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アヴィーチー『True』&『True: Avicii by Avicii』解説:EDMの傑作とそのREMIXが示すビジョン

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2025年5月16日にアヴィーチー(Avicii)初のベスト・アルバム『Avicii Forever』が発売されることが発表となった。これを記念して、ポップ・カルチャー・ジャーナリストのJun Fukunagaさんに改めてアヴィーチーとはどういった存在だったのか解説いただきました。

また公式サイトではこのアルバムの発売を記念して、楽曲人気投票が実際されている。

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“異質”だった音楽性のアルバム

2011年のシングル「Levels」の成功により、EDMシーンのライジングスターとなったアヴィーチーだが、彼を不動のスーパースターDJという地位にまで押し上げたのが2013年にリリースされたデビューアルバム『True』だ。

その中でもアルバムを象徴するリードシングル「Wake Me Up」は、当時の主流であったビッグルームハウスとは一線を画す、ダンスミュージックとフォーク、ブルーグラス、カントリーなどのアメリカの伝統音楽を融合させた独創的なサウンドで知られる。

【和訳MV】Avicii – Wake Me Up / アヴィーチー – ウェイク・ミー・アップ

『True』で示されたこのような当時のEDMシーンでは異質とも言える音楽性は、当初賛否両論を巻き起こしたものの、すぐにその評価は賞賛へと向かう。アルバムからは「Wake Me Up」のほか、「Hey Brother」や「Addicted You」、「You Make Me」といったヒット曲も生まれ、同作はビルボードのアルバムチャートで5位、イギリスのアルバムチャートでは2位を記録。さらにアヴィーチーの本国であるスウェーデンやオーストラリアを含む複数の国々で1位を獲得するなど、大きな商業的成功を収めた。

『True』は、Netflixのドキュメンタリー『アヴィーチー: アイム・ティム』(原題:Avicii – I’m Tim)でも見られるように、急激なキャリアアップによる過密スケジュールとアルコール依存により入院を余儀なくされるなど、精神的にも肉体的にも苦境に立たされていた時期にアヴィーチーがうちなる自分の声に耳を傾け、「時代を超越する音楽を作りたい」という想いから制作がスタートした作品だ。

 

革新的だったアプローチ

米ビルボードでの元ユニバーサル ミュージックノルディック社長パー・スンディンのインタビューによると、当時のEDMシーンでは、プロデューサーがまずインストトラックを制作し、それをクラブで観客の反応を見た後、好評だった楽曲にのみボーカルやメロディーを付けるという効率重視の制作手法が重視されていた。しかし、アヴィーチーは、そうした単発のヒット曲を狙う手法を否定。一つのアーティストとしてのビジョンを持ったアルバムを作ることにこだわった。

その中で注目すべきは、複数の作家・アーティストが相互に影響を与え合いながら楽曲を作り上げていくコライト形式を採用した点だ。参加アーティストを見渡すとヒップホップレーベル「Stones Throw」出身のアロー・ブラック、ロックバンド・インキュバスのギターリストのマイク・アインジガー、ディスコミュージックの重鎮ナイル・ロジャース、クイーンのツアーボーカルとして知られるシンガーのアダム・ランバート、スウェーデンのソウル/ポップシンガー、セーラム・アル・ファキル、のちに「Lean On」のヒットでEDMの歌姫となるシンガーソングライターのムー、またフォーク、ブルーグラス、カントリーシーンからはダン・ティミンスキーマック・デイヴィスオードラ・メイというように参加アーティストのバックグラウンドは実に多彩だ。

今でこそ、ダンスミュージックの分野でもこうしたコライト形式による音楽制作は珍しくないが、まだダンスミュージック・アーティストが1人で楽曲するのが常識とされていた当時のことを思うと、このアプローチは非常に革新的だった。

このような制作プロセスから生まれた『True』の音楽的特徴は、まず、先述したダンスミュージックとフォーク、ブルーグラス、カントリーなどのアメリカの伝統音楽を融合させた独創的なサウンドにある。これは「Wake Me Up」や「Hey Brother」といったアルバムを代表する楽曲に見られる要素であり、『True』以降のアヴィーチーの音楽性を語る上で外せない要素となっていることはよく知られている。

しかし、『True』の真の魅力は、フォーク、ブルーグラス、カントリーの要素だけにとどまらない、より多彩な音楽性との融合だと筆者は考える。例えば、”EDMとカントリーの融合”の典型とも言える「Hey Brother」だが、そのフックのソウルフルなホーンの響きはゴスペルやR&Bの影響を感じさせる。

Avicii – Hey Brother

また、フォーキーなイントロから始まる「Addicted to You」のボーカルは、フォークのそれというより、アデルやエイミー・ワインハウスを彷彿とさせるソウルフルなボーカルとして機能している。この独特なボーカルにより、同曲はよくある90年代風ディーヴァ・ハウスのものとも違う、アヴィーチー流のボーカルハウスという印象を聴き手に与える。

Avicii – Addicted To You

さらには70年代のサイケデリックロックを思わせる独特なハモンドオルガンやブルージーなピアノをダンス・ポップに落とし込んだ「Liar Liar」、ジャズの影響を感じさせるリズミカルなピアノとダフト・パンクを彷彿とさせるボーコーダーボーカルによりフューチャーレトロ感のあるダンスミュージックに仕上げられた「Shame on Me」、ナイル・ロジャースのファンキーなギターリフと煌びやなシンセリフが印象的なディスコポップ「Lay Me Down」といったように『True』の収録曲には実にさまざまな音楽の要素が散りばめられている。

Avicii – Lay Me Down

もちろん、このような音楽性にアルバム全体を仕上げるための設計図を書いたのは、アヴィーチー本人だ。しかし、彼が思い描くアーティスティックなビジョンの実現にはこのような熟練の演奏スキルや感情豊かなボーカルを提供する才能あるアーティストの協力は不可欠だったに違いない。

そのことはドキュメンタリーで描かれるスタジオでのレコーディング風景で、アヴィーチーがアロー・ブラックのボーカルテイクに的確な指示を出したり、ナイル・ロジャースとメロディーラインを練り上げたりするシーンからもうかがえる。そう考えると『True』はアーティストとしてのアヴィーチーの才能だけでなく、音楽プロデューサーとしての非凡さを同時に知らしめた作品と言えるだろう。

 

自らリミックスした『True : Avicii by Avicii』

一方で同作のリミックスアルバム『True : Avicii by Avicii』の存在も興味深い。2014年にリリースされたこのリミックスアルバムは、タイトルどおり、オリジナル『True』収録曲9曲をアヴィーチー自らリミックスしたセルフリミックス集だ。

同作の特徴は、原曲に見られる生音とエレクトリックなサウンドを融合させた”フォーキーなEDMサウンド”とは打って変わって、多くの収録曲がピークタイムのダンスフロア仕様に再構築されている点だ。

“EDMとカントリーの融合”の典型のひとつである「Wake Me Up」は、原曲のアコースティックギターが鳴りを潜める代わりに新たにエレキギターを取り入れた派手なギターソロフレーズが加わえられているほか、原曲よりも全体的にシンセが際立つ内容になったことで「Levels」を彷彿とさせる。

Avicii – Wake Me Up (Avicii By Avicii)

また「Hey Brother」にしてもイントロこそ原曲のムードを醸し出しているが、メインのパートはヘヴィなディストーションによる歪んだエレクトロハウス風のベースラインが印象的だ。また、「Addicted to You」と「Liar Liar」はループする煌びやかなシンセが耳に残る派手さのあるエレクトロハウスに再構築されている。

Avicii – Hey Brother (Avicii By Avicii)

さらに原曲のディスコポップからプログレッシブハウスへと変貌を遂げた「Lay Me Down」や、のちにEDMシーンを席巻するトロピカルハウスのプロトタイプのような「Dear Boy」、原曲から大胆にテンポを落とし、ブルージーかつグリッチなブレイクビーツに再構築した「Shame On Me」といったリミックスも収録されている。

Shame On Me (Avicii By Avicii)

このようなリミックスアプローチは、EDMの次なるかたちを提示したオリジナル『True』とはまた違った従来のEDMというフォーマットの中でアヴィーチーのビジョンの実現を試みたものと捉えられなくはない。その意味では、邪推だということは理解しつつも「Levels」以降に存在したかもしれない『True』のアナザーストーリー的な作品と筆者自身は考えている。

EDM、ひいてはダンスミュージックの新境地を切り開いた歴史的傑作『True』とそのもうひとつの可能性である『True : Avicii by Avicii』。あえてそうした視点でこれらの作品を合わせて聴くこともリリースから10年以上が経った2025年ならではの楽しみ方ではないだろうか?

Written by Jun Fukunaga



アヴィーチー『True』
2013年9月13日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music


アヴィーチー『True : Avicii by Avicii』
2014年3月24日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music


アヴィーチー「Avicii Forever」
2025年5月16日発売
CD&LP / iTunes Store / Apple Music / Spotify



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