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スピーカーで楽しむドルビーアトモスのすすめ:立体音響で聴くおすすめクラシック13選
従来のステレオ方式と比べて、より没入感のある音楽体験を得られる立体音響技術・Dolby Atmos®︎(ドルビーアトモス)。これまで3回に渡ってドルビーアトモスの楽しみ方を紐解いてきたが、近頃はテレビの前にサウンドバーをポンと置くだけで“ドルビーアトモスホームシアター”を実現できると言う。
もちろん、よりよい音楽体験を得るためには多くのスピーカーを用意するに越したことはないようだが、予算や部屋のスペースに余裕を持って視聴環境を整えたいのであれば、サウンドバーは有効な選択肢のひとつとのことだ。
そこで今回はドルビーアトモス対応スピーカーを使って聴いてみたいクラシック作品をプレイリストにしてみたため、1曲ずつご紹介。ぜひ第1回目のスタジオ取材編、第2回目のスマホ×イヤホン設定(プレイリスト紹介)編、第3回目のDolby Japan取材編とあわせて読んでいただきたい。ピアニスト・編集者・ライター門岡明弥さんによる寄稿。
1.L.v.ベートーヴェン:交響曲 第7番より第1楽章
「ベト7」と言えば、「のだめカンタービレ」ではないだろうか。この曲はバレエ音楽を思わせるリズムに明朗快活なメロディが特徴の作品となっており、ひとつのリズムが執拗に繰り返されつつも全く飽きの来ない構成力にはベートーヴェンの手腕が光っている。ドルビーアトモスだと各楽器の音がより聴きやすくなるため、この曲が持つ“ノリの良さ”を全身で感じられる点も楽しい。特に、長い序奏を終えたあとに現れるフルートの旋律は、まるで目の前で妖精が踊っているかのようだ。
2.ロドリーゴ:《アランフエス協奏曲》より第1楽章
スペインを代表する盲目の作曲家、ホアキン・ロドリーゴによるギターと管弦楽のための協奏曲。第1楽章は香ばしいスペインのリズムが際立つ明るく華やかな曲調となっており、立体感のあるギターとオーケストラの見事な調和を楽しめる。ジャキジャキと切れ味の鋭いカッティングや、粒立ちの揃ったフレーズは何度聴いても心地いい。ギターという楽器の持つ“発音の魅力”が際立つ点も、ドルビーアトモスならでは。
3.ショパン:練習曲集 作品10より第5番〈黒鍵〉
練習曲でありながらも、音楽的に完成された作品が揃う“ショパンのエチュード”。中でも作品10の第5番〈黒鍵〉は、右手の旋律のみ全て黒鍵で書かれている点が特徴的な作品。黒鍵はたった5種類の音しか存在しないにも関わらず、ここまで多彩な響きを生み出せるショパンはやはり偉大だ。高速で駆け回る右手の旋律は、宝石のような煌めきを帯びている。
4.シューマン:《子供の情景》より第7曲〈トロイメライ〉
シューマンの曲集《子供の情景》は、子供の学習用作品と誤解されることがあるが、本来は幼い頃を回想する大人のための作品である。どの曲もシューマンのロマンティシズムが遺憾なく発揮されており、特に第7曲〈トロイメライ〉は「夢」や「夢想」にふけることを意味する幻想的な空気が漂う作品だ。グラデーションのように、少しずつ空気に溶けていく響きの尊さを味わいたい。
5.ラヴェル:《夜のガスパール》より第3曲〈スカルボ〉
アロイジウス・ベルトランの詩集『夜のガスパール』から着想を得て、情熱的で幻想的なピアノ作品を生み出したラヴェル。第1曲〈オンディーヌ〉、第2曲〈絞首台〉に続く第3曲〈スカルボ〉では、悪戯好きの妖精が部屋中を飛び回る様子を描いており、不気味な旋律と超絶技巧のパッセージが色鮮やかに空間を演出する。さきほど紹介したショパンやシューマンの作品が持つロマン的な響きと、ラヴェルの作品が持つ水のような淡い響きをドルビーアトモスで聴き比べてみると“空間的な味わい”を存分に楽しめるだろう。
6.フォーレ:シシリエンヌ
シシリエンヌ(シチリアーナ)とは17世紀〜18世紀に流行した舞曲のひとつ。19世紀ではほとんど書かれることがなかったが、フォーレがバロック時代の要素を取り入れて新たな作品を生み出そうとした結果、19世紀末に《シシリエンヌ》が生まれた。本来はチェロとピアノのために書かれた作品だが、今回はフルートとギターによるノスタルジックな響きのアンサンブルを味わう。
7.シューベルト:歌曲集《冬の旅》D911 第5曲〈菩提樹〉
シューベルトが死を迎える前年に作曲した歌曲集《冬の旅》。《美しき水車小屋の娘》と同じく、ドイツの詩人であるヴィルヘルム・ミュラーの詩集に曲が付けられたもので、全編を通して孤独感や儚さが漂っている作品となっている。第5曲〈菩提樹〉では、どこか懐かしさを感じさせつつも時折冷酷な描写が表れるピアノと、甘くほろ苦い歌のハーモニーが心に染み入ってくる。
8.メンデルスゾーン:無言歌 作品109
メンデルスゾーンの「無言歌」というと、全48曲からなるピアノの小品を思い浮かべられることが多いかもしれないが、作品109にあたる《無言歌》はチェロとピアノのために書かれたオリジナル作品である。壮大なフレーズの中には淡い旋律が内包されており、どこか交響曲のようなスケールの大きさを感じさせられる点も印象的な作品だ。ドルビーアトモスで聴くと、チェロが持つ芳醇な音の響きや一音一音の豊かな膨みをより一層味わえるだろう。
9.フランティシェク・ヤーノシュカ:Souvenir pour Elise(ベートーヴェン:《エリーゼのために》による)
“鍵盤の魔術師”と称される変幻自在なピアニスト、フランティシェク・ヤーノシュカによる作品。誰しもが聴いたことのあるベートーヴェンのフレーズに乗ってなめらかに曲が進んでいくかと思いきや、中盤の華々しい超絶技巧で度肝を抜かれるだろう。ドイツ音楽の構造的な美しさと、スパイシーな色彩を帯びたハーモニーのバランスがなんとも痛快な作品だ。
10.J.S.バッハ:《2つのヴァイオリンのための協奏曲》BWV1043より第3楽章(ヤーノシュカ・アンサンブルによる編曲)
ヤーノシュカ・アンサンブルによって、今度はJ.S.バッハの作品が変貌を遂げた。J.S.バッハの精神性やバロック音楽の構造美を尊重しつつも、その上にジャズの色彩を添えることで、唯一無二の作品へと仕上げられている。ジャズ・セッションのような緊張感とグルーヴ感が心地よく、攻めて、攻めて、攻めまくる展開がたまらない。ヤーノシュカ・アンサンブルのアルバム『The Big B’s』には他にも聴き応え満点な作品が揃っているため、この“鋭さ”をぜひ味わってほしい。
11.サラサーテ:《カルメン幻想曲》より I. Moderato
オペラ《カルメン》に登場するメロディを用いて書かれた、オーケストラとヴァイオリンのための作品。カルメンのモチーフを使った作品は数多く存在するが、その中でも特に有名だ。正確無比な演奏技術と歌心あふれる音色を持つヒラリー・ハーンによる演奏は、まるで“歌”を聴いているかのような感動がある。《カルメン幻想曲》を収録したアルバム『エクリプス』についてのインタビュー記事も必読。
12.ロドリーゴ:《アランフエス協奏曲》より第2楽章
明るく華麗な第1楽章に対し、哀愁と儚さが漂う第2楽章。アランフエスとは16世紀に建てられた王室の離宮と美しい庭園がある町のことで、ロドリーゴは新婚旅行でここを訪れた際に作曲のインスピレーションを受ける。歴史の憂愁を肌で感じたロドリーゴは、激動の時代の中で失われたものへの慈しみや、感傷の念を込めて《アランフエス協奏曲》を生み出した。また、この楽章はチック・コリアが作曲した《スペイン》のイントロに用いられている点も特徴的であるため、ぜひ併せて聴いていただきたい。
13.ガーシュウィン:ラプソディ・イン・ブルー
ジャズならではの音階やリズムを兼ね備えた、ガーシュウィンの名曲。ラグタイム、ブルース、クレツマーなどのさまざまな要素が織り込まれた曲想となっており、まさしく多様な人種・文化・歴史が混在する“アメリカ”を象徴した曲であるように感じられる。しかし、楽曲内に織り込まれた音楽要素は決して順位づけられることはない。どこから聴いても楽しむことができ、どのフレーズからでも成立するフレキシブルな構造は、まるで人種や性別などの壁に分断されることのないフラットな社会を表しているようだ。めまぐるしく変化する曲調の中でどのように空間が演出されていくのか、ドルビーアトモスでじっくり味わってみていただきたい。
Written By 門岡明弥
※Dolby、ドルビー、Dolby AtmosおよびダブルD記号は、アメリカ合衆国とまたはその他の国におけるドルビーラボラトリーズの商標または登録商標です。
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