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紅白で披露されるクイーンの名曲「Don’t Stop Me Now」:あらゆるものを“超えて、つながる”ための曲
2023年12月31日に放送される第74回NHK紅白歌合戦にて、クイーン+アダム・ランバート(Queen + Adam Lambert)の出場が決定。
そこで彼らが披露する楽曲「Don’t Stop Me Now(ドント・ストップ・ミー・ナウ)」について音楽評論家の増田勇一さんによる解説を掲載します。
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祭りの場に相応しい華々しい曲
2023年12月31日、『第74回 NHK紅白歌合戦』に登場するクイーン+アダム・ランバート。今年、この国民的行事には「ボーダレス 超えてつながる大みそか」というテーマが掲げられており、特別企画として彼らの出演が実現することになったのは、それとも無関係ではないようだ。
クイーンの音楽自体がジャンルの境界線を超越したものであることは言うまでもないし、それはいわゆる洋楽と邦楽の壁とも無関係のものであり続けてきた。しかも2023年はクイーンにとってデビュー50周年のアニヴァーサリー・イヤーにあたり、『紅白歌合戦』は1949年生まれのロジャー・テイラーと同い年だったりもする。
そして、今回その場で披露されるのが「Don’t Stop Me Now」だというのも、実に理に適っているように思う。「Bohemian Rhapsody」を期待したファンも多いはずだし、すべての人たちに向けての応援歌となり得るものという意味では「We Are The Champions」という選択肢もアリだったようには思う。
ただ、数ある彼らの代表曲の中でも、この曲ほど祭りの場に相応しい華々しさ、パーティ・ソングとしての強力さを持ち合わせたものはないように思う。少々乱暴な言い方をすれば、あらゆる人を巻き込みながら強引に盛り上げていく力に富んでいるのだ。しかもとにかく明るくて、すぐさま人に笑顔をもたらすようなところがある。
映画『ボヘミアン・ラプソディ』での使われ方
映画『ボヘミアン・ラプソディ』におけるこの楽曲の使われ方も、それを物語っていたように思う。なにしろそれが流れたのは、物語が終わってからのこと。当時のビデオ・クリップを伴いながら、いわゆるエンドロール的なポジションに置かれていたわけだが、そこには『LIVE AID』での伝説的パフォーマンスの余韻を増幅させていくドラマティックさというよりも、ミュージカルの舞台におけるカーテンコールのような賑々しい華やかさがあった。
誤解を恐れずに言うなら、感涙にむせんでいる人たちに向けてフレディ・マーキュリーが「ちょっとちょっと、泣いてる場合じゃないよ!」と言っているかのようにも感じられたものだ。この曲には、まさにそうした感傷的な気分を瞬時にして吹き飛ばしてしまう特性がある。同時に、だからこそその裏側にある悲哀も伝わってくるわけだが。
何が歌われているのか
「Don’t Stop Me Now」はフレディの作による楽曲で、クイーンにとって7枚目のオリジナル・アルバムにあたる『Jazz』(1978年)に収録されている。彼の書く歌詞に一筋縄ではいかないものが多いことについては、改めて説明するまでもないはずだ。
たとえば「Bohemian Rhapsody」にしても、ストレートに受け止めれば「殺人を犯した主人公の絶望的な心境が描かれた物語」ということになるだろうが、それこそ『ボヘミアン・ラプソディ』を観た後ならば、それが実は「過去の自分との決別」を意味するものなのではないかと思えてくる。彼の歌詞には、そうした深読みを誘わずにおかないところがある。
そしてこの「Don’t Stop Me Now」についても、「僕を止めないでくれ」というタイトルだけを見れば、何かに立ち向かおうとしている人物の決意、覚悟といったものが歌われたもののように感じられるが、実は「最高の気分なんだから、この楽しみを奪わないでくれ」というものであり、あまり道徳的には好ましくない欲望が、あれこれと比喩を散りばめながらも、かなりあっけらかんと歌われている。つまり、きわめてポジティヴな応援ソングのようでありながら、不道徳・不謹慎だとの批判を浴び兼ねない内容を孕んでいるのだ。
実のところ、そうした歌詞の内容についてブライアン・メイが当時があまり好ましく思っていなかったという説もあるし、ヒット性に満ちたこの曲が全13曲収録の『Jazz』の12曲目という微妙なところに配置されていたことも、そうした事情と無関係ではなかったのかもしれない。また、クイーンの楽曲の中でも抜群の人気を誇るこの曲が、当時の全米シングル・チャートで最高86位止まりという意外なほど惨憺たる結果に終わっているのも、そうした歌詞の内容と無関係ではなかったものと思われる。
のちにアメリカでは歌詞の検閲が厳しくなり、80年代には社会問題化していくことになる。この当時はそこまで窮屈ではなかったはずだが、道徳的な意味においてツッコミどころの目立つ歌詞は、ラジオでのエアプレイを獲得するうえで障害となっていたに違いない。
時をこえて愛され続ける
ただ、それでもこの曲のシングルはイギリスやアイルランドではトップ10入りを果たしている。また、ここ日本では90年代以降、さまざまな企業のTV-CMに用いられ、70年代のクイーンを知らない世代にも浸透してきた。しかも興味深いことに、そうした認知の広がり方というのは日本に限ったものではなく、アメリカでもたびたび映画の劇中歌として使用されることで注目を集めてきたし、ごく最近ではタレントのとにかく明るい安村が英国のオーディション番組に出演した際にこの曲を使用して話題を呼んでいる。
それは当然ながら、この楽曲がとにかく明るいからではなく、広く愛されているからこそ。実際、2014年には米国のローリング・ストーン誌の読者投票による『10 Greatest Queen Songs』において、「Bohemian Rhapsody」と「Fat Bottomed Girls」に次ぐ第3位に選出されていたりもする。「Fat Bottomed Girls」が2位という事実、つまり『Jazz』からの楽曲が上位3曲のうち2曲を占めているという事実にも興味深いものがあるが、とにかく「Don’t Stop Me Now」が指折りの人気曲であることについては疑う余地もない。
ちなみにこの曲は元々「なかなかギターが登場しない曲」としても知られてきたが、2011年にリマスターを経て2枚組仕様でリイシューされた際には、DISC-2に「Don’t Stop Me Now(with long-lost guitars)」と銘打たれた、ブライアンのギター・トラックが追加されたヴァージョンが収録されている。
また、映画『ボヘミアン・ラプソディ』のサウンドトラックに収められている「Don’t Stop Me Now (… Revisited)」でも彼のギター・パートが刷新されている。今回『紅白歌合戦』の場で披露されるのは、当然ながらギターがふんだんに盛り込まれたヴァージョンであるはずだが、この曲が世に出た当時にはまだ生まれてもいなかったアダム・ランバートの歌唱によるパフォーマンスは、まさに2023年を華々しく締め括るに相応しいものになることだろう。
今回のスペシャルな機会は、過去にさまざまなCMで使用された際と同様、この曲が次の世代へと受け継がれていく切っ掛けとなることだろうし、2024年2月に控えている来日公演でも、これまで以上の大合唱を巻き起こすことになるはずだ。
そしてもうひとつ思うのは、ジェンダーなどについての世の認識や関心のあり方も70年代とは違っている現在、この大胆で奔放なアンセムは、当時よりもずっとまっすぐに届きやすい時代になっているのではないか、ということ。「Don’t Stop Me Now」は最初から、あらゆるものを「超えて、つながる」ための曲だったのかもしれない。
Written By 増田勇一
新作情報
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CD発売日:2024年1月31日(水)
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