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映画『レ・ミゼラブル』製作者らが語る、歌いながらの撮影と映画のための編曲

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2012年12月に公開されると全世界で大ヒットを記録し、日本でも興行収入約60億円を突破したトム・フーパー監督による映画『レ・ミゼラブル』。

2024年12月27日から日本で初となるデジタルリマスター/リミックス版全国劇場公開にあわせて、『レ・ミゼラブル』サウンドトラックの輸入盤ブックレットに掲載されていた映画のプロデューサーであるキャメロン・マッキントッシュ、そしてアラン・ブーブリル(作・脚本)とクロード=ミッシェル・シェーンベルク(作・脚本・作曲)のメッセ―ジを掲載。

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プロデューサー、キャメロン・マッキントッシュからのメッセージ

映像の中で、生で歌う人の歌声はどうのように聴こえるのか?

アラン・パーカーの名作『ザ・コミットメンツ』を見て以来(そしてバスの中での粋なミュージカル・シークエンスがライブ収録されたことを知って)『レ・ミゼラブル』が何時の日か映画になったら、俳優たちには生で歌って欲しいと思っていた。実際のところ、私自身もレコーディング技術が余りにも洗練されたことでステージ・ミュージカルをスタジオでレコーディングするのをやめ、そして作品を劇場で、ライブでレコーディングするようになったが、その結果は本当に素晴らしいものだ。

初めて私がライブ・レコーディングをしたのは1995年、ロイヤル・アルバート・ホールでの『レ・ミゼラブル 10周年記念コンサート』でのことだった。とはいえ、ミュージカル映画を丸々1本、このような形で撮影することはこれまで誰も試みたことがなかったことだった。通常、俳優とオーケストラが映画の撮影前に曲をレコーディングし、撮影の時には俳優が既にレコーディングされた音源にのせて口パクをするものだ。大概、音楽的にはとても素晴らしいものに仕上がるが、演劇的にはショウビズ的コンテクストから外され、単純なものになりがちだ。

『レ・ミゼラブル』程演劇的に直球な物語に於いて、俳優たちのドラマチックな瞬間を記録することが重要だと常々考えていた私は、古いやり方ではとにかくうまくいかないだろうと思っていた。2010年、トム・フーパーから自分が監督を務めたいと映画製作会社のワーキング・タイトル・フィルムズにアプローチしてきて、俳優たちをライブで撮影したいと物凄く熱く語ってきたとき、とてもゾクゾクしたのを覚えている。

この伝説的ミュージカルを映画化しようとトムに閃かせたのは、クィーンズ・シアターでの『レ・ミゼラブル』のオリジナル上演そのものだった。また、25周年記念プロダクションの現代的な取り組みの新たな編曲こそが、それを映画の音楽のサウンドトラックの礎にすべきことを彼に確信させた。

クロード=ミッシェル・シェーンベルク、アラン・ブーブリル、そして私が2011年の夏、ニューヨークでトムと初めての正式なミーティングを開催した。その際、彼は、映画化にあたって彼が望むありとあらゆる変更を実現するために私たちが関わるよう、また、脚本家のビル・ニコルソンの新たな作品をオリジナル・ミュージカルに織り込むべき旨を執拗に説いたことにまずは面食らった。

数ヶ月にわたって、私たちはトムと共にピアノを囲みながらミュージカルを分解し、新しいシーンを追加し、別のシーンは磨き上げ、スコアをそれにあわせ、新たな曲まで追加したりした。ミュージカルをスクリーンで再現すればいいと思う人は私たちの中には誰一人おらず、単独の作品として題材を再開発しようとしていた。

この作品の取り込み方の原動力は、まさにオペラのような構造をもった、もの凄く素晴らしくも劇的なクロード・ミッシェルのスコアであった。しかし、これはまさに言うは易し行うは難しだった。2011年のクリスマスに出来上がったのは、映画版のための新たなピアノ・レコーディングで、これをトムがリハーサルに持ち込んだ。

ライブ・パフォーマンスを収録するにあたり、サウンド・レコーディングの専門家であるサイモン・ヘイズが、俳優たちが映画のセットで歌うときに電子ピアノの音が十分に聞こえながらも、声しか拾わないようなイヤホンを選んだ。そして、それぞれの曲は何度も何度も、毎日10回から15回撮影されながらレコーディングされた。これらには監督が俳優たちに要求することで撮影された莫大な量のテイクとそれぞれ異なるカメラ・アングルで撮られた素材が含まれていた。

これらの映像が編集できるよう、サウンド・エディターのジェラール・マッキャンが細心の注意を払いながら目を光らせていた。これは関係者すべてにとって骨の折れる大変な作業だったものの、結果的にユニークで気骨あるものに仕上がった。トムの最初の編集がアップした際、私たちには「鶏が先か卵が先か」の状況にあった。というのも、最終的に編集されたもののフィルム・スコアには限りないシームレス感が必要だったのだ。しかしながら、トムと彼の並外れた才能の持ち主であるエディター、メラニー・アン・オリバーは、スコアが映画を左右するものになる迄映画のファイナル・カットを仕上げることができなかった。スクリーン上でどれ程ビジュアルやパフォーマンスが素晴らしかろうと、そのパワーと効果は音楽を通してでしか解放できないものなのだ。

また、それとは逆に、音楽の編曲は、画面上で素晴らしいパフォーマンスとストーリーを反映できるように微調整する必要があった。仮の楽曲ではなく、本当に素晴らしいミュージシャンがレコーディング・スタジオに入るまで、何がうまく出来上がったのか、何がそうでなかったのかが確かめられなかったこともあり、私たちの作業は一進一退していた。

クロード=ミッシェルが時間を惜しむことなく彼自身の曲を織り込み、そして編曲家のアン・ダドリーとスティーブン・メトカーフ(彼自身のO2コンサートの編曲も組み込みつつ)と素晴らしくも新しい音楽を作った上で、私たちは(かなり厳しいスケジュールのもと)英国屈指のミュージシャンたちとスタジオ入りを果たした。最高の音楽ディレクターが指揮をとり、そしてスリリングで今までにないような編曲となった。この段階でも、トムによる映画の編集はまだ進化途中にあり、音楽の編曲の過程でも彼は不屈の精神で挑み、最終カットが必要とするであろう特定の音楽を見つけるためにチームを奔走させた。

録音されたものの中から最高のものを手に入れることができたとトムと私が確信できるまで、疲れを知らないレコーディング担当者兼ミキサーのジョナサン・アレンが彼のチームとアビー・スタジオで時間と闘っていた。匠の技でライヴ・シンギングのテイクの中でも最高のものと、オーケストラのパフォーマンスから最高のものを引き出そうとする中、編曲家たちは汗水たらし、眠れぬ夜を幾晩も過ごした。

そしてここから、世界でもトップクラスのサウンド・ミキサーのアンディ・ネルソンの登場となった。彼が音楽、ヴォーカル、音響効果、アドリブとその他の音の全てをまとめあげ、映画で皆さんが耳にする最終的なサウンドトラックを作り上げた。アンディ、彼のチーム、そしてクロード=ミッシェルは、ものすごい短期間で奇跡的な結果を弾き出し、11月最終週直前にトムが求めていた映画も出来上がり、キャスト・レコーディングに集中を向けることができた。

このアルバムを制作するにあたり、映画の素晴らしくも感動的なビジュアルはもちろん組み込むことができない。従ってこのアルバムのために、リー・マッカチェオンとスティーフェン・メットカルフによって若干リミックスされた。私たち皆、このアルバムが独り立ちし、ブービルとシェーンベルクの伝説的なスコアとハーバート・クレッツマーの時代を超えた歌詞をスクリーンに再現するにあたっての新鮮なアプローチを反映させながらも、これまで作られたステージ・レコーディングとは異なるものにしたかったのだ。

誇りを持って言えるのだが、この夢のようなキャストはほぼミュージカル畑出身だ。彼らによって披露される、心の底から生まれた最高のパフォーマンスの中で私たちの意図は汲み取られていると言えるだろう。『レ・ミゼラブル』は、常に卓越した才能を惹きつける作品であり、私たちの映画は求めうる最高のものに恵まれたのだ。

2012年11月/キャメロン・マッキントッシュ


アラン・ブーブリル(作・脚本)、クロード=ミッシェル・シェーンベルク(作・脚本・作曲)からのメッセージ

ステージからスクリーンへ

私たちは初めから、舞台版をそのまま映画化をすることは出来ない、そのために変更が必要とされるであろうことを理解していた。劇場では、セットによって繰り広げられる世界にかかる幕があがり、序曲と人々の声が響き渡り、そこから旅が始まるのだ。ステージを観ている我々は、最初はかけ離れたところから目の前で展開する事柄を見届け、徐々にプロットと歌に入り込んでいく。照明、セット、そして演出が、どこに焦点を当てるべきか、我々の注意を向けていく。

映画の中では、カメラが私たちの目の役割を果たす。動きのど真ん中に切り込んでいき、それによって私たちは一瞬の笑顔や震える手をも共有できる。映画館では、劇場と違い、台詞を観客席に向かって発するわけではないので、台詞回しも動きも異なるものとならなければならない。劇場では、俳優の声は後ろの観客席にも届かなければならない。

演劇とは違い映画館のスクリーンでは、エポニーヌがマリウスに彼女の苦しみを 「囁く」ことができる。映画ではセット・チェンジの時間も、バリケードが開かれる演劇的クーデターなどもない。繋がりはごくごく短く、脚本の中で想像できる効果は無限だ。その一例として、ラマルク将軍を1832年の短期間繰り広げられたパリの学生革命を導く亡霊として通り過ぎさせるのではなく、実在の人物にした。そうして代表曲の「民衆の歌」に自然な映画的な広がりを持たせながら、彼の葬儀を物語のハイライトの一つにするという私たちの長年の夢を叶えることができたのだった。

Les Misérables | Do You Hear the People Sing?

これらすべての思いつきは、ウィリアム・ニコルソンとハーバート・クレッツマーと書いた脚本にインスピレーションを与え、ヴィクトル・ユーゴーの小説で描かれたいくつかの新たなシーンと共についにその居場所を見出すことができたのだ。 加えて、我々は全く新しい曲「Suddenly」をヒュー・ジャックマンのために書き下ろした。この曲が誕生するにあたって彼の声こそが私たちにとって大きな恵みだった。

Les Misérables | Hugh Jackman Performs "Suddenly"

我々はまた、アン・ハサウェイ、ラッセル・クロウ、アマンダ・セイフライド、エディ・レッドメイン、サシャ・バロン・コーエン、ヘレナ・ボナム=カーター、サマンサ・バークス、そしてアーロン・ツヴェイトが、私たちが既に知り尽くしていると思い込んでいた曲を再構築し、自分たちのものにしていくことができるその才能を見せつけられた。

これらすべてが、私たちのスコア、その構成、編曲、そして合間の会話を長時間かけて再考することを強いたトム・フーパーとキャメロン・マッキントッシュとの緊密な連携のもと、新たなバージョンとして徐々に形になっていったのだ。

我々の目的は、最初からこのように書かれていたかのように、このドラマの自然さと音楽の統一感を守りながら再構築していくことにあった。それに俳優たちによるライブ録音と、撮影後に編曲を行うという大きな挑戦を加えれば、このエキサイティングな旅路がどのようなものか大まかにおわかり頂けるに違いない。

繰り返すが、私たちのこの収録の目的は、映画版『レ・ミゼラブル』の視覚的、そして強力な喚起を提供することにある。このアルバムを聴きながら、頭の中で映像を繰り広げるのが大好きだ。皆さんも是非ともリラックスし、アルバムをかけて、目を閉じ「観て」欲しい。

2012年11月 / アラン・ブーブリル、クロード=ミッシェル・シェーンベルク


『レ・ミゼラブル~サウンドトラック <デラックス・エディション>』
2013年3月18日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music


映画情報

『レ・ミゼラブル デジタルリマスター/リミックス』

上映日:2024年12月27日
製作国:イギリス上映時間:158分
配給:東宝東和
公式サイト

映画『レ・ミゼラブル デジタルリマスター/リミックス』30秒予告映像<12月27日(金)全国公開>


 

 

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