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レコード・ストア・デイ・ジャパン運営担当:東洋化成株式会社、本根誠氏インタビュー
前回、uDiscoverではレコード・ストア・デイ(以下RSD)の共同創設者のマイケル・カーツ氏のインタビューを前後編に渡って公開した。今回はRSDの日本の担当者のインタビューをお届けする。今年から日本のRSDの運営を担当することになったのは、レコード製造としては世界で有数のクオリティを誇る東洋化成。なぜレコードを製造する会社がRSDの運営を行うことにしたのか? 日本からみて世界のRSDはどんな雰囲気なのか? 日本のRSDの特徴とは? そして盛り上がるレコード市場について、日本のRSDの旗振り役である東洋化成株式会社ディスク事業部営業課部長の本根 誠さんに話を伺った。
── 2018年から、東洋化成さんがRSDの日本での運営を開始されましたが、去年まではRSDのことをどのようにとらえられていたんでしょうか?
とても素晴らしいイベントだと思っていました。通常レコード・ストアは、レコード・メーカーさんから供給されるものを販売していく立場ですが、RSDでは逆にレコード・ストアが情報発信役になって、独自でイベントをされたり、アーティストとのコンタクトを強めているのが今の時代っぽいなと僕は思っていました。僕が昔、WAVEやヴァージンメガストアといったレコード・ストアで働いていたこともあって、レコード・ストア発信の音楽文化がもっともっと強くなって欲しいという想いも個人的にもあります。RSD共同創設者のマイケル・カーツさんが今回来日した時に、彼の音楽業界のスタート地点もレコード屋さんのバイトだったというのを聞いて、僕は凄く嬉しかったんです。スタート地点は全てレコード・ストアにあると思っています。
── 今年のRSDについての概要を教えて頂けますか?
レコード・ストア・デイの運営をすることに決まってからRSDを実施している他の国の様子を調べて、どんなことをやっているのか、どんなことが日本で喜ばれるのかをじっくり研究しました。その中で、今の日本のお客さんに喜ばれるものを取り入れて、日本流にリアレンジしています。後発部隊ならではのよさがあるかもしれません。
── 他の国での取り組み方はどのような感じなのでしょうか?
イギリス、フランス、オランダ、ドイツ、カナダ、オーストラリア等の人たちとは気楽に連絡できる関係になってきたんですが、各国いずれも飲み会っぽいというか、フェスに近いという印象です。「みんな毎日の生活で忙しいけど、この日はレコ屋に集まって立ち話でもしようや!」っていうニュアンスを僕は受けています。そのために事務局の人間がすることは、例えば町内会主催の催しで集まる時に、「ここに看板設置して」、「お茶菓子とかお茶も置いておかなきゃ」、っていうような感じを受けました。普通の町内会でも、会長さんや役員さんはそれぞれ別に仕事をしているじゃないですか、それに近いですね。各国のRSDの主催者たちはそれぞれ別の仕事をやっています。レコード屋さんが運営しているというよりも、音楽文化に関わる仕事をしながらRSDを4月とブラック・フライデーの11月の年に2回楽しみながら運営なさっていますね。それが非常に励みになりました。そして、全員の気持ちの根底にあるのは、レコード・ストアに対するリスペクトでした、僕もそれには同感しています。
── RSD日本のアンバサダーはEGO-WRAPPIN’ですが、選ばれた理由は?
理由は三つですね。一つは知名度がある方。二つ目は、その人の音源をアナログで聞いてみたいかどうか。これは我々事務局やショップの方を含めて「あの人の音はアナログで聞いてみたいなぁ」という主観ですね。数値では表せられませんけど、感覚的にEGO-WRAPPIN’の音はアナログで聴きたいじゃないですか。そういうニーズもあるから、彼らも新作をリリースする度に必ずアナログを出しているんですよね。そういうアーティストさんっているじゃないですか、ハイロウズさんとか奥田民生さんとか、個人的にもアナログと密接でリリースの折に必ず出している人。その中にEGO-WRAPPIN’がいたんです。それともっと感覚的な話になるんですが、中納さんや森さんが、レコード・ショップにいる姿が美しいと思ったんです。彼らは本当にレコードを買うし、聴くので、レコード・ショップのお祭りにキャスティングしても違和感が全くないんです。僕は以前、森さんのDJを聞いたことがあるんです。もちろんアナログでやられてて、ペブルズとかガレージ・パンクの選曲だったんですが、僕も音楽に詳しいつもりでしたが全然聞いたことのない曲をかけるんですよ。でも、物凄いグル―ヴィーで良かったんです。凄いヘヴィ・リスナーなんだなって、アナログを買って聞くことがミュージシャン活動の源流になっているタイプの作家なんだなとその時に思って、その時の想いがずっと心の中にありました。
── キーヴィジュアルは前回までに引き続き永井博さんですが、その理由は?
日本のRSD事務局のスタッフや知り合いに聞いてみた時に、レコード・ショップに置いてさまになるのは、やっぱり永井さんだよね、となったんです。そして永井さんにご相談した時に、細かい条件や締切の話はなしに快諾してくださって、まず「どういうヴィジュアルにする?」っていうところから始めて下さったのが嬉しかったですね。ヴィジュアルに「GARAGE RECORD」ってあるのは、永井さんのみ知るところなんですが、僕が大先生の永井さんに対して、もの凄いずうずうしく「一目見て、レコード・ストアだってわかるものでお願いします!」ってお願いしたんです。それを反映していただいたのかなと思っています。
── 今回RSDをやるにあたって苦労したことはありますか?
東洋化成は印刷物を作る会社でもあるんですが、今回アイテム一覧と、もう一冊「At The Record Shop」っていうショップ一覧のパンフレットをPanasonicのTechnicsさんと共同制作しました。ただ、普段弊社の印刷部門っていうのは、頂いたデータを印刷することが主な仕事なんですが、今回はゼロから編集業務をやってみたわけじゃないですか、そこが大変でしたね。
── 今回の2冊のパンフレット、基本情報はもちろんですが紙質も素晴らしいですね。
アイテム一覧というものは、ミュージシャンの創意工夫の塊なので、お祭りでいうと「華」じゃないですか。だとしたらそれを際立たせるものとして、やっぱりアナログだから紙でやろうと思ったんです。実は紙でここまでのパンフレットを作っている国は他にないんです。なので、余計に作りたかったんですよね、日本人のマニアックさを鼓舞できるようなものを。
── このパンフレットはどこで手に入るんでしょうか?
RSDというのは、RSDの趣旨に賛同したお店でしか限定アイテムの販売とか、インストア・イベントの実施やグッズ販売をできないんですが、その参加店には既に送っているので4月21日のRSD前に各お店で手に取っていただけると思います。
── 今回RSDをやってみて、どういったところにやりがいを感じました?
様々なカタログをリリースしていただいているHMVとか、ディスク・ユニオンとか、輸入盤の面で支えて頂いているレコード・メーカーもそうですが、アーティストさんたちのリアクションやエントリーですね。アーティストさんから直でエントリーの表明を頂いていて、EGO-WRAPPIN’もそうですし、大沢伸一さんは去年に続いて2回目、インディーポップだとThe Pen Friend Clubとか、ソウル・フラワー・ユニオンとか毎回エントリーしてくださるミュージシャンの方がいて。あと特筆したいのは、カーネーションの直枝政広さんですね。直枝さんの作品がアナログ化されたのは嬉しいです。この作品は直枝さんご自身が発売元で、メーカーの都合とか売り上げ予算達成のための都合じゃなくて、RSDというお祭りで直枝さんご自身がアナログを出してみたいと思って頂いたのは光栄です。そういう方は何人もいらっしゃって、そういう熱意のこもった音源を聴けるのが一番嬉しいですね。
── 日本のRSD限定商品はどうやって選ばれているんでしょうか?
選ぶなんておこがましいことはありません。法律に反するものでなければ(笑)、お預かりさせていただくという立場です。
── 今年からRSD参加店として新しく追加になったお店というのはありますか?
いっぱいありますね。その中で傾向として面白いって思っているのが中古レコード・ショップの方が、手を挙げて下さったことです。中古レコード屋さんは通常中古盤しか置かないじゃないですか、皆さん「うちの品揃えは凄いだろ!」っていう気概とプライドをもってやられているので、そういう方がRSDアイテムなら置いてもいいよって参加表明して頂いているのはとても嬉しいです。RSDアイテムを探しにきたお客さんが、よりディープな音楽ファンになって欲しいですね。「中古レコードってボロボロなんじゃないの?」って行ったことがない方は思っているかもしれませんが、とんでもない誤解じゃないですか。そういうものに触れる機会を増やすお手伝いはできるんだと思います。
── 日本のレコード市場の最近の動きはいかがでしょうか?
インディーの皆さんが引き続き頑張ってらっしゃいますし、レコード・メーカー各社にある名盤をアナログで再発するお仕事も増えてます。インディーポップを聴くような若い人たちと、その親世代が同軸で楽しんでいる印象も受けますね。そこに元々の渋谷系からの流れのポップスもカタログとしてあって、総花的にお店にレコードが並ぶようになった時代になったと思います。それと、ここ数年のレコードの盛り上がりはアーティスト主導のムーブメントだとも思っています。レコード盤で音源に触れてみてっていうのはレコード・ショップさんの想いも強まっていますが、それと同時にそこにいち早く反応したのがアーティストで、自分が音を作るなら、圧縮されたmp3ファイルではなく、アナログ盤で聞いて欲しい。アナログで聞くその時間を共有したいとアーティストの皆さんは思っていると感じています。我々は日頃からアナログ盤の発注を受ける立場ですから、様々な交渉の中でそれを感じることがとても多いんです、それがとても嬉しいですね。
── レコード製造会社としての東洋化成の強みはなんでしょうか?
以前からそうではないかと思っているんですが、世界中のレコード製造工場を見て歩いているマイケル・カーツさんが今回来日してくれた時に色々教わって、そこで感じることができたことが一つあります。
少しインダストリアルっぽい話なんですが、東洋化成は時代と逆行しているんだと思いました。アナログというメディア自体が時代と逆行してるじゃないですか。それと同じで社内も時代と逆行しています。それは徒弟制、職人という部分ですね。職人とか徒弟制は今の時代っぽくないかもしれませんが、このおかげで秘伝のタレが守られている。工業製品っていうのは、スキームがあって、機械があれば誰でも作れるものじゃないですか。でも東洋化成はそこに職人魂を込めているんです。それと、東洋化成はモノづくりの比重の中で、世界中の工場と比べてプロパーなスタッフの数がかなり多いです。そこに職人魂が加わって、製品の安全性やクオリティは非常に高いと自負しています。ただそこを追い求めるためにコストが上がってしまうことも事実です。
弊社の窓口をしていただいている某レコード会社でアナログ盤の盛り上げに取り組んでいる担当の方が以前、コストの面で僕に苦言を呈してくれて、それが励みになったことがあるんです。その方は、自社にいる新人のバンドやアーティストを支援するつもりで今の仕事をされていて、その中でもうちょにっと新人がアナログをリリースしやすい環境づくりをお互いにしたいとよねって話をしたことがあるんです。東洋化成は職人魂でいいものを作っていて、レコード製造の分野では世界でも類をみないクオリティに達していると自負しています。でもこれはその方への答えにはなっていないじゃないですか。なので東洋化成の事業モデルはまだ完成形じゃなくて、新しい旅を始めなきゃいけない。RSDを通して若いリスナーさんがレコードに触れるきっかけを作ったんだったら、ビジネス面でもそこに答えていかなければいけないと強く思っています。
── 最後に今年のRSDについての見どころを教えて頂けますか?
リリースアイテムの多さもさることながら、お店主導のイベントもいっぱいあるので、SNSとか各ショップさんのディスカウントも含む情報も取りまとめていかなきゃ、と町内会の役割として一生懸命やっているところです。自分の足で稼いて、自分の体で得た情報って絶対に体に入ってくると思うので、皆さんもレコード・ショップやRSDのサイトやSNSで情報を得たら、RSDのメッセージ通り、足で稼いで体で聴いて欲しいと思っています。
Written & Interview by uDiscovermusic,jp
今年のRSDタイトル(一部)
デフ・レパードの12インチ・シングル
ギャング・スター『Just To Get A Rep / Just To Get A Rep (Instrumental)』
デヴィッド・ボウイ『David Bowie』(2枚組カラーLP)
ポリス『Roxanne』
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