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千住真理子、最新インタビュー:新作『蛍の光~ピースフル・メロディ』に込めた想いとは
2020年にデビュー45周年を迎えた千住真理子。2002年に運命の出会いを果たした銘器、ストラディヴァリウス「デュランティ」とともに、ひたむきにヴァイオリン一筋の人生を歩んできた。しかし年間100回にもおよぶコンサートで演奏する充実した日々のなか、突然のコロナ禍によって空白の時間が訪れる。
「音楽は不要不急」、一度はそう思ったものの、次第に「本当にそうだろうか?」という気持ちが芽生え、「音楽は人の心を助けることができるかもしれない」と演奏への意欲を取り戻していった彼女が、今、心から届けたいと思う曲を録音したのが、このたびリリースされるアルバム『蛍の光~ピースフル・メロディ』である。
誰もがどこかで聴いたことのある、親しみのあるメロディを集めた小品集だが、決して安易なイージーリスニング集でないことは、デュランティの表情豊かな歌と、ときに迫真に迫る音色を聴けばお分かりになることだろう。千住がこのアルバムに込めた想いを聞いた。
―録音はいつ頃行なわれたのですか?
今年(2021年)の2月ぐらいに急遽録音すると決めて、録ったのが4月の終わりでした。コロナ禍において、こういう曲を皆さんに聴いていただきたいという想いが募ったところでユニバーサル ミュージックさんにご相談したところ、担当の方も同じ気持ちだということで、パパパッと実現した次第です。
収録曲はヴァイオリンのための曲だけでなく、歌やほかの楽器のための曲、あるいはジャンルの違う曲からもいろいろ探して、30曲以上あった候補のなかから、最終的に17曲に絞り込んでいきました。
―〈グリーンスリーブス〉〈黒い瞳〉〈ダニー・ボーイ〉といった世界各地の民謡や、プッチーニの〈私のお父さん〉、フォスターの〈金髪のジェニー〉などおなじみのメロディが満載の小品集ですが、選曲のコンセプトは?
懐かしい気持ちを思い出してほしい、その一点ですね。コロナ禍に苦しんでいるのは日本だけでなく世界の国々も同じですが、どこの国の、どんな宗教の人たちも、子どもの頃に歌った曲や、人生の輝かしい時代を思い出す曲を聴くと、心があたたかくなって、幸せな気持ちに包まれると思うんです。
ですから、その国の歴史ある名曲、その国の人たちが歌い継いできたメロディを、一曲ずつ大切に演奏したいと思いながら選曲しました。
―お兄さまの千住明さんが編曲された〈蛍の光〉も、スコットランド民謡でありながら、日本人が大切にしてきた曲でもありますね。
兄は編曲をしてくれたときに、こう言っていました。“みんな長い歴史を生きてきて、大切な人を失ってきた。そういった人たちの悲しみや悔しさ、切なさを自分は編曲を通してこの曲のなかに入れたから、自分が90歳や100歳になったときに弾いてほしい”と。
―そのほかは、ハイフェッツとクライスラーという往年の名ヴァイオリニストによる編曲が大半を占めています。
ハイフェッツやクライスラーの素晴らしいところは、ヴァイオリンの魅力を存分に感じさせる、ウィットに富んだ、洒落た編曲をしてくれているところです。クライスラーの編曲には独特の個性があって、重音を活かしたり、低音から高音までをなるべく全部使おうとしたり、ヴァイオリンの可能性を出し切るように作られているんですよね。
それでいて、自身もヴァイオリニストでしたので弾きにくいような指遣いはなくて、自然に音楽が流れていく。どれも大好きな編曲です。
―コンサートで何度も弾いていらした曲も入っていますが、今回が初挑戦となった曲はありますか?
シャンソンの〈バラ色の人生〉などは“この曲をヴァイオリンで弾いたらどういう風になるかな?”と最初は想像がつきませんでした。あとは《シェエラザード》からの〈アラビアの歌〉や〈金髪のジェニー〉もはじめて弾いてみた曲。
〈アメイジング・グレイス〉の無伴奏ヴァージョンも録音したのは初です。ボランティアでいろいろな地方の施設で演奏したりするときは、たった一人で行くこともよくあって、そこでは無伴奏で演奏していたので、今回アルバムにも入れたいと思いました。
―〈アロハ・オエ〉も、ヴァイオリンでハワイアンというのは意外な気がしましたが、聴いてみるとエレガントで素敵でした。
これもクライスラーの編曲が素晴らしいですよね。ハワイアンというより、懐かしい時代の、涙が出るほど懐かしい曲に見事に変化しているので、ぜひ皆さんにお聴きいただきたいです。
―どの曲でも、デュランティのさまざまに変化する表情を味わうことができます。2002年に出会ってから20年近い歳月をともに歩んできたことになりますが、いかがですか?
はじめの5~6年はじゃじゃ馬のように言うことを聞いてくれなくて、本当に苦労しました。
季節によって、曲目によって、まるで生き物のように楽器のコンディションが変わるので、日々振り回されてばかりで。身体を壊す一歩手前までいって、それではいけないと鍛えてみたり、体力をつけたり、あらゆる苦労をしながらだんだんと弾きこなせるようになってきて、ようやくここ5~6年でしょうかね、自分の身体の一部になったと思えるようになったのが。
―そこまでいくと、千住さんのヴァイオリニストとしてのアイデンティティに深く関わる存在ですよね。
そうですね、今は本当に弾いているのが嬉しいです。ずっと弾き続けたいと思って、いつも家では弾きはじめると止まらなくなってしまう。そんな魅力のある楽器です。デュランティと出会ったとき、私が心に誓ったのは、この楽器を弾けるのであれば、あとはなにもいらないということでした。
もし神様がいるのだったら、この楽器を死ぬまで弾かせてほしい。そのかわり、私は人生でほかになにもいらないと心から思いました。そのぐらい、私にとってはかけがえのない存在ですし、弾いているときはヴァイオリニストに生まれてきてよかったなとつくづく思えます。
―12歳でデビューしてから、ずっと第一線を走り続けていらした千住さん。コロナ禍でぱたっと時間が止まったような一年を過ごされて、なにをお考えになりましたか?
去年(2020年)の2月から半年ほどの間、すべてのコンサートが中止になったときは本当にショックでしたね。“音楽は不要不急だ”というのは、その通りだと。水や食料のように、人が生きていくうえで絶対に必要なものではないと思いました。
けれども、そうやって意気消沈したあとに“ちょっと待てよ。本当にそうなのかな? 音楽というのは、死にそうになっている人の心を助けることができるのではないのか”と次第に考えるようになって。そこから演奏に対する自分の意欲がふたたび湧いてきました。
―生活にも変化があったとエッセイで拝読しましたが。
以前は健康のため、毎朝生卵を3つ丸呑みしていましたが、今は家にいることが多くなり、慌てて食べる必要がなくなりましたので、フライパンを出してきて、焼いてみたりしています(笑)。それから、ここ1年のいちばんの変化は、スマートフォンを持つようになったことでしょうか。
ずっと頑なに拒んできたのですが、ついにスマートフォンに変えまして、Instagramをはじめました。こういう性格なので、やりはじめると熱中してしまい、毎日投稿しています。リスナーの方々と交流できるのが楽しいですね。皆さんと近くなれる感じがします。
―最後に、これから挑戦したいことをお聞かせください。
コロナ禍で演奏ができなかったときにつくづく感じたのは、すべてが一期一会ということでした。誰の身においても先のことは分からない。ステージの上に立って、演奏を聴いてくださる方がいるという日々がいつまでも続くとは限らない。
もしかしたらこれが最後かもしれないと、ふと思う瞬間が多くなりました。そうだとしたら、一音一音を大切に出したいですし、本心からの音を出し続けることができるようなヴァイオリン弾きとして、がんばっていければいいなと思います
―今後のご活躍を、ますます楽しみにしています。
Interviewed & Written By 原 典子
■リリース情報
2021年7月14日発売
千住真理子『蛍の光~ピースフル・メロディ』
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