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来日公演が迫るオールマイティ:英国屈指のライヴ・バンドの記憶と期待

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デビューから35周年を経て、オリジナルメンバーでは初となる来日公演が2025年1月29日から実際されるオールマイティ(The Almighty)。この来日公演を記念して、初期3タイトルがボーナス・ディスク付きの2CDとして初めて日本盤が発売される彼らについて、音楽評論家の増田勇一さんに寄稿いただきました。

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英国屈指のライヴ・バンド、オールマイティーの来日公演がいよいよ間近に迫ってきた。オリジナル・ラインナップでの復活を果たした彼らは、2023年11月30日、バンドの誕生地であるスコットランドのグラスゴーでの公演を皮切りに『NEVER SAY NEVER』と銘打たれたツアーを開始し、丸1年をかけて英国各地を巡演。

古くからのファンを熱狂させるのみならず、90年代の彼らを知らない世代からも熱烈な反応を獲得してきた。そのツアーがいよいよ日本上陸を果たすことになるわけだが、何よりもまず、彼らが母国に次ぐ二番目の公演地にこの国を選んでくれたことには感慨深いものがある。

The Almighty -TOUR 2024/25

 

初期3枚のアルバム

オールマイティーは1993年に初来日し、1995年に行なわれた日比谷野外音楽堂での公演は今も語り草になっている。オリジナル・ラインナップでの来日は今回が初であり(結成当時からのギタリストであるアンディ“タントラム”マッカーフィーは1992年の時点で脱退)、しかもかつて解散公演を行なった所縁深いクラブチッタでの二夜公演も含まれているだけに、メンバーたちも特別な想いを抱いているに違いない。

そして去る1月22日、この来日公演を前に『Blood, Fire & Love』(1989年)、『Soul Destruction』(1991年)、『Powertrippin’』(1993年)という初期3作品が、2枚組仕様にて新装リリースされた。各作品ともアルバム本編の音源はリマスターを経ており、ボーナス・ディスクにはデモ音源、ライヴ音源、ラジオ用エディット・ヴァージョンなどがふんだんに盛り込まれている。

オールマイティーの代表作を1枚だけ選ぶとなると、これらのポリドール時代の作品を経たのちにリリースされた第4作『Crank』(1994年)を挙げるファンも多いはずだが、このバンドの本質や根底的な部分、“個”が確立されていく過程について再確認するうえでは、やはりこれらの3作品が欠かせない。

フロントマンのリッキー・ウォリックは1966年7月11日生まれ。デビュー・アルバムの発売時にはまだ23歳という若さだった。彼とベーシストのフロイド・ロンドン、ドラマーのスタンプ“スタンピー”モンローはそもそも学友同士であり、7歳の頃から付き合いがあったとのことだから、彼らについてもそれは同じことだ。そして、まだ音楽業界の右も左もわかっていなかった若者たちが、いきなり由緒正しいアビー・ロード・スタジオでのレコーディングを体験しながら完成されたのが『Blood, Fire & Love』だった。

Wild & Wonderful

同作からは、まさに失うものなど何もないかのごとき向こう見ずな闘志のようなものが感じられるが、そうしたはちきれんばかりのエネルギーに良い意味でのコントロールが伴うようになったのが『Soul Destruction』ということになるだろう。

この第2作については、かのアンディ・テイラーがプロデューサーを務めている点も見逃せない。デュラン・デュランでの華々しい活躍でも知られる彼は、1990年に発売されたサンダーのデビュー・アルバム『Backstreet Symphony』を手掛けているが、オールマイティーのメンバーたちが同作での彼の仕事ぶりに感銘を受けたことが起用理由だったとされている。

The Almighty "Free 'N' Easy" (Official Video)

筆者は、実はこの『Soul Destruction』のリリースから約1年後にあたる1991年の6月に、ロンドンのタウン&カントリー・クラブ(現在のO2フォーラム・ケンティッシュタウン)で彼らのライヴを目撃している。1989年に米ゲフィンからデビューしていたジャンクヤードをオープニング・アクトに従えての同公演は、当時の筆者が書いた記事によれば「途中にアコースティック・パートが設けられていた以外は、最初から最後までノンストップの90分間」だったようだ。

また、同記事内には「良くも悪くも一本調子だが、バンドが放出するエネルギーの質量もずっと同じ次元で保たれていた」とか、「多くのビッグ・ネームが彼らをサポート・アクトに起用したがる理由がわかる」といった記述もみられる。当時の彼らはモーターヘッド、ラモーンズからアイアン・メイデン、メガデスに至るまでの大物たちに声をかけられ、ヘッドライナーに対する忠誠心の強いファンからも熱烈な反応を獲得していたのだった。

また、同じくその記事の中で僕は「リッキー・ウォリックには将来、モーターヘッドのレミーを継ぐようなカリスマになる可能性があるのではないか?」とも書いている。皮肉なことに、のちにリッキー自身が看板を背負うことになるシン・リジィの匂いを当時のオールマイティーに感じることはなかったのだが、レミーとフィル・ライノットには「ベースを弾きながら歌う」ということ以外に「メタルとパンク、双方から共感とリスペクトを集めていた」という重要な共通項があるように思う。

リッキーはベーシストではないが、リフを刻みながら歌うという意味においては同じだろうし、二番目の共通項についても重なるものが感じられる。70年代のハード・ロックとオリジナル・パンク双方を背景に持つ彼自身とオールマイティーにとって、そうした立ち位置はごく自然に辿り着いたものだったはずだし、いわば、それこそが彼らが愛してやまないロックンロールの形だった。

当時の音楽ファンの中には、そうした彼らのスタンスについて「どっちつかず」な印象をおぼえていた人たちも少なくなかったのではないかという気もするが、かつてそんなふうに感じていた人たちにも、今、改めて彼らの当時の作品、そして現在の姿に触れてみることを強く薦めたい。

The Almighty – Castle Donington 22.08.1992 "Monsters Of Rock" (TV) Live & Interview

話はやや横道に逸れたが、最初の2作を発表後にオリジナル・ギタリストであるタントラムの脱退を経たバンドは、アリス・クーパーとの活動歴を持つピート・フリージンを後任に迎え、1993年に『Powertrippin’』を発表している。

マーク・ドッドソンをプロデューサーに迎えて制作されたこの作品では、前2作以上に重厚さが増し、音楽的にも洗練されている。まさにオールマイティーならではの型が確立された1枚だといえるし、全英アルバム・チャートでも自己最高記録となる5位を記録している。

1993年といえば、いわゆるグランジの波がメインストリームをすっかり侵食し、1991年に発表されたメタリカのブラック・アルバムの成功が流れを変えた後にあたる。そうした時代におけるオールマイティーなりの完璧な回答がこの作品だったように思われる。

07 The Almighty Addiction

余談ながら、同作品がリリースされた頃、筆者はMUSIC LIFE誌の編集長を務めていたが、当時、一度だけ彼らが表紙になりかけたことがある。そして実際、彼らとワイルドハーツとのジョイントによるUKツアーの日程に合わせて現地に取材班を送り込んだのだが、肝心のリッキーがインフルエンザにかかりツアー自体が中止となってしまい、表紙プランも立ち消えになったのだった。何が言いたいのかと言えば、当時の彼らは表紙候補になるくらい支持と注目を集めていたということだ。

その時のことはいまだに自分にとっては残念な記憶のひとつとなっているが、目前に迫っているジャパン・ツアーで我々の期待が裏切られることはないだろう。今回リイシューされた初期3作品からの楽曲たちも間違いなく披露されるはずだし、この復活公演自体もまた、かつての彼らの来日公演がそうだったように、この先ずっと語り継がれていくべきものになるに違いない。この機会を、あなたにも絶対に逃して欲しくない。

Written By 増田勇一


初期3タイトル 2CDエディション日本盤初発売ジ・オールマイティ『Blood, Fire and Love』『Soul Destruction』『Powertrippin’』
2025年1月22日発売
CD



 

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