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【現地レポート】インタースコープ30周年記念、L.A.で開催された新作インスパイア・アートの展示会

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Photo by Keiko Tsukada

米大手レコードレーベル、インタースコープ・レコーズ(Interscope Records)が、2022年1月13日に30周年を迎え、これを記念して、ロサンゼルス・カウンティ美術館(LACMA)にて、「Artists Inspired by Music: Interscope Reimagined」と題した展覧会が2022年1月30日から2月13日まで開催された。

インタースコープから発売されたアルバムや楽曲からインスパイアされて制作された50点以上の新作アート作品の展示会についてL.A.在住のヒップホップジャーナリスト、塚田桂子さんによるレポートを掲載。

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ARTISTS INSPIRED BY MUSIC : INTERSCOPE REIMAGINED AT LACMA

数多くのスーパースターを世に送り出してきた米大手レーベル、インタースコープ・レコーズが今年1月に30周年を迎え、今注目のビジュアルアーティストたちが同レーベルの名曲、名盤にインスパイアされた新作アートを発表した。その展覧会が、「Artists Inspired by Music: Interscope Reimagined」と題して、ロサンゼルス・カウンティ美術館(LACMA:ラクマ)にて1月30日から2月13日まで行われた。会場には、インタースコープの設立者であるジミー・アイオヴァインを始め、アートのモデルとなったビリー・アイリッシュやラナ・デル・レイ、ザ・ゲームらも足を運んだ。

ラクマが位置するエリアはミラクル・マイルと呼ばれ、いろいろな美術館や博物館が集まっており、ここ数年、この界隈では大規模な改築工事が行われてきた。すぐ隣ではアカデミー映画ミュージアムがオープンしたばかりで、その一環として新しく建設されたガラスドームの高台からは、ハリウッドサインなどのLAの景色が一望できるため、ロサンジェリーノたちの人気を呼んでいる。アカデミー映画ミュージアムの向かい側には、数年前にデザインを一新したピーターセン自動車博物館も立ち並んでいる。(ここで1997年に行われたソウル・トレイン・アワーズを後にした直後に、ノトーリアス・B.I.G.がすぐ近くで銃殺されている。R.I.P.)

今回の展示会は、ラクマの数ある展示館の中のひとつ、レズニック・パヴィリオンで行われ、入り口ではレディー・ガガの巨大な肖像画ポスターが訪問者を迎え入れていた。他の展示会場に比べると比較的小さな箱ではあったが、4枚の壁にはカラフルな新作アートが所狭しと並べられていた。ビジュアルアーティストが表現したパフォーマンスアートの世界は実に新鮮で、何度回っても見飽きず、見る度にまた新たな発見ができるものが多かった。また、今話題のNFTの作品(N.E.R.D.とティンバーランドの作品)が含まれていたことも目新しい試みだった。

2月は黒人歴史月間ということもあってか、インタースコープ展のすぐ隣には「ブラック・アメリカンの肖像画(Black American Portraits)」という展示会も行われており、マントに身を包んだチャドウィック・ボーズマンや、公民権運動の指導者で下院議員のジョン・ルイス、カマラ・ハリス副大統領やバスキアの肖像写真など、様々な作品が展示されていた。

ブラック・アメリカンの肖像画の一部

今回の展示会を記念して、インタースコープ30周年記念のカタログが販売されたのだが、残念ながら訪れた日は売り切れでチェックすることができず。しかし今回展示された作品を新たなアルバムジャケットにし、そこにオリジナルのヴァイナルを挿入した限定版が各100セットずつ、NTMRKというライブストリーム・アプリで売り出された。グッチのカスタム・パッケージに包まれた各作品は、2500ドル(約28万6千円)というプレミアムなお値段で販売されたようだ。

この日は、インタースコープ展以外にもいろいろな展示会が行われていたこともあってか、家族連れから若いカップル、ご年配の方まで様々だったが、中でも20代から40代が比較的多く、人種も黒人、アジア系、ラティーノ、白人と、LAの多様性を象徴する客層となっていた。

村上隆がオリジナルをよりポップに仕上げたジュース・ワールド(R.I.P.)の『Goodbye & Good Riddance』や、アモアコ・ボフォアがブラック(6lack)の切なげな表情を描いた『Free 6lack』、スヌープ・ドッグの『Doggystyle』をまったく異なるアングルから表現したカウズの作品など、どの作品にもユニークな個性や解釈が垣間見れて興味深かった。その中でも、わたしがぐっときた作品5点を紹介したい。

 

1. エミネム「Entire Catalogue」/ ダミアン・ハースト

会場に入ってまず視界に飛び込んできたのが、イギリスを代表する現代美術家ダミアン・ハーストが描いた、エミネム歴代のアルバムジャケットを主軸にした三部作「Entire Catalogue」(全作品の意)だ。中でも先頭(左)を飾る作品は、エミネムのデビュー当時を思い起こさせるような衝撃を感じた。

医者のオフィスによくあるガラスの戸棚の中に収められた歴代のアルバムの前には、アスピリンのような誰でも薬局で買える鎮痛剤だけでなく、医者に処方してもらわないと手に入らないような劇薬(モルヒネ経口錠剤、咳止め薬、鎮痛薬、緩和精神安定薬、不眠薬等)が所狭しと並べられていて、思わずギョッとする。エミネムがドラッグ(薬剤)中毒に陥っていたことは、過去のアルバムタイトルも物語っているが(『Relapse(再発)』(2009)、『Recovery(回復)』(2010))、この作品はアメリカ社会の現実を反映したようで、あまりにリアルで圧倒的だ。

エミネムは4年に渡って鎮痛剤への依存症に苦しみ、2008年にはリハビリプログラムに入って中毒を克服している。よって、このアート作品が示唆するように、必ずしもすべての作品の制作過程で中毒に陥っていたわけではないだろうが、ドラッグが彼の命を奪いかねない程影響を及ぼしたことは確かだ。オーバードースによって他界するセレブの悲報が後を絶たない中、エミネムが克服、復活できたことに、あらためて感謝した瞬間だった。

 

2. 2パック「The Don Killuminati: The 7 Day Theory」/ ニーナ・シャネル・アブニー

2パックがマキャヴェリに改名し、死後にリリースされた最初のアルバム『The Don Killuminati: The 7 Day Theory』、または『Makaveli』として知られるアルバムカバーにインスパイアされたのは、人種、性、ポップカルチャー、同性愛嫌悪、政治などのテーマを、鮮やかな色使いと、切り絵のようなスタイルで表現するニーナ・シャネル・アブニーだ。

一見、オリジナルのアルバムカバーに忠実に表現しているように見えるが、アルバムリリースから25年後に描かれた本作では、平和を象徴する白い鳩、イエス・キリストを模倣して物議を呼んだ、十字架にはりつけられた2パックの体に加え、2パックの死を悲しむ黒人と白人、足元に転がる頭蓋骨の数々がニーナ独自の解釈で描かれている。

黒人と白人が身を包む服に描かれたXは、1965~1980年に生まれたジェネレーションX(ヒップホップ世代)を意味しているのだろうか?  2パックの体から流れる赤い血は白人の目から涙のように流れ、黒人の目からは2パックと同じように青い涙が流れているが、これは黒人の悲しみと抑圧者としての白人の立ち位置を示唆しているのだろうか?

2パックの体に刻まれた「THUG LIFE(the hate u gave lil infants fucks everyone:小さな子供に与えた憎しみは、いずれ戻ってくる)」のタトゥーの上に描かれた、黒人の団結を意味する50(アメリカ50州を意味するそう)からは、オリジナルのタトゥーにあったAK-47自動小銃が省かれている。2パックの肩に描かれた$マークに込められた意味とは? そんなことを考えながら、しばらくはこの作品の前から離れることができなかった。2Pac lives forever…within us.

 

3. ビリー・アイリッシュ『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』/ アナ・パーク

横長に大きく広がる動的なモノトーン、ある種のカオスを感じさせるこの作品は、一瞬ピカソの「ゲルニカ」を思い起こさせる。韓国生まれ、アメリカはユタ州で育ったというアナ・パークは、木炭を使って繊細かつドラマティック、時に暴力的に独自の世界観をキャンヴァスに描き出す。暗い部屋でベッドに腰かけるビリー・アイリッシュが不気味な笑みを浮かべるデビューアルバム『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』から、アナは何を感じ取ったのだろうか?

ティーポットから注がれる紅茶、そこから飛び出す光やブーケ、手品のマジックによるサプライズが繰り広げられるお茶会のような、現実離れした夢の中の世界を描いているアナの作品は、ビリーのアルバムタイトル「眠りに落ちたら、わたし(僕)たちどこに行くの?」に対するアンサーアートのように見える。実際のビリーは、シネスシージア(共感覚:文字や数字、音やイメージに色がついて見える)を持っているそうで、そんなことを考えながらあらためて彼女の音楽を聴いたり、この絵画を見詰めてみると、モノクロの世界がカラフルに飛び出してくるような錯覚を起こしてくるから不思議だ。

 

4. ドクター・ドレー『2001』/ ケヒンデ・ワイリー

今回の展示会の中心的な作品であり、50点以上の作品の中でも最も際立っていたのが、騎士の鎧を身にまとって剣を持ち、堂々たる風格を備えた英雄的なドクター・ドレーの肖像画だ。90年代にソロデビュー作や続編でインタースコープを有名にし、その後もインタースコープの設立者であるジミー・アイオヴァインと長年ビジネスパートナーとして音楽業界で闘ってきたドレーだけに、この作品からもその重みがひしひしと感じられる。

この作品を描いたケヒンデ・ワイリーは、アフリカ系アメリカ人の肖像画を描くことで知られる著名な肖像画家、彫刻家だ。なかでもスメソニアン国立肖像画美術館に展示するために彼が描いたオバマ大統領の肖像画(インタースコープ展の直前にラクマに展示されていたばかり)が、非常に注目を浴びた。

ケヒンデは、有名人から名もない市井の人々まで、黒人の表情を非常にドラマチック、かつ凛々しく描ことで知られ、その作風は一度目にすると脳裏に焼きつく力強さがある。中でもヒップホップ世代のカジュアルな服装を身にまとう今時の若者が、実に艶やかに描かれる様が、また印象的なのだ。

ある美術評論家はケヒンデ・ワイリーの作風を、「主に権力、地位、威厳を持つ白人が描かれてきたヨーロッパの17世紀、18世紀の古典的な肖像画を振り返り、そのフレームの中の主人公を市井の黒人男女に差し替えることで、アメリカ社会から重要視されていない彼らに相応しい人間性、威厳を与えている」と説明する。なるほど、どこか懐かしいようでいて新しい作風の背景には、そのような想いが込められていたのか。

この作品は、ドレーのソロ2作目にあたる『2001』を再解釈したものだが、『2001』といえば、彼が総指揮を執り、世界中の話題をかっさらった2月13日のハーフタイムショウ、「Still D.R.E.」、「The Next Episode」のパフォーマンスも記憶に新しい。ケヒンデのこの作品からは、あの会場で起こったマジックに似た輝きを感じることができるのだ。(しかし肖像画の背景の緑の葉っぱがウィードに見えてしまうのは、気のせいだろうか…)

 

5. ケンドリック・ラマー『good kid, m.A.A.d city』/ ラシード・ジョンソン

5作展示されていたケンドリック・ラマーの作品の中でも特に印象的だったのが、様々なスタイルのコンセプチュアルアートの作品で知られるラシード・ジョンソンが描いた、『good kid, m.A.A.d city』だ。本作でも見られる、絵画と陶磁器タイルで描くモザイクを組み合わせたコラージュは、ここ数年彼が取り組んでいるスタイルだ。

近くで見ると実に抽象的な作品に見えるのだが、何歩か下がって全体像を見てみると、思わずそのディテイルに驚かされる。中心にはタイルで描かれた、四角い顔と大きな目の人物。さらに詳細を見てみると、銃撃を思わせるようなひびの入った鏡(またはガラス)、そして黒、青、赤のペイントが全体に散りばめられている。これはまさに、ケンドリックが生まれ育ったコンプトンを象徴するストリートギャング、ブラッズ(赤)とクリップス(青)の存在であり、黒いペイントはおそらく黒人を意味したものではないかと、はたと気づくのだ。そしてこれは、暴力に囲まれたコンプトンに生きるグッド・キッド、ケンドリックそのものであることに思い至る。

第一印象では「カオス」の印象を与えるが、人物像やラインを描くタイルが、ケンドリックが必死で保った「秩序」をリプレゼントしているようにも感じられる。見れば見るほど、ラシードが込めたと思われるテーマのディテイルがひとつひとつ浮かび上がってきて、非常に力強く、抽象アートの醍醐味を堪能できる作品だ。

 

アートは受け手次第で幾通りの解釈もできるものだが、特に自分の大好きなアーティストの大好きなアルバムについて描かれたアートには、作り手と受け手の意識が交差するコミュニケーションが生まれるように感じられる。芸術がこの世を模倣しているのか。それとも、この世が芸術を模倣しているのか。そんなことを考えながら、2年以上ぶりの美術館でのアート鑑賞をじっくり楽しませていただいた。

Photo & Written By 塚田桂子

1枚目の壁

2枚目の壁

3枚目の壁

4枚目の壁

NFTの作品(N.E.R.D.とティンバーランド)

美術館外観

美術館正面のオブジェクト

美術館からの展望の様子

 

全展示作品

2Pac – All Eyez On Me / Ed Ruscha
2Pac – Me Against The World / Umar Rashid
2Pac – The Don Killuminati: The 7 Day Theory / Nina Chanel Abney
50 Cent – Get Rich or Die Tryin’ / Sayre Gomez
6LACK – FREE 6LACK / Amoako Boafo
Billie Eilish – dont smile at me / Cecily Brown
Billie Eilish – Happier Than Ever / Lisa Yuskavage
Billie Eilish – When We All Fall Asleep Where Do We Go? / Anna Park
Black Eyed Peas – The E.N.D. / OSGEMEOS
BLACKPINK – THE ALBUM / Jennifer Guidi
Blackstreet – “No Diggity” / Ferrari Sheppard
Snoop Dogg – Doggystyle / KAWS
Dr. Dre – The Chronic / Adam Pendleton
Dr. Dre – 2001 / Kehinde Wiley
Eminem – Entire Catalogue / Damien Hirst
Eve – Scorpion / Titus Kaphar
Gwen Stefani – Love. Angel. Music. Baby. (“Cool”) / Issy Wood
Gwen Stefani – The Sweet Escape / Anna Weyant
Helmet – Meantime / Will Boone
Juice WRLD – Goodbye and Good Riddance / Takashi Murakami
Kendrick Lamar – DAMN. / Toyin Ojih Odutola
Kendrick Lamar – DAMN. (“DNA”) / Henry Taylor
Kendrick Lamar – Good Kid M.A.A.D City (“Swimming Pools” (Drank)) / Reggie Burrows Hodges
Kendrick Lamar – Good Kid MAAD City / Rashid Johnson
Kendrick Lamar – To Pimp a Butterfly / Lauren Halsey
Kendrick Lamar – To Pimp A Butterfly (“King Kunta”) / Stanley Whitney
Lady Gaga – Fame Monster / Loie Hollowell
Lady Gaga – Joanne / Nicolas Party
Lana Del Rey – Born To Die / Jenna Gribbon
Lana Del Rey – Norman Fucking Rockwell Raymond / Pettibon
Lana Del Rey – Paradise / Matthew Wong
Mary J. Blige – The Breakthrough / Derrick Adams
Machine Gun Kelly – Tickets to My Downfall / Mark Quinn
Machine Gun Kelly – Tickets to My Downfall (“My Bloody Valentine”) / Jordy Kerwick
N.E.R.D. – Seeing Sounds / Burnt Toast *
Nine Inch Nails – Broken / Emily Mae Smith
Nine Inch Nails – The Downward Spiral / Richard Prince
No Doubt – Tragic Kingdom (“Just a Girl”) / Julie Curtiss
No Doubt – Tragic Kingdom (“Spiderwebs”) / Lucy Bull
Olivia Rodrigo – SOUR / Henni Alftan
Selena Gomez – Rare / Hilary Pecis
Summer Walker – Over It / Genesis Tramaine
The Game – The Documentary / Fulton Leroy Washington AKA Mr. Wash
Timbaland – Shock Value / Burnt Toast *
U2 – “Beautiful Day” / John Currin
Yeah Yeah Yeahs – Fever To Tell / Shepard Fairey
Yeah Yeah Yeahs – It’s Blitz! / Chloe Wise
*はNFT




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