Join us

Columns

レディー・ガガ新作アルバム『Mayhem』解説:内に抱えるカオスと安らぎの境地

Published on

レディー・ガガ(Lady Gaga)が2025年3月7日にリリースした最新アルバム『Mayhem』。2020年の『Chromatica』以来約5年ぶりとなり、英米チャートではすでに1位を獲得しているこの新作について、新谷洋子さんに解説いただきました。

<関連記事>
LA山火事救済支援コンサート“FireAid”の出演者/視聴方法が発表
ガガ、映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』のインスパイア・アルバムを発売


 

異形のポップ・ミュージックから広げてきた幅

「私は心底からポップ・ミュージックを愛しています。だからこれは100%自分らしい表現でもある。ファイン・アートとして真剣に捉えてもらえる商業的アートを志した、アンディ・ウォーホルと同じことで、私はアンダーグラウンドな作品を作っているわけではなく、アンダーグラウンドのライフスタイルに倣ったポップ・ミュージックを作っているんです」

全米ビルボード200でソロ・アルバムとして連続5枚目となる1位に輝いた、レディー・ガガの5年ぶりの新作『Mayhem』を初めて全編聴いたとき、2009年3月――つまり彼女のファースト・アルバム『The Fame』が米国で発売されてから半年後に筆者が行なったインタヴューでの、上記の発言を思い出した。

「アンダーグラウンドに身を置くアーティストは通常アンチ・メインストリームである場合が多いのに、あなたはメインストリームを受け入れましたが、そこに矛盾は感じなかったんですか?」という問いに対する回答だ。

というのも、下積み時代はニューヨークのアンダーグラウンドなクラブで音楽とファッションと演劇の要素をミックスし、ともすると過激なパフォーマンスを披露していたガガが、最初の3枚のアルバム――『The Fame』『The Fame Monster』『Born This Way』――で打ち出したのは、当時ほかに誰も鳴らしていなかったある種異形の、アングラ感を湛えたポップ・ミュージックだった。

Lady Gaga – Born This Way (Official Music Video)

ヴィジュアル共々どこかエキセントリックでシアトリカル。時にキケンな匂いがする上に、キッチュでユーモラスな瞬間も多々あり、ジャンルというコンセプトを無効化した折衷志向に貫かれていて。にもかかわらずとことんメロディックにしてキャッチーで、メインストリームに浸透するに十二分な間口の広さを誇り、実際彼女は次々にヒットを記録。結果的に社会現象級の成功を収め、以来約15年間、ポップ・ミュージックへの愛情を維持しつつもどんどん表現の幅を広げてきたことはご存知の通りだ。

例えば、故トニー・ベネットとジャズ・スタンダードを歌いこなしたかと思えば(2014年の『Cheek To Cheek』と2021年の『Love For Sale』)、カントリー/アメリカーナに傾倒(2016年の5作目『Joanne』)。そして映画サントラを手掛け(2018年の主演作『アリー/スター誕生』のサントラ)、エンパワーリングなダンス・アルバムを作る一方(2020年の『Chromatica』)、ハリウッドに進出して大作で主役を務める俳優へと出世を遂げた。

【和訳】トニー・ベネット&レディー・ガガ – ラヴ・フォー・セール / Tony Bennett & Lady Gaga – Love for Sale【ギネス記録】

 

新作と婚約者の言葉

そんなガガを、まさに自分が先鞭をつけたイノベーティヴなポップ・ミュージックが全盛期を迎えている今ようやく原点に連れ戻してくれたのは、実業家の婚約者マイケル・ポランスキーだった。

本作ではソングライターとしても活躍し、制作プロセスを通じて彼女に寄り添ったマイケルの貢献について、「“君はポップを愛しているのに怖がっているだけだ”と言って、私にインスピレーションをくれました。真の友だからこそ自分の本質と向き合うよう促して、私の意欲をかき立ててくれたんです」とガガは語っている。

しかも今回は従来の作品のようなコンセプトを設けていないため、サウンド志向にも歌詞のテーマにも一切縛りがない。ダークとライト、ハードとソフト、怒りと喜びを包含し、享楽的なパーティー・アルバムでありながら、鏡を覗き込むような内省を極めてもいて、騒乱や大混乱を意味するタイトル通り、敢えて自身が内に抱えるカオスをそのまま受け入れている。

「このアルバムの素晴らしさは、どれだけカオスが深まろうと私は今もここにちゃんと存在しているということにあって、自分自身のストーリーを伝えることが出来ていればそれで充分なんです。“mayhem”である以上雑然としていますが、人間であることはキレイごとではなく、厄介なものですからね」

そう自身の意図を説明する彼女は、うってつけの共同プロデューサー兼共作者に白羽の矢を立てている。そう、オジー・オズボーンからカーディ・Bに至るまであらゆるジャンルのアーティストたちと仕事をしてきた、引く手数多の男アンドリュー・ワットである。

ギターを中心に多数の楽器もプレイしているそんなアンドリューと、彼としばしばコラボしているサーキットことヘンリー・ウォルターが全面的に参加し、曲によってはフランス人DJ/プロデューサーのゲサフェルスタインことマイク・レヴィを交えた少人数体制で、ガガはLA郊外のマリブにある伝説的スタジオ=シャングリラにてレコーディングを敢行。じつに身軽にジャンルと時代の枠を飛び越えながら、これらの曲を作り上げている。

Andrew Watt on Lady Gaga and Producing “Abracadabra”

 

アルバム収録楽曲の内容

冒頭を飾るのは、歪んだビートを刻むシングル曲「Disease」。アルバムは真夜中のダンスフロアで幕を開け、ここでの彼女は内に抱える闇(=disease)と向き合い、そういう部分でさえ自分の人格の一部分として受容しなければならないのだと言い聞かせている。

【和訳】レディー・ガガ – Abracadabra / Lady Gaga

そして“ナイトクラブで呪文を唱える魔女”をイメージしたインダストリアル・テクノ調の「Abracadabra」では“死か愛か?”と選択を迫り、2000年代のエレクトロ・クラッシュをリブートした「Garden of Eden」を経て、序盤のハイライトと呼ぶべき「Perfect Celebrity」へ。

ナイン・インチ・ネイルズを想起させるダークネスとヘヴィネスを極めたこのエレクトロ・グランジ・ソング「Perfect Celebrity」でガガは、最初の2枚のアルバムでフォーカスした“名声”というテーマを改めて取り上げ、セレブリティであることを自分のクローンと一緒に生きることに準える。歌声に満ちているのは、公の顔と私の顔が乖離するままに任せてしまった自分自身への怒りだ。

Lady Gaga – Perfect Celebrity (Official Audio)

が、ここにきてそろそろと夜が明け、”愛する人の中に溶け込んで一体化したい“という願望を歌う、マイケルに捧げたファンク・チューン「Vanish Into You」でモードが切り替わる。デヴィッド・ボウイの「Fame」とプリンスの「Sign’O’the Times」が出会う「Killah」、ワイルドな夜遊びの翌朝ゾンビみたいな気分で目を覚ます――というストーリーをディスコのリズムに乗せた「Zombieboy」(「Born This Way」のPVでガガと共演し、2018年に亡くなったアーティスト兼モデルのゾンビボーイことリック・ジェネストへのオマージュも込めている)、80年代テイストのポップロック仕立てのラヴソング「LoveDrug」などなど、この第2章を構成する曲はどれもより色鮮やかで、徹底してファンキーだ。

【和訳】Lady Gaga – Vanish Into You / レディー・ガガ【MAYHEM】

このあと彼女はもう1曲のディスコ・チューン「Shadow of a Man」で、男性主導の音楽業界で生きてきた自身の経験を総括すると、それぞれにテイストが違う3つのセンチメンタルなバラードを並べた、風変わりな終章に移行。歌い手としての威力を存分に見せ付けて、本作を締め括っている。

パフォーマーとしての自分の別人格を題材にしたパワー・バラード「The Beast」に、マイケルにプロポーズされたときの様子を振り返るロマンティックな「Blade of Grass」が続き、いよいよラストで聴こえてくるのは、今やすっかりお馴染みとなったあの曲。ブルーノ・マーズとガガが生んだメガヒット・シングル「Die With A Smile」である。

【和訳】レディー・ガガ & ブルーノ・マーズ – Die With A Smile / Lady Gaga & Bruno Mars

彼女にとって6曲目の全米ナンバーワン・シングルとなり、計5週間1位の座にあったこのソフトロック風バラードは、他の2曲のゴシックな色合いの先行シングルーー「Disease」及び「Abracadabra」――とはあまりにも趣を異にしていたため、1枚のアルバムに居場所を見出せるのだろうかと疑問を抱いたものだ。

しかし、まさにこうした一見相容れない表現をつなぐことこそが、ガガの腕に見せどころ。本作の文脈において、また世の中が日々混迷を深める中で、“世界がもうじき終わるのだとしたら、あなたに寄り添っていたい”と誓う彼女の言葉には新たな重みが加わり、カオスからの避難所として、騒乱の果てに到達する安らぎの境地として、パーフェクトなエンディングを供している。

Written By 新谷洋子



レディー・ガガ『Mayhem』
2025年3月7日発売
CD&LP / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music




Share this story
Share
日本版uDiscoverSNSをフォローして最新情報をGET!!

uDiscover store

Click to comment

Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Don't Miss