Classical Features
村治佳織によるポッドキャスト、Spotify Music+Talk『村治佳織のMusic Gift』#3
昨年12月、7年ぶりのベスト・アルバム『ミュージック・ギフト・トゥ』をリリースしたギタリスト、村治佳織によるポッドキャスト、Spotify Music+Talk『村治佳織のMusic Gift』がスタート。コロナ禍を耐え忍んでいる全ての人に、音楽で癒しやエールを送りたいというアルバムのコンセプトにちなんで、「ギフト」「贈り物」をテーマにしたショートストーリーを村治佳織が朗読、その内容にぴったりの楽曲をセレクトしてご紹介する内容になっている。ここでは、村治佳織が朗読した、心がほんのりあたたかくなるショートストーリーをご紹介。今回は、エピソード3。(エピソード1、エピソード2)
村治佳織のMusic Gift #3
1. ジュン・レモンさん(東京都)の「ギフト」なエピソード
===
今から30年前のことです。7年間喘息を患っていた母が、突然裁縫を始めました。家庭科の教員免許を持っていた母でしたので、そこは昔取った杵柄。次々と巾着袋など数十点を作り上げていました。
ある日「紺色の毛糸を買って来て」と言われた私は、おそらく小学生の時以来の「お使い」に毛糸屋まで行って来ました。毛糸屋で買い物をするのは人生で初めてでしたが。
約1ヶ月後の2月の寒い夜、母は酷い喘息を起こし、窒息して帰らぬ人となりました。葬儀に訪れた母の友人たちは「数日前に素敵な巾着袋を贈ってもらったのよ」と教えてくれ、まるで死期を悟ったように、母が愛する人たちのために裁縫をしていたのだとわかりました。
葬儀が終わった後、母の部屋から紙袋に入った紺色のセーターと毛糸を見つけたのです。それは私が普段好んで着ていたセーターと私が買って来た毛糸でした。セーターは、両肘に穴があいていたため捨てようと思っていたものでしたが、穴は毛糸で丁寧に繕われていました。まるで新品の「贈り物」のようなセーターを見て、その上に涙がこぼれ落ちるのでした。
村治佳織セレクト・・・Music Gift to ジュン・レモンさん
トロイメライ ~ 「子供の情景op.15」より(シューマン/A.セゴビア:編曲)
2. がっちゃんまんさん(神奈川県)の「ギフト」なエピソード
===
私は苦学生で、大学生の時は見切り品のパンを買って食べるのが唯一の贅沢でした。
ある日バイトが終わるのが遅くなり、いつも見切り品を買っている個人経営のコンビニに向かって急いでいました。お店に到着し、いつも見切り品が陳列されている棚を見るともう無くなっていて、諦めて帰ろうと出口に向かっていました。
その時、レジから「お兄ちゃん、いつも買ってくれてありがとう。お兄ちゃんが来ると思ったから、取り置いておいたよ」と店長らしきおじさんが見切り品のパンを手渡してくれました。
驚くと同時にお礼を言わなきゃと思い口を開きましたが、涙声になってうまくしゃべれませんでした。こんな人になりたいと今でも思っています。
村治佳織セレクト・・・がっちゃんまんさん
ルーゼス・デ・リオ (ルイス・ボンファ/佐藤弘和:編)
3. もんたろうさん(大阪府)の「ギフト」なエピソード
===
父の日の思い出
半世紀前の6月某日、子供ながら弟を連れ添い父の日のプレゼントを探しに街に出ました。今までプレゼントなど買うこともなかったのに、なぜかワクワクした気持ちでプレゼントを探しました。
父は若い時にヘビースモーカーで、家の中ではタバコの煙がモクモクと漂ってました。ある店で、タバコを入れるボックスを見つけました。ボタンを押すと一本ずつタバコが迫り上がってきます。
なんとこの箱はオルゴールになっており、
曲目は煙が目にしみる、、、 Smoke gets in your eyes
タバコの煙を連想しますが、恋に敗れた男性が涙ぐんだ時の粋な言い訳、大好きなフレーズです。
亡き父親も私も50歳近くになりタバコはやめてますが、この音楽だけは大切にしています。最後までこのプレゼントを父が身近に持っていてくれたのは素敵な思い出です。昨晩の友達のこの曲の演奏が過去を浮かびあがらせてくれました。やっぱり音楽は素敵な過去を映しだす 日記ですね。
村治佳織セレクト・・・Music Gift to もんたろうさん
スターダスト (カーマイケル)
■アーティスト情報
村治佳織 Kaori Muraji, guitar
幼少の頃より数々のコンクールで優勝を果たし、15歳でデビューCD『エスプレッシーヴォ』をリリース。1994年日本フィルハーモニー交響楽団と共演、協奏曲デビューを果たす。1995年イタリア国立放送交響楽団の日本ツアーにソリストとして同行後、翌年にはイタリア本拠地トリノでの同楽団定期演奏会に招かれ、その模様がヨーロッパ全土に放送され好評を博す。1999年には、『アランフエス協奏曲』の作曲者ホアキン・ロドリーゴの前で、マエストロの作品を演奏する機会を得る。
フランス留学から帰国後、積極的なソロ活動を展開。ビクターエンタテインメントから CD『カヴァティーナ』など9タイトル、DVD『コントラステス』をリリース。国内活動はもとより、韓国では2000年の初リサイタル後も定期的に演奏活動を行い、中国やベトナムなどアジア諸国にも活動の場を広げている。
その後NHK交響楽団ほか国内主要オーケストラ及び欧州のオーケストラとの共演を多数重ね、2003年英国の名門クラシック・レーベル DECCAと日本人としては初の長期専属契約を結ぶ。移籍第一弾アルバム『トランスフォーメーション』は、第19回日本ゴールドディスク大賞クラシック・アルバム・オブ・ザ・イヤー〈洋楽〉を受賞。これまでに DECCAよりCD13枚、DVD2枚をリリース。CD『ラプソディー・ジャパン』には「バガモヨ〜タンザニアにて」等、自身の作曲作品4曲を収録、前作CD『シネマ』には自身の編曲が2曲収められている。
これまでに、伊藤園・充実野菜、トヨタ自動車・アリオンのテレビ CMの出演や、ミキモトのイメージキャラクターに起用されるなど、メディアへの登場も多い。他にはNHK- Eテレ『テレビでフランス語』に出演、 J-WAVE( FM)『三菱地所 CLASSY CAFE』、『The Players』、『RINREI CLASSY LIVING』などでナビゲーターを務めた。2014年10月に全国ロードショーとなった吉永小百合主演映画『ふしぎな岬の物語』でメイン・テーマ曲を演奏。2015年4月NHK- BSプレミアム『祈りと絆の島にて 村治佳織 長崎・五島の教会を行く』に出演。2021年5月に全国ロードショーとなった吉永小百合主演映画『いのちの停車場』では、エンディング・テーマを作曲した。
また受賞歴も多く、第5回出光音楽賞、第8回村松賞(1996)、第9回ホテルオークラ音楽賞、2017年度ベストドレッサー賞(学術・文化部門)などを受賞している。
■リリース情報
2021年12月1日発売
村治佳織『ミュージック・ギフト・トゥ』
CD / Amazon Music / Apple Music / Spotify