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サマラ・ジョイ来日公演ライヴ・レポ:熱気と歓声にあふれた圧巻のライヴ・パフォーマンス

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Photo by Takuo Sato

2025年2月13日、サマラ・ジョイ(Samara Joy)の来日公演がすみだトリフォニーホールにて行われた。この公演のライブレポートが到着。音楽評論家の原田和典さんによる寄稿です。

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ソールドアウトの初公演とバンドメンバー

3年連続でグラミー賞に輝くジャズ・ヴォーカル・センセーション、サマラ・ジョイが会心のステージを繰り広げた。2023年3月に一夜限りのショウケース・イベントをおこなったことがあるものの、一般の来日公演は今回が初めて。

2月11日の「ブルーノート東京」、13日の「すみだトリフォニーホール」、14日の「高崎芸術劇場」公演はいずれも即ソールド・アウトとなり、彼女への注目度の高さ、もっとラフにいえば「是が非でもサマラのライヴを聴きたい! 歌声を味わいたい!」というファンのとてつもなく大きな熱意が示された。なかでも、あの広いトリフォニーホールを満員御礼にしたのは文字通りの快挙であろう。

大きなステージの中央に演奏者たちが半円を描くように集まり、その前でサマラが歌唱を繰り広げる。バンド・メンバーは以下の通り。

・ジェイソン・チャロス(トランペット)
・ドノヴァン・オースティン(トロンボーン)
・デヴィッド・メイソン(アルト・サックス、フルート)
・ケンドリック・マカリスター(テナー・サックス)
・コナー・ローラー(ピアノ)
・ポール・シキヴィー(ベース)
・エヴァン・シャーマン(ドラムス)

あえて列挙したのは、今後メキメキと名をあげていくこと疑いなしの精鋭ばかりだからだ。クリフォード・ブラウンのレアな10インチLPのタイトルをもじっていえば、“ニュー・スターズ・オン・ザ・ホライズン”といったところか。全員がツボを得たソリストであるとともに、編曲面ではケンドリックとドノヴァンが特に才能を発揮、その音の重ね方も大きな聴きものだった。

たとえば、トランペット、トロンボーン、2本のサックスが鮮やかな“ソリ”(複数の奏者が同一の旋律を同時に演奏すること)をおこない、サマラもトランペットより上の音域でスキャットを乗せる。このあたり、彼女が「このバンドでの私の声は5番目の管楽器でもある」という言葉を裏付けるものだ。

さらに、場面によってはポールが弓弾きによるロング・トーンを「6番目の管楽器」よろしく、テナー・サックスのさらに下の音域で奏でる。8人でいかに実り豊かで広範囲な響きを出してゆくか、歌と伴奏の境を越えて一体化していくか。結成以来、彼らは話し合い、アイディアを練りあい、実践を続けながら現在に至ったに違いないのだ。

 

資質と鍛錬の見事な合算によるセットリスト

セットリストは、数か月前に発売されたアルバム『Portrait』からのものが全体の3分の1ほどを占め、ほか、音源としての登場が待たれるレパートリーもたっぷり披露された。ほぼ1曲ごとにサマラがタイトル、アレンジャー、コンポーザーを紹介したのも実に親切な趣向だ。それにしても、サン・ラーやチャールズ・ミンガスの楽曲が「すみだトリフォニーホール」で鳴らされた前例があっただろうか。新作発売時のインタビューで、私はサマラにこれら選曲の意図を尋ねたことがある。

「バンド・メンバーが教えてくれた。誰もがジャズに詳しく、ジャズを愛している。だからとても刺激になる。新しく物事を知るのは大きな喜びだし、この素晴らしい曲たちをぜひ自分で表現したいと思った」——そんな答えが返ってきた。

サン・ラー作の「Dreams Come True」(サマラとケンドリックが共作した「Peace of Mind」とのメドレーとして歌唱)にはもともと歌詞がついていたが、ミンガス作「Reincarnation Of A Lovebird(ラヴバードの蘇生)」はインストゥルメンタル・ナンバーとして書かれたのでサマラ自身が作詞した。半音階を多用した、うねるような旋律を、メリハリたっぷりに、しかも明瞭なディクション(発音)で届けることができるのは、資質と鍛錬の見事な合算だ。

サマラはこの夜、セロニアス・モンク作「San Francisco Holiday (Worry Later)」やベニー・ゴルソン作「Little Karin」といった、残念ながら彼らの偉業の中では過小評価されていると言わざるを得ない旋律にも詞をつけて歌った。さらにステージ後半では、ビリー・ホリデイが作詞、マル・ウォルドロンが作曲した「Left Alone」に光を当てる。

アビー・リンカーン、テリ・ソーントン、スウェーデンのモニカ・ゼタールンドなどがそれぞれの持ち味で名唱を残しているが、サマラはまず無伴奏で歌い、その後、やけにひんやりした管楽器の響き(ブッカー・リトルの編曲法を思い起こさせる)を得て堂々たるバラード・シンギングをホールに充満させた。

本編のラストを飾った「No More Blues」は、「Chega de Saudade」という原題を持つアントニオ・カルロス・ジョビンの古典。サマラは(おそらく1960年代に)ジョン・ヘンドリックスが書いた英語詞を用いていたはずだ。『Portrait』にも6分近い熱演が収められていたが、すみだのそれは、さらに時間をかけて、深く、濃く展開された。

口とマイクの距離を絶妙にコントロールしながら歌い始め、そこにバンドが入りこんでドライヴ感が増したと思いきや、その次の展開はワン・コーラス分、歌とドラムとのデュオになる。この曲はワン・コーラス68小節といういささかアンユージュアルなもので、しかも長調や短調が美しく入り乱れる。

彼女の頭の中にコード(和音)の展開が完全に入り込んでいるからこそ可能な離れ業であろう。このドラムとのデュオから、バンド全員の合奏に戻ってゆくタイミングがまた絶妙。「これで終わりか、ひたすらすごいな」と思ったら、今度は“逆循環”のパターンに乗って、実に奔放なスキャットを始めて、また新たなクライマックスが生み出されていく。

スターが持っている華、ニューヨーク・タイムズがいみじくも評した「カスタードのようにリッチな歌声」と、あまりにも自然発生的な節回しが一体化して、そこにライヴの熱気~オーディエンスの反応が加われば、その先にやってくるのは音楽の悦楽しかない!

盛大なスタンディング・オヴェイション、鳴りやまぬ拍手と声援、すべてのミュージシャンの爽快な笑顔。2025年度の圧巻のライヴ・パフォーマンスに、もう出会ってしまった喜びをかみしめている。

Samara Joy – No More Blues (Live on the TODAY Show)

Written by 原田和典 / Photo by Takuo Sato



サマラ・ジョイ『Portrait』
2024年10月11日発売
CD&LP / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



 

 

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