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29年振りの来日公演が迫るテイク・ザット。“国民的グループ”の軌跡を振り返る
ラジオDJ、ライナー執筆など幅広く活躍されている今泉圭姫子さんの連載「今泉圭姫子のThrow Back to the Future」の第86回。
今回は、2024年11月18日(月)に東京ガーデンシアターで行われるテイク・ザット29年振りの来日公演に向けて、彼らのこれまでについて振り返って頂きました。
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・テイク・ザット、6年ぶりとなるスタジオアルバム『This Life』を発売
・【インタビュー】ゲイリー・バーロウ、7年ぶりのソロ作品を語る
英国を代表する“国民的グループ”テイク・ザットが、29年振りに来日公演を開催します。2006年の再結成後、2007年のカムバック・アルバム『Beautiful World』でのプロモーション来日はありましたが、公演としては、1995年10月の代々木第一体育館2days以来となります。
テイク・ザット来日は、日本のザッター(ファン呼称)にとっては悲願です。これまでにもアルバム発売毎に、ヨーロッパ・ツアーは行ってきましたが、世界を回るツアーが実現されず、ザッターのみなさんは、諦めきれない思いと共に渡英していたと聞きます。本国でのライヴは、スタジアム級の大掛かりな舞台の中でのパフォーマンスなので、ライヴの醍醐味を味わえますが、規模が変わっても、日本でそのパフォーマンスをみたいと言う思いは別物でしょう。
第1期と第2期:再結成後の方が上回る業績
テイク・ザットは、ゲイリー・バーロウ、ハワード・ドナルド、ジェイソン・オレンジ、マーク・オーウェン、ロビー・ウィリアムズの5人のオリジナル・メンバーで活動していた第1期と、解散から10年後の2005年に再結成した第2期以降で、その活動は大きく分かれます。
再結成は、ゲイリー、ハワード、ジェイソン、マークでスタートし、その後、いくつかのわだかまりをメンバー同士で解決し、ロビーが加入。2010年にオリジナル・メンバーが再集結し、5人としては15年振りとなるスタジオ・アルバム『Progress』を制作しました。そして『Progress』は、その年UKで最も売れたアルバムに輝いたのです。
その後ジェイソン、ロビーがグループを離れましたがテイク・ザットは、3人で活動を続け、現在に至ります。いずれの時代も、一大センセーションを巻き起こし、音楽シーンに爪痕を残す、素晴らしいキャリアを誇っているのがテイク・ザットなのです。
90年代は、ボーイズ・グループとして、全英1位シングルを12曲、アルバムを9枚も放ち、アルバム・セールスはベスト盤を含み、世界で4,000万枚以上を売り上げたのですが、再結成してからの売り上げ実績は、第1期の2倍となる8,000万枚を超え、2006年以降の業績の方が上回ると言う珍しい現象を起こしました。
この業界では、グループの再結成は珍しいことではありません。しかし、10年のブランクを経て再結成し、CD売り上げから、ツアー動員数に至るまで、前期を超えた活躍を誇るグループは数えるほどでしょう。その間、時代も変化を遂げ、音楽業界のフォーマットも、CDから配信へと移行していく変化の中にありましたが、そんな状況の中でも、これだけの数字を叩き出したということが、驚くべき再結成なのです。
歴史の始まり
テイク・ザットは、1990年、マンチェスターで結成されました。その頃アメリカでは、ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロックが世界的成功を収め、それをきっかけに再びボーイズ・グループが注目され、イギリスのニュー・キッズを、という業界の思いを受けてデビューしたのが彼らでした。
マネージメントは、ゲイリーのソングライターとしての才能に目をつけ、彼を中心にメンバーは集められましたが、デビューしてからは、ダンス・グループとして、ゲイリー、ロビーのメイン・ヴォーカル、そして3人のダンサーといった構成で、クラブ・シーンを中心に活動。
その頃の彼らは若かったこともありますが、どんなことでもブレイクするきっかけを掴みたい、という思いで無我夢中だったはずです。その方向性は、特にゲイリーの本意ではなかったかもしれません。しかし、ファースト・アルバムからダンス・ナンバーだけでなく、バラード「A Million Love Songs」がヒットしたことにより、ようやく彼らが求めていたヴォーカル&ダンス・ポップ・グループへと方向転換のきっかけを掴み、テイク・ザットはスター街道を歩き始めるのです。
テイク・ザットの成功は、その後、アメリカのバックストリート・ボーイズやインシンクが、ヨーロッパでブレイクするきっかけを作り、イギリスからは5IVE、スパイス・ガールズといったティーン・ポップ・グループが生まれ、アイルランドでは、初のボーイズ・グループ、ボーイゾーン、ウエストライフが成功を収めています。
解散:第1期の終わり
90年代のテイク・ザットは、その短い活動の中で、「Pray」「Sure」「Never Forget」「Back For Good」といった名曲を生みました。解散は、単にロビーの脱退を機に、ということだけではありません。ゲイリー主体だったグループが、成功を重ねていったことで、他の4人のメンバーもアーティストとしての才能が開花し、グループとしてのバランスを保つための、新しいテイク・ザットの在り方を築き上げる時間が足りなかったと私は推測します。
そこで、ボーイズ・グループの枠組みを嫌ったロビーの脱退は、解散に向けた引き金にはなりましたが、1996年の来日公演を4人でこなしたこともあり、4人での活動は考えられたはずです。しかし、シングル「How Deep Is Your Love (愛はきらめきの中に)」を最後に、メンバーは解散を決めました。これは、アーティストとして成長した5人がテイク・ザットから旅立つことを選んだのだと思っています。もちろん、世界のザッターたちの深い悲しみは、大変なものでした。
最後の記者会見はアムステルダムで行われ、私も参加してきました。個々のインタビューではなく、ラウンドテーブルでメンバーが挨拶に回るといったものでしたが、その時には吹っ切れた様子の4人だったのを覚えています。その後ソロでの活動が始まり、ゲイリー、マーク、そしてロビーもプロモーションで来日しているので、その時にはテイク・ザット時代の話をやんわりと(だったと思うが)聞いたものでした。印象的だったのは、「もう踊らなくていいんだ」と言ったゲイリー。ダンスはかなり頑張っていたんだな、とゲイリーの本音を受け止めました。
5人での再結成と現在
2005年、テイク・ザットがドキュメンタリーの撮影をしているという話が伝わってきました。そこにはロビーのコメントも入るとのこと。このITVで放映されたドキュメンタリー『テイク・ザット: For The Record』は、解散時の話やプライベートも赤裸々に告白。ショッキングなものではありましたが、Greatest Hitsツアーを行うという嬉しい発表もありました。ちょうどその時期に、マークがソロのプロモーションで来日していました。
ウェンブリーアリーナ公演の話も直接聞くことができ、再結成という大きなプロジェクトとしてよりも、まずは再集結し、久しぶりに楽しみたい、とマークは話をしてくれました。その後は、オリジナル・アルバム『Beautiful World』の制作、2年後には、グループ活動の継続を宣言したセカンド・アルバム『The Circus』のリリース。そして前述したように、2010年にはロビーも戻ってきての『Progress』。そして5人での大規模なスタジアム・ツアーと続くのです。
現在は、ジェイソンが音楽業界から退き、ロビーもソロに戻り、テイク・ザットは3人で、国民的グループとしてのキャリアを続けています。3人になったからといって、彼らの素晴らしいポップ・センスに、陰りはありません。アルバム『III』も『Wonderland』もクオリティの高い楽曲が収録され、「These Days」「Get Ready For It」「Giants」はテイク・ザットの輝かしい歴史の中で、「Back For Good」「Never Forget」に匹敵する名曲だと思っています。
そして2018年にリリースされたグレイテスト・ヒッツ『Odyssey』は、今の彼らの新たな解釈で構成された素晴らしい作品。ロビーも制作に力を貸しています。アルバムは、全ての楽曲に物語があるようなアレンジとなっていて、当日の声などもSEで使用されています。メンバーやファンの思いが作品に込められているようなアルバムです。
心が通じ合えるメンバー
最近ロビー・ウィリアムズのドキュメンタリーが公開されましたが、そこで言及されているテイク・ザットへの思いには、胸をキュンとさせられました。あの時には感じられなかったこと、それを今口に出して伝えることができるロビーの心の変化を嬉しく思ったものです。
2010年に制作されたロビーのベスト用の新曲「Shame」は、ロビーとゲイリーとのコラボレーションでした。長いキャリアの中、紆余曲折があっても、いつかは心が通じ合えるんだ、と思わせてくれる楽曲です。今は、共に活動はしていませんが、テイク・ザットという偉大なグループには、ロビーもジェイソンも存在していることを確信するのです。そんな思いを抱かせたロビーのドキュメンタリーでした。
テイク・ザットは昨年9枚目のアルバム『This Life』をリリースし、UK1位に輝いています。初めてアメリカ南部ジョージアやナッシュヴィルでレコーディングした、今までとは趣が異なる作品ですが、3人のヴォーカル力が光るポップ・アルバムであることには変わりありません。
29年振りの来日公演は、「This Life on Tour」と題されたワールド・ツアーの一環での来日となります。ロンドン02アリーナでのセットリストを見ると、新作からはもちろん、全28曲ヒット曲満載、3人のソロ曲もあります。29年待ち続け、アピールを続けてきた日本のザッターのみなさんの努力が報われる日を想像するだけで胸が熱くなります。日本で見るからこそ感じられるコンサートになることは、間違いありません。
私のラジオ番組「Radio HITS Radio」では、ザッターの皆さんからのテイク・ザットとの思い出、彼らへの愛を募集し、来日までの期間、毎週紹介しています。意外だったのは、再結成してからのファンが多いということ。初期の応援とは少し異なる、大人な応援を楽しんでいる様子が伝わってきます。
子育てが一段落し、来日がなく海外でテイク・ザットを見に行ったりと、ザッター活動を楽しめる年代になってきたということでしょうか。また、それだけでなく、彼らが生み出す楽曲の素晴らしさが、年代を越えて愛されている証拠とも言えます。その愛でいっぱいになる11月18日の東京ガーデンシアター。たった1回限りの日本公演を見逃さないよう、英国を代表するグループの姿を目に焼き付けて欲しいです。
Written By 今泉圭姫子
ゲイリー ソロ来日時
マーク ソロ来日時
ロビー ソロ来日時
再結成後プロモ来日時
テイク・ザット『This Life』
2023年11月24日発売
CD&LP / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music
著者の新刊
『青春のクイーン、永遠のフレディ 元祖ロック少女のがむしゃら突撃伝』
2023年9月5日発売
発売
今泉圭姫子のThrow Back to the Future』 バックナンバー
- 第1回 :U2『The Joshua Tree』
- 第2回 :バグルス『ラジオ・スターの悲劇』
- 第3回 :ジャパン『Tin Drum』(邦題:錻力の太鼓)
- 第4回 :クイーンとの出会い…
- 第5回:クイーン『世界に捧ぐ』
- 第6回:フレディ・マーキュリーの命日に…
- 第7回:”18 til I Die” ブライアン・アダムスのと想い出
- 第8回:ロキシー・ミュージックとブライアン・フェリー
- 第9回:ヴァレンシアとマイケル・モンロー
- 第10回:ディスコのミュージシャン達
- 第11回:「レディ・プレイヤー1」出演俳優、森崎ウィンさんインタビュー
- 第12回:ガンズ、伝説のマーキーとモンスターズ・オブ・ロックでのライブ
- 第13回:デフ・レパード、当時のロンドン音楽事情やガールとの想い出
- 第14回:ショーン・メンデス、音楽に純粋なトップスターのこれまで
- 第15回:カルチャー・クラブとボーイ・ジョージの時を超えた人気
- 第16回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」公開前に…
- 第17回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」サントラ解説
- 第18回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」解説
- 第19回:クイーンのメンバーに直接尋ねたバンド解散説
- 第20回:映画とは違ったクイーン4人のソロ活動
- 第21回:モトリー・クルーの伝記映画『The Dirt』
- 第22回:7月に来日が決定したコリー・ハートとの思い出
- 第23回:スティング新作『My Songs』と初来日時のインタビュー
- 第24回:再結成10年ぶりの新作を発売するジョナス・ブラザーズとの想い出
- 第25回:テイラー・スウィフトの今までとこれから:過去発言と新作『Lover』
- 第26回:“クイーンの再来”と称されるザ・ストラッツとのインタビュー
- 第27回:新作を控えたMIKA(ミーカ)とのインタビューを振り返って
- 第28回:新曲「Stack It Up」を発売したリアム・ペインとのインタビューを振り返って
- 第29回:オーストラリアから世界へ羽ばたいたINXS(インエクセス)の軌跡
- 第30回:デビュー20周年の復活作『Spectrum』を発売したウエストライフの軌跡を辿る
- 第31回:「The Gift」が結婚式場で流れる曲2年連続2位を記録したBlueとの思い出
- 第32回:アダム・ランバートの歌声がクイーンの音楽を新しい世代に伝えていく
- 第33回:ジャスティン・ビーバーの新作『Changes』発売と初来日時の想い出
- 第34回:ナイル・ホーランが過去のインタビューで語ったことと新作について
- 第35回:ボン・ジョヴィのジョンとリッチー、二人が同じステージに立つことを夢見て
- 第36回:テイク・ザット&ロビー・ウィリアムズによるリモートコンサート
- 第37回:ポール・ウェラー、初来日や英国でのインタビューなどを振り返って
- 第38回:ザ・ヴァンプスが過去のインタビューで語ったことと新作について
- 第39回:セレーナ・ゴメス、BLACKPINKとの新曲と過去に語ったこと
- 第40回:シン・リジィの想い出:フィル、ゲイリーらとのインタビューを振り返って
- 第41回:クイーン+アダム・ランバート『Live Around The World』
- 第42回:【インタビュー】ゲイリー・バーロウ、7年ぶりのソロ作品
- 第43回:コロナ禍にステイホームで聴きたい新旧クリスマス・ソング
- 第44回:ジャスティン・ビーバー、成長が垣間見えた約3年ぶりのライヴ
- 第45回:アルバムが控えるポール・スタンレーとKISSの想い出を振り返って
- 第46回:コナン・グレイ、孤独の世界に閉じこもって生まれた音楽と希望の新曲
- 第47回:グレタ・ヴァン・フリート、“ツェッペリンらしい”と言われることを語る
- 第48回:クイーンの隠れた名曲:映画で彼らを知った人に聴いて欲しい楽曲
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