Columns
「Soul Food Assassins vol.2/差別用語の基礎知識:Nワード編」文字起こし
uDiscoverでコラムを執筆頂いている(バックナンバーはこちら)丸屋九兵衛氏が9月23日に行ったソロトークライブ「Soul Food Assassins vol.2:ラック・ミュージック解読講座/差別用語の基礎知識」の模様の一部を文字起こしにて掲載します。
*第1回「トゥパックからマルコムXまで:ブラックカルチャーと命名哲学」文字起こし
*第3回「アメリカ黒人史解読:映画『ドリーム』と『ゲット・アウト』に見る差別の昔と今」は11月24日(金)に開催
Nワード、「Nigger」と「Nigga」の決定的違い
Nワード、これだけでも1時間半やっても時間が足りないぐらいですね。
皆さんはジャッキー・チェンが出てくる映画「ラッシュアワー」は見たことありますか? 「ラッシュアワー」の中でクリス・タッカーがジャッキーに「俺のやるとおりにしろ」って言って悪党がいるバーに行くんですが、そこでタッカーが店の黒人に「What’s up, my nigga?」って挨拶する。それを見ちゃったジャッキーはそれが正しい挨拶だと思って同じように「What’s up, my nigga?」って言って、ボコボコにされかかるんですが、当然ジャッキーなんでみんながボコボコにされるっていうシーンがあるんです。
何が差別用語になるかっていうのは本当に難しい問題で、「Nigger」の語源となる「Negro」っていうのは、本来はラテン語の「Negro / 黒い」、フランス語でいったら「Noir(黒い、読み;ノアール)」ですね。ラテン語のGはフランス語ではWの音に変わりますね。
もちろん「Nigger」はいけない言葉ですけど、今の時代に黒人に向かって「Negro」って言ったらそれはもうあかんでしょうね。「ラッシュアワー3」でもベトナム系フランス人の悪いやつがフランス語で黒い何かを言いたくて「Negroなんちゃら」って言ったらクリス・タッカーが目の色変えて、「今、Negroって言うたんか?」って言うシーンもありましたし。フランス語だからしょうがないとは思いますが。
そして誰なら言っていいのかっていう問題もあります。うちの会社からでているR・ケリーの自伝『SOULACOASTER』っていうのがありまして、内容は素晴らしくて、マイケルに出会った直後、嬉しくてトイレに篭って泣いたとかっていうエピソードもあって。
で、R・ケリーは90年代前半からデビューしてますから、彼がトゥパックにあった時にお互いを褒め称える挨拶をしたって話があるんです。その会った場所がアメリカのニッコー・ホテルだったんですって。で、R・ケリー曰く、「このホテルは我々黒人がよく使うので、我々の間ではニッコー・ホテルではなくニグロ・ホテルと言われている」って言ったという話があって。つまり、本人たちは言ってもいいんですよ。
この「本人は言ってもいい」問題ですが、もし洋画業界の人がいたら気をつけてほしいんですが、仲間同士で呼び合うのは「Nigga / ニガ」、白人が黒人をバカにするとしたら「Nigger / ニガー」なんです。発音はほぼ一緒ですけど。たださっきの「ラッシュアワー」のシーンの字幕は「元気か、ニガー?」って書いてあって、それだと意味が違ってくるんですね。このことは私が字幕監修をした映画「ストレイト・アウタ・コンプトン」の関係者には注意事項として強く伝えてました。
「マイ・ニガ、ビル・クリントン」
この「Nigga」のほうは、プラスの意味もあるっていうことを我々は知っておくべきです。私が好きなラッパーにスパイス1っていう怖い顔のラッパーがいます。彼の『Immortalized』っていうアルバムは……ジャケットからダメさ加減が伝わるんですが、ラッパーがサイボーグ化されて何になんねん!っていう。それに最初の曲「Intro Skit」がスキットなんですが、棒読みの極致で何がやりたいかが全くわからない作品で。まぁこういうアルバムがありまして、この中で「What The Fuck?」っていうfeat.ノリエガの曲があります。「ワ、ワ、ワ、ワ、ワッダファック」っていう感じの曲なんですが、最後の締めの言葉が凄いんですよ。「My nigga Bill Clinton is a motherfuckin’ player」って……これどう思いますみなさん?
ヒップホップの文脈では、モテる男は素晴らしいので、その文脈ではビル・クリントンは、モニカ・ルインスキーとかいろんな人にモテてたから素晴らしいんです。日本でいうプレイボーイをPlayerっていうんですけど、そこを強調するためにmotherfuckin’がついて、そしてビル・クリントンをMy Niggaっていうんですよ。これはスパイス1からみた敬意、仲間として認めてるフレーズなんですね。ビル・クリントンは非公式な初の黒人大統領と言われてたぐらいで、黒人票で選挙に受かった部分もありますし。サックスも吹きますし、あの人のサックスとオバマのギターとで対決して欲しいですね。
Nワードを言っちゃいそうな時のアジア人のごまかし方
ほかにNワードでいうと、オール・ダーティー・バスタードという面白い人がいまして、この人のアルバム『Nigga Please』はリック・ジェームスのカバーが入っているので、リック・ジェームスをイメージしてこの衣装を着ているでしょうけど、若いのになぜこんなにおなかが張っているのかが気になるところですね。
それでなぜこのアルバムの話をしているかというと……ヒップホップ・リスナーだとわかると思うんですけど、ヒップホップ聴いてたら、つい自分も歌いたくなっちゃったり口パクをしたりしますよね。でもヒップホップの曲でNワードが入っていない曲なんて殆どないじゃないですか。ということは我々は脳内で「Nigga」って言ってしまってるんですよね。でも実際にそれを黒人の前で言ったらボコボコにされるんですよ。我々はそれを心の中では常に言っているので、いざとなったら言ってしまう可能性がありますよね。特に、今はアジア系の方が白人よりもヒップホップを聴いていますし。
話はそれますが、今、アジア系アメリカ人がアメリカで一番ダンスが上手いってことになってるんですよ。1対1では黒人やラティーナには勝てないが、10対10なら我々が勝つんですよ、なぜなら我々は合宿ができるから。彼らは合宿に耐えられないが、我々アジア人、特に韓国系は絶対合宿できますからね。男の子が二〜三人、一緒のベッドで寝てもOKですよ。実際、フランスのダンスバトルの大会で一番強いのは地の利があってフランスなんですが、それと同じぐらい強いのは韓国ですからね、それはまぁK-POPの世界見てたら合宿の凄さがわかりますよね、あれをアメリカの高校生ができると思います? たぶん合宿の最中にすぐマリファナ買いにいくと思いますよ。
話を戻して、ヒップホップ聞いている人間はNワードに親しんでしまっているので、つい言いそうになるでしょ。でも言ったらアカンのですよ。それを回避する手が私のTシャツに書いてあるんです。「Ninja Please」。「Nigga」と言いそうになる時に「Ninja Please」でごまかすことができる。「What’s up, my ninja?」、アジア系同士だとNinjaでOKなんですよ。
*丸屋さんがお話ししたNigger/Niggaの代わりにNinjaを使うことをよく表したパロディ動画。アジア人同士は楽しく「Ninja」を使うが、そこに黒人が「Ninja」を使って挨拶してくると空気は一変。黒人は「Ninja」と「Ninjer」は全然違うんだと怒られます。
ウィル・アイ・アムのいい話
Nワードで心温まる例として……これ(画像赤丸)誰かわかります?今は、こうなっています。ブラック・アイド・ピーズのウィル・アイ・アムです。今はこんな感じかもしれませんけど、私が知ってるウィル・アイ・アムはこっちなんです。ただ、ブラック・アイド・ピーズって割と良い子のイメージがあるじゃないですか。悪い言葉あまり言わないし。
私は、三人組時代が好きで、その時に取材したことがあって、靖国神社に連れて行くっていう謎の行動をしたんです。靖国神社に連れて行ったら、「あの建物って何?」「あれは武道館だよ」「いつかはあそこでライヴやりたいものだね」って会話がなされたんですが、実際に武道館でライブやりましたもんね。なぜか私は招待されなかったのですが(笑)。業界的に、私は問題あるんですかね(笑)。
まぁそういうクリーンなイメージがあるブラック・アイド・ピーズですが、実際には誰の弟子かというとN.W.A.のイージー・Eの直弟子なんですよね。特にウィル・アイ・アムはイージーとつながりが強くて、高校時代はイージーのところに行って「今週の生活費ください、小切手ください」ってウィルが言うと、イージーが「ダメだよ、ニガ」っていなすんですって。でも「先輩、お願いします!」っていうと、「しゃーないな、じゃあ大切に使えよ、ニガ」って言って渡すんですって。その触れ合いっていうのは凄くいいなぁと思いますよね。その時のウィルがイージーのためにプロデュースしたのが、「Merry Motherfuckin’ Xmas」っていう曲ですね。素晴らしいですね。
Nワードは誰が使っていいのか問題
そのNワードは、誰が使っていいか問題っていうのは本当にありまして、例えばWWEのビンス・マクマホン社長ですね。ビンス・マクマホンが調子に乗って、レスラーのジョン・シナに「What’s up, my nigga?」って言ったんですよ。人種の面でも間違ってますし、ビンス・マクマホンってヒップホップ側の人間でもないですし、それだと黒人もヒップホップもバカにしている感じなんですね。
誰がNワード言っていいのか問題で面白いのがありまして、ライターの長谷川町蔵さんに教えてもらった「The Hebrew Hammer」ていうユダヤ系のヒーロー映画があるんですが、これ完全に70年代黒人映画もどきなんですよ。服がほとんどシャフト、黒いジャガーで、でもこの帽子を脱ぐとユダヤ帽をかぶっているっていう、帽子in帽子なんですけど。
この映画は変な話なんですが、ユダヤ教徒の祭りであるハヌカと黒人オリジナルの祭りであるクワンザが邪悪なサンタクロースによって追いやられているから、ハヌカとクアンザが手を組んでクリスマスと戦うっていう話で。それでユダヤ人ヒーローと黒人ヒーローが仲良くてどういう会話をするのかというと……黒人ヒーローが「モハメド・アリ・ポーラ・アブドゥル・ラヒーム」っていう名前で、あの時代の音楽を知っているひとにはつい笑ってしまう名前ですが、その黒人がユダヤ人に向かって「The Hebrew Hammer, Jew Boy, My Main-Man Kike」っていうんですね。「Kike」っていうのはユダヤ人に対する差別用語。言ってはダメな言葉なんですが、そうしたら主人公のユダヤ人がその黒人に向かって「Mohammed Ali Paula Abdul Rahim, My Main Nigga」って「My Main Nigga」ってはっきり言うんです。これを見ている白人は「え? 言っていいの?」ってびっくりするんですが、この映画には、それはお互いに言う分にはええんやでっていう説明が入りますね、もちろんみなさんはマネしないでくださいね。
私のトークライブでよく出てくる人達として、小錦の従妹のブーヤー・トライブっていうグループがいて、全員兄弟で、一番体重軽いのが一番上の兄貴で130キロ、一番下の弟が280キロぐらいで、この4人で600キロぐらいですかね。私は彼らを自分の師匠だと思っています。そんな彼らにインタビューした時に、Nワードをどう思うかって聞いたんです。そうすると彼らは「我々はそれを広めたくないので、自分達の音楽作品で自分達が使ったことはない」と。たぶんゲストラッパーが黒人だとその黒人が使っちゃうんだと思うんですが、でもそれは我々の範疇ではないよと。しかし実際の生活では、「What’ up, nigga」と言うことはあるんですって。つまりさっき冗談のようにいってた、「モハメド・アリ~」での会話は実際に起りうることなんですね。だから、誰が使っていいのか、誰が使ったらダメなのか、そしてブーヤー・トライブの皆さんがそれを言っても許されるのは、同じ地域の同じヒップホップカルチャーに属しているからだと思うんです。
誰が「他人」なのか、っていう問題は凄く大きい。異民族に対する嫌悪「ゼノフォビア=異民族嫌悪」っていう言葉があって、ゼノは「異なる」、フォビアが「嫌悪」なんです。で、このゼノフォビアというものを解き明かすのが、私の使命の一つだと思ってます。今日はそのゼノフォビアを表す一つとして差別用語の基礎知識をやりました。ありがとうございました。
■著者プロフィール
丸屋九兵衛(まるや きゅうべえ)
音楽情報サイト『bmr』の編集長を務める音楽評論家/編集者/ラジオDJ/どこでもトーカー。2017年現在、トークライブ【Q-B-CONTINUED】シリーズをサンキュータツオと共にレッドブル・スタジオ東京で展開中。
・11月24日(金)開催のトークライブは2本だて
第1部:アメリカ黒人史解読:映画『ドリーム』と『ゲット・アウト』に見る差別の昔と今
第2部:マイティ・ソーにお仕置き!北欧神話の秋、ラグナロクの夜
bmr :http://bmr.jp
Twitter :https://twitter.com/qb_maruya
手作りサイト :https://www.qbmaruya.com/