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ドレイクが7作目のアルバム『Honestly, Nevermind』で伝えたかったこと

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Photo Courtesy of Republic Records

2022年6月17日にサプライズ発売されたドレイクの7作目となる最新アルバム『Honestly, Nevermind』。配信サイトのジャンルでは“ヒップホップ”ではなく“ダンス”に登録されている本作について、ライター/翻訳家の池城美菜子さんに寄稿いただきました。

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Drake – Falling Back

サプライズでの発売

ドレイクの奇襲が、度を越していた。6月16日にインスタで『Honestly, Nevermind』を24時間以内にリリースすると予告し、実行したのだ。まず、正式なスタジオアルバムだったことにびっくり。非常に多作でミックステープをよく出す人だが、2010年にアルバム・デビューして以来、スタジオアルバムはまだ6枚しか出していない。

もっと驚いたのは、本作がヒップホップではなかったこと。カナダはトロントの大人気ラッパーは、7作目にしてハウス・ミュージックに大きく踏み込んだダンス・アルバムをドロップしたのだ。

6月17日の金曜日は、まんまと引退宣言を取り下げて元気に活動しているロジックの『Vinyl Days』を楽しむ予定だった。30曲収録のボリューミーな(こちらも)7作目だが、うち8曲は既発で方向性も感触もわかっていたため、意外性はないけど安心して聞ける72分間だった。

対して、ドレイク『Honestly, Nevermind』を初めて聴くのは、意外性と不安しかない52分半だったのだ。話題ごと持って行かれた感はあるものの、ロジックにもわりとしぶといファンがついているので(私だ)、タイトルからしてヒップホップ愛が詰まった『Vinyl Days』も長く聴かれるだろうし、心配しなくていいだろう。

 

“ハウス・ミュージック”の新作

ドレイクの『Honestly, Nevermind』は、収録14曲のうち12曲がハウス・ミュージックであり、ジャンルとしてはダンス・ミュージックになる。彼が大きくダンス・ミュージックに大きく寄ったのは、2017年『More Life』以来だ。リリースされる数時間前、「ブラック・コーフィーとDJカーネージが参加しているらしい」との情報がネットを駆け巡った。

南アフリカ共和国出身の人気DJであるブラック・コーフィーは『More Life』の「Get It Together」にも参加しているので、そちらの音も入っているかな、と思ったのだが、入っているどころか全編ダンス・ミュージックだったため、世界中のファンが仰け反った。

Get It Together

ミックステープ扱いだった『More Life』は、ジョルジャ・スミスとブラック・コーフィーが参加した「Get It Together」や、大ヒットした「Passion Fruit」でドレイクの歌声と4つ打ちのビートとの相性の良さを証明した作品であった。結論を書いてしまうと、『Honestly, Nevermind』は『More Life』が好きだったファンには大歓迎される作品だし、ドレイクをヒップホップの文脈で語りたいファンはなじむまで時間を要するだろう。

2年ぶりにたくさん踊る機会がありそうな、2022年の夏を目前にクラブのフロアやフェスのセットチェンジのあいだに重宝されること必至のアルバムをリリースするあたり、ドレイクと彼のチームの策士ぶりが、さすがだ。本稿はリリースされてから24時間経つか経たないかのタイミングで書き始めた。最初に聴いたときに反発も多く出そうだな、と思った感想が的中し、ファンがつけている点数はいまのところ辛い。

一方、海外の音楽メディアや新聞の本腰レビューはわりと好意的である。「新しい試みをやっているのがよろしい」との評価が多いのだ。これは、2021年9月3日にリリースされた『Certified Lover Boy』が、あまりにも「ドレイクがいつものドレイクをやっている」アルバムであったため、反動的な捉え方なのだが。ゲリラリリースされた7作目ではあるが、2020年に出る予定だった『Certified Lover Boy』が遅れまくった結果、インターバルが短くなっただけとの見方もできる。

『Honestly, Nevermind』のプロデューサーはドレイクの盟友、ノア“40“シェビブと前作で「N 2 Deep」を作ったキッド・マスターピース以外は、前述のブラック・コーフィー、ULTRA JAPANにも出演しているDJカーネージ、ベルリンのDJ、&MEとランパのチームと本職のDJを揃えたのが特徴。ちなみに、40もドレイクのプロダクションをがっつり担うまではDJでもあった。

シカゴやボルティモアなど、地域によってスタイルが違う(らしい)ハウスのなかでも、本作ではニュージャージーのクラブ・シーンで顕著な「ジャージー・スタイル」を取り入れているのだそう。いきなり伝聞形になって申し訳ないが、筆者はハウス・ミュージックに強いライターではないので、その方面に明るい方、もしくはDJの人の意見をぜひ聞きたいし、評価も任せたい。音について私は「意外と聴きやすくて好きかも」という、子どもみたいな感想しか書けない。

本作は、英語の「grow on(好きになってくる)」という表現がぴったりで、聴く回数を重ねるごとに各曲のニュアンスが聴き分けられて楽しさが増していく。最初はラップが強めの「Sticky」と「A Keeper」がしっくりくるかな、と思ったが、夜中はかなりエッチなフックと転調がくせになる「Calling My Name」が気持ちよく響いた。とにかく、食わず嫌いがもっとも損をするタイプの作品。なによりもダンス・ミュージックである以上、踊ってみないことには真価がわからない。ドレイクは今回、本気で私たちを踊らせにかかっている。

Drake – Calling My Name (Official Audio)

 

アルバムのコンセプトと歌詞

次は得意なコンセプトとリリックの話をしよう。サウンドには意表をつかれたが、歌詞世界は孤独、失恋、駆け引き、人間不信といつものドレイク節である。特筆すべきは、唯一のゲスト、21サヴェージとの「Jimmy Cooks」だろう。アルバム13曲目の「Liability」はオートチューンなのか、歌声に妙な細工をしたムーディーな(非ハウスの)曲。その次に、南部のメンフィスのサウンドを取り入れた前作収録「Knife Talk」の続編ともいえるヒップホップで締めている。

21サヴェージは、ファレルの「Cash In Cash Out」でタイラー・ザ・クリエイターともゴリゴリのヴァース合戦をくり広げたばかりで、絶好調だ。戦闘モード全開の曲から、21サヴェージのびっくりラインを紹介しよう。

If I was Will Smith, I would’ve slapped him with a stick
俺がウィル・スミスなら あいつを棒でぶっ叩いている

一方、ドレイクは強気なリリックのなかでふたりに追悼を捧げている。まず、イントロで肝不全および腎不全で24歳の若さで5月に亡くなったアトランタのリル・キードの名前を出しているのだ。また、コーラスはこうだ。

Gotta throw a party for my day ones
They ain’t in the studio, but they’ll lay somethin’
Rest in peace to Drama King, we was straight stuntin’
If I let my nigga 21 tell it, you a Pussy
初心者のためにパーティーをしなくちゃね
奴らはスタジオにはいないけれど そのうち何かラップするだろうから
安らかに眠れ ドラマ・キング 俺と同じ見せびらかし屋だったね
俺の仲間21によると お前なんか腰抜けだね

ドラマ・キングはニューヨークのベテランDJ、ケイ・スレイのこと。今年の2月に新型感染ウィルスに感染して亡くなったばかりである。東海岸でとてもリスペクトされている人なので、この曲のコーラスは必ずクラブでかかるだろうし、このラインで合唱になるはずだ。

Drake ft. 21 Savage – Jimmy Cooks (Official Audio)

 

詩的なステートメント

今回、ドレイクはリリースにあわせてApple Musicに長いステートメントを出している。今年はさらにミックステープ『Scary Hours』シリーズの続編と詩集(!)を出すと発表したため、この詩的ともいえるステートメントが話題になっている。目立ったリリックをピックアップするより、こちら全文和訳のほうが『Honestly, Nevermind』の本質に迫れそうなので、訳してみよう。

I let my humbleness turn to numbness at times letting time go by knowing I got the endurance to catch it another time
I work with every breath in my body cause it’s the work not air that makes me feel alive
That’s some real detrimental shit but that’s that shit my perfectionist mind doesn’t really mind because no one knows whats on my mind when I go to sleep at 9 & wake up at 5 – unless I say it in rhyme
I can’t remember the last time someone put they phone down, looked me in the eyes and asked my current insight on the times
But I remember every single time someone shined a light in my eyes
I purposely try to forget what went on between some ppl and I because I know I’m not a forgiving guy even when I try
My urge for revenge wins the game against my good guy inside every single fckn time
I got plans I can’t talk about with more than like 4 guys because the last time I shared em with someone on the outside…well that’s another story for another night
I was tryna get thru that statement to get to saying I’m not @ a time in my life where pats on the shoulder help get me by
I’ll take loyalty over an oh my & emoji fire
I know if it was a dark night where all the odds were against my side & my skill went to whoever took my life they’d done me off with a big smile & maybe evn post it for some likes
I know everyone that tells me they love me doesn’t love me all the time especially when im doing better than alright & they have to watch it from whatever point they at in their life
I got here being realistic
I didn’t get here being blind
I know whats what and especially what and who is by my side
Honestly…Nevermind.
DEDICATED TO OUR BROTHER V
—Drake

時々、謙虚さを麻痺させてしまう。そのうち、また(謙虚さを)取り戻せるだけの忍耐があるのはわかっているから。
全身全霊で仕事をしているのは、呼吸ではなく仕事が生きている実感を与えてくれるからだ。
それってまじで有害なんだけど、俺は完璧主義だから気にしていない。朝の9時に寝て夕方5時に起きて(仕事をしても)何を感じているかなんて、だれもわからないんだから-ライムにしないかぎりは。
誰かがスマホを置いて、俺の目を真っ直ぐ見て、そのとき何を感じているか最後に聞いてくれたのはいつだったかも覚えていない。
でも、誰かに俺の目を輝かせてもらったときのことはすべて覚えているよ。
俺が揉めた人たちと何があったかどうにか忘れようとしているのは、もともと人を許せるタイプではないからなんだ。
毎回、復讐したい衝動が俺の中にいる「いい奴」を負かしてしまう。
4人以上には言えない計画もあるよ。前に外部の人に漏らしたときは…これはまた別の夜に話そうかな。
人生で、肩を叩いて慰めてもらってもどうしようもない時期だったと伝えて、やり過ごそうとしたんだ。
「まぁまぁ」とかの言葉や、火の絵文字なんかより、忠誠心を信じるよ。
俺に向かって逆風が吹いているような暗い夜に、俺の技術を取ってから殺そうとする奴がいたら、そいつらは笑いながらやるだろうし、「いいね!」を狙ってSNSに上げさえするのはわかっているんだ。
「愛している」って言ってくれる人も、いつも愛してくれるわけじゃない。とくにそれぞれが人生のさまざまな状況に差しかかっているのに、好調な俺を見ていないといけないときは。
俺は現実的だから、ここまで来られた。
見て見ぬふりをして、ここまで来たわけじゃないよ。
なにがどうなっているかわかっている。俺の味方がなにか、誰かはとくにね。
いやまじで…気にしないでくれ。
俺たちの兄弟、Vに捧ぐ。
—ドレイク

夜中に思いの丈をバーっと書いたような文章である。スペルミスもあるし、スマホのメッセージのように「@」のような記号まで入っている。細かいことだが、never mindは本来、ふたつの単語だ。だが、ワーカホリックであること、自分の感情を伝えるのに曲を作る以外はないこと、周りに多くの人はいるけれど真剣に向き合ってくれる人は少ないこと、そして「わかっているから、なめた真似はするな」と私たちにはわからないだれかに牽制をかけているのは、よく伝わってくる。

大文字のDEDICATED TO OUR BROTHER Vの「V」は、ヴァージル・アブローだ。彼やリル・キード、キング・スレイなど早世した仲間を想いながら作ったアルバムが、心臓の鼓動のようなハウス・ミュージックであるのはハッとする。つねに陰気な空気を纏ながら、ドレイクは生きることにこだわっているし、かなり強いハートの持ち主であるのは2022年の救いだと思う。

「気にしないでくれ」と言われても、みんなに気にされるのがドレイクであるし、『Honestly, Nevermind』はきっちり再生回数を稼ぐはず。カナダから届いた、初夏のびっくりプレゼントをしばらく聴いてみることにしよう。

Written By 池城美菜子(ブログはこちら



ドレイク『Honestly, Nevermind』
2022年6月17日配信
Apple Music / Spotify / Amazon MusicYouTube Music

<Tracklist>
1. Intro
2. Falling Back
3. Texts Go Green
4. Currents
5. A Keeper
6. Calling My Name
7. Sticky
8. Massive
9. Flight’s Booked
10. Overdrive
11. Down Hill
12. Tie That Binds
13. Liability
14. Jimmy Cooks (feat. 21 Savage)




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