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ボブ・マーリーの11人の子供と100人近い孫:音楽家として注目の人達をピックアップして紹介
海外で2024年2月14日に劇場公開され全米興行収入2週連続1位を記録、英仏ではあの『ボヘミアン・ラプソディ』を超える初日興行収入、母国ジャマイカでは初日興行収入としては史上最高数を記録したボブ・マーリー(Bob Marley)の伝記映画『ボブ・マーリー:ONE LOVE』。
日本では2024年5月17日に公開されることを記念して、ライター/翻訳家の池城美菜子さんによるボブ・マーリーの生涯と功績についての連載企画を掲載。
第3回目は、彼の子ども、そして孫たちについて解説いただきました。
・連載第1回「改めてボブ・マーリー、そしてレゲエとは」
・連載第2回「ボブ・マーリーの音楽のどこが時代を超えて人々の胸を打つのか」
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連載第3回目は、ボブ・マーリーが遺した子孫に焦点を当てる。36歳の短い生涯で、彼は公式には11人の子どもを残している。時代や日本との文化のちがいはあるだろうが、恋多き男であったのはまちがいない。妻のリタ・マーリーとはボブが21歳、リタが19歳と結婚が早かった。
11人のうち、ふたりの間で生まれた実子は3人。ボブには6人のベイビーズ・マザー(子どもを産んだ彼女を指す)がいて、リタのほうも長女のシャロンは結婚前にほかの男性との間に産んだ子どもで、1974年に住まれたステファニーもボブ以外の男性が父親だ。2人ともボブに実子と分け隔てなく育ててもらった、と話している。
本稿では音楽活動をしている息子たちと、100人を超えるとも言われる孫のうち音楽活動をしているアーティストを紹介しよう。
マーリー・ブラザーズ
まず、レゲエ・ファンの間で「マーリー・ブラザーズ」として知られるのは以下の5人。
・リタとの間に生まれた長男のジギー(1968年生まれ)
・次男のスティーブン(1972年生まれ)
・イギリス生まれのジュリアン(1975年生まれ)
・ジャマイカの卓球チャンピオン、アニタ・ベルナヴィスとの間に生まれたキマーニ(1976年生まれ)
・ミス・ジャマイカから2人目のミス・ワールドになったシンディ・シェイクスピアとの間に生まれたダミアン(1978年生まれ)
ジギーとスティーブン以外は異母兄弟ながら、彼らに共通しているのは父親譲りの声を持っていること。それぞれ、ソロ・アルバムをリリースし、キマーニ以外はグラミー賞を受賞しているアーティストでありつつ、ボブの曲をそっくりに歌える強みをもつ。多くのアーティストがボブ・マーリーの曲をカヴァーしているが、やはりDNAの力は強い。
映画『ボブ・マーリー: ONE LOVE』にも出てくるように、ジギーとスティーブンの母、リタ・マーリーも シンガーである。彼女とジュディ・モワット、マーシャ・グリフィスで結成したアイ・スリーズも73年以降のボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズのサウンドの重要な要素だ。ボブの死後、3人はそれぞれソロ・キャリアを歩む。とくに、90年代に多くのヒットを飛ばしたマーシャ・グリフィスのコンサートでの、ボブ・マーリー・セクションは楽しい。なにしろ、70年代と同じ振り付けで歌ってくれるのだから。
映画プロデューサーを務めたジギー
長男のディヴィッド・ネスタ“ジギー”マーリーは、姉のシャロン、セデラ、次男スティーブンとともにジギー・マーリー&ザ・メロディ・メーカーズとして11歳でデビュー。父母、弟のスティーブンと一緒に歴史的な1978年の「One Love Peace Concert」やジンバブエでのコンサートでステージに立っている。
一つ上のセデラ・マーリーは、ボブの顔をモチーフにした服飾ブランド「Catch A Fire」を00年代前半に流行らせたり、近年ではボブ・マーリーの歌詞をベースにした子ども向けの絵本で出版してロングセラーになっていたりと多才。ジギーは少しアメリカナイズされたポップ・レゲエが得意。
2003年の『Dragonfly』以来、質の高いアルバムを作り続けている。また、兄弟たちとレーベル、ゲットー・ユース・インターナショナルを主催している。ジギーは母のリタとともに映画『ボブ・マーリー: ONE LOVE』のプロデューサーに名を連ね、現在もプロモーションで大忙しだ。
幅広くプロデュースをこなすスティーブン
長男のジギーはお母さんのリタの方針に忠実に従う一方で、弟たちを束ねているのが次男のスティーブン・ロバート・ネスタ・マーリーだ。「ゲットー・ユース」を冠したマーリー・ブラザーズ関連のレーベルや慈善団体もスティーブンが中心であることが多い。メロディ・メーカーズの一員として7歳から活動し、父母、兄と一緒に歴史的な1978年の「One Love Peace Concert」やジンバブエでのコンサートでステージに立っている。Raggaというニックネームをもつ彼は、ヒップホップ世代。ルーツ・レゲエからダンスホールまで手がけるプロデューサーであり、ヒップホップやR&Bの要素も器用に取り入れる。
1999年にはボブ・マーリーとアメリカの有名アーティストたちがヴァーチャル共演した企画盤『Chant Down Babylon』のプロデューサーを務めた。末っ子のダミアンと気が合い、マーリー・ブラザーズ最大のヒット、ダミアン・マーリーの「Welcome to Jamrock」(2005)と同名アルバムをプロデュースしている。映画『ボブ・マーリー: ONE LOVE』の音楽監督も彼だ。
ソロ作も毎回、聴き応えがある。『Mind Control』(2007)と同作のアコースティック・バージョン『Mind Control Acoustic』(2008)、二部作『Revelation Part 1:The Roots of Life』(2011)と『Revelation Part Ⅱ:The Fruits of Life』(2016)は、アコースティックヴァージョン以外3作ががグラミー賞の最優秀レゲエ・アルバムを受賞。
兄弟のほか、多岐にわたるゲストを呼んでもピシッと芯が通っているのがセルフ・プロデュースの成せる技。リスニング・セッションやインタビューでも気さくに話してくれ、好感度抜群。アメリカのアーティストでも、スティーブンと友人関係であるのを自慢する人は多い。
スティーブンはソロ活動を始めていた長男のジャモーサ・マーリーを、2022年に喘息の発作で亡くす悲劇に見舞われた。享年31。ジャモーサは幼い頃から父のステージに立って、私も何度もカメラを向け、そのたびに笑顔で応えてくれたのでショックだった。
スティーブンは2023年、ギターの音色を中心に据えた『Old Soul』をリリース。エリック・クラプトンのギターに合わせてステイーヴンが歌う「I Shot Sheriff」という強力な曲も収録しているので、ぜひ聴いてみてほしい。
英国売まれのジュリアン・マーリー
ボブが住んでいた家がそのまま博物館になっているボブ・マーリー・ミュージアムは、ジャマイカきっての観光スポットだ。56ホープ・ロードに行くと、マーリー・ブラザーズの誰かがサッカーをしていることもあり、タイミングが良ければ写真撮影に応じてくれる。
もっとも穏やかな雰囲気を漂わせているのが、イギリス生まれのジュリアン“ジュジュ”マーリーだ。1996年からコンスタントにソロ作を発表、バンドのアンテウスと一緒に発表した5作目の『Colors Of Royal』で、2024年に念願のグラミー賞の最優秀レゲエ・アルバムを受賞したばかり。
優れたギタリストでもあり、1999年のローリン・ヒル『The Miseducation of Lauryn Hill』でも数曲、演奏している。2020年に来日する予定だったが、コロナ禍で流れてしまった。
俳優もこなすキマーニ・マーリー
音楽活動をしているマーリー・ブラザーズの中で、兄弟レーベル、ゲットー・ユース・インターナショナルに参加していないのがマイアミ育ちのキマーニだ。音楽性もロックやポップなどレゲエ以外の要素も多い。兄弟仲が悪いわけではなく、共作もファミリー主催のコンサートにも出演している。シャング・レコードやイギリスのGee Streetなど、ほかのレーベルからアルバムをリリースする機会が多かったのが理由だと思われる。
6作のソロを、ドイツのレゲエ・アーティスト、ジェントルマンとコラボ作1枚がある。2019年には故XXXテンタシオンの「Royalty」でフィーチャーされた。俳優の活動もしており、ジャマイカのカルト・ムーヴィー『Shottas』などに出演している。
カリスマの末っ子、ダミアン・マーリー
もっともカリスマ性があり、人気が高いのが末っ子のジュニア・ゴングことダミアン・ロバート・ネスタ・マーリーだ。彼はシンガーである兄たちとはちがい、ヒップホップでいうところのラッパーである、レゲエDeeJayと歌の両方をこなす。次兄スティーブンとがっちり組んだセカンドアルバム『Halfway Tree』で注目が集まり、前述したように2005年のサードアルバム『Welcome To Jamrock』が世界的ヒットに。
同アルバム収録曲「Road to Zion」での共演がきっかけに、2010年にナズとのコラボ・アルバム『Distant Relatives』をリリース、ミック・ジャガーが中心になっていたスーパーグループ、スーパーへヴィーにも参加している。マライア・キャリー、ブルーノ・マーズ、ジェイ・Z、コモンからフィーチャリングの要請がある人気者だ。
2010年代はプロデュースや後輩アーティストの育成にも力を注ぎつつ、4作目『Stony Hill』(2017)をリリースした。
100人近い孫たち
ボブ・マーリーは孫の数も桁違いだ。音楽活動をして曲を出しているアーティストに絞って紹介しよう。
セデラ・マーリーの息子、スキップ・マーリーは1996年の27歳。甘く掠れる歌声がボブをほうふつとさせる。H.E.R.を招いた「Slow Down」や、ナイジェリアのアイラ・スターとの「Jane」など、レゲエをベースに、R&Bやアフロビーツを注入したサウンドに挑戦している。
ミュージシャンではないもののマーリー・ブラザーズの一員として有名なのが、スティーブンと同じ年のローハン・マーリーだ。サッカーが得意で運動神経もよかった父の血を受け継ぎ、アメリカン・フットボールの選手として活躍。ローリン・ヒルと事実婚をして5人の子どもを授かった。そのうち、セラ・マーリーはモデルと音楽活動をしている。そして、今もっとも注目されている孫が22歳のYGマーリーだ。
2001年にジョシュア・オマル・マーリーとして生まれた彼も、叔父たちがボブのステージに立ってきたように、子どもの頃からローリンのステージに立っている。『The Miseducation of Lauryn Hill』の25周年のステージにおけるパフォーマンスがSNSでバイラルになり、「Praise Jah in the Moonlight」がいま、大ヒット中だ。
この曲は、祖父・ボブ・マーリーの1978年の「Crisis」をサンプリングしたレゲエで、ビルボードのシングル・チャートに78位でデビューし、39位まで上昇(UKでは最高位5位)。ソングライティング、プロデュース共にローリンとYG本人が携わっている。マーリー家らしい声質と、母譲りのレイドバックしたフローが相まって、強烈な印象を残す。コーチェラの出演も決まっており、これからが楽しみだ。
Written By 池城 美菜子(noteはこちら)
映画情報
『ボブ・マーリー:ONE LOVE』
■監督:レイナルド・マーカス・グリーン(『ドリームプラン』)
■出演:キングズリー・ベン=アディル(『あの夜、マイアミで』)、ラシャーナ・リンチ(『キャプテン・マーベル』)
■脚本:テレンス・ウィンター(『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』)、フランク・E ・フラワーズ、ザック・ベイリン(『グランツーリスモ』)、レイナルド・マーカス・グリーン
■全米公開:2024年2月14日
■日本公開:2024年
■原題:Bob Marley: One Love
■配給:東和ピクチャーズ
■コピーライト:© 2024 PARAMOUNT PICTURE
ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ
『One Love: Original Motion Picture Soundtrack』
2024年2月9日配信
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