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Lenaが語る日本での「life was a beach」ヒットとユーロヴィジョン・ソング・コンテストの真意
「life was a beach」が2022年の日本のInstagramとTikTokにて億を超える再生回数を記録してバイラルヒットを記録したLenaが9月にプロモーション来日を果たした。
2010年のユーロヴィジョン・ソング・コンテストにドイツ代表として優勝して以来、本国ではトップスターとなったLenaについて、音楽ライターの新谷洋子さんがインタビュー。
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極東の国での突如のバイラルヒット
今から5カ月ほど前、ひとつの奇跡が起きた。
とあるドイツ人ミュージシャンが2019年に発表したアルバムの収録曲――シングルではなくアルバムトラックの1曲だ――が突如日本でバイラル・ヒットを博し、インスタグラムでもTikTokでも、「life was a beach」と題されたその曲を使った動画の再生回数が3億回を突破。LINE MUSIC洋楽チャートで39日間1位を独走して、9月半ばには本人が来日を果たし、日本のメディアやファンと対面することになったというのだから、奇跡としか形容しようがない。
「こうして日本に来てみてだいぶ現実味が増してきましたが、未だに夢みたいな話でです」と微笑むLenaことレナ・マイヤー・ランドルット(Lena Meyer-Landrut)。「ニュースを知らされた時は、周りの人たちも含めて半信半疑でした。“日本で私の曲が大ヒットしているって、いったいどういうこと?”と困惑してしまって。もしかしたら、求められていた時に偶然あの曲がそこにあったというタイミングの問題かもしれませんし、そういう運命だったのかも(笑)。ソーシャル・メディアにはネガティヴな面も多々ありますが、多くの人に情報を伝えられるというポジティヴな面があって、日本で暮らしている人たちに私は自分の歌を届けることができた。私が一番望んでいるのは自分の音楽で誰かをハッピーにすることなので、それを達成できたのなら大満足です」。
ドイツのスーパースターが生まれるまで
ハノーヴァー出身、ベルリンで暮らす彼女(現在31歳)はちなみに、“とあるドイツ人ミュージシャン”どころか、ドイツのポップ・ミュージック界を代表するスーパースターのひとりだ。ドイツは日本と同様に音楽マーケットの規模がそれなり大きいため、国内での活動に専念しドイツ語で歌うミュージシャンも多く、北欧諸国などと比べると海外進出にそれほど積極的ではない。よってグローバルな舞台で活躍するドイツ人アーティストは限られ(ポップシンガーではアメリカに拠点を置くキム・ペトラスくらいか?)、Lenaのように英語のポップ・ミュージックを聴いて育ち、英語で歌う人でも、なかなか海を渡るまでには至らないのが現状だ。それだけに驚きは余計に大きい。
では彼女はどんな経歴の持ち主なのか? ブリトニー・スピアーズやビヨンセら「パワフルな女性アーティストたち」に憧れた子供時代に、人前で踊ったり歌ったりすることに夢中になったLenaは、将来は演劇を学ぼうと当初は考えていたという。が、はからずして音楽界に華々しくデビューしたのが18歳の時のこと。きっかけはユーロヴィジョン・ソング・コンテストだった。
ドイツ代表を選ぶオーディション番組「Unser Star für Oslo」に応募し(本人はそういう趣旨の番組とは知らずに出場したとか!)、見事1位を勝ち取って、高校卒業試験に向けて猛勉強をしながら早速音楽活動を開始。ユーロヴィジョンのエントリー曲となる「Satellite」を含むデビュー・アルバム『My Cassette Player』はドイツのアルバム・チャートのナンバーワンを獲得すると共に、シングル・チャートのトップ5圏内に、1位の「Satellite」以下3曲を同時に送り込むというドイツでは初の快挙を達成。
そんな追い風に乗って、2010年5月末に開催されたユーロヴィジョンのオスロ大会に出場し、「Satellite」の楽曲としてのクオリティ、派手な演出を競うことで有名なイベントにあって歌だけで勝負したシンプルなステージング、そして彼女自身の初々しい魅力で存在感を示し、ドイツ代表としては28年ぶりに優勝を果たすのである。
「一連のユーロヴィジョンでの体験を私は、ある種のナイーヴな気持ちを維持することで、うまく切り抜けられた気がしています」とLenaは当時を振り返る。「生きていると色んなことが起きるわけですが、願いが叶えばそれは素晴らしいことだし、起きなかったとしてもそれはそれで構わない。私はあまり多くを期待するタイプではないので、大きく落胆することも滅多にないんです。常にベストを尽くしていて、それで充分なのではないかと思っていて。そういう気持ちでいれば常に上を目指すことができますし、リラックスしていられる。今回の来日にしても同じこと。私は自分の身に起きたことを何でも楽しんで、瞬間瞬間をしっかり受け止める。そうするのがベストなんだと思っています」。
優勝者が語るユーロヴィジョン
60年以上の歴史を誇るユーロヴィジョンと言えば、最近では2021年大会で優勝したマネスキンが世界的ブレイクを果たしたことで、日本でも改めて認知度がアップしているようだが、全ヨーロッパを挙げて、各年のベストソングを一般市民の投票で選ぶ世界最大級の音楽イベントのひとつ。Lenaはその意義を次のように説明する。
「ユーロヴィジョンはヨーロッパそのもののセレブレーションであり、ある意味でサーカス的な面もありますが、たくさんの国とカルチャーが集まるわけですから、参加している国々について多くを学んだように感じさせてもくれます。また、LGBTQコミュニティに属する代表が少なくないので、多様でインクルーシヴであることを重視している。よってポジティヴで寛容なイベントであり、出来る限り政治性を排除しようとしていますが、例えば今年の大会ではウクライナで起きていることを無視するわけにはいきませんでした(注:ロシアは失格になった)。従ってノンポリを志しながらも、LGBTQコミュニティと深いコネクションを持ち、その時々に世界で起きていることを敏感に反映させているゆえに非常にポリティカルでもある。そんな複雑な要素が絡み合う中で、主催者は常に、可能な限りポジティヴな道を模索しているように思います」
また大国であっても成績が芳しいとは限らないところがその面白さでもり、ドイツも例外ではない。Lena曰く、彼女が出場した時も国内での関心はさほど高くはなかったという。
「そんな中で私が優勝したことで国全体が興奮に包まれて、“そうか、ドイツ人でも勝てるんだ!”とみんなが突如気付いたんです(笑)。“だったら盛り上げようぜ!”みたいなノリになって、それってすごくドイツ人らしいリアクションなんですよね」
実際Lenaの優勝を受けて、当時のアンゲラ・メルケル首相も「彼女のナチュラルさと暖かみに感銘を受けました。ドイツの若者にとって素晴らしいお手本だと言えるでしょう」と賞賛するなど、大いにドイツ人を湧かせ、彼女の人生は一夜にして激変。国民的スターの座へと上りつめる。
「当時は普通に学校に通っていて、どこにでもいるティーンエイジャーでした。なのにある日を境に私の顔が国中に知れ渡った。従って、冷静になって自分が置かれた状況を受け入れて新しい生活に慣れるまでに、少々時間を要しましたね。でも私は母親とすごくいい関係にあって、いつでも相談できましたし、地に足がついていた。シングルマザーである母親が、そういう人間に育ててくれたんです。どんな状況に置かれても自分を見失わず、自分の価値観に忠実に生きられる人間に。だから私は何でも、“あなたは本当にこれを望んでいるの?”と問いかけてから、決断をしてきました。どんなに忙しい生活を送っていても立ち止まって一息吐いて、ひとつひとつ自分に確認して答えを出す時間を確保しています」
トップ・スターになった以降
なるほど、若くしてスタートを切りながらも、このように賢明で誠実なスタンスを貫いてきたからこそLenaは安定したキャリアを築いて、トップに留まることができたのかもしれない。これまでに『Good News』(2011年/ドイツ・チャート1位)、『Stardust』(2012年/同2位)、『Crystal Sky』(2015年/同2位)、『Only Love, L』(2019年/同2位)と、計5枚の大ヒット・アルバムをリリース。ドイツのグラミー賞に当たるエコー・ミュージック・プライズの常連候補となり、作品を重ねるごとに音楽的にも進化を遂げてきた。
彼女曰く最初の2枚のアルバムはレーベル主導で制作されたために、自分らしさがまだ完全には反映されていなかったものの、ほぼ全曲を自ら綴った『Stardust』から「私の音楽を作り始めた」と語る。確かに、「Satellite」の延長上にあるレトロ・テイストを押し出した『My Cassette Player』と『Good News』に対し、『Stardust』以降の作品では英米のプロデューサー/ソングライターともコラボを行ない、よりコンテンポラリーなポップを志向。明確なシフトが見られ、『Crystal Sky』ではかなりエレクトロニックな路線に傾き、「life was a beach」を含む最新作『Only Love, L』は、R&Bやトラップ、エレクトロ・ポップ、ダンスホールなどなど現代のポップ・ミュージックのトレンドを網羅し、言わばグローバル・スタンダードに準じたアルバムに仕上がっている。
が、そんなプロダクションのクオリティもさることながら、着目すべきはその内容だ。マイナーコードに寄った影のある曲が多いことが示唆しているように、『Only Love, L』は極めて内省的。ハートブレイクの深い傷を癒し、衆目に晒される生活を続けることで受けた精神的ダメージと向き合って、自信や尊厳を取り戻すプロセスを赤裸々な言葉で描いている。
「このアルバムの制作プロセスはセラピーみたいなもので、曲作りに費やした2年間の自分を鏡のように映しています。パートナーとの別れがあったり色んな辛い体験をして、それらを振り返って精査し、心の整理をするようなところがありました」とLena。そういう作品の文脈を踏まえて「life was a beach」を捉えると、一聴したところレイドバックで優しいこの曲の裏に潜んだ、悲しみや憤りが浮き彫りになる。
「そうですね。“life was a beach”というフレーズは、“life is a bitch(人生は厄介なもの)”という言い回しをひねったもので、恋愛関係が続いている間、私はずっと自分は幸せなんだと信じ込んでいたけど、破局した途端に全てがバラ色だったわけではないと悟った――という曲です。渦中にいる時には気付かなかったことが、次々にフラッシュバックのように突き付けられたんですよね。まるでふたつの異なるリアリティを生きていたかのように。クレイジーな話ですが、きっとネガティヴなことから目を背けていたんでしょう。独りになった時に一気にそういったことが心にのしかかってきて、これについて曲を書かなければ!と思ったんです」
ご存知の通り、先頃クリス・ハートとデュエットとする「life was a beach」のニュー・ヴァージョン「life was a beach feat. Chris Hart」が全世界に配信されたばかり。Lenaの日本滞在中にふたりで撮影したミュージック・ビデオも併せて公開され、曲の人気が再燃することは必至だろう。
次なる新作アルバム
他方のドイツでは、『Only Love, L』が登場してから早くも3年が経ち、そろそろ6枚目が期待される頃だ。しかし今は敢えて細かく予定を立てずにゆっくりと過ごしているという彼女は、「プレッシャーをかけるといい作品が生まれないですから」と現在の心境を説明する。
「自分がやろうとしていることに100%自信が持てれば、それを実現させるために必要なエネルギーを注ぐことができますし、全力で取り組みます。でも自信が足りなかったり、外部の人に指図されたりすると、意識を集中させることはできない。進行はゆっくりですがアルバムを作っていることは間違いないので、2023年中にはリリースしたいと思っています」
また、今年6月に送り出したニュー・シングル「Looking For Love」は自分が向かっている場所をそれとなく示唆しているとも、Lenaは言う。人と人がつながり、理解し合うことの大切さを訴える、強い意志に貫かれたディスコ調の一曲だ。
「SNSを見ていても感じますし、世界全体を見回した時もそうですが、今は誰もがラヴを、他者に受け入れてもらうことを、他者と触れ合うことを、リアルな対話とフィーリングを求めているように思うんです。良くないことが続いているがゆえに、そういう想いが共有されているんでしょうね。私にとってこれは、あちこちで戦争が起きている今、非常に大きなテーマです。ベルリンは多様な人種や国籍の人が暮らしていますから、外国で起きていることもすごく身近に感じますし、自分の気持ちを人々と分かち合いたかった。と同時に、ここには怒りも込められています。なぜ私たちはお互いにもっと優しく接することができないのかなって(笑)」
Written By 新谷洋子
「life was a beach」収録アルバム
Lena『Only Love, L』
2019年4月9日発売
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music
Lena「life was a beach feat. Chris Hart」
2022年9月30日発売
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music
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