Columns
BS朝日「町山智浩のアメリカの今を知るTV In Association With CNN」総合演出インタビュー
BS朝日にて毎週月曜日の21時から放送されている「町山智浩のアメリカの今を知るTV In Association With CNN」。知ってるようで知らないアメリカ社会の“今”を、カリフォルニア在住の映画評論家・町山智浩さんが、解りやすく紐解いていく番組で、政治問題や現在の社会が抱える軋轢、映画などを取り上げつつ、音楽も積極的に取り上げています。そんな番組の総合演出の斎藤 充さんに、番組の成り立ちや取り扱う音楽やミュージシャンについて伺いました。
番組の成り立ちについて
― 今回は諸々お聞きしていきたいんですけども。斎藤さんのこの番組での肩書は?
斎藤:総合演出です。最初の単発番組の時はプロデューサーで、BS朝日の編成制作局長の藤川克平さんという音楽仲間と一緒に立ち上げました。藤川さんはもともとはMステから入って、そこからテレ朝の営業、編成、制作部長を歴任して、いまはBS朝日の編成担当取締役になってます。そこで色んな方を介しながら「BSでも年齢層高め向けの番組だけじゃなくて、CNNとかエンターテイメントの番組をやりたいんだよね」っていう話はずーっと言われていて。本当は「『ShowBizToday』みたいなのをもう1回、復活できないの?」みたいな話をずっとされていて「やりましょうよ」っていう話に移行していった中で、彼が町山さんの文春のコラムが割と好きだっていうことが発覚して。
― もともとお好きだったんですね。
斎藤:「町山さんが好きなんですか?」っていう話になり、彼が「なんか番組をやれないの?」って言い出したから、「ちょっと連絡を取ってみます」って。僕はちょびちょび、インタビューをお願いしたり、担当していたネット番組の『WOWOWぷらすと』に出てもらったりと何度か連絡を取っていたので、町山さんに連絡してみたら、意外と乗ってくれて。ちょうど2016年の大統領選でトランプが共和党の候補に決まった直後ぐらいです。
本当は「映画の番組、エンターテイメントの番組をやりましょう」っていう風に最初は持ちかけてたんですが、だんだん話は変わってきて。ちょうどトランプが大統領候補になって、ちょっとアメリカが面白いから文春のコラムみたいなアメリカのいろんな面白いことを突っついていく、日本人の知らない現地の情報を町山さんが面白おかしく伝える、そこにエンタメを絡めていくみたいなことで始まったんですよ。だから最初はトランプのことで1時間だったかな?
― 単発番組時代ですね。
斎藤:そこにエンターテイメントや映画を絡めて「昔、トランプみたいな人がいました。そういう映画がありますよ。『オール・ザ・キングスメン』というもので…」とか。そういうエンターテイメントでいろいろ学んでいくアメリカ史みたいなことをやったのが最初です。で、その時は特番だったんですけど反応がよくて。数字は大したことなかったんだけど、SNSの反応が他のBSの番組と比べるとかなりの反響でした。
― 通常のBS視聴者と違う層の方が反応されたんですね。
斎藤:町山さんはもともとTwitterのフォロワー数もすごく多いのもありますが、町山さんが1時間、テレビでしゃべってるのを見てびっくりしたんでしょうね、きっと(笑)。
― フフフ、町山さんが出演していた地上派番組は、法廷番組の「世界法廷ミステリー」ぐらいでしたかね?
斎藤:そうそう。当時、「報道ステーション」にも出ていたりもしてましたね。なのですごいSNSが跳ねたんで「じゃあ定期的にやっていきましょう」って始まったんですよね。月イチぐらいのペースで、まあ予算が余ったらやるみたいな。
― なるほど。
斎藤:そんな感じで始まって、今の形のレギュラーになりました。
― 最初のレギュラーは30分でしたよね。
斎藤:そうですね。30分のレギュラーになったのは、もともとそこの枠が『CNN Focus』っていう番組を僕を中心にやっていたんですよ。そこはCNNのニュース番組で、昔で言う『CNNデイウォッチ』みたいなやつをやりましょうって始まった番組で。何年ぶりぐらいかな? 20年ぶりぐらいCNNを冠にした日本のテレビ番組ということで、始めたのが土曜日の午後11時半からの30分の番組だったんですよ。それを、もうちょっといい形にできないかな?っていうことで。そこで町山さんと合体させてレギュラー枠の30分にして……っていうのが真相ですね。
― だから番組の正式名称は「町山智浩のアメリカの今を知るTV In Association With CNN」なんですね。
斎藤:「CNNをくっつけて……」みたいな。「それなら、CNNの素材をいっぱい使えるじゃん」みたいな話になり。だから、30分になったのはもともとのそのCNNの枠と合体したっていうことですね。
― それは1年……2年ぐらいでしたでしょうか?
斎藤:2016年9月から2018年3月まで、単発でやってるんですよ。2018年4月から30分でレギュラー。それを1年やって、2019年10月から1時間の今の枠になりました。
― 今の枠は月曜午後9時っていう。非常にいい時間ですよね。
斎藤:いい時間ですね。ただ、裏が吉田類さんの人気番組(『吉田類の酒場放浪記』)なんで。BS朝日としてはなかなか大変な枠なんですけども。
― なるほど。
斎藤:まあ、そういう意味では気は楽っちゃあ楽なんですけども。とはいえ、町山さんも言ってましたけど、深夜でゴソゴソやってる分にはよかったんだけど、一応ゴールデンというか、いい時間になっちゃったんで。「数字はそんな気にするな」とは言われながらも、少しは視聴者を広げていくことをしなきゃいけないから。そういう意味ではちょっと苦労してますけどね。
― 単純に尺も倍ですもんね。
斎藤:尺は、いくらでも何とでもなるんですけど。知らないことを知るとか、情報をきちんと伝えるとか、やっぱりそういう番組なのでそれを1時間見せ切るっていうのは大変なんですよね。
― 説明過多になっちゃうというか。
斎藤:そういう”教育番組”になっていっちゃわないようにするのが苦労します。やることとかネタはいっぱいあるんですよ。言いたいこともいっぱいあるんですよ。むしろ足りないぐらいなんですけども(笑)。ただ、すぐ情報過多になっちゃうのと、七面倒くさい説明になっちゃったりとか。そういうのはありますね。町山さんの脳内になかなか視聴者がついていけないっていう……
― ちゃんとした説明があったらより面白いですもんね。
斎藤:前提が必要じゃないですか。アメリカの基本的なこととか。
― 「大統領選挙の制度とは?」とか。
斎藤:そうですね。前提がゼロの人に対して、どうやって説明するのか。例えば本当に映画を1本も見たことがない人に、そのアカデミー作品賞の候補になった映画を説明するっていうのは意外と大変で。その人に興味を持ってもらうって本当に大変じゃないですか。『スター・ウォーズ』とかだったらまあ、なんとかなるかもしれないけども。社会派のものであったりとか、ヒューマンドラマみたいなもので「いや、これは実は監督がね……」なんて言っても「ポカーン……」じゃないですか(笑)。
― いい作品は絶対に参考にしているものが過去にありますよね。
斎藤:それを説明するのが大変っていうのはありますね。ただ、逆にそういう説明を何度でも同じようにしていくうちに、毎週見てくれてる方にはすごく深くなって。人に話したくなるような情報を伝えられている気がします。
― いわゆる地上派番組としては珍しく本編のダイジェストをYouTubeに公開していますよね。
斎藤:それは、さっき言った藤川局長のアイデアなんです。要は数字はそんなに気にしなくていいから、とにかく話題にさせたいっていう。笑っちゃうのはアメリカで町山さんがこの番組の取材をした時に「見てるよ」って声をかけられたっていう(笑)。
― え?それは現地の人に?
斎藤:アメリカ人のちょっとオタクっぽい女の子に「見てるわよ、YouTubeで!」って日本語の番組のことを(笑)。まさかの声をかけられるっていう。
― 番組がレギュラー化して反響はいかがでしょうか?
斎藤:テレビの業界で元々こういうのに興味がある人。バラエティでも報道でも何人かはいるんです。そういう人たちはすごく興味を持ってくれていて。「いや、実はああいう番組をやりたかったんだよね」みたいなことを言ってくれる有名なディレクターさんとか、同業のプロデューサーとかには言われたりはしてて、業界内での評価は悪くないとは思っています。良くも悪くも引っ掛かりのある番組なんで。ダラダラと普通につけっぱなしで見るような番組ではないですので。
― 前のめりになってみるような番組ですよね。
斎藤:流し見ではなくてちゃんと見ていないといけないものですね。テレビをやっている人の中にはいつかはそういうのも作りたいと思う人も絶対数いると思うんです。そういう欲求がある人は割と声をかけてきてくれて。「この間、こういうのを見たけども」「こういうのをたまたま見て」ってスタッフロールを見て電話してきてくれたりとかありますよね。
だから、そういうことから広がったりしてくれるといいなとは思ってます。それで町山さんを面白がってもらって、地上波のゴールデンの番組にゲストで呼んでもらうとかがあると面白いですね。そういうことで町山さんがさらに日の目を見たりとか。有名な芸人さんなんかも「興味持ってますよ」って言ってくれたりしてるそうで、「じゃあ、町山さんとで『クレイジージャーニー』がなき今、『クレイジージャーニー』なところに行きます?」みたいな話は立ち話レベルでは結構していて。そうやって広げていきたいなとは思っているんですけどね。
ロケ地の選定基準は「日本人が知らないアメリカ」
― 毎回、いろんな場所に行かれてますけど。ロケ地はどうやって決めてるんですか?
斎藤:ほとんど町山さんが行きたい場所(笑)。町山さんが行きたい場所リストっていうのが突然、もうすさまじい勢いで送られてくるんですよ。メールでブワーッと。もうスイッチが入っちゃって。
― どれぐらいですか? かなり広めで「◯◯州」とかですか? それとももっと細かく?
斎藤:かなり細かくですね。「◯◯州でこういうイベントがあるので行きたいです」とか。まあ、ざっくりだと「アラスカ行きたい」とか「アッツ島に行きたい」とか言い出すんだけど。まあ基本的にはそういう風に「こういうイベントに行きたい」とか「こういうデモ行進がありますよ」とか。そういう、「ここに行きたいです」っていう。あとは、やっぱりコンセプトとして「日本人が知らないアメリカ」なんで。
とにかく日本ではあまり報道されていないものの現場には行きたがりますね。そういうのを全部拾っていくと大体1年の予定が埋まっちゃうっていう(笑)。そういうのを全部やっていたらお金がとてもじゃないけどかなわないので、こっちから提案するのは、例えばなんかイベントがあった時に、その場所に行くじゃないですか。そこの場所で他のものも撮ってきたいわけですよ。
なので、そこの場所に行った時に「これ、どうですか?」っていうのをキャッチボールさせてもらって。そしたら大体、さらに町山さんは「だったらここにも行きましょうよ」みたいにガーッとくるんです。たとえば「アメリカの始まりの物語をやりましょうか」とか。そういうのは提案してますね。「リンカーンを掘りたいです」とか。そういうのは提案してるんだけど。基本的にはそういう、なんかナウなものは全部、町山さんの提案です。まあ、彼が行きたいところに行くというのが大前提ですね。
― ということはネタには全く困らない?
斎藤:ネタには困んないですよね。それをどうやってさばいていこうかっていうほうが大変です。まあ、お金がついていかないっていうのが一番あるんですけども。
― 全部アメリカロケですもんね。
斎藤:そこをうまく……「いや、さすがにアラスカは行けないですよ」ってなだめるのが大変(笑)。
― フフフ、アラスカ……そうですよね(笑)。「直行便、あるのかな?」みたいな(笑)。
斎藤:そうなんですよね。ただ、やっぱり彼が面白がって前のめりにいろんなインタビューをしたり、前のめりにグイグイ行く感じがやっぱり番組の魅力なんで。まあ、こっちから無理して「これをやりましょう」ってゴリ押しすることは、本人が乗らなかったら絶対にないですね。
コンプトンでのギャングの撮影
― 今までに撮影をしていて変な人に絡まれたりとかはないですか?
斎藤:コンプトンは怖かったですね。N.W.A.のイージー・Eのスタジオが今はギャングが管理をしているんですよね。それで、そこの前を通ることになって。「車からは絶対に降りるな」ってガイドの人に言われて。そのガイドも元ギャングなんだけども(笑)。そしたら、「ここの角を曲がったらイージー・Eのスタジオだ」なんて言って曲がったら、ギャングがいたんですよ。2人、家の前に。
― 見てわかるものなんですか?
斎藤:「あれ、ギャングだ。カメラを絶対に向けるな! 絶対に見るな!」とかガイドが言うんですよ。「いやいや、それじゃここを通る意味ないじゃん」って思いながらも一応、RECボタンは押しながら。
― ああ、それは撮るんですね(笑)。
斎藤:ただ、やっぱり怖くてカメラは向けられない。で、運転手とそのガイドのおじさんばっかり撮っていたんです。そしたら町山さんがバッてなって。「うわっ、いた、いた、いた!うわっ、ギャングだ!撮りなよ、撮りなよ。わーっ!」とかって。「止まれないの? 止まれないの?」って言って。ガイドは「ダメだ。止まったらダメだ」ってなって、そのままスーッと行っちゃって。こっちはなにがなんだかわからないから、とりあえずそのおじさんだけ撮っていたんだけども。
それでスーッと行ったら町山さんが「いまの、撮れた? ギャング、撮れた?」とか言うから、「それはさすがにちょっとね……いや、撮れてないです」って。「もう1回、戻れないかな? 本物のギャングなんて滅多に撮れないよ!」とかって言いながら。もう大興奮しちゃって(笑)。そしたらそのガイドに「いや、絶対にやめろ!俺もこのツアーができなくなるからやめろ」ってガイドの人に町山さん、止められて。「ええー、せっかくだったのに……ダメだよ、撮らなきゃ。ああいうの!」とかって言って。怒られました(笑)。
― フハハハハハハハハッ!
斎藤:「いや、さすがにちょっとここで撃たれるのは……」っていうのはありましたね。ちょっと怖かったです(笑)。
BS朝日、毎週土曜日夜11時半からの『町山智浩のアメリカの今を知るTV』、今週はNWAやケンドリック・ラマーを生んだギャングの街、コンプトン観光です。 pic.twitter.com/AOzX0JRZyC
— 町山智浩 (@TomoMachi) May 10, 2018
アメリカを知るテレビとアメリカの音楽
― アメリカは歴史や文化、映画とかなんでも、音楽が絶対切り離せない存在という気がしますが実際に各地をロケしてみていかがですか?
斎藤:黒人の差別との戦いの歴史と音楽は直結してますよね。それは多様な民族国家ならではっていうのはあるんじゃないですか。1個の伝統的な音楽を系譜するだけじゃなくて、やっぱり音楽って表現なので、マイノリティがどうやって自分たちを表現していくかみたいなことは、日本よりはそれは多様な気がしますよね。実際に虐げられていて、それでもう歌うしかなかったみたいなことから。
アメリカはブルースがもう完全にそうだし、ジャズもそうだし。結局やっぱりそういう、黒人たちが自分たちのアイデンティティを……いやアイデンティティなんてえらそうなもんじゃない。ただただ単に本仕事で疲れてね。
― そうですね。
斎藤:労働からの現実逃避で「女とヤリてぇ」なんて歌っていたのがブルースだから(笑)。それがどんどんどんどん進化して。白人が面白がってどんどん大きくなっていったわけでしょう? だからそういう歴史は、ルーツをたどればたどるほど面白いし、歴史とか音楽と社会っていうのは本来は全部密接に関わっていて当たり前だと思います。だからアメリカはそういう意味じゃ分かりやすいという気はしますけどね。
― 今までのロケで音楽物もいろいろやられてますけれど、思い出に残ってるものとかありますか?
斎藤:音楽物……結構やりましたね。さっきのコンプトンはよかったですよ。最後に壁画のところに行ってね。「Beat The Odds」っていう風にケンドリック・ラマーの壁画が描いてあって。要するに、もうコンプトンで生まれた段階で、ギャングになるしかないっていうの中で、生まれながらにして「もうどんなに努力したってお前はギャングになる」っていう風に「Odds」されますよね。「Bet」されちゃうわけですよね。
斎藤:それを打ち負かしたのがケンドリック・ラマーだと。コンプトンから出て、本当メジャーの音楽シーンで大成功して。しかもそれで作ったお金をコンプトンに還元して教育とか、ギャングを排除する基金とかに寄付したりとか。あとは毎年、まだイベントをやっているのかな? コンプトンできちんとしたイベントを催して、そのコンプトンの外の人もいっぱい呼ぶことによってコンプトンを実際に安全な街にしてきたんですよね。だからそういうことをやってるっていうのは素晴らしいなと思って。やっぱり音楽の力を感じましたよね。
あとは、なんでしょうね? ナッシュビルも面白かったけど。あとはクリスチャンロックも面白かったですね(笑)。僕は現場には行ってないんだけども(笑)。そもそもクリスチャンロックっていうものがあるっていうので笑っちゃって。
― まあ、そうですよね。日本に住んでいたらあることさえ知らない方も多いですよね。
斎藤:そうですよね。でも、それだけのフェスがあったりするのもすごく面白いし。「ロックを聞きたいんだけど、『汚い言葉は聞いちゃいけない』って言われるから、サウンドはデスなんだけど歌っていることは神を賛美する」っていう……もう意味がわからない世界に突入していて(笑)。「すごいな、アメリカ人の人の発想は!」っていうのも面白かったですね。
アメリカの聖遺物はジミヘン? そしてジョン・レノン特集
― 取材とかをいろいろとされてよく名前の挙がるミュージシャンっているもんですか?
斎藤:ナッシュビルに行った時ですが、実はナッシュビルにしばらくジミヘンがいたことがあって、あそこのライブハウスでずっとやってたっていうのは初めて知って。「ああ、ナッシュビルのイメージはなかったな」とかね。ジミヘンの話はいろんなところで聞きますね。まあ、僕が好きだからついついそこに反応しちゃっているっていうのはありますけども(笑)。ナッシュビルにテイラー・スウィフトの取材に行ったつもりなのに(笑)。
― ジミヘンが出てくるという(笑)。
斎藤:「ジミーがずっとやってたライブハウスのトイレの、ジミーがちょっとサインしたドアだけ持ってきて飾ってるんだよね」って(笑)。
― 本当ですかね?(笑)。
斎藤:そう(笑)。アメリカ人ってそういうのを本当と取っておいて、ミュージアムにするんですよ。そういうのが面白いなって思って。
― もう聖遺物状態ですよね(笑)。
斎藤:そうそう(笑)。まあ、歴史がまだ浅いからっていうのはあるんでしょうけども。本当にアメリカってそういうのを取っておくんですよね。取っておいて、なんとなく文化遺産で残していこうっていうのはね、なんでもかんでも捨てちゃう日本のような……公文書まで破棄する日本とは違うなっていう(笑)。
― フフフ、「取っておいたよ!」っていう(笑)。
斎藤:「とりあえず取っておこう。なにかに役立つかもしれない」っていう(笑)。それはアメリカで感じますね。特に文化……音楽なんか特に。どうでもいいやつを取っておくでしょう、なんか?(笑)。
― そうですよね(笑)。イギリスの映画ですが『スティル・クレイジー』っていう70年代のおっさんのバンドが復活してグラストンベリーに出るみたいなのがあるんですが、その主人公が「俺はジミヘンの歯を持っている!」みたいな(笑)。
斎藤:歯? ネックレスにして?(笑)。
― はい、ネックレスにして(笑)。
斎藤:どこで仕入れてるんだよ(笑)。本物かよ?っていう(笑)
― 特にジミヘンとかってそういうのが多いですよね。なんでしょうね? もうある種、本当に神的な……(笑)。
斎藤:そうですね。ほかだとジョニー・キャッシュとかね、そのへんはしょっちゅうは名前が挙がりますよね。あとは、誰でしょうね。でもたぶん、たしかにあんまり番組でフォーカスした人ってそんなには……。
― いろんなところに行かれてましたもんね。
斎藤:あとは、ジョン・レノンは番組で取り上げましたね。
― ジョンだけで特集をしようとしたきっかけなんだったんでしょう?
斎藤:ジョンは、町山さんが大好きだからっていうのがあるのと、あとこれはやっぱり町山さんとも前も話していて。町山さんの『本当はこんな歌』っていう本が出ていたじゃないですか。あれが僕も好きで。「これを番組にしましょうよ」っていうのは前から町山さんに言っていて。
「だったら最初はジョンをやりましょうよ」って。「War Is Over」の誤訳をやりましょうよっていう話ですね。本当は「ノルウェーの森」の誤訳もやりたかった(笑)。まあ、ジョンの特集なんでやらなかったですけども。歌詞を紹介して。「Power to the People」の本当の意味とか。「Power to the People」の意味とか本当に、知られていないですもんね。知られていないっていうか……。
― 誤解されているというか。
斎藤:というか、まあ本当に忌野清志郎さんとかはそれを理解してああいう風にしていたんでしょうけども。とにかく、本当に全共闘世代の闘争音楽でしかないですからね。あれはね。
― ジャケも……。
斎藤:そう。ヘルメットでしょう? あれは過激な左翼活動家の音楽だから。「Power to the People」って別に「人々の力」とかそんな偉そうなことを言っているわけでもなくて(笑)。「人民の革命だ!」って言っているわけだから。「政府を倒せ!」っていう歌ですからね(笑)。そういうのを本当に知らないと……「知らない」っていうか、日本人はわからないから。曲は聞いたことがあるし、みんな知ってるし。カップヌードルの曲だと思っている人も多いと思います。
― そうですね。「平和の歌でしょ?」みたいな。
斎藤:そう。ニュアンスが全然違う(笑)。「異議なーし!」っていう歌ですよね(笑)。「異議なし!」って叫んでいるっていう(笑)。本当に……そういうのは本当に面白いですし、僕も英語の本当の意味とかって知らない部分は多いし。歌詞に秘められた英語の本当の意味なんて、ほぼ知る由もないですよね。
― なんだったらもうアメリカ人さえ誤解してるものもいっぱいありますしね。
斎藤:そうそう。だから、それはまた定期的にやりたいなと思っているのはありますね。
デトロイトの取材、音楽とモータウン
― ちなみにデトロイトの取材をされたとお聞きしましたが。
斎藤:僕は行ってないんですけど先日デトロイトの取材はやりました(2020年1月20日放送)。モータウン(ヒッツ・ビル)にもいきました。
― やっぱりデトロイトといえば、モータウンは外せないですか?
斎藤:そうですね。とはいえ、すっごい老舗のジャズクラブもあったりとか。シカゴで花開いたブルースがそこからさらにミシガンに行って、フィラデルフィアに行って……みたいなことになっていくんで。ブルースとか黒人音楽がロックになり、みたいなことで言うと、車で栄えた街だったからお金があってそこそこ潤っていたっていうのもあって。実はロックがすごくドーンと、デトロイト・ロック・シティになっていくっていうのもあるんで。そういう意味では一番多様な音楽文化が花開いた場所なんじゃないですかね。カリフォルニアはまたちょっと違うのかもしれないですけども。東海岸ではもちろんモータウンはあるんだけども、ロックとかジャズとかブルースとかがすごく盛んで。いろんなライブハウスが今でも残っているっていうのはありますね。
― やっぱり独特ですよね。
斎藤:一方でエミネムみたいな人が出てきたりとか。彼もやっぱり白人・黒人のコミュニティの話から出てくるわけじゃないですか。ラップバトルみたいなものがね。8マイルも行ってきましたよ。「この道を挟んで……」みたいな。
斎藤:まあ、あとは意外とアラブ系の人たちが多いとか。
― へー!
斎藤:これはちゃんと番組でやるんですけども、フォードが最初に労働者としてアラブ系の移民を大量に入れたんですよ。なので、さらにまた文化的にもアラブの音楽とかファッションとかも入ってきていて。すごく多様性があってアラブ人コミュニティがものすごいデカいんですよね。だから、本当に音楽的な多様性を集約した都市になっているんじゃないですかね。もちろんモータウンが一番有名は有名ですけどね。
これからの取材先と2020年の大統領選挙の見どころ
― これから取り上げるとか、行く予定のロケ地とかってあるんですか?
斎藤:今度、ワシントンD.C.に行くんで、アメリカの始まり物語みたいなものはやろうかなって思ってます。ニューヨーク、フィラデルフィアから首都がワシントンに移ったという話をちょっと取材しようかなと。トーマス・ジェファーソンという人が移したわけで、その話はちょっとするかもしれないですね。あとはね、町山さんは「アラスカ行きたい」とか言ってますね。
― アラスカは、何の取材でですか?
斎藤:ちょっとよくわからないんですけども(笑)。「イヌイットの取材をどうしてもしたい」と。あとは、「どうしてもアッツ島に行きたい」って言っていて。日本軍が玉砕したアッツ島に。「危険だな」って思って。アッツ島なんか今、上陸できないよっていう。
― そうですよね……。 たぶんエンタメ的なものはないですよね?
斎藤:ないと思いますね。あとはだから大統領選が始まっちゃうので。
― 1月からですね。
斎藤:その大統領選に合わせて、いろんなところに行きましょうという予定もあるんです。民主党の予備選挙がアイオワでスタートするんで。アイオワ州にたぶん行くかな? アイオワって何にもないとこなんだけど、アイオワで何かネタを探そうってなると……『フィールド・オブ・ドリームス』とか。まあ、トウモロコシしかないんですよ(笑)。だから、噂のトウモロコシ問題とかね。日本で散々やっていた、その食の問題とかね。
― たしか「なんにもない」っていうのはアイオア出身バンドのスリップノットも言っていて。だから殻らがアルバムタイトルにずばり『Iowa』と付けたアルバムを出してましたね。
斎藤:ああーっ! それ、いただきます(笑)。
― 彼らは珍しいんですよね。メタルバンドでアイオワ出身って。
斎藤:そうかスリップノットはアイオワ出身なんですね。
― なので『Iowa』っていうアルバムを自虐的にタイトルにつけているっていう。
斎藤:渋いですねー。じゃあ、ちょっとアイオワの音楽も……。ちなみに『フィールド・オブ・ドリームス』は夏だから、ちゃんとわさっ~てなっていたじゃないですか。でも、冬だとあれが何もなくなるんですよ。あの広大な土地が(笑)。もう行けども行けども平地の砂ぼこりで。それもアメリカらしいなって。
― 来年は、民主党の予備選の動向も面白いんじゃないか?
斎藤:今度、番組でもやる予定です。まず、一番注目していたカマラ・ハリスが選挙戦下りてしまたのですが、前ニューヨーク市長のブルームバーグが名乗りを上げてきて注目されていたり、LGBTを公言している37歳のピート・ブティジェッジの人気も急上昇してきています。そんな候補者の中で、アンドリュー・ヤンという台湾系の起業家がいて。彼はビジネスマン、投資家ですかね。いま、そのアンドリュー・ヤンの支持率もあがっていてるんです。バイデンのあとにエリザベス・ウォーレンとサンダース、そしてブティジェッジやブルームバーグ、アンドリュー・ヤンたちが迫っているっていう状況で。そのアンドリュー・ヤンも若くてまだ44歳。
― 若い!
斎藤:しかも実業家で作家、弁護士、そして台湾の移民二世ですよ。わからないけどもバイデンやエリザベス・ウォーレンとアンドリュー・ヤンとかで大統領選を戦う可能性もある。そういう意味じゃ面白いですけどね。
― 来年はそういうところにも期待ですね。
斎藤:ちなみにアンドリュー・ヤンって発想がすごいですよ。環境対策で宇宙空間に巨大なミラーを展開させて太陽光を反射させるプランを考えているらしいですよ?
― 小学生の発想のようですね(笑)。すごいですね、もう(笑)。
斎藤:すごいでしょう、この人(笑)。
― 「できるんですか?」っていう(笑)。一般人からだと発想がデカすぎて。
斎藤:そのアンドリュー・ヤンが今、キテるんです。そうそう、この間取材に行ったサンディエゴの死者の日っていうのがあって。ピクサー映画『リメンバー・ミー』にもでてきた死者の日ですね。
― 実際にその日に行かれたんですか?
斎藤:アメリカのラテン・コミュニティで一番デカいのがサンディエゴの死者の日(Day of the Dead)っていうことで。なのでサンディエゴに行って取材したら、アンドリュー・ヤンの勧誘ボランティアの人がいて、そこで話を聞いたりしました。ラテン・コミュニティに対して勧誘をしているんですね。あのへんのラテン・コミュニティを味方につけると、かなり大きいので。まあ移民政策です。自身も移民二世ですし。
― そうでしょうね。
斎藤:カリフォルニアももともとそうですが、テキサスとかも行ったらもうすごい数のラテン・コミュニティがあって。そこの人数をがっつり味方に付けれたらわからないですよっていう感じですね。
― 他に行くところは?
斎藤:あとはテキサスのヒューストン。スーパーチューズデーが3月3日なんですよ。そこで主だった10州以上で予備選が決まるんで、一番デカいテキサスに行こうかなって。で、テキサスに行くなら、まあオースティンなのかヒューストンなのかダラスなのか……。でもヒューストンとオースティンってめちゃめちゃ遠いんだけどね(笑)。東京から福岡以上あるんで。もっとあるかな? 本当はオースティンのサウス・バイ・サウスウエストとかもね、行きたいんですけどね。来年ぐらいにね。
― 最近は音楽フェスという側面よりももう少し雑多になってますよね。
斎藤:なんか最近はIT見本市みたいな。なんか怪しい音楽の祭典じゃなくなっちゃったっていう(笑)。そのへんをあぶり出しに行きたいんです(笑)。
― 逆に、なんで変わってきたのか?っていう。
斎藤:そうそう(笑)。で、いずれは50州制覇したいですね!……アラスカも含め。
― それはハワイもですか?
斎藤:ハワイはやりたいことがいっぱいあるんだけど。「アメリカなのか問題」っていう最大の……。ハワイはいつかやるでしょうね。最後に。
― 最後に(笑)。
斎藤:ドールの悪事を暴きに行くっていう。すごいシビアな題材にならざるをえないですけどもね。町山さんは超批判的ですからね。「あんなにぶんどって……ドールですよ、ドールが全部!」っていう。「事実上の植民地にしちゃうんですよ!」っていう。
Interviewed by uDiscover / 文字起こし by みやーん
「町山智浩のアメリカの今を知るTV In Association With CNN」
BS朝日にて毎週月曜日午後9時より放送中
放送終了後には「テレ朝動画」「TVer」「アベマTV」にて、みのがし配信も実施中
2020年1月20日(月)21時からはデトロイトの音楽シーンを徹底解説の2時間拡大SPで放送
- モータウン 関連記事
- DJ SPINNAが語るモータウン「成功を遂げていたアーティストみんなが僕たちの希望となっていた」
- マーヴィン・ゲイのライヴ盤『What’s Going On Live』が最新ミックスで登場
- ベリー・ゴーディ:モータウンを創設し、黒人向けの音楽を届けた先駆者
- マーヴィン・ゲイの生涯を辿る:いかにして真のソウルアーティストになったのか
- モータウンと社会問題:政治やプロテスト・ソングと人々が自由になるための手助け
- ヴァレリー・シンプソンが語るモータウンと「Ain’t No Mountain High Enough」に込めた想い
- スモーキー・ロビンソンの半生:モータウンを支えたマルチプレイヤー
- シュープリームスの悲劇:32歳で亡くなったフローレンス・バラードの半生
- 人種の壁を破ったモータウン:肌の色・宗教を超えてファン層を広げた黒人レーベル
- “キング・オブ・パンク・ファンク” リック・ジェームスを偲んで
- モータウンを支えた極上の歌声たち
- モータウンの忘れられた女性アーティスト10名
- モータウンのグループ達:デトロイト発、一大レーベル創世記
- デトロイトからカリフォルニアへ:70年代以降のモータウンとアーティスト達