A Moment You Can’t Get Out Of」「I Still Haven’t Found What I’m Looking For」「Where the Streets Have No Name」)歌われる場面がある。そのどのシーンもエモーショナルで、この映画のテーマとU2がずっと訴えてきたことが共鳴していた。「歌」のもつ何かへの、それは信頼のようなものだった。結果的に『SING/シング:ネクストステージ』は、その「歌」への揺るぎない信頼の中にU2の「歌」を置くことで、U2というバンドが何であるかも鮮やかに浮き彫りにしていた。この映画がU2にとっての『イエロー・サブマリン』だというのはそういうことである。
映画のエンディング・テーマは書き下ろしのU2の新曲。彼らにとって2年ぶりの新しい「歌」のタイトルは「Your Song Saved My Life」である。多くの音楽ファンにとって、おそらくは自分を救ってくれた「歌」がひとつやふたつあるのではないだろうか。「歌」がそんな力を持つことを、『SING/シング:ネクストステージ』とU2は思い出させてくれる。音楽ファンにとっては、当たり前のことかもしれないけど、いや、ほんとうに奇跡のようなことなんだと今あらためて思うのである。
監督ガース・ジェニングスはMV畑出身
なお、まったくの余談にはなるが、2作とも監督を務めている英国人監督ガース・ジェニングスはミュージック・ビデオ監督としてのキャリアも有名で、1990年代にはブラーの「Coffee & TV」、ファットボーイ・スリムの「Right Here, Right Now」といったブリットポップのキーイメージとなるミュージック・ビデオを撮っていたり、R.E.M.やベック、ヴァンパイア・ウィークエンドらとも仕事をしてきた人物。
そうしたミュージック・ビデオの中でももっとも知られているのはおそらくレディオヘッド「Lotus Flower」だろう。トム・ヨークがコンテンポラリー風ダンスを披露して当時話題となったこのモノクローム・クリップは第54回グラミー賞の最優秀ミュージック・ビデオ部門にノミネートされている(他にもレディオヘッドでは「Nude」、トム・ヨーク参加のアトムス・フォー・ピースでは「Ingenue」も手掛けているのだが、基本的にどのビデオでもトム・ヨークが踊らされている(?)のが面白い)。
ちなみに、主人公バスター・ムーンの助手であるイグアナ=ミス・クローリーの声を担当しているのは、ガース・ジェニングス監督その人である。
Written By 宮嵜 広司
U2の久しぶりの新曲も収録
『シング:ネクストステージ – オリジナル・サウンドトラック』
(原題:Sing 2 Original Motion Picture Soundtrack)
2021年12月17日輸入盤/配信発売
国内盤:2022年3月18日発売
国内盤CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music
『SING/シング:ネクストステージ』
2022年3月18日日本公開
イルミネーション・エンターテインメントの大ヒット作がスケールアップし、日本中へ最高のミュージック・エールを届ける!
映画日本公式サイト:http://sing-movie.jp/
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