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もうすぐ来日するオールマイティはどんなバンドだったのか? 日本の担当A&Rが語る秘話
デビューから35周年を経て、オリジナルメンバーでは初となる来日公演が2025年1月に決定したオールマイティ(The Almighty)。この来日公演を記念して、初期3タイトルがボーナス・ディスク付きの2CDとして初めて日本盤が発売される彼らについて、日本のA&RだったJidoriさんに当時を振り返る原稿を寄稿いただきました。
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ポリドールに入社するキッカケ
あぁ、もう今から “the all loud, the all wild, the Al Fxxkin’ Mighty” というオープニングMC が聞こえて来るじゃないの。
久々の来日となるオールマイティの公演、オリジナル・メンバー、ギター・プレイヤーのタントラム(Tantrum)にとっては初の来日となる。最近のライヴ映像を観た感じでは、彼のみロング・ヘアで、他メンバーはスキンヘッド、もしくはメタリカのジェイムスを思わせる“大工さん状態”…まぁ、音は昔通りのカッコ良さだから良しとします。
あ、再びなんだけど、オレ、Jidoriのペンネームで前回はカーディガンズについて、こちらのサイトで原稿を書かせて頂いた。90年代当時のポリドールでA&Rを担当していたんだが、オールマイティにはホントに思い入れが強い。何と言っても、オレがポリドールに入社するキッカケが連中だったから。
実はオレは転職組、それ以前に別のレコード会社に就職してたんだけど、ホントは洋楽志望だったのに、その会社では邦楽のアシスタント…これが、もう人生の暗黒時代で、“ここから逃げ出さないとオレ死ぬわ…”という感じ。給料の大半は洋楽CD、ライヴに消費されてて、その中の1枚が彼らのセカンド、『Soul Destruction』(1991年3月)。ちょうど、イギリスから勢いのある若手が数多く出現した時代で、オールマイティはその急先鋒だった。“良いじゃん、カッコ良いし、パンクっぽいけどメタル風でもあるし…”という感じで毎晩聴きまくる。
で、人生の一転機が、1992年2月に開催されたガンズ・アンド・ローゼズのドーム公演ね。今でも外国人アーティストに、この話をすると、「お前、何か吸ってる?」と疑われるのだが、ステージで演奏するバンドの上に長髪、イバラの冠、何故かレザー・パンツを履いたロックの神らしき方が見えて…
ホントに気が触れたんじゃないかと思われるんで、足早に言うと「なぜ、好きな事をやらないのか!貴様の助けを今後必要とする外国人が山ほどいるのが分からないのか」というお告げみたいなモノだったのか。違うな…
普段は、何をやらせてもトロいオレなんだが、その時ばかりは早かった。ちょうど、人事異動の時期で、営業にトバすという辞令が下るその面接で、「あぁ、良かった…もう、バカバカしいんで辞めます」と捨てゼリフを吐いたのは良かったんだけど…しばし待て…再就職先どうするのか全然考えてないじゃん!しかし、捨てる神あれば、拾う神あり。当時の先輩が見せてくれたのがポリドールの“中途採用募集”の新聞広告だった。
で、早速応募、「ジミ・ヘンドリックスがいて、最近のカタログにはホワイトスネイク、レインボーで、オレはオールマイティと仕事をさせて頂くために応募致しました!」という、当時の人事担当の方々が“キミ、大丈夫?”と怪訝そうなお顔をなさるも無事採用。
オールマイティの担当に
1992年のポリドールには大きな変化があり、あの、モータウン及びA&Mの販売権を獲得、先輩方はそちらに集中する事となり、新人のオレがポリドール レーベルの担当になっちゃったのよ。
数枚のシングルを担当した後に、全面的に任されたのが、オールマイティの『Powertrippin’』アルバム(1993年4月)だった。アメリカの巨大マーケットはもちろん、日本でも大きな話題になる事間違いなしのスティング(A&M)、ボーイズIIメン(モータウン)らに部が全力プロモを行うのを尻目に、こちらはオールマイティ。当然、パイは小さいけれど、出来る事は全部やった。A&Rとして初のプロモ来日体験も彼ら。
こっちは完全素人なんで、先方にはメチャクチャ面倒な思いをかけたと思うけど、何の文句も言わずに付き合ってくれた。とは言え、当時から困ったのが彼らのアクセント(訛り)。シンガーのリッキーはアイルランド出身で、その後スコットランドに引っ越して、ドラマーのスタンプとかに学校で出会うんだけど、当時、スタンプが“オマエの話してる言葉が何もわかんね〜って、バカにしたんだよな…”とゴリゴリのスコティッシュで語っていた…すいません、あんたの英語も分からんよ。しかし、あの人たち、かなり良いお育ちだったと思う。テーブル・マナーが驚くくらい良かったし。
売れた3rdアルバム『Powertrippin’』と海外取材
と、無駄話をしてる間にアルバム『Powertrippin’』の日本盤発売。1992年のドニントンで開催された大型フェス“Monsters of Rock”の音源をボーナス・ディスクで付けたら、発売日の品切れが800枚!まぁ、オフィスがひっくり返るわな。3枚目にして、あの充実には驚いた。まずジャケのセンスがステキ。どこか無機質だけど、音楽性は見ただけで分かるもんね。セカンドまでの、どこかローカルな雰囲気は消え飛んでいたし。
また、プロデュースにマーク・ドッドソンが起用された事は非常に大きい。セカンドで、デュラン・デュランのアンディ・テイラー(G)を起用したのは不思議。マークは1953年生まれで、2024年時点で71歳。古くはザ・フーのシンガー、ロジャー・ダルトリーのソロ作品でキャリアをスタートさせ、ブリティッシュ・メタルの帝王ジューダス・プリーストの作品のプロデュース、かと思うと、ニュー・ウェイヴのバウ・ワウ・ワウを手掛ける。イングランドのみならず、アメリカのバンド、例えばアンスラックス、そして現在のメイン・ストリームへと繋がるプロング、スイサイダル・テンデンシーズ、アグリー・キッド・ジョー、インフェクシャス・グルーヴスバンドなど、その守備範囲は非常に広い。彼のインプットが、『Powertrippin’』にはうまく作用している。いつでもバンドの比較対象というと、どうしてもモーターヘッドとかになりがちなんだけど、もっと振り幅は広いんだよね。だって、モーターヘッドのシンガー、ベースのレミーだって、最初はホークウインドだし。
で、ゴリゴリ行くために、オレにとって初の海外出張。アイアン・メイデンのサポートを勤めた彼らの取材だ。まぁ、疲れた、疲れた。その後10月にヘッドライン・ツアーの取材。ロンドンのヴェニューはThe Forum(この記事を書くまでAstoria 2と勘違いしていた)。カーブドッグ(渋すぎ)、ワイルドハーツを従えてのフル・スケール・ライヴ、それはもう、頭を横からドデカい小鎚で殴られるような素晴らしいものだった。
当時、音楽評論家の増田勇一さんは『MUSIC LIFE』誌の編集長で、このライヴ取材時の記事、リッキー、ギターのピートのインタヴューで表紙を飾って下さるはずが、翌日、編集者の方と次の公演地、(確か)マンチェスターのホテルにインタヴューに向かうと、ロビーに一通のファクスが…。微妙にイヤな予感がしつつ、それを見ると、“すまん、昨日のライヴ以降、Ricky とPete がインフルエンザで寝込んだ。取材は無理”とあり、全員死亡…。(余談だが、ロンドンに戻る前にホテルのトイレに入ったんだけど、よりよって女性用に…危うく捕まるところだったというのは秘密だ)。
来日公演と来日記念EP
その後、念願の来日公演が決定!来日記念EP『Liveblood』は当時のライヴからの選曲、アートも良い。
で、大喜びしていたが、その公演直前に愕然とするニュースが…
まずは、バンドのマネージャーを務めていたトミー・T (Tommy T。2008年死去 R.I.P.) からの電話…突然クビになったという…バンド創成期から、ずっと支え続けた人物の解雇、イヤな予感は更に当たる。正に来日前日にポリドールから届いたfax(時代だよねぇ)。そこにはバンドEMIレーベルへの移籍決定の一文が。
うひゃ〜、と驚いている場合でもないんで、来日公演にはお邪魔した。プロモのブッキングもあったし。まぁ、今回も変わらないと思うけど、思いっきりのエネルギー、パワーには圧倒された。エンディング前のMC で、「Jidori、ありがとうな」と言ってくれた事は今でも覚えてる。
で、移籍。オレは自分の仕事で忙しくて、彼らに対する思い入れが減った事を否定しない。1994年10月リリースの『Crank』が、そのキャリアの最盛期かと思っていたんだけど、やはりポリドール時代への思い入れが強いのは、オレだけじゃないみたいね。ポリドール時代のファンは圧倒的に多い。ライヴでの盛り上がりで分かるよ。
その後、リッキーはシン・リジィ時代の歴史で飯を食う(失礼…) スコット・ゴーハムの無理矢理なシン・リジィ再結成に参加したり、そのまま流れで変名したみたいな感じで作られ、日本公演も行ったブラック・スター・ライダーズ(すいません、担当でしたわい)にも。オールマイティも散発的に再結成を繰り返しつつ、現在に至っている。
30年以上の付き合いかぁ…お互い健康だけは気をつけようね。何か新聞の投書欄みたいになってるぞ…
じゃ、またどこかで…
Written By Jidori
初期3タイトル 2CDエディション日本盤初発売ジ・オールマイティ『Blood, Fire and Love』『Soul Destruction』『Powertrippin’』
2025年1月22日発売
CD
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