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ベートーヴェンの超定番30曲解説【初級編】:生誕250周年ベートーヴェンを聴こう
生誕250周年という記念すべき年を迎えたルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン。時代を超えて最も影響力のある、重要な作曲家の1人であることは言うまでもない。耐え難い肉体的、精神的苦痛の中で(40歳で完全に聴力を失っている)作曲された彼の音楽は、残酷なまでの現実に相対した人間の精神力を示す一つの証となっている。
生誕250周年の今年、ベートーヴェンが残した傑作に改めて触れていただきたく、ベートーヴェンの超定番曲を30曲をセレクト。初級編・中級編・上級編に分けて、音楽ジャーナリスト、寺西肇さんの解説でご紹介する。今回は初級編10曲をご紹介。
【初級編】
バガテル イ短調《エリーゼのために》
誰もが知っている、愛らしい小品。コワモテのイメージとは違った、楽聖の別の魅力を示す佳品でもある。1810年、39歳の楽聖が求婚した「テレーゼ」という女性のために作曲したが、拒絶されて、別の女性の名に書き換えたとも。自筆譜が散逸したため、真相は不明だ。
交響曲 第5番《運命》
「運命は、こう扉を叩く」。有名な「タタタターン」の主題について、作曲者が語ったとする逸話は有名だが、真偽は不明。36歳の時に完成した衝撃作には、様々な新機軸が盛り込まれ、全曲を貫いている「運命のテーマ」は、登場する度に緊張感を加速。最後は強烈な光が差し込み、喜びへと疾走する。
ピアノ・ソナタ 第8番《悲愴》
初期の最高峰に位置付けられる傑作。絶望的なC音に始まり、哀しみが疾走を始める第1楽章は、確かに“悲愴”だ。しかし、作曲家は20代後半。その哀しみに深刻さはなく、むしろ青年期特有の感傷のよう。穏やかな第2楽章や、哀しみを伴いつつも生気ある終楽章の旋律は、ポピュラー音楽の素材にも。
交響曲 第6番《田園》
「田舎に着いた時の大らかな気分」に始まり、楽しい宴や激しい嵐、自然への感謝が綴られてゆく。完成は、30代半ばの1808年。風景や感情を具に表現する「標題音楽」の先駆けであり、変則的な5楽章構成や、それまで交響楽では用いられなかったトロンボーンの使用など、独自の創意が織り込まれている。
ピアノ協奏曲 第5番《皇帝》
管弦楽による主和音の一打ちを背景に、きらめくカデンツァで幕を開ける冒頭楽章。牧歌的で穏やかな変奏曲の第2楽章から、切れ目なく祝祭的な最終楽章へ。親交のあったピアニストが名付けたとされる、「皇帝」という副題は、ソロ・ピアノが輝かしい技巧を発揮する、堂々たる楽想に相応しい。
交響曲 第7番
40歳を過ぎたばかりで作曲され、ハーモニーよりもリズムが支配する当曲を、後にリストは「リズムの神化」、ワーグナーは「舞踏の賛美」と称賛。特に、ワーグナーが「酒の神バッカスの饗宴」に例えた第4楽章は、リズムの洪水の中、熱狂と興奮が最高潮に達するさまが、ロックにも共通する。
ヴァイオリン・ソナタ 第5番《春》
ロマン派を先取りする甘い楽想と、全曲に満ちる陽光は、苦悩に満ちたイメージとは異なる、楽聖の魅力を示す。1800年から約2年間の「実験的ソナタ期」に書かれた当曲は、全4楽章間で共通の素材を用い、巧みに統一感を醸成。特に瑞々しい第1楽章は有名で、様々な場面でのBGMとして使われている。
ピアノ・ソナタ 第14番《月光》
冒頭楽章は、余りにも有名。3連符が幻想的な響きの空間を形創り、簡素な旋律がたゆたう。まさに、淡い月の光を切り取ったよう。30歳の楽聖が、14歳年下の少女へ贈った音のラヴ・レター。間奏曲のように可愛らしい第2楽章から一転、最終楽章は短調となって、彼女を求める激情の嵐が吹きすさぶ。
トルコ行進曲(《アテネの廃墟》から)
2千年眠っていた知恵と技芸の神ミネルヴァが目覚めると、アテネは廃墟と化し、今や芸術の中心はペストに—。40歳の楽聖は、ハンガリーの劇場の杮落としで上演する新作祝祭劇のため、9つの音楽を作曲。その第4曲〈トルコ行進曲〉は、特徴的なリズムと共に軍楽隊がやってきて、去ってゆくまでを活写する。
交響曲 第9番《合唱》
「人々よ、抱き合え…」と人類愛を謳い上げる、時空を超越する普遍的なテーマ。交響曲への声楽の導入や、特殊な楽器を加えた大規模な編成。さらには、アダージョとスケルツォを逆転させた、型破りな楽章構成。1824年、53歳の楽聖が“第九”へ結実させた創意の飛躍は、まさに“神がかり的”と言える。
Written by 寺西肇(音楽ジャーナリスト)
■プレイリスト
『生誕250周年 ベートーヴェンを聴こう!』
Apple Music / Spotify
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